どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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噂を携えて、一路王都へ(3)

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 結局、半ば根負けの形でアズィンゲインの同行を認めた私は、待たせていた四人と向き合う。
 
 何と言うか異色なメンバー過ぎて見慣れない、というのが感想だ。
 
 シュティン先生とトーネ先生はまぁ私の家庭教師だからラーズシュタイン家に居ても可笑しくはない……一応。
 けどタンネルブルクさんとビルーケリッシュさんは一体何用でこちらに?
 一堂に会する事は無いと思っていた高ランク冒険者の集いに私は無かった事にして部屋から出ていきたい気分で一杯です。
 私に用事があるみたいだから出来ないのは分かってますけどね。

「私事で遅くなりまして申し訳ございません。まずはお茶をどうぞ」

 私は冷めたであろうお茶を入れ直すようにリアに言ってから再び四人に向き直った。

「いや、面白いもんを見せてもらったしな。問題はないぞ」

 タンネルブルクさんの視線は私とルビーン達に向いている。
 確かに暗殺者時代の二人を知っているなら、さぞ驚きと好奇心を誘うだろうな、とは思う。
 私もルビーン達の頑なさに驚いたぐらいのなのだから。
 つくづく【主】として私は獣人の特性は分からない部分が多いと痛感する。
 【主】の不利になる事は絶対にしないという事はしっていたが、もしかしたらもう少し詳しく調べるかもしれないと今回の件で強く考えさせられた。
 ただ最近この世界において調べる事が多いのに、これ以上増えるとなると考えるとうんざりする気持ちも沸いてくる。
 
 ただでさえ最近調べたこの世界の宗教観と言えばいいのか、宗教の扱いに頭が痛いってのに。

 とは言え、だまし討ちという形だったとしても【主】になってしまった責任が私にはある。
 何かあった時に「知らなかった」ではすまないのだ。
 これを切欠に獣人についてもきっちり調べておくべきだろう。

「それでワタクシに用事との事ですが、何でしょうか?」

 先生方には王都に暫く行く事を話して、課題のようなものを頂いているし、タンネルブルクさん達にも暫くラーズシュタイン領を離れる事は話している。
 実際の所、態々ラーズシュタイン家まで来て、しかも「私」に用事となると思いつかないのだ。

「ああ。その前に」

 私は先生方に掌を向ける。

「此方はワタクシの家庭教師をして下さっているシュティンヒパル様とツィトーネ様です。シュティン先生は錬金術を主とした座学全般を、トーネ先生は護身術を基礎とした武術全般を教えて頂いております」

 次は掌をタンネルブルクさん達に向ける。

「此方は冒険者カードを取得した時からお付き合いのある冒険者のお二人です。タンネルブルク殿とビルーケリッシュ殿です。お二人とも【二つ名】を頂く程高名な冒険者の方ですわ」

 そこで手を下ろすと苦笑する。

「とはいえ、皆様顔を合わせた事もあるかもございませんが」

 シュティン先生とトーネ先生も冒険者カードを持っていて、ランクも高位だ。
 なら顔を合わせた事があってもおかしくはない。
 案の定、四人ともお互いの顔をしっているようだった。

「あーまぁな。コイツ等は有名だしなぁ」

 笑いつつもそんな事を言ったタンネルブルクさんを見て私は少しだけ「おや?」と思った。
 常と同じように朗らかな笑みを浮かべてはいるが、なにやら言葉に棘が混じっている気がしたのだ。
 それは他の方々もだったようでビルーケリッシュさんは苦笑するにすませているが、シュティン先生の眉間に凄い皺が寄っている。
 あれは相当不機嫌だという事だ。
 そんなシュティン先生をトーネ先生が宥める様子もないのも珍しいといえば珍しい。

 何か因縁でもあるのだろうか?

