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騒動は収まりきらず、早い収束を心の中で願う

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 波乱だらけの謁見を無事? 一応無事終えた私は城の一室で休んでいた。
 誰かを伴わないと家に帰る処か城の中を歩く事も出来ないからね。
 見た目幼女に一人で帰れって、貴族じゃなくて平民でもしない所業だから仕方ないよね。
 出来ればさっさと帰りたい。
 まかり間違って此処に貴族が来たら面倒な事が起こりそうだし。
 貴族サマ達とのやり取りはもうお腹一杯です。
 いやまぁ謁見の間での一連の騒動が貴族特有の腹の探り合いとは真逆を行っているのは知ってるけどね。
 あんなオープンで心境暴露するような輩ばっかりだったら政は成り立たないっての。
 貴族特有の裏を含ませた言葉の応酬もメンドクサイけど、あそこまで盛大な自爆を見せられるのも困る。
 当事者としてキャスティングされれば余計に。
 謁見の終わりの後の老人を思い出すともはや溜息しか出ない有様である。

 流石お城と言った内装と調度品を眺めながら私は今回の謁見を思い返していた。
 と言うか、色々印象的過ぎて思い出したくなくても思い浮かべてしまって鬱陶しい事この上ない。
 お父様に自由にやってよいとお墨付きは貰っていたし、不快になるだろうとは言われていたけど、予想外の事が多すぎじゃないかなぁ、アレ。
 もはや最後の方は猫何処行った?! って感じだったし。

「あんな事になれば猫が剥げても仕方ないよねぇ。うん、仕方ない」 
「<最初から猫被りなんてしてなくなかったか、オマエ?>」
「…………<失礼な。少なくとも陛下の御前に行く途中は何重にも猫被ってましたけど?>」
「<つまりそこまでしか猫被ってねーって事じゃねーか>」

 謁見の間では一言も話しかけてこなかった黒いのに話しかけられて私は盛大に溜息を付く。
 序でに気も抜けた所、まだ緊張状態ではあったらしい。
 色々緊張続きだったのも仕方ない。
 なんせ初の公式の場なんだから。
 もしかしたら怒りによる緊張だったかもしれないけど。

「<いやいや、あの老人が話に入り込むまではそれなりに猫はいたよ。ただ話し方や言葉使いには一切気を使ってなかったけど>」
「<子供らしさなんて欠片もなかったもんな>」
「<たださ。あれ、あくまでこんな場に子供を引きずり出した相手に対する意趣返しだったんだけどさ。まさかあんなのが釣れるとは思わなかったんだよねぇ>」
「<あれでコーシャクサマだってんだから笑っちまうよなぁ>」

 本気で嘲笑っている黒いのを諫める気もならず私も肩を竦めるに留める。
 私だってアレがお父様と同格とか冗談じゃないと思ったし。
 
「<多分現当主か先代当主……きっと現当主だって言うんだからふざけてるの? とか思わなくも無いし?>」
「<あれでトーシュサマねぇ。人手不足もいーところなんじゃね?>」
「<他に良いのいなかったの? とは思ったね>」

 血を繋ぐ事の重要性は分からなくもない。
 とは言え、血の濃いぼんくらよりも血の薄い優秀な人間を当主に据えた方が結果的には家を継続させる事になると思うんだけどね。
 あれでいて普段は優秀でした、なんて事は無さそうだし。
 ……本気でボケたのか?

「<酒の匂いはしなかったけどボケたのかと>」
「<その割には怒り狂っても血管の一つも切れなかったけどな>」
「<血圧上がり過ぎて倒れるかな? とは思ったけど? けどまぁ最終的には血管の一つでも切れそうではあったよね。切れなかったけど>」
「<その方が本人的にはよかったんじゃね? 実際自分を破滅させるような事ボロボロ言ってたしな>」
「<まさに自爆行為だったよねぇ、アレ>」

 あの襲撃事件の実行犯は全員殲滅したと思っていた。
 けどまぁ見届け人みたいに何処かに隠れているのがいたらしい。
 私達にほぼ返り討ちにされても姿を現さなかった所中々優秀な人材がいたらしい。
 仲間意識が薄い金の繋がりだけだったという事かもしれないけど。
 まぁどんな理由にしろ老人があの襲撃事件の詳細を知っている事は確かだろう。
 それらしき事ポロポロ溢していたしね。

