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噂を携えて、一路王都へ(2)
しおりを挟むお母様の提案で私はお兄様に会うため……もとい荷物を届けるために王都に向かう事になった。
まず連れていく人だけど、リアは確定として、ラーズシュタイン家の兵を幾人連れて行くつもりだった。
そう、最初、ルビーンとザフィーアを連れていくつもりは無かったのだ。
だって、二人は王都で暗殺騒ぎの主犯だ。
あの事件の犯人の顔を知っている人は多くはないけど皆無という訳では無い。
更に言えば、ルビーンとザフィーアの事を「暗殺者」だと知っている存在は大勢いる。
もしかしたらその中には例の襲撃事件とルビーン達を結び付ける存在がいるかもしれない。
そう考えれな王都に二人を連れていくのはリスクが高い。
そう、高いのだれけど……
「どうしても付いてくる、と?」
「あア。【命じられない】限リ、俺等は一緒にいくからナ」
「何故?」
帝国遊学の時は、やる事があるとは言えすんなり離れる事を了承した二人が何故か今回は絶対に付いてくると言い張ってくるのだ。
何時もニンマリと笑いながらも素を見せないルビーンは真顔になっているし、無表情が多いザフィーアは誰が見ても分かる程眉間に皺を寄せている。
此処には私以外の人間も大勢いる中で素を見せる二人の姿は珍しく、だからこそ異質でしかない。
「遊学の時は此処まで粘らなかったと思ったのだけれど?」
「あの時の方が例外なんだヨ」
「例外?」
「本来俺等獣人は【主】の側を離れる事を拒ム。前の時だっテ、本当なら少し遅れてでもついていくつもりだっタ」
確かに本でも【主】を持った獣人が常に【主】を求めるとは書いてあった。
寿命以外で亡くなった場合を除き残された獣人の殆どは後追いするように亡くなる。
特に【主】が殺された場合は周囲が大変な事になる。
【契約】した獣人は【主】を殺された場合、絶対に正気を失い暴れるのだ。
【主】を殺した相手を自分達の手で殺害するまで止まる事は無く、大抵は相手を殺害し、そのまま命果てる。
正直に言って悲惨としかいいようのない光景となる事だろうと思う。
なら【主】が寿命の場合は? となるんだけど。
実はその場合、獣人もそれなりの年になる訳で、自殺こそしないけど、そんなに長く生きる事も無い。
結局、【従属契約】をした獣人は【主】が亡くなったらほぼそのすぐ後に亡くなっているという事になるのだ。
……つまり、まぁ病死の場合は、まぁ言わずともいう事である。
それだけ獣人にとって【主】という存在は特別なのだと言う。
「けド、あれは国としての仕事デ、勝手について行けば主の面子に関わル。だかラ、付いていけなかっタ」
こういう所がルビーン達が獣人だと改めて感じる所だ。
獣人は【主】の不利になる事は絶対にしない。
快楽主義だったルビーン達でさえ、私の面子を考えて自重する程度には、絶対的な“当たり前”なのだ。
まぁ、あくまで「私」だけでに適応されるってのが頭の痛い所なんだけどねぇ。
それ以上を獣人、特にこの二人に求めても不毛だからしないけれど。
「まァ、だからこソ、アイツ等を徹底的に潰して回ったんだがナァ」
「はいはい。物騒な事はあまり良い触れ回らない様に。……つまり、今回引く気はないという事ですわね?」
頷く二人に僅かに痛む頭を抑える。
「貴方方は王都で自分達が何をしたかを覚えていますわね?」
「あア」
「あの時の事を知る人間が居たとしたらラーズシュタイン家にあらぬ疑いが掛かる事も分かっていて?」
「考えすぎだと思うがナァ。だが慎重なのは悪い事じゃねぇからナァ」
「殿下達のように全てを知っている方々は問題ありません。ですが、それ以外……特にラーズシュタイン家の政敵にそういった方がいた場合、貴方方はどうなさるおつもりなのかしら?」
私自身の評判なんてどうでも良い。
今更噂が増えようが問題は無い。
けれど、知っている人間がラーズシュタイン家の政敵にいたら?
その事でお父様達に何かあれば?