 けど今まで高位ランクの諍いなど、あまり聞いた事は無い。
 高位ランクを頂くという事は自らの実力が他の人よりも上である事に自信と自覚があるという事だ。
 だからこそ、強者の余裕とでも言えば良いのか、それとも個人主義ばかりだからと言えばいいのか、高位ランク同士はお互いに対してあまり関心が無く、結果として諍いも起こりずらいのだ。
 序でに言えばタンネルブルクさん達は明らかに後ろ暗い仕事をしていたルビーン達にすら自己責任と言って放置していた。
 だから他の高位ランクの冒険者と比べたとしても他の冒険者には興味が無いとばかり思っていたのだけれど?
 更に言えば、目的があったシュティン先生達が因縁を持つ程関わる相手がいたというのもおかしいと言えばおかしい気がする。

「有名になるほど無作法を犯した覚えはないが?」
「へぇ? お貴族様にとっちゃあの程度は無作法でもなんでもないって事か」

 おぉう。
 部屋の温度が少しばかり下がった気が。
 タンネルブルクさんの朗らかな顔が今ばかりは少々怖いです。

「貴族と分かると妙に突っかかってくる、程度の低い輩を捻った事はあるが、あの程度“よくある事”だと思っていたが?」
「ある程度年齢がいった貴族、しかも明らかに役職についてそうな奴がそれと隠さず、頻繁に来てるとなれば物見遊山と判断して面白くない奴等はいるさ。少しはキース嬢ちゃんの慎重さを見習ったらどうだ?」
「それに関しては目的のためにやったまでの事。それも悟れぬ愚か者にご丁寧に説明をしてやる必要があるとでも? キースは必要性があったからこそ隠した。もし僕達と同じ立場なら同じようにしただろうな。それも分からないのに師匠と名乗っているのか?」

 鼻で笑うシュティン先生に笑顔だが目が笑っていないタンネルブルクさん。
 あ、あのぉ。
 す、少しばかり舌戦はお控え頂きたいのですが?
 あっ! クロイツ逃げた!
 ……私も逃げたい。
 
 それにしても、お互い顔を知っている程度の関係ではないんですね。
 何方かと言えば、究極的に気が合わないんですね、シュティン先生とタンネルブルクさんは。
 トーネ先生やビルーケリッシュさんと気が合っているようだから、意外と気が合うと思っていたのですが。
 どうやら気が合う合わない以前の問題だったようです。
 
 過去の因縁があるのは何となく……いや? 因縁という程重くない気もするけど。
 とりあえず、合わせるべからずな面子である事は分かりました。
 けどなぁ……今回の鉢合わせに私の意図は欠片も無いのだけれど。
 さて、どうしたもんだか。
 
 何時になったら本題に入るのかなぁ。
 私、早くお兄様に会いたいんだけどなぁ。

 思わず願望が漏れ出る。
 ってか、いいよね?
 此処、ラーズシュタイン家の中だし。
 私が口挟んでもいいよね?
 ある程度強権発動してもいいよね? ――相手は家庭教師と冒険者としての師匠に当たる人達だけど。
 脳内の私がOKを出したのを確認した私はニッコリ微笑むと静かにカップを置いた。
 と、いいますか、いつの間にか話の主題が私になっていたようだけど、何を勝手に人の事話してますの? お二人共。
 
「ワタクシ、悲しいですわ。我が家の者達が皆様のために作ったお菓子やお茶がすっかり冷めてしまったのですもの。そんなに旧交を温めたいのならば気兼ねない場所でなさってはいかかですか?」

 ニッコリ笑ったまま言い切った私に四人も私の機嫌が悪い事に気づいたらしい。
 けど、理由には辿り着いてないっぽい。
 タンネルブルクさんは少々慌てているようだしシュティン先生ですら驚いた様子だし。

「大体ワタクシに何かお話があるという事で此方にいらっしゃったとお聞きましたが? もし用事がないのでしたらワタクシは早急に準備をすませてお兄様にお逢いに行きたいのですけれど?」
「<結局、機嫌悪くなった理由はオニーサマの事かよ>」
「<うるさいよ。勝手に逃げたくせに。裏切者>」

 影からの突っ込みに言い返しつつニッコリと笑った顔は維持している。
 とはいえ、明らかな作り笑いなのだから私が怒っていると分かるだろう。
 悲しいかな、そのくらいの付き合いはあるのだ。

「それで? ワタクシにお話なんですの? それともただ旧交を温めに来ただけなんですの?」
「あー……うん。悪い嬢ちゃん。話は本当にあるんだ。ただまさかコイツ等とこんな場所で会うとは思わなくてな……いや、これも言い訳だな。悪かった。だから話を聞いてもらえるか?」