「<「女の子である私が立ち回って、髪を犠牲にして勝ちを拾った」と知っていたわけだしね>」
「<騎士団のコネでもあって知った線はねーのか?>」
「<限りなく低いね。今回の事ってさ、私の言動があまりにもイレギュラー過ぎるから>」

 年齢と性別を考えれば気絶していてもおかしくはない状況で私は前面に出て場を引っ掻き回し、戦況を変え、最後には危機から脱した。
 私がいなければ兄殿下がその立ち位置だったかもしれない。
 そもそも襲撃犯は誰も殺すつもりがなかったのかもしれない。
 けど私達は殿下達と行動を共にし、あの場で一番暴れたのは私だ。
 IFを語っても意味が無い。
 私達が辿り経験した襲撃事件が全てだ。
 殿下達から話を聞いた騎士や陛下達はさぞかし困った事だろう。
 あまりにも貴族令嬢らしくない私の言動に。
 それでも私の立ち回りが多少なりとも五体満足での生存に繋がった事も分かっただろう。
 あの老人の言葉は愚かな事ばかりだったけど、全てを詳らかにした場合、私は貴族令嬢として居られないかもしれない、という部分だけ有り得ない話ではないのだ。
 全てを明らかにした場合あまりにも異質過ぎる私を恐れる輩は一定数でるだろう。
 そんな輩によって私を排除する機運が高まり穏便な方法として修道院行きも充分有り得るのだ。
 とは言え、現状その様子が欠片もみえない所、陛下は今の所私を排除する気は無いらしい。
 なら緘口令を敷き、少数の口の堅い人間でもって調査している事だろう。
 あの老人にそういった人達の口を割らせる程の人脈があるとは思えない。

「<だからまぁリアルタイムで知る方法があったのか、見届け人みたいな存在が居たのかのどっちかだと思う>」
「<まーそんな所になるんだろーな。あのじじぃにゃコネがあるようには思えなかったしな>」

 その割には殿下達の近くに立つ事の出来るくらいの権力を持っているみたいだったけど。
 家の権威の割に悪い意味で貴族らしくない老人だったとしか言いようがない。
 あれで何で自滅もせず今まで居られたのか不思議に思うレベルだったんだよね、アレ。

 それは陛下と対面したからこそ抱いた疑問って奴だった。
 陛下やお父様が潰せない程の権威や背後関係があるとは決して思えない老人。
 古参の公爵家なんだろうか? と思わなくも無いけど、だったらせめて当主を別の人間に引き継がせるようにもっていくべきだ。
 血により受け継がれるモノが存在するかもしれない。
 だとしてもぼんくらに当主をやらせていればいつか家は途絶える。
 その方が繋ぐべき血は次代へは繋がれない。
 それこそ本末転倒だ。
 普段は有能なんだ、なんて謁見の間での姿を見てしまえば思える訳がない。
 じゃあ陛下があの公爵家を今まで放置していた理由はなんだろう?

「<どうした?>」
「<んー。どうしてあの公爵家は未だに老人が当主をしているんだろうなぁ? と思って>」
「<まぁヘーカは出来れば敵に回したくねー類いの奴だったな>」
「<黒いのもそう思ったんだ。うん、私もそう感じた>」

 普段は豪放磊落でどちらかと言えば親しみあるフランクな人柄なんだろうと思う。
 いや、そう見せているんだと思う。
 全てが演技ではないかもしれない。
 けれど時折垣間見えていた牙持つ獣の笑みはそれだけの人間ではないと理解するには充分で。
 敵に回った時、あの牙は躊躇する事無く此方に向けられると分かってしまえば極力敵に回したくはないと思うのも当然だった。
 何処まで計算かは知らないし知りたくも無い。
 ただよっぽどの事がない限り敵に回っちゃいけない。
 それが私の感じた陛下の人柄だった。
 
 序でに言ってしまうと陛下とお父様、お母様は学友であり共にパーティーを組んでいた仲間でもある。
 そりゃ気安い態度にもなるよね? と納得して良いのか迷う所である。

「<陛下にお父様、それにシュティン先生、トーネ先生。それにお母様、か>」
「<その面子でパーティー組んでいたってんだから、とんでもねー話だな。改めると面子並べると>」
「<本当にね>」

