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面倒事は向こうからやってくる

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 ロアベーツィア様への不敬が近衛としては不適切な対応とみなされ男は拘束され荷物と共に荷馬車にて国境まで運ばれる事になった。
 私としては日程に余裕があれば近くで滞在し交代要員が来るのを待つ方が良いと思ったんだけど、よくよくお話を聞いたところ、元々今共に旅をしている騎士サマ達とは国境で交代する予定だったらしい。
 帝国側に入った後は外交の経験もあり、外交員とまでは言わずとも帝国にも護衛任務として赴いた事のある人達で構成された面子で動くらしい。
 完全ながら余談だけど、残念ながらタンネルブルクさん達も帝国首都までは行動を共にするらしい。
 と、まぁ私の個人的な落胆はともかく、国境で交代される方々は近衛を中心に他の騎士団の方々も入り混じるとの事だった。
 今度はマトモな人達だったらいいなぁと思ってしまう所、私(とクロイツ)の騎士に対する信頼度を如実に表していると思う。

「(ただまぁ、殿下達は責任者の名前を聞いた時、安心していたしその人に限っては信用できる人ではあるらしいけど)」

 ちなみに不敬の塊である男は現在罪人というよりも荷物と同じ扱いである。
 流石に言動がロアベーツィア様に対する不敬が過ぎるし、近衛の職務を逸脱し過ぎた行為は当然罰則の対象だ。
 本来なら即拘束で罪人扱いしたい所なのだが、あの男の家格がそれなりに高いのは事実だったらしくて審議もせずに何かしらの処罰を与える事は難しいらしいのだ。
 と、いう理由により拘束までは兎も角、それ以上は傷一つつけるのも憚られてしまう、なんとも扱いにくい存在が誕生してしまったのである。
 ので荷物扱いは意趣返しを含んだギリギリの線である……と言う建て前を前面に押し出した結果なのだ。
 言い出したのが子供である私達だから許されるオイタ扱い、という建前で何か文句を言われたら押し通すつもり満々である。

「<実際話しかける事も出来ず、荷物扱いなんてされれば屈辱的だと思うんだよねぇ。……ざまぁ>」
「<オマエ、実はまだ怒ってるだろ?>」
「<やだぁ。私、怒りが冷めたと言った覚えはないかなぁ?>」

 怒りが冷める訳がないのだ。
 一番貶めていたのはお父様だけど、ラーズシュタイン家全体を馬鹿にし、それが当然と思っていたのだ、あの男は。
 そんな輩に対して私の怒りが冷めるはずがない。
 この程度のオイタで済んでいる事を褒めてほしいくらいだ。

「<それに言い出したのは私じゃないし>」
「<なんてーか、本当に同類なんだな、オマエと腹黒オージサマは>」

 クロイツの不敬極まりない名称は置いといて、私も結構そう思う。
 ヴァイディーウス様の思考は結構読みやすい。
 多分、似た者同士の部分があるのだろう。
 ただ、根底が似てても、決定的に違う所があるせいか全てを共感できないだけで。
 それでもこういった時は便利と言えば便利だ。

「<まぁ、今後育っていえばヴァイディーウス様の思考なんて分からなくなるし、似てる部分も無くなると思うけどね>」
「<どーかね? 根底が似てるみてーだし。案外似たモン同士のまんま育つかもしれねーぜ?>」
「<ないない。帝王学を学び育っていく殿下達と何処かに嫁ぎ臣下となる教育を受ける私が似た者同士のまま育つなんてありえないって>」

 性別の差もさる事ながら、受ける教育が違い過ぎる。
 ふとした瞬間に「なんとなく考えている事が分かるな」って感じに落ち着くはずだ。

「<私とクロイツぐらいガッツリ根本的な所で合致していない限り、育てば変わっていく程度の似た者でしかないと思うよ?>」

 『日本』で生まれて育ったために培われた倫理観と道徳観、それにより生まれる思考や忌避感は身、というよりも魂に刻まれたモノだ。
 変えようと思っても変えられない。
 混ざっていようともふとした瞬間に顔を出す代物だ。
 それに比べれば教育次第で変わっていくヴァイディーウス様との似た者同士ともいえる思考の共通点は今だけのモノでしかない。

「<……そーかよ>」

 ん? なんかクロイツの感情に乱れがあったような?
 気のせいかな?