……私は迷わず二人を消して証拠隠滅をしようとするだろう。
それがどれだけ非道と言われようとも、私にとって守りたいのは懐に入っている存在だけなのだから。
私の声音からそれを悟ったのだろう、笑っていた二人が真顔になり私に跪く。
「【契約】を結んだ時かラ、我らの命は【主】のもんダ。相手を誰にも悟られずに抹殺しろと言うとならバ、月夜の晩だろうが真昼間だろうが成功させル。死体も見つからず死ねと命ずるならバ、この身を跡形も無く消滅させル。だから【主】――……」
二人が顔を上げ私を真っすぐと見上げる。
その眸に宿るは真摯なまでの忠誠だった。
「「――……我等を好きにお使い下さイ」」
「私」はこの世界に完全に馴染んでいるとは言い難い。
そんな私でもこの忠誠心を偽りだと言う事は出来ない。
私は今後の面倒事を考えて深くため息をつく。
「分かりました。もし何かあったら対処を任せる事もありましょう。ラーズシュタイン家の顔に泥を塗るような行為は絶対に許しません。それをしっかりと胸に刻むのであれば同行を許可致しましょう」
「「御意」」
立ち上がった二人は既に「何時も」の姿だった。
本当にこの二人の【主】は面倒だ。
いや、もしかしたら【獣人】全般こんな感じなのかもしれないけど。
最悪この二人には変装をしてもらうしかないだろう。
私は内心盛大なため息をつくと最大の問題児へと向き直った。
そう、ルビーン達すら彼を同行させる事に比べたら前座に過ぎないのだ。
「貴方は何故同行したいのかしら? ――アズィンゲイン殿?」
私を憎み、元隊長を心から敬愛する元近衛騎士・アズィンゲイン。
彼は何故か私への王都への同行を願い出たのだ。
「確かにワタクシが居ない以上、貴方の目的を果たすために動く事はできません。ですが、それは王都に居たとしても同じ事。王都の屋敷では此処のように自由とはいきませんわ。ならば貴方が此処に残ろうとも同じ事では?」
たとえ彼に護衛の名目が与えられたとしても、そうなれば自由に動く事は出来ない。
日課と化していた彼の元隊長の話とて、同じようにとはいかない。
彼自身自覚しているかは分からないが、元隊長の話を私に対してするという事は、あの時の私の対応に対する抗議ともとる事ができるのだ。
実際、彼は私の性情に対して真っ向から対峙し元隊長の話を毎日している。
ただ彼には私が心から元隊長に対して「申し訳ない」と思う事を望んでいるわけではない。
ただ私の中で「元隊長」が欠片も残らない事を、心に波紋をたてる事が一切ない事を悲しんでいる。
それだけなのだ。
愚直なまでに一途な彼はその一心で私に元隊長の事を語っている。
其処にもはや「抗議」の意は無い。
けれど、それを理解しているのはこの屋敷にいる人間だけだ。
王都にいる人間はその範疇に無い。
そんな場所で何時ものように彼が元隊長に対して語れば?
彼は私に対して抗議していると取られる可能性があるのだ。
元隊長のしでかした事は大きい。
本来ならば声高々に元隊長を慕う素振りをする事すら憚れる程に。
彼が自由に話せているのは一番の被害者である私が許していて、それをお父様達も見逃してくれているからに過ぎない。
彼は王都では同じように出来ない事を理解していないのだろうか?
そこまで愚か者では無かったように思っていたのだが。
「アズィンゲイン。貴方が王都に付いてくる場合、貴方は私の護衛の一人となります。自由は与えられますが、此処に居るよう、とはいきません。それでも付いてくると?」
「はい」
「お兄様は貴方の事を好ましく思っていません。もしかしたら殿下達が来る可能性とてあります。そうなれば貴方は話をする所ではないかもしれません。それでも?」
「それでも同行を許されたく」
アズィンゲインは私の前で跪くと真っすぐな眸で私を見上げている。
「王都に何か御用でもあるのかしら?」
「いいえ」
「ワタクシを幾ら嫌っていようと、有事の際はワタクシは貴方に命を下すわ。それを遵守できるのかしら?」
「はい」
「少しの迷いも許されない事態とてあるかもしれなくとも?」
「はい」
一瞬の迷いも無く見上げる眸に私は内心で嘆息するしかない。
少しだけ気にはなっていたのだ。
最初の頃、彼は私に対して怒りに近い感情を抱いていた。
それが最近少しだけ変わっていた。
怒りから迷いに。
変化した理由は分からない。
私の態度は一貫して変わらないのだから。
それでも最初の目的は変わって無いようだから、と放置していたのだけれど。
まさか敵陣ともいえる場所に同行したいと言い出すとは。
「王都のラーズシュタイン邸は貴方にとって敵陣も当然。――それでも同行いたしますの?」
私は厳しい表情を崩さず見下ろすように言う。
実際居心地は悪いだろうが敵陣は言い過ぎかもしれない。
それでもそのぐらいの覚悟は必要だと思うからこその厳しい言い方だ。
真っすぐ此方を見上げる眸に揺らぎはない。
アズィンゲインはしばしの沈黙の後頭を垂れた。
そして……――
「――……全てを承知して厚顔にも願い申し上げます。キースダーリエ様。此度の王都への同行をお許し下さい」
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