 国の頂点に宰相であり建国時から続く公爵家の当主とその夫人、しかも何方も高位の錬金術師と魔術師。
 それに加えて高位の錬金術師に上位ランカーである冒険者。
 そんな面子でパーティーを組んでいたなんて、はっきり言って色んな意味で怖い。
 戦力の偏りはこの際気にしないとしても、権力的にも負ける事が無い面子が揃っていたとしか言いようがない。

「<まぁシュティン先生とトーネ先生が弱点になっていたかもしれないけどねぇ。いや、どっちかと言えば囮で入れ食い状態だったかも?>

 権力を盾にされて嫌がらせされても自力でどうにかしそうだけど、身内というか友人に対しての暴挙を見て見ぬ振りするような面子だとは思えないし。
 その内堂々と囮になりそうだ、特にトーネ先生とか。
 「即位する前に掃除できてよかった」ぐらいいいそうだし、陛下。
 お父様もお母様もそういった「驕り高ぶった権力持つ存在」を嫌っているから嬉々として潰すのに手を貸したに違いない。

「<想像だと言い切れない所が恐ろしい所だな、それ>」
「<本当に>」

 どんだけ伝説を打ち立てているんですが、皆様方。
 想像だと言い切れないのは私が多少なりとも人柄を知ってしまったせいだろうか?
 ……本当にそんな伝説打ち立ててないよね?
 私と黒いのの溜息が重なって部屋に虚しく響くのだった。

「<考えてると恐ろしい事になるからそろそろやめてくれ>」
「<異論なし。……えぇと。あーそうそう。そんな陛下方があんな自爆スイッチを自分で押すような老人を排除出来ないとは思えないんだよねって話なんだけどさ>」
「<相当の理由でもあんじゃねーか?>」
「<相当の理由、ねぇ>」

 例えば老人の立ち位置がお父様で家がラーズシュタイン家だったなら?
 お父様は宰相であり建国時から連綿と続く公爵家だ。
 潰せない相当の理由に当たる気がする。
 けど理由によっては潰す事は出来るはずだ。
 今回のような王族への襲撃事件は「相当の理由」に該当すると言わざるを得ない。
 まぁ今回のみたいな相当の理由が今までなかったって可能性は無くも無いけど、その場合力を削いでいって最終的に家格だけの公爵家扱いされててもおかしくはないと思うんだけど。

「<よっぽどの後ろ盾か無能過ぎて見向きもされなかったか、って所かなぁ>」
「<その場合後者だろーよ>」

 黒いのはもはや溜息すら出ないと言った感じだ。
 対峙して身内を貶された私は完全敵認定、むしろ殲滅対象認定したけど、まぁそんな第三者ならこんなモンか。
 私も関係無い第三者なら呆れて相手にもしないもんなぁ。
 あー「キースダーリエ」が半ば無視していたのはそういう事か。
 あれはそうしたくなるのも分かるわぁ。
 子供にそう思われる老人の大人げなさと無能さに「えぇー」である。

「<まぁもう会う事も無いだろうけど>」
「<謁見の間であんだけの暴挙だ。被害者であるオマエには二度と関わらせないだろーよ。あのオトーサマならな>」
「<私もそう思う>」

 幾ら今まで無能で見逃されていたとしても今回はそうはいかない。
 謁見の間で陛下の顔に泥を塗ったのだ。
 貴族としては致命的であり、あの時の態度から陛下に対して何かしらの良からぬ感情を抱いていると目ざとい人ならば気づいただろう。
 現時点で陛下に逆らう事に「利」がない上「義」も無いだろう。
 クーデターを起こしたとしても陛下に叩きのめされるのが落ちだ。
 仮に野心があったとしても今事を起こすような愚かな事はしないだろう。
 あの老人を使おうとしても無駄だ。
 あれは使いモノになる処か足を引っ張る事しかしないだろう。
 もはやトカゲの尻尾にすらなれない。
 そう言う意味では憐れな存在と言える。
 黒幕かもしれないと気を張っていたのがバカバカしくなる自爆っぷりだったのだから、脱力感も半端ない。

