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【魔法】を学び【スキル】を知るという事は……

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 シュティンヒパル=バロニア=コルラレ先生。
 どうやらお父様と爵位を越えた友人らしき人物である。

 ディルアマート王国は王をトップに据えた王政である。
 爵位は公爵・侯爵・基本的に此処に辺境伯が入る・伯爵・子爵・男爵と続いて騎士爵と準男爵となる。
 貴族の名前には爵位を示す名前が入る。
 我がラーズシュタインは公爵家だから「ディック」でコルラレ先生は男爵だから「バロニア」が爵位を示す名前である。
 当然他にもあるけど今は省略。
 
 まぁ取り敢えずお父様とコルラレ様には大きな身分の差があるって事になる。
 勿論平民と貴族程の差はないけどね。
 そんな身分が離れているコルラレ様と普通に友人関係である事やお母様も客人と迎え入れているという事は二人が変な選民意識に染まっていないって事だと思う。
 単純に良かったなぁと思う。
 これで魔力至上主義とか身分絶対主義とかだったらめんどくさいし。
 ゲームの中にはそういうキャラもいたから多分現実にも存在するんだと思うんだよね。
 何処にでも沸きそうでしょ? そういう人間って。
 お父様達がそうじゃない事は僥倖だよね。

 そんな身分制度の事はともかく、コルラレ先生はどうやら高位の錬金術師らしい。
 マッドサイエンティストじゃなかったのかぁ、と一瞬思ったけど、よくよく考えるとこの世界って科学の代わりに魔法とか錬金術が生活に浸透しているんだよね。
 つまり研究者がイコール錬金術師って事になるんじゃないかなぁと。

「(結局コルラレ先生のマッドサイエンティスト疑惑は晴れていないって事なんだよね)」

 ……せめて生徒として見られるように頑張ろう。

 あれからコルラレ先生との授業は直ぐに開始された。
 今日はその初授業の日である。

「まず魔法の基礎について教える事にする」
「……錬金術の先生だったのでは?」

 突然魔法についての授業になりそうだったので慌てて疑問を先生に投げかける。
 いや、別に教えてくれる事自体はいいんだけど、一人で魔法と錬金術を教えるって先生の負担が大きくなると思うんだけど。
 そんな私の気づかいはどうやら不要だったらしく先生は私の質問を鼻で笑う……やっぱり結構イイ性格してるなぁ。
 ここで言った「イイ性格」は決して「良い性格」ではない。
 決して悪人って意味でもないけど。

「錬金術と魔法は密接に関係しているからな。別々の人間が連携して教えるよりも一人の人間がやった方が効率が良い。それに今なら妙な思想に毒されてはいないだろうからな。おかしな介入をされる方が厄介だ」
「……可笑しな思考を持っている方はお父様に弾かれると思いますわ」
「それは否定しない。が、ああいった輩は隠す事も上手いからな。そう言った危険は排除する……おかしな子供だな、お前は」

 そういえばいつの間にか丁寧口調じゃ無くなってるなぁと、そんな事を思いつつ先生を見やると呆れたような表情になっている先生が見え私も苦笑するしか無かった。
 多分先生は私が大人全てを無条件に信じていない所を言っているんだと思う。
 けれど『地球』で成人した記憶のある私にしてみれば大人はイコールで自分の味方ではないと知っているのだ。
 それにそれを示すように私は害意に晒された。
 【魔力属性検査】の時の出来事は決して忘れられないし、あれは大人が一様に味方ではないと指し示すには十分だと思う。

「世の中が善意しか存在していないのでしたらワタクシの教育は既に始まっておりますわ」
「……成程」

 本当は違う理由からだけど、取り敢えずあの出来事を理由に挙げれば納得はしてくれるだろうと思い言ったのだが、案の定納得してくれたようだった。
 それにしても先生も実感がこもっている気がしたけど、何らかの被害にあったのかも。
 何処にでも沸くんだね、そういう輩って奴は。