 心底すまなさそうなタンネルブルクさんに私は溜息を付き、今度はシュティン先生の方を見る。
 私の視線に気づいたシュティン先生は少しばかりばつの悪そうな顔で「すまなかった。……だが、この者は旧友などではない。そこだけは訂正させて頂こう」と言った。
 ばつの悪そうな先生の姿も珍しいと言えば珍しいが、それよりも私の言った内容に言及した事に少しだけ驚く。
 勿論嫌味であって本気で言ったわけではないし、シュティン先生もそこには気づいているだろうに。
 それでも訂正を要求する程タンネルブルクさんとは馬が合わないらしい。

「わかりました。……それでお話とは?」

 やや強引な仕切り直しにタンネルブルクさんが吹き出した。

「そうやっているとキース嬢ちゃんは“キースダーリエ様”なんだよなぁ。とは言え、冒険者のキース嬢ちゃんも嘘には見えないんだけどな?」
「人なんて一面で出来ている訳では御座いませんから。“ラーズシュタイン家のキースダーリエ”も“冒険者のキース”もワタクシに代わりありません。それともそんな一面しか持たない人間をお望みですの?」
「いんや。そんな面白くも何ともない奴はごめんだな。――んで話だが、王都で少しばかりきな臭い話が出ている」
「王都に、ですか?」

 国王がいらっしゃる所である以上、他よりも治安などは良いと思うのですが。

 ああ、でも『ゲーム』の中では王都内にスラムっぽい所があったっけ。

 考えてみれば光が強ければ闇も強くなる。
 幾ら国王や臣下が民のために良き政策を打ち出して実行しても、闇が完全に払拭される事はないだろう。
 そういった意味では場合によってはきな臭い話が出ても可笑しくはない……とは思うけれど。

「幾ら、高位とはいえ冒険者であるタンネルブルク殿から、という事は市井でのお話という事ですの?」
「あー……そーとも言えない所がな?」

 珍しく煮え切らない態度のタンネルブルクさんは何故かチラっとシュティン先生の方を見た。
 一体シュティン先生の何に戸惑っているのだろうか?
 市井とは言い切れない事とシュティン先生に共通点なんてあるかしら?
 ……無いとは言えないけど、そうなると私もシュティン先生と同じカテゴリーになるはずなんだけど?
 一体タンネルブルクさんの話の焦点は何処にあるのだろうか?
 ああ、でも……――

「――……それは“冒険者キース”に対して話したい、という事ですか?」

 貴族であるキースダーリエと冒険者キースが同一人物と分かりながらも別として扱っているとなれば、話は通る……はず。
 やや不安に思いつつタンネルブルクさんを見やると、どうやら私の考えはあっていたらしく、タンネルブルクさんが安堵している顔が見えた。

「まぁ、そういうこった。ってな訳だが、聞いた途端「不敬だ!」と言われると具合が悪いんだが?」
「……さっき、散々減らず口を叩いた癖に今更そのような事を言うつもりか? ――少々業腹だが私達の話とも然程遠く無いらしいしな。……今だけは貴族としてではなく此処にいると確約してやろう」
「……相変わらず偉そうな。ま、いいさ。それで嬢ちゃんもいいか?」
「分かりましたわ」

 私は手でリア以外のメイドたちを外に出す。
 これで此処に居るのはリアの他はルビーンとザフィーア、そしてアズィンゲインだ。
 本当はアズィンゲインも外に出ていて欲しい所だけど、無理だろう。
 頑として動かないと視線で謂れ心の中で嘆息する。

 私に忠誠を誓ってはいないというのに一体この変化は何なんだろうか?