「(黒幕と想定した一人はあっさりと自滅した)」

 ならば問題はもう一人。
 未だに目的どころか本性すら曖昧になってしまった人が一人。
 こっちの方が手強い所ではないと考えなければいけないという事である。

「<王妃は一体何処にどれだけ関与しているんだか>」
「<……あのよー瑠璃の。心証的に真っ黒なのはわかんだけどよー。ほんとーにオーヒサマが関与してんのか?>」

 黒いのも王妃が相当妖しいとは思ってるらしい。
 まぁあの時王妃のあの眸を見ていれば疑ってしまう私の気持ちは分かるんだろう。
 けど当事者ではないからか黒いのは私よりも冷静であり白の可能性も疑っているようだった。

「<陛下には理由が存在せず、殿下達が疑い、私達を恨んでいる事が分かっている。心証的には真っ黒だと思うよ?>」
「<それは否定しねーよ。けど全部状況証拠じゃねーか。そんだけでオーゾクを疑ってだいじょーぶなのか? って話だ>」

 これは黒いのが私を心配していると、考えて良いのかな?
 本当に態度が軟化したなぁと思う。
 お人よしも大概にしないと足元をすくわれるよ? と言いたくなる事もあるけどね。
 付け入る隙になるのにね?
 それでも良いと思ってくれているなら、その信頼は裏切れないと思ってしまう訳だけど。

「<ヘーカに動機がねーって言うのも表面上の話だろ? なさそーなのはオレも感じたけど、もしかしたらって話もねー訳じゃないからな。あのオーヒサマが黒幕だって考えているだけならまだしも態度に出ちまえば後戻りはできねーし。ほんとーに大丈夫なのか?>」
「<心配してくれて有難う。……確かにさ。私も王妃に関しては黒に近しい灰色だと思ってた。だからお父様に何か言うつもりもなかったし、殿下達の考えも考えすぎかも? って思いはあったよ。私はほぼ黒だと思ってたし兄殿下がそう思うのも仕方ないと思ってたから王妃様が黒幕前提の思考しか出来なかったけど。ただまぁ片隅に「王妃様が確定黒じゃない」って思いも無かった訳じゃない。だけど、でちゃったんだよね>」
「<物証がか?>」
「流石に私じゃ物証は見つけられないよ、黒いの。けど……うん。城のさ、空白を造り出したのは王妃様付の女官なんだって。当日今までと全く違う仕事を振り分けられて散々な目にあったって愚痴をね、リアが聞いたの>」
「<愚痴までは咎める事もできなかったって事か>」
「<そうだね>」

 あの時間、襲撃者が入り込んだ場所に本来ならいるはずだった女官と騎士達。
 騎士の方はまぁ巡回の時間を把握していればよい。
 けど女官の方は?
 あの場所はそれなりに人が通る場所だった。
 あんな昼間に人が途切れるなんて事有り得ない程度には人通りのある場所だった――本来なら。
 なのにあの時、あの場所に人は私達以外誰もいなかった。
 意図的に作られた空白の場。
 それは王妃付きの女官の指示により空いてしまった時間の空白だった。
 勿論空白を作る意図が無かった、とは言い張る事は出来る。
 下働きに別の仕事を振り分けただけでそんな空白時間が創られるなんて意図していなかったと言えばそれ以上の追求は難しい。
 けど、けど人は疑うだろう。
 本当に意図は無かったのか? と。
 偶々当日他の仕事を振り分けたために空いた場所と時間に偶々私達が通りがかり、それをチャンスとして襲撃者が襲ってきた?
 偶然が重なり過ぎだと誰でも考えるだろう。
 物的証拠とはなり得ない。
 けど疑うには充分と言えるのではないだろうか?
 其処に今までの王妃様の状況証拠を合わせれば、王妃を疑い調査をするだけの切欠には充分だ。
 陛下を筆頭に誰かが王妃を庇わない限り調査はされるはずだ。

「<今回襲撃事件に関して陛下は最後まで見届けると宣言なさったから。仮令王妃だろうとも疑いがあれば調べるはず>」
「<まーそれで見つかるかどうかは別の問題だがな>」
「<そうだね。今まで私達の中にある王妃様像ならば証拠の一つや二つ保有しているかもと思ったけど。謁見の間で見た王妃の姿を考えると一筋縄ではいかないかもしれない、とは思う>」

