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第3章 『教会の暴走』編
とある演者たちの苦悩
しおりを挟む──名声なんて、望んじゃいない。
俺の望みは唯一つ。
それは、俺を育ててくれたあのヒトに、報いること。今度は、俺があのヒトを守りたい。
……だから、あいつの手を取ったんだ。
──栄誉なんて、欲しくもないの。
妾の欲するものは一つだけ。
それは、私の初恋のあの方の、心からの笑顔。次は、妾があの方をお助けするの。
……そのために、彼奴に手を差し伸べたのじゃ。
あいつは、俺に言った。
──「覚悟はあるのか?」と。
彼奴は、妾に問うた。
──「あんたこそ、どうなんだ?」と。
互いの答えは、顔を会わせた瞬間から分かりきっていた。
それは、もちろん──「是」。その一択であると。
二人の願いを叶えるために。
俺ら・妾たちは、自らの手で己が自由を捨て去った。
そして、自由を対価に手に入れた切符は、生き地獄の魔境行き。終点に辿り着くまでは、あらゆる理不尽と不条理がまかり通る、混沌の道が延々と続いている。
閉じきった、狭い世界の中。
狂いきった常識が跋扈し、魑魅魍魎の思惑が渦巻く。
何度、正気を失いかけただろうか。
幾度、心を壊しかけたじゃろうか。
嗚呼、いっそ。
この闇に身を委ねてしまえば、楽になれるだろう──。
だが、二人が手を取り合って、誓い合った日のことが、折れかけた精神に、再び宿願へと向かう原動力を与えていた。
そして、長い辛抱の末。
二人の下に、ようやく機会が巡って来る。
「先代の『《勇》の使徒』殿が天に還られてから、三十年近く経った……。『《聖》の使徒』殿に至っては、もう五十年だ。
しかし、未だ次代は見つからず、結果我らの結束は綻びつつある。
そこでお主らには、いずれかの次代が見つかるまでの、中継ぎを頼みたい。───受けて、くれるか?」
一見して問いかける体をしたそれは、紛れもない──脅しだった。
断ったら、どうなるのか。それまで何度、幾度と同じ手を使われた二人には、皆まで言わずとも分かりきっていた。
だから、ここでも二人の答えは「是」しかありえなかった。
そして、その日から二人は、道化になった。
多くのヒトを騙くらかし、欺き、偽る。
そうして集めた信じ仰ぐ心を、別の形にして、自分たちの飼い主に献上する。
そう、全ては、二人の願いを叶えるために。
とても惨めで、滑稽な演技。
しかし、誰一人として俺らを疑う者はない。ただ、善良でも不良でも、老若男女構わず、それを真実だと鵜呑みにする。
いっそ残酷で、愉快な芝居。
それでも、誰もが奇跡だと褒め称えるのじゃ。しかし、すべてを知る傀儡師たちは、揃いも揃って妾たちの努力を『使命』や『才能』と言った寒々しい一言で済ましよる!
ああ、馬鹿馬鹿しい。
ああ、忌々しい。
本当に救われたいのは、こちらの方なのに。
だが、二人は決めていた。──決して、神とやらには縋るまい、と。
だって、自分たちは、自惚れじゃなく、誰より神に近いところにいて。かつては、毎日毎日、心からの信仰を捧げていた。望むなら、何もかもを差し出せるとも告白した。
古き時代には、これだけで神はこの地上に来臨していたと聞く。数多の伝承に、その記述があるのだ。
──それなのに、神はついに応えることはなかった。
だから、誰よりも敬虔な信者であるべき二人は、もう、神を信じることを止めた。……期待して裏切られるのは、嫌なのだ。
己を救ってくれるのは、互いのみ。
それだけが、二人にとって純然たる事実としてあり続けた。。
今の生活が、幸せか?と聞かれたら。
──間違いなく「否」と答える。
今の生き方が、苦しくないか?と聞かれたら。
──間違いなく「是」と答える。
ただ、二人に後悔だけはなかった。
過去を思っても無駄だと知っているのもあるが、これまでやってきたことの結果は確実に未来へと繋がっている。それが、分かっているのだ。
ここは決して破れない檻の中。
出口にかけられた鍵は二つ。第三者がかけた外鍵と、二人でかけた内鍵。
まるで、双蛇の永遠が作り出した、メビウスの環のように。互いを喰らい、悠久の時を生かし合う。
……自分たちだけは、相手を──そして、自分を裏切ることはないと、確信するために。
それでも。……それほどの覚悟を決めていても、時折、思ってしまうことがある。考えてしまうこともある。
悪竜に拐われた姫君を、たった一人で救い出した英雄のお伽噺のように。
どうか、誰か。俺ら・妾たちを──。
その真摯な祈りは、やはり神には届かない。
だから、今日もこうして二人は、演者として生きていく。
いつの日か、本物が現れるその時が来るまで。
……その後に、何が待ち受けているかを、知りながら──。
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