 頭の端にチラっとそんな考えが過ったが、考えても栓無き事。
 今はタンネルブルクさんの話に思考を集中するべきだろう。

「多分、最初は【闇の女神】に対するおかしな噂が流れ始めた事だと思うんだが……――」
 
 タンネルブルクさんの話を纏めると、最初の頃は「【闇の聖獣様】が降臨なされない事で人々は【闇の女神】に見放された」という噂が蔓延し、そこから「【闇の女神】や【闇属性】への不信感へと発展した」らしい。
 聞けば聞く程、馬鹿らしいとしか言いようがない。
 この世界において闇の女神とは創造神の片割れである。 
 王国の殆どは光闇の創造神を主教としているのだから、その片割れを貶める噂なんて流れても、ねぇ?
 案の定、これに関しては今の所殆ど淘汰されたらしい。
 馬鹿馬鹿しい事この上無いが、タンネルブルクさんが口ごもった理由が少しだけ分かった。
 多分タンネルブルクさん達も何処が発生場所か何となくだが分かったのだろう。
 だからこそあえて聞き手の私達が“貴族”として聞いていないという事を強調した。
 大変勘の良い事である。
 実際、これに関しては市井から発生したというよりも――。
 
「えぇと……シュティン先生、お二人にワタクシの予測をお話してもよろしいですか?」

 多分、この【闇属性】への不信感は私が王城で感じたモノと根っこは一緒だろう。
 ならば蔓延した理由も収束した理由も予測する事は可能だ。
 もしかしたらタンネルブルクさん達は自然に淘汰されたと考えているかもしれないけど、多分違うと思う。
 ただし、私の考えている事が当たっているならば、その理由を高位ランクとは言え国に帰属していない冒険者に話していいものだか?
 私が戸惑っている理由をシュティン先生も理解して下さっているのだろう。……つまり予測が当たっているという事でもあるのだけれど。
 しばし考えた後シュティン先生はタンネルブルクさん達の方を向いた。
 
「……そうだな。――今から話す事は王国の機密事項に触れる。それでも聞くか?」

 明らかに挑発した風情だが、実際此処で怯むなら話す事は出来ない。
 
 まぁ、タンネルブルクさん達が怯むとは思えないけどね。

 案の定、タンネルブルクさんは嫌そうな顔を隠さず聞いていたが、話が終わるとすぐにふてぶてしい笑みに変わった。

「はんっ! 此処まで話しておいて「じゃあ、これで」なんて言って帰れると思うのか?」
「ネルの言い方はどうかと思いますが……今更と言えば今更ですので。帝国への護衛を引き受けた時から俺達は既に王国の機密事項に触れていますから」
「あー……そういえば、そうですわね」

 近衛騎士の件については完全に醜聞ですものね。
 それに……ビルーケリッシュさんは暫く帝国に行く事は出来ないだろうから、王国の情報を他国に売る理由もないだろう。
 と、言うかそういった手を使う必要すらないのがこのコンビなのだから。
 何処に行っても自分達の力でのし上がるだけの力と実行力を持っている二人には今更機密事項の一つや二つ増えようとも変わらないのだろう。

「それにキース嬢ちゃんの不利になる事はしねぇよ。これでもキース嬢ちゃんは気に入っているんだからな」

 あら、びっくり。
 まさか其処まで友好的に思って下さっているとは。
 精々お互い秘密を持っている上での対等なビジネスパートナーぐらいになれればいいと思っていたのだけれど。

「有難う御座います、タンネルブルク殿。それでは、あくまで予測、小娘の戯言であるとお考え下さい。――【闇の女神】への不信に関しては発生源は貴族側にあると思われます」
「……やっぱりか。そりゃ市井にバレたら問題だな」
「ご理解頂き有難う御座います。多分【闇属性】への不信からの恐怖、其の上での排斥が目的だったの思われますが、扇動者はもはやおらず、支持者も早急に国王陛下の手によって選別され、何かしらの処罰を受けているかと。噂が収束したという事はそういう事はないかと思われます」

 元となった王妃様、と言うよりもその実家は何故か【闇の愛し子】を嫌っていたという話を聞いた。
 普通ならば元王妃が実家に不信感を持ち、実家が罰せられると思うのだが、国王陛下以外興味が無かった王妃は実家の操り人形であった側面もあったようで、元王妃の手によって【闇の女神】に対する不信感を高めて、最終的には【闇属性】を持つ存在に対する不信感を煽っていたのだろう。
 途中からは自身の欲も絡んでいた可能性もある。
 【闇の愛し子】であるヴァイディーウス様を廃嫡に追い込む事が出来たら自分の産んだ、自分の操り人形を次期国王にする事が出来るから。
 ただ国母になりたいという目的はよくあると言えば良くあるけど理由は普通とはいえないと思うけど。