 顕示欲の強い悪い意味で貴族らしい貴族なんだとばかり思っていたんだけど、そうとは言い切れなくなってしまった。
 人は多面性を持つ生き物なのだから王妃もそうだったというだけなんだけど、ね。
 一人の少女の自尊心を増長させ階級制度すら認識できなくしたのは王妃様だ。
 まぁ少女に染まりやすい素地があった事と両親が賢くなかった事もその一件が大きくなる理由だったんだろうけど。
 とはいえその件に関して王妃にも非がある。
 意図してなかったのか、意図していたのか。
 私は噂から前者だと思っていた。
 けど謁見の間での王妃は後者もあり得ると思ってしまった。
 
 噂全てが嘘である可能性はある。
 噂に惑わされている周囲を見てしまえば、噂程あてにならないモノも無いと思う。
 けど噂にこそ真実が紛れている事もあるのだ。
 大切なのは噂の真贋を見極める目だ。
 今回の事でどうやら私にはまだその目は養われていないようだという事が分かってしまった訳だけど。

「<分かるのは王妃様は私に重苦しい程の何かの感情を向けているのに、何処までも「私」を見ていないという事だけ、かな>」
「<オマエを憎んでいる、じゃなくてか?>」
「<確かに私を疎ましく思っている。けど……なんていうか「私」に向けている割には空虚というか密度が薄いというか>」

 憎しみを向けられているのに無機質だったり、人形さんを辞めたと思ったら、其処か空虚感が拭えなかったり。
 私を疎ましく思っている割には熱量が感じられないと言えば良いのだろうか?
 言葉にしづらいけど、ストレートに憎しみや怒りをぶつけられている、では片づけられない気がするのだ。

「<個人識別されていないような違和感を感じるんだよね>」
「<本当に憎いのはラーズシュタインっとかそういう事か?>」
「<うーん。それも少し違うような?>」

 私を通してお父様ないしお母様を見ているのとも少し違う印象を抱いてしまうのだ、どうしても。
 もっと遠い所を見ている感じ、とでも良いのだろうか?
 
「<しいて言えばもういない人に向けているような?>」
「<……オマエ生まれ変わりとでも思われてんじゃねーの?>」
「<転生に生まれ変わり? 勘弁してよ。そんな盛沢山の設定>」
「<自分の事を設定言うなよ>」
「<けど、云いたくもなるって>」

 異世界転生だけでもお腹いっぱいなのに、其処に既存世界の生まれ変わり要素とか詰め込み過ぎだから。
 まぁちょっと納得しそうになったけど。
 確かに憎い人間の生まれ変わりならあんな空虚で濃度の薄いのに妙に重苦しい暗い眸になるかもなぁ、と思っちゃった。
 転生歴が一つ増えるのは御免です。
 そしてその場合王妃様に見極める特殊能力がある事になります。
 面倒度がアップしそうなんで勘弁して下さい。

「<まぁ結局何しでかすか分からないからご注意、って所かな>」
「<警戒は怠らず、だな。結論は同じ、かよ>」
「<そうだね。……って仕方ないじゃん。考える事に意義があるんだよ?>」
「<そーいうもんか?>」
「<少なくとも私にとっては、ね>」

 考えて何かあった時動けるように準備したり、突発的事項に対して心構えをしたり、私にとっては考える事は意義がある。
 考えすぎで身動きがとれなくなる事もあるから時と場合によるんだけどね。

 と、そんな感じで黒いのと話していて大分時間が過ぎた気がするんだけど、何時まで私はココに居なきゃいけないんだろうね?
 早く家に帰りたいです。

 と、そんな事を考えていると城のメイドさんが部屋にやって来た。
 「王族の方が貴女様にお逢いしたいとの事です」らしいです。
 うーん、王族の方、ね。
 タイミング的に微妙だなぁ。
 特に私を見るメイドさんの目がねぇ。
 そんなに私は汚らわしいモノ、なんですかね?

「<厄介事ってのは向こうからやってくんのかねぇ?>」
「<フラグ立てないでよぉ、黒いの>」

 まぁ気持ちは分かるけどね。
 此処で断るには理由が無い、んだよねぇ、残念な事に。
 前みたいな襲撃事件はごめんですよ、メイドさんの主様?

「王族の方を待たせる訳にはいきませんわね。案内してくださいな」

 私は小さくため息をつくと、なおも蔑みが消えないメイドに対してニッコリと微笑み貴族令嬢の猫を被るのだった。


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