「<そーいう事。ま、今回は似ている御蔭で私が提案しなくてもよくて話が通りやすかったから楽だったけどね。その代わり周囲の騎士サマ達がドン引きしていたのは納得出来ないけど>」
「<そこは納得しとけよ。オマエ等、まだ餓鬼だからな。いっくら餓鬼らしくなくてもな。その見た目でえげつない発言ばっかしてりゃドン引きしたくもなんだろーよ>」
「<えー。お兄様は苦笑していただけなのにぃ>」
「<色々知ってるし慣れたんだろ。……いや、短期間で慣れる所、オニーサマもただモンじゃねーか>」

 明らかにため息をついたのが分かるクロイツの言葉に内心「お口が悪くってよ、クロイツ」と軽口を呟きつつ、周囲を見回す。
 現在は騎士サマ達も落ち着いているし、此方に怯える様子は見えない。
 とは言え、私に対する監視は続いているらしく時々視線を感じる。……怯えて様子を伺っているわけじゃないよね?
 どう頑張っても殿下達への視線と自分への視線を見分ける事は出来ないけど、殿下達は殆ど探られる視線が無くなったらしいから、やっぱり私への視線であっているのだろう。

「(まぁ殿下達のあの姿を見て次代として相応しくはないと言う輩はそうそういないと思うけどねぇ)」

 そんな愚か者は荷物の男一人で充分である。
 国境まで持っていくしかない要らない荷物を思い、私は小さくため息をついた。





 一騒動でちょっと時間を取ってしまった旅は結局、予定通りの行路を進んでいる。
 これは男の拘束騒ぎの後分かった事なんだけど。
 どうやら盗賊団の噂自体は本当にある噂であり近衛達の作り出したフェイクではないらしいのだ。
 近衛の人達が隠していたのは、殿下達や私達を恨んで自暴自棄になっている輩が今回の旅の最中に何かしらの報復行為を起こそうとしている、と陛下から賜った言葉を私達には一切情報として与えなかった事と盗賊団の噂は広範囲でその範囲に行路が含まれているという情報だったらしい。
 ただ陛下からの言葉は騎士達に一層の警戒を促すモノだし、盗賊団に関しては最後の目撃情報は此処に来るまでには一週間はかかる程遠い所だったので遭遇する可能性はかなり低いと言う事だった。
 そうなると近衛の人達に何かしらの処罰を与えるのは至極難しいという話なる。
 別に近衛の他の賛同者が襲ってくる事も無いし、情報に関してもどうしても伝えないといけない、とは言いずらい。
 男以外の近衛は職務を全うしつつ、殿下達の判断力を試したかった、だけだと言っていた。
 一応情報を秘匿しどう判断を下すか、それを見たいだけだったらしい、と言われてしまえば注意の一つでもしてお終い、が良い落としどころらしい。

「(それでも充分に尊大だとおもうのは私だけなんだろうか)」

 「家柄」「実力」「国への忠誠心」全てを兼ね備えた近衛という、騎士にとって名誉ある役職は、それほどまでに偉いのだろうか?
 王族に上から目線で試練を課す事が出来る程に?