 あの元王妃の場合、多分国王陛下の唯一となるためとか、そんな理由で国母になる事を望みそうだもんなぁ。

 流石にこんな予測は口にするも不敬だから言わないけど。

「そもそも陛下もお父様……失礼、宰相閣下も、創造神を疑うなど狂気の沙汰としか言えない事態を見逃す程愚かでは御座いませんから、収束したのも、まぁ当然の事ではないかと思いますわ」
「はは。キースの場合、陛下って言うよりも宰相が、って言いたいんだろうけどな」
「勿論! お父様の目は節穴では御座いません。そのような愚かな考えを持つ者など、今頃一掃しているに決まっていますわ! ――――コホン。偉大なる国王陛下の慧眼ならば、愚か者を選別し処罰する事も可能で御座いましょう」

 トーネ先生に乗せられて思わず本音が。
 ……あの、皆さん?
 あまり微笑ましそうな顔で見ないでもらいますか?
 あ、いやシュティン先生は盛大にため息ついていますけど。

「――ですのでそういった噂ならば遠からず残滓すら残らずに消えると思いますわ」

 強引に話を戻した私に誰も何も言わなかったが表情が煩かった。
 唯一クロイツは影の中で大爆笑していたけど。
 いっそ、引きずり出してやろうかなぁ?

「そもそも【聖獣様】に関して言えば【闇の聖獣様】に限らず【水の聖獣様】もずっと御姿を見せていらっしゃらなかったとの事ですし、他の【聖獣様】などお逢いに行く事すら難しいのでは?」

 それぞれの神を祀る本殿はこの大陸の各方面に存在する。
 その中で【水の神殿】は帝国にあり、【光闇の神殿】は王国にある。
 とは言え、帝国の本殿はずっと海の中に隠れていて、行けるのは王国に存在する光闇の本殿くらいだったようだけど。
 後、【火】【風】【土】に関しては場所がはっきりしているのは【土の神殿】くらいなのだ。
 だから、聖獣様が降臨なさる、なさらない以前の話と言える。

 確か『ゲーム』では、どうにか全部の神殿の場所を調べて全ての【聖獣】に会う事で真・エンディングになったはず。

 【採取】のためでもないし、行かなくてもエンディングを迎える事は出来るものだから「わたし」はそこら辺真面目に探した事もない。
 御蔭で「私」は他の神殿が何処にあるかさっぱり分からなかったりする。

「愚かな事だが【光の聖獣様】は比較的降臨なさるために、比較対象としたのだろうな。歴史を読み解けば百年単位で【聖獣様】が現れない事も珍しくはない。そんな、考えなくとも分かる愚かしい話をさも真実かのように広めた者も、信じた者も馬鹿者としか言いようがないな」

 辛辣なようだが、シュティン先生の言っている事も間違ってはいない。
 此処まで話しが広がったのはただ例の御老人は扇動者としての才能はあったというなのだろう。
 それか元王妃が優秀だったのか。
 何方にしろ、もはや根源は断ったのだし、噂は収束するだけだろう。

「……一応【水の聖獣様】に実際にあったような言い方は聞かなかった事にするが、あんまり外でボロをだすなよ? まぁ最初の噂に関しちゃほぼ収束しているし問題は無いと俺等も判断しているから大丈夫だ」
「最初の噂に関しては?」

 実際お逢いしましたしね。
 けど、確かに面倒な事にはなりそうですね、気を付けます。

「今はそのどうしようもない噂から派生した団体が急速に力を付けているらしい。その団体が厄介、と一部で噂になってる」
「厄介な団体、ですの? 元々が荒唐無稽でしたし、そこから様々な噂や集団に派生するのは分かりますけれど、根本が絶たれているのに、その集団は残ったのですか?」
「どうも教義の一つ? として“闇の聖獣様をお迎えするためには正しい方法がある”というのがあるらしい。実際やっている事は大半が慈善事業な事もあって、信者が増えてるって話だ」
「それは……確かに中々厄介ですわね。一つの教団としての立場を確立しつつあるという事ですわよね?」