「私は魔法の基礎と座学、その上で錬金術を教える事になる。魔法の実技と戦闘に関しては他の教師を雇うはずだ。私も出来なくは無いが、独学だから人に教える事は得手ではない」
「先生は戦えるのですか?!」
「錬金術師は【採取】の際、人の手が入っていない場所に入る事が多く在る。大抵の錬金術師はある程度戦う事が出来る。お前の父親であるオーヴェも戦えるぞ」
「……外見には騙されるなという事ですわね」

 コルラレ先生にしろお父様にしろ決して戦いが得手のようには見えない。
 とはいえお母様も魔術師らしいし此の世界で外見を見て判断するのは愚か者のする事なのかもしれない。
 ため息をつく私に先生が笑い出す。

「お前もその範囲内だと思うがな。……納得出来た所で授業を始めるぞ。とはいえ最初に教えるのはこの世界の成り立ちを示した神話など基礎も基礎だがな。簡略したモノで十分のはずだ」
「宜しくお願い致します」

 この世界は光と闇の双子の女神によって創られた。
 光の女神の名を「リヒトターニャ」
 闇の女神の名を「フィニスターニャ」
 二人の女神はお互いに交互に力を使い世界を支え、様々なモノを創り出していった。
 まず二人の女神は我が子と言える神々である「火」「土」「風」「水」の神を生み出した。
 生み出された火の神「フォイツィーニス」土の神「エアーデリビア」風の神「ルーヴィンロッテ」水の神「リヴァッサーリア」はそれぞれ光と闇の女神の力の一部を受け継ぎ大地へと降りていった。
 様々なモノが創り出され、その中に「人」も含まれていた。
 人々は自らを創り出しし神々を崇めた。
 信仰は神々の力となり、神々は人に力を授けた。
 それが「魔力」である。
 人々は神に与えられた魔力を効率良く使う術を編み出した……「魔法」の始まりである。
 又時々魔法では到底行えない何かを行う人間が出てきた。
 彼等の使う何かを「スキル」と名付け魔法と同等の力として磨いていった。
 人は魔力を魔法とは別の方面から使えないかと考えた。
 試行錯誤の上編み出されたのが「錬金術」である。

「――人々が【魔力】を持ち【魔法】【スキル】【錬金術】が使えるようになったのは神々の御業である。……これが神話の流れだ。詳しい話は後で本を読めば良い。魔法の基礎を学ぶ場合は詳しい話は必要はないから省かせてもらう」
「……わかりましたわ」

 先生の説明はほんとーに簡略化されていた。
 神々の名前しか詳しく説明していないです。
 本当に魔法を使うための必要最低限の説明をしてくれただけですよね、それ。
 
 ――けど【魔法書】の最初のページに神話の話が載ってない所お父様も同類な気がする。

 お父様にしろ先生にしろどうやら合理主義の気があるようです。
 ……後で神話の本を読み直そう。
 物語としては面白そうだし、と思う所私も大概だなと思うんだけどね。
 なにはともあれ今は先生のこういう性格は有り難い。
 早く魔法について……そして錬金術について学びたいしね。

「人間は皆魔力を持つ。今の所魔力の無い人間は見つかっていない。だが魔力量は人それぞれであり、鍛える事により多くする事は可能だが、上限が存在する。この上限は元々の魔力量に依存すると言われている。結局持って生まれた魔力量に左右されると言う事だ」
「持って生まれた魔力量や魔力が枯渇しないよう上限を知る方法はあるのですか?」
「ある。……掌に魔力を込めこう言えば良い――――【ステータス】」

 先生が多分【力ある言葉】らしきモノを言った途端、先生の掌に透明な『テレビの画面』のようなモノが出現した。
 
「(ゲームの世界か!? あ、いやこの世界ってゲームの世界と酷似しているんだっけ。なら良いのか? ……ん? いいのかな?)」

 思わず心の中で突っ込みを入れた後、心の奥底で何かが引っかかり頭の中がこんがらがってしまう。
 取り敢えずそこら辺の事は横に置いといて先生の【ステータス】を見やる。