「(正直、王族を蔑ろにする事と紙一重だと思うんだけど)」

 そういった部分が助長していった結果があの男な気がしないでもない。
 次代を見極めたいと思う事は良いけど、試練を課すという方法はあまりお勧めできない、と思う。

「(まぁ国政に関わる気も無い小娘の勝手な思いだから誰かに言うつもりも意見を交わす気も無いけど)」

 今回の事で何かしらの変化があるかもしれないしね。
 此度の事で陛下達が考えなければいけない事であり、私が口を挟む領分ではない。

「<なぁ、リーノ>」

 などと今回の件についてツラツラと考えていると珍しく少し躊躇した感じでクロイツから【念話】が伝わって来た。

「<ん? 何かあった?>」
「<あった、わけじゃねーんだけよー。なんてーか――この世界もやっぱり【混ざりモノ】に対して厳しいのか?>」

 クロイツの行き成りの質問に私は思わず瞬きをしてしまった。
 偶然誰も見てなかったのか言い訳する手間が省けたのは幸いだ。
 クロイツの言う【混ざりモノ】とは広義的に言えば「ハーフ」という存在の事である。
 獣人と人のハーフやエルフと人のハーフ。
 獣人とエルフのハーフは話を聞いた事が無いから存在しているのか居ないのか分からない。
 後、凄く特殊な例だけど【闇の貴色】と【光の貴色】を全身に纏うモノにも使われる事がある。
 別に黒髪に金色の眸だからといってそう言われる事は無い。
 ただ猫じゃないけど紺色と金色のオッドアイとか髪が銀色と黒色交じりとか、そういった色彩を纏う人間が【混ざりモノ】と称される事がある。
 どうしてこうやって区別されているかというと『物語』でもありきたりな理由……それによって差別するためである。
 獣人程動けないが人より身体能力が高い獣人とのハーフ。
 エルフ程の膨大な魔力は持たないが、確実に人より高い魔法素養と魔力を持つ人。
 そして【闇】と【光】の力を自由自在に操る事さえ可能とする人間。
 敵に回すと厄介でいて、自分の所に引き込むには少しばかりプライドを刺激する存在はこの世界でも倦厭される存在らしい。

「(そう言えば、クロイツも金色と銀色の眸だったっけ。そういう意味では【混ざりモノ】に分類される……のかな?)」

 フェルシュルグは確実にそう呼ばれていたと思うけど。
 んん? いや、普段は隠していたみたいだし名称こそ知っていても呼ばれた事はないのかな?
 あの最期の時はそんな事気にしている余裕はお互い無かったし、今はそれもひっくるめてのクロイツだと思っていたから、今更だけどクロイツがそう呼ばれる可能性に初めて思い当たる。

「(あー、そっか。クロイツがそう呼ばれる可能性はあるのか。ただなぁ。私的にはその呼び名ってどうでも良いというか、【混ざりモノ】って言葉自体があんまり好きじゃないからなぁ)」

 ハーフが生まれた理由が愛する人と共にありたい、として夫婦になった結果なら、それは否定されるモノじゃないし、神様に関して言えば産まれてくる存在には一切非がないし。
 そんな彼等、彼女等をくだらないプライドで排除するのは馬鹿らしいとすら思ってしまう。

「<世界的な話をすれば、そういった差別があるのは事実だね>」
「<やっぱりか>」
「<とは言え、私は下らないとしか思えないけどね。……『日本』でも差別はあったし、無くなる事は無いとも分かってた。この世界でもなくなる事は多分ないと思う。けどさ、個人的には下らないプライドで一方的に決めつけて良いモノでもないと思ってるけど?>」
「<はぁ。まぁオマエは気にしないだろうとは思ってたけどな>」
「<私、というかラーズシュタイン家は気にしないと思うけどね。獣人が出入りしても何も言わないし、何かしでかした時、叱りつける使用人がいる家だよ、我が家は?>」

 ディルアマート王国では獣人に対する差別意識も残っている。
 それもきっと身体的能力では決して勝てない嫉妬が要因の一つだと思う。
 そんな獣人を我が家の使用人達はあっさり受け入れて、あまつさえ叱り飛ばす強者までいるのだ。
 暗殺者とまでは知らなくても自分達では逆立ちしても勝てない相手でも悪い事をすれば叱り飛ばす我が家の使用人達はある意味最強じゃないかと思う。
 私みたいな変わり者もあっさり受け入れた懐の深さもあるし、正直環境には恵まれまくってると思ってる。

「<ああ、犬っコロ共の驚いた顔は見ものだったな>」

 影の中で笑うクロイツからは先程まで漂っていた悲壮感は無くなっていて、内心安堵する。
 それにしてもまさかそこまで気にしていたとは。

「<――……今の今まで忘れていたって言うのは言わない方がいいかな?>」
「<……リーノ。言ってるからな。しっかり【念話】で言ってるからな?>」
「<うぉっと! これは失礼>」
「<いや、オマエはそういう奴だよな。ってか忘れてたのかよ>」
「<あーいや。そう言えばこの世界にそういった区別をする輩がいるなぁってのを忘れてた? 序でに言うと猫がオッドアイなのは珍しくないって言う『常識』と言えば良いか『先入観』があったもんだから、クロイツがオッドアイでも別にそういう種類だと言う事であんまり気にならなかったかな?>」
「<だれが猫だ! オレは豹だっていってんだろーが! 何度もいわせんじゃーねーよ! オレは猫じゃねー!>」
「<そー言われてもねぇ。何度も言うけど見た目子猫だし。悔しかったら早く大型になる姿を見せて欲しいもんだね>」