 この世界は神との距離が近い。
 だからか基本的に神は“在るモノ”として信じられている。
 過去の文献を紐解くと神自体が御降臨あそばれた事もあると記されている。
 では宗教は大きな力を持つのか? と言われると“思ったよりもそうでもない”のだ。
 あくまで宗教は宗教であり、国教の教主だとしても国政に口出す権利は持たないし、上層部が御布施を過剰に取り上げた挙句の腐敗って事も一応無い。
 光闇の神を信仰しているからと言って他の神の信者を弾圧したりもしない。
 なんなら小さな集落の土着の宗教も認められている。
 この世界では宗教は本当に“象徴”でしかないのだ。
 
 ただまぁ、平民の【儀式】は基本的に教会でされるし、災害などがあった時、国は教会を通して物資の支援などをするから、完全に無視できるものでもないんだけどね。

 神の存在を見た事あるなんて言ったら基本的に狂人扱いされる『地球』の方がよっぽど血みどろの宗教戦争をしているなんて、笑えばいいのか呆れればいいのか分からない状態である。
 いや、むしろ神の存在が分からないからこそなのかな?
 ともかく、そんな比較的自由度の高い宗教だが、一応一つの宗教、教団として認められるためには何処かの本殿の許可が必要なる。
 とは言え、余程おかしい……それこそさっき鼻で笑った「闇の女神は讃えるに値しない」みたいな教義ではない限りは許可される。
 やっている事が慈善活動が主なら余計に、だ。
 
「ん? ですが、その集団を何故警戒なさっているのですか? 根本は明らかにおかしかったですが、そこから随分まともな方向にいっているようですが?」
「普通の信徒……いや、まだ教団としては認められて無いから信徒もどきだな……は問題ない。が、幹部連中がおかしい。というのも教義の一つが“闇の聖獣様をお迎えする正しい方法”だろ?」
「うーん。真新しい教義だとは思いますけれど。……正直に言ってしまえば、正しい方法も何も聖獣様方が降臨なされる意志があれば本殿に赴きさえすれば誰でもお逢い出来ると思いますけれど?」

 水の神殿の場合、神殿自体が姿を現すために条件が必要だったし、多分“祈りの間”を見つけるのが条件だったんだと思うけど。
 そういったギミックは水無月さん考案だったらしいから、他の神殿にも仕掛けられているんじゃないかなぁ?
 そういう意味では闇の聖獣様が降臨されない理由も単純に「祈りの間」を見つけていないせいじゃないかとも思うんだけど。
 私は何の事はないと思ってそういったのだが、何故かビルーケリッシュさんに苦笑されタンネルブルクさんに渋い顔をされてしまった。

「だからな? その会って来たかのような発言はやめた方がいいぞ? 実際嬢ちゃんの事だからお逢いしたんだろうけどよ?」
「此処は、御想像にお任せしますと言っておきますわ。とは言え、他では気を付けますけれど、気づいている方の前でまで頑なに言わない理由も御座いませんし、話が進まなくなりますわよ?」
「キースさんなら、切り替えは出来るでしょうから問題ないのでは?」
「まぁそうなんだけどな?」

 何処か納得いかない様子のタンネルブルクさんに私は内心苦笑する。
 実際外では大概猫被っているし、【水の聖獣様】にお逢いしたのは私だけじゃないから其処まで機密性は高くはない。
 だから、バレても問題無いと言えば問題ないのだ。
 とは言え、心配されているのも分かるからこれ以上いうつもりもないけど。

「それで、幹部や教主が可笑しいとはどういう事ですか?」
「まぁいいか。――きな臭い噂が一つ。どうやらアイツ等は【闇属性】の貴色持ちの子供達を集めているらしい」

 途端に話しが重くなり眉を顰める。

「噂ですか? 真実ですか?」
「真実だ」

 その答えを齎したのはシュティン先生だった。

「私達はその件でここに来た。……その集団は孤児院も経営していたが故に最近まで気づかれなかったようだ」
「どうも孤児院の中でも【闇属性】の貴色持ちの子供が自称教団の幹部に引き取られてみたいだな。しかも、その後引き取られた子供達には誰も会えない、って話だ」
「露見した理由は貴色持ちの子供がいる家庭の両親が不審死した上、例の孤児院に子供が引き取られた事からだ。死んだ両親は確かに平民だったが、兄弟に魔力を持つ者がいて、その者は現在とある貴族に仕えている。その伝手で調べた所、両親の死に幾つもの不審な点が見つかった」
「……つまり【闇属性】の貴色を宿す子供を欲するあまり善良な家族を手にかけた、と?」

