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厄介事を感じさせた帝国滞在初日
しおりを挟む帝都の観光名所兼祠を見せてもらった私達は再び馬車に乗り込むと、今度こそ王城へと向かう。
どうやらあの場所と王城の間に距離は殆ど無かったらしく然程時間も掛からず王城についた私達は門から中に入りようやく目的地に到着する事が出来た。
そんな私達は今、帝国の王城前に立っています。
と言うよりもある意味圧倒されて立ち竦んでいると言った方が良いかな?
何でかというと……。
「<派手だな!><派手ですね!>」
「はでだな」
「派手ですね」
「……たしかに、派手、ですね」
上から私とクロイツの【念話】に続いてロアベーツィア様、ヴァイディーウス様、そしてお兄様が王城を見た第一声である。
帝国の王城は一言で言って「派手」だった。
王国の王城は『現代人』が思い浮かべる西洋ヨーロッパのTHE・お城と言った感じだ。
石造りでしっかりした土台の上に敵からの侵入を防ぐための水堀もあるし、見ようによっては武骨で堅牢な造りと言っていいと思う。
そんなお城が当たり前だと思っていた私達にとって帝国の王城? は全く別物で圧倒されてしまう。
帝国の城は絢爛豪華で華やか造りだった。
とは言え、別に宝石でゴテゴテと飾り立てられているとか、そういったあからさまで下品な豪華さではなく、色彩で華やかに鮮やかに外壁を飾り、所々ガラス……多分ステンドグラスのような色付きのガラスを過剰にならないように配置している。
王城か? と問われると少しばかり悩む所だけど、華やかながらも時代を感じさせる荘厳さも失っていない。
飾り過ぎては下品になる造りを紙一重で美しさに保っている、見ているだけで目を楽しませる造りの城だった。
「帝国の王城は何度見ても圧倒されますね」
マクシノーエさんの言葉に私達は我に返ると帝国の騎士様方の方を見た。
流石に第一声「派手」は失礼かと思ったのだ。
けどどうやら騎士様達は慣れているのか、気にしてしないのか、特に気分を害した様子は見られない。
その事に少しだけほっとする。
「帝国の王城は一つの完成された芸術品としての側面もあるようですよ」
マクシノーエさんの言葉に「成程」と思った。
堅牢であり、敵に対する強固な護りと王族の権威を示威する造りである王国の王城とは根本的な考え方が違うらしい。
どっちが良いのかはその時の情勢次第という奴だろう。
まだ初見の衝撃を残しつつ私達は謁見の間へと案内される。
廊下の柱一つ一つにも五月蠅くならない程度に意匠が施されており、所々芸術品が飾られている。
これは支援している芸術家達の作品か、宮廷画家などの作品なのかは分からないけど、華やかさは感じても調和を壊す程ではないのはきっと作品を作り出した人たちの腕が良いのだろう。
後は飾っている人達のセンスも相当高くないと難しい。
「(帝国の王城で働く人達にはセンスが要求されそう。……うん、私には無理だな)」
自分のセンスの無さに内心溜息をつきつつ私は案内に逸れない程度に調度品や芸術品に見つつ列についていく。
見て楽しめるのは結構な事だが、王国の城との差異に少々戸惑ってしまう。
「(一年を通して温かいせいか、開放的な造りをしているのも理由の一つかも)」
華やかで芸術と音楽を貴ぶ帝国の頂点に立つ皇帝。
一体どんな人柄なのだろうか?
「(もしかしたら国王陛下よりも豪快な人だったりしてね?)」
考えてみれば事前に調べてみれば良かったかも知れない。
というか調べておくべきだった。
どうやら初めての遠出に年甲斐もなく浮かれていたらしい。
「(準備期間は長旅の準備に追われていたけど、時間が無かった訳じゃないしなぁ)」
お兄様や殿下達はキチンと調べているかもしれないけど、今更聞けないし。
諦めて情報無しで皇帝陛下と謁見しなければいけないらしい……自業自得ではあるのだけど。
「(ま、いいや。どうせ私はおまけだしね)」
後ろで口数少なく出来るだけ存在感を消して控えていれば良いはずだ。
そんな事を考えているとあっさりと謁見の間の扉の前についた。
そこで私達は一応の形式上武器の携帯などが無いかを調べられる。
とはいえ、無理をすれば武器を召喚する事は出来るわけだけど。
「(いや、あの痛みを二度とは経験したくないけど)」
王城での襲撃事件の時受けた痛みを思い出して内心眉をしかめる。
どうせ帝国も同じ魔道具か魔法が掛かっているだろう。
別に敵対しているわけでもない国の謁見の間で武器を出すなんて愚行を犯す必要もない。
武器のチェックも形式上のモノだと分かるし。
だって服の上からポンポンと軽く叩くように確認されて言葉で「原則、武器などを謁見の間に持ち込む事は禁止されています」と言われただけだし。
特に私は見た目幼女だからか武器を持っているなんて考えてもいないだろう。
かなりチェックは甘かった。
「(実際、本気で暴れるとなると私が一番危険人物だと思うんだけどね)」
クロイツが自由に動ける事を考えると、きっと私が暴走するのが一番厄介だろう。
「(国、というかお父様に迷惑をかける事になるから、そんな状態にはならないけどね)」
ただ形式上とはいえ、もう少しキチンと調べた方がいいなぁとは思った。
「<私、スカートの下にナイフ入れたままなんだけど?>」
「<チェック通ったし、いーんじゃね?>」
「<戦時中じゃないからだろうけどチェックが甘いなぁ>」
許可を得た後にナイフを出すのもなんだから何も言わないけど。
「<まぁ本気でチェックしたいなら『金属探知機』でも設置するべきだよね>」
「<そりゃまたとんでもない事言い出すな、オマエ。まず、この世界には『空港』がねーよ。そしてあんのか『金属探知機』?>」
「<さぁ?>」
あ、でも精度があんまり高いと他のモノで引っかかりそう。
創れないかなぁ『金属探知機』
意外と需要ありそう。
「<まぁ現実逃避もやめて真剣に謁見に臨みますか>」
「<妙な方向に思考がいってるとは思ったけど、やっぱりか。……まーがんばれや?>」
「<気のない応援ありがとう>」
【念話】で気の抜ける会話をしていた私は一度気を取り直すと開く謁見の間の扉を前に小さく嘆息する。
さぁ、まずは第一関門だ。
何事も無く終わる様に祈っておこう。
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