 どーせまた断られるんだろうけど。
 と、思ったら少しばかり躊躇した気配が伝わって来た。

「<……今度。近いうちにな>」
「<あら? じゃあ楽しみにしてるわ>」

 何やらクロイツの中で気持ちの変化があったらしい。
 少しでも前向きになったら重畳な事だけどね。

「(……そういえば今更だけど、何で今、行き成りそんな事言い出したんだろうか?)」

 聞く機会を失ってしまった訳だけど。
 今更蒸し返すのも何だか座りが悪いし。

「(ま、いっか)」

 結果が全てとは言わないけど、今回に関してはクロイツが前向きになったって事でよかったって事でいいや。

「<話変わるんだけどよー。……この国のオーサマって大丈夫なんか?>」
「<話題展開の速さと内容の不穏さについていけませんけど、クロイツさん?>」
 
 自分の事で悩んでいたと思ってたら今度は国王陛下の心配ですが? 
 そりゃちょっと悩みの範囲が広くないですかね?

「<いや、心配はしてねーけど。この国のオーサマって本当に賢帝とか言われてんのか?>」
「<え? あーいや。若くして即位して以降数々の政策によって賢帝と呼ばれている……はずだけど?>」

 うん、理由は知らないけど、先王陛下と皇太后妃は王国の直轄地で余生をお過ごしのはずだけど?
 何故、若くして現国王陛下が即位したかは知らないけど、今の所民からの不満とか出てないし、賢帝かどうかはともかく、愚王ではないと思うんだけど?

「<あの元オーヒサマはともかくとして、あの荷物男はコノエサマなんだろ? だってのにあんな危険思想をほーちしてたんだか、知らなかったのかしらねーけど、どっちにしろオージサマですら気づいた事に気づかなかったって事だろ? それで賢帝なのか?>」

 クロイツの明け透けな言葉に内心苦笑するしかない。
 不敬のオンパレードとは言え、そういう事を言われても仕方ない状況にあるのは事実だと思う所私も人の事は言えない。

「<当事者だからこそ気づかなかった。という言い訳もできるとは思うけどね>」

 実際政策により民の暮らしが向上しているのは事実だし、民を蔑ろにする愚王ではない事は事実だ。
 元王妃の関係で子供達の環境に関して少々思う所はあるけど、それはラーズシュタイン家も人の事は言えない。
 お父様だって宰相として辣腕ふるう反面家の事が疎かになっていたと言われても仕方ないのだ。
 ただ一連の騒動を考えてみると、何方も「若いから」とは別の理由があるのではないかと思わなくもない。

「<これは完全に予想なんだけどさ。……意識を復讐に持っていきすぎていたんじゃないかな、と私は考えているかな?>」
「<復讐? ああ、惚れた女達が殺されたって事で元オーヒサマを憎んでたんだっけか>」
「<そう。元王妃の実家込でね。これはシュティン先生とトーネ先生にも言えるし、きっとお父様やお母様にも言えると思う。皆それぞれ自分のする事に手を抜いてはいなかった。けど、それでもそれ以外は復讐を果たすために思考を大きく割いていた所があると思う>」

 特に常に王妃として憎い相手が傍にいる陛下と派閥が瓦解してもおかしくはない元凶を身の内に抱え込んでいたお父様と、そんなお父様を支えていたお母様の御負担は多大なモノだったはずだ。
 警戒し、つぶさに監視して隙を見つけ出し、時には罠にかけようとする。
 国政をきっちりとこなす中でそんな状態を何年も続けていたのだ。
 精神的な疲弊も当然起こるし、自分に直接の害がない者を後回しにしていた可能性は無くは無いと思う。