 ゲームの中では確かにステータスは常に画面に存在していた。
 だから魔力残量とか色々気をつかう事が出来たんだし。
 ただ現実の世界でまさかステータスを見る方法があるとは思わなかった。
 ……何でもありって事にして置こう。
 一々びっくりするだけ疲れるだけだし。

 私はそう結論付けると先生のステータスをまじまじと見やる……とはいえ、『画面』の後ろから見ているのか透明の板のくせに数字や文字は全く見えなかった。
 
 ……スゴイ今更だけど、私は『地球』の文字を書く事が出来るし、読んだり話す事も出来る。
 それと同時にこの世界の文字を書く事も読む事も出来る。
 勿論話す言葉はこの世界のモノだしね。
 意図すれば『日本語』を話す事は出来ると思うけれど、誰にも通じない言葉を話す必要性も感じなくて目覚めてから一度も使っていない。
 その内暗号代わりに『日本語』を使うかもしれないけど。

 だから先生の【ステータス】が見えないのは私が読めないからじゃない。
 透明なはずなのに、文字や数字自体が見えないのだ。
 じっと見ている私に先生はため息をつき『画面』を消してしまう。

「これらは基本的に他人には見えない。本人が見せても良いと思わない限りな」
「だからワタクシには見えなかったのですね」
「ああ。……やってみろ。掌に魔力を込めた後、能力値を数値化するイメージを思い描き【ステータス】と【力ある言葉】を唱えれば良い」

 これって【魔力操作】が出来ないと見れないって事だよね?
 一種の魔法と考えれば私の初魔法って事だよね。
 ちらっとだけ最初は炎とか水とか創り出す、いかにもな魔法が良かったかなぁと思ったりしたんだけど、まぁ現実はこんなモノって事かな。

 私は先生に言われた通り左手に魔力を込めるとゲームで見た『ステータス画面』を思い描く……あ、成功する、と思った。

「【ステータス】」

 今、私の成功の証が目の前に存在していた。
 ゲームとは違って銀色の板が私の目の前に浮かんでいる。
 初めての魔法の成功が嬉しくて私は自然と笑みを浮かべる。
 同時になんとも言えない何かがこみ上げてきたのだ。
 例えどんな魔法だとしてもここまで感動するモノなんだなぁ、と何処か他人事で思ってしまう程、私は今可笑しな感情に支配されていた。
 先程から感じていた違和感が急速に何かに象られていく気がした。

「(あ、此処は魔法や錬金術が普通に存在する世界なんだ)」

 それは唐突な実感だった。

 此処は「キースダーリエ」が生きてきた世界。
 それは『名も無きわたし』が画面越しに見て居た世界。
 そして此処は「私」がこれから生きていく世界。
 此処は魔法と錬金術が生活に密接に重なりあっている『地球』とは異なる世界である。
 
 自らの手で生み出された魔法はその証だ。
 私が発動した初めての魔法
 突発的な出来事によって創られたモノではなく、自らの意志で自ら発動した最初の魔法
 私も又この世界の住人であり、これからこの世界で生きて行くのだという証である魔法

 心の中に僅かにあった夢見心地の幻想。
 此処が現実の世界であると否定したいと思う僅かな心の欠片。
 それらが消えていく。
 どんなに残酷だったとしても、どれだけこの世界が私に厳しい世界だったとしても。
 此処で私は生きて行くほかない。

 それを唐突に心から理解したのだ。

 コレまでと何かが変わった訳じゃ無い。
 これからの言動が変わる訳じゃ無い。
 ただこれから起る全てを受け止めて生きる覚悟しただけだ。
 失敗した時逃げたいと思い、僅かに残っていた夢心地な幻想の世界を完全に消し去る。
 だって本来ならそんな逃げ場所は存在しないのだから。
 誰もがこの優しくも残酷な世界で精一杯生きているのだから。
 私だってそうやって生きて行く。
 
 私の「初魔法」は私に感動を与え、覚悟を促してくれた。
 この瞬間、私は地に足を付けて心からこの世界の住人になったのである。









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