「<あの男は国王陛下に対して心酔していた。その一点だけは揺るがないから陛下達の意識からすり抜けたんだと思う。――あと、あんまり言いたくないけど>」
「<ん? 珍しいな? オマエがそこまで言いづらそうなのは?>」

 さっきのクロイツ程じゃないよ、と軽口を返せればいいんだけど、思いついてしまった考えがそんな私の口を重くする。

「<あくまで予想だからね? 予測ですらない戯言だから。――――もしかしたらロアベーツィア様に対しては何処まで元王妃の思想に浸食されているかを計っていた、って事はあるかもしれない>」
「<あの男を使ってか?>」
「<あの男“も”使ってが正確かな? もし、もしも国王陛下の認識上、男があそこまでオカシイと思ってなかったとしたら有り得たかもしれないと思っただけなんだけどね。国王陛下が男を近衛としての職務として、真実を見る目を持つ者の一人だと認識していたら、今回の旅に同行させたのも、もしかしたらロアベーツィア様に対しての最終確認みたいな意味合いもあった…………とは思いたくないなぁ>」

 国王陛下がロアベーツィア様をヴァイディーウス様と同じく愛しているのは間違いではないと思ってる。
 ただ、元王妃の血を引きながらも受け入れた理由が思想に染まり切っていなかったからだとしたら?
 もしかしたらロアベーツィア様も王妃と共に切り捨てる事も案として考えていたとしたら?

「(『ゲーム』では第二王子が攻略相手では無かった場合、王子は悪役令嬢と婚姻を結んだとエンディング中に一文が出る。けど、その後国が発展したとか、そういった一文はどのエンディングにも無いっていう話だった)」

 しかもその後の国の発展の描写が描かれていたのは第二王子を攻略した場合のみだったらしいのだ。
 考えすぎと言えば考えすぎなんだけど、もし第二王子として王妃の駒に近い扱いを受けていて、悪役令嬢も王妃の言いなりだとしたら?
 結果として一緒に処分された可能性があるかもしれない……なんて恐ろしい可能性が浮かぶ上がってしまうのだ。
 国を衰退させるためにはいかないという大義名分があるのだから、廃嫡は難しくはないだろう。
 第一王子が死んでさえいなければ王族の血が途絶える事は決してないし、仮に第一王子に何かしらの問題あったとしても、十年程度後の話だから御歳的には国王陛下にはまだ御子が望めるのだから。

「<……そこまで考えて送り出したとは考えたくないし。…………うん、考えすぎ! これは国王陛下の好意で男は頭が可笑しすぎて国王陛下も読み間違えただけ! それで終わっておこう!>」
「<自分で言い出しておいてそれかよ。……ま、復讐に盲目になってたってのは有り得そうだな。それにあのおっさん、微妙に猫被るの上手かったのかもしれねーしな>」
「<と、いうよりも国王陛下への忠誠は事実だから、国王陛下には本性ばれてなかっただけじゃない?>」
「<そっちの方が精神衛生上はよさそーだな。どっちにしろ、元凶を排除したわけだし、少しばかり周囲をみてほしいもんだぜ。周辺環境が騒がしくてしかたねーしな>」
「<王族に関わりたくないっていう意識はあんまり変わって無いんだけどねぇ。この件に関してはお父様方も当事者だからねぇ。確かに私も平穏が恋しいわ>」

 難しい事を考えなきゃいけないのは私の仕事じゃないし。
 恐ろしい可能性はもう考えない事にしよう。
 ヴァイディーウス様とロアベーツィア様を見てれば絶対にありえない未来だろうし、考えるだけ無駄って事で。
 ただお父様達が復讐に盲目になっていた可能性は確かにあるし、クロイツじゃないけど、少しばかり余裕を持って周囲を見回して欲しいと思わなくもない。
 余計なお世話としか言えないけど、お父様しか読まない報告書の最後に一文付け加えるぐらいはいいかな?
 「ワタクシはどんなお父様でも大好きですけど、もう少しワタクシ達の事や周辺の事を見て下さいね?」って。
 子供の我が儘として、そして盲目になっていたであうという事を遠巻きに指摘するために。
 
 ――復讐に盲目になる気持ちは充分理解できる。そして復讐果たした「今」が肝要だと私は『知っている』のだから。


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