 それが事実ならば捨て置けない事件だ。
 タンネルブルクさん達の話も総合すると、その集団は相当妖しいという事になる。

「犯人は判明してはいない。孤児院に引き取られた子供だが、貴族に仕えている親族が迎えに行ったが既に別の人間に引き取られたと追い返されたそうだ」
「申し訳御座いません。ワタクシ、孤児に関する法律はまだ勉強不足なのですが、そういった場合親族の方が引き取りの優先順位は高くありませんでしたか?」

 しかも貴族に仕えているという事は身元はしっかりしているのだ。
 既に引き取られているとは言え、血がつながっているのは事実なのだし、会えるようにするとか、お話合いの場を設けるのが普通だと思うんだけど。

「そうだ。門前払いなど本来なら有り得ない。しかも引き取り先も教えられなかったらしい」
「相当妖しいですわね、その孤児院」

 もしその孤児院が、その集団と繋がっているというならば、その集団自体が相当胡散臭いという事になる。
 表で慈善活動をしていて裏では【闇属性】の貴色持ちの子供を集めて何かをしようとしている?
 しかも名目に使っているのは「闇の聖獣をお呼びする方法」
 此処まで揃ってしまえば「疑うな」という方が無理だ。

「今のお話タンネルブルク殿もしっておりましたか?」
「いや、貴族云々は知らないが、貧民街の餓鬼どもの中でも【闇の貴色】を持つ奴等が消息不明になっているらしい。ただ、正直な話、あそこに関しちゃ餓鬼の一人や二人が消える程度じゃ誰も動かなくてなぁ」

 王都の治安は決して悪くはない。
 それでも光在る所に闇は存在する。
 王都のスラムもその一つだろう。
 多分スラムに関しては王家も頭を悩ませる問題に違いない。

「全てが繋がっていると言い切るのは早計。とは言え無関係と言い切るには符号が揃い過ぎている、というなのですわね」
「そうだな。そうなると、だ。キース嬢ちゃんにしろキースダーリエ様にしろ、狙われる可能性は低くないって話になる。それで王都でも気を付けろって事で話しにきたわけだ」

 タンネルブルクさんはそこで「まさか、話に来た先にコイツ等がいるとは思わなかったがな」と苦笑いをする。
 本当に苦手なんですね。
 タンネルブルクさんの言葉にシュティン先生の眉間にも再び皺が出来ているし。
 ……正直、この二人って性格は反対なのに、目の付け所は似てる気がするんだけど。

「キース」
「はい、先生! 何かございましたか?」

 シュティン先生のひっくい声に思わず飛び跳ねる勢いで返答してしまう。
 え? 心読まれました?
 私は思わずにっこりと、自分でも作ったと分かる笑みを返してしまう。
 暫く私を見ていたシュティン先生だったが、取りあえず追及する気は無いのか溜息一つでそれ以上何か言われる事はなかった。
 
「今の所貴族から被害はでてないな。けど、もしキースが冒険者として屋敷の外に出るなら気を付けてくれ。俺達も色々探っている所だが不透明な所が多いからな」
「ご心配して頂き有難う御座いますトーネ先生。どうやら今の所冒険者キースとして外に出るのは危険がありそうですわね。気を付けますわ」
「そこは“出ない”って言葉が欲しかったんだけどな」
「それは……必要がなければ出る気はありませんわ、としか言えません」

 言い切っても良いのだけれど、絶対に守れる約束となると微妙出来ないのだ。
 別に私だって何が何でも外に出たい訳じゃない。
 何やらきな臭いのは分かっているし、はっきり言って私には関係からだ。
 無辜の民が傷つけられた事は悲しいと思う。
 けれど、私はその家族と知り合いなわけじゃない。
 スラムの現状に関しても私に出来る事など無い。
 全ての事柄において私の手にはあまるし、自ら首を突っ込むつもりなど更々ない。
 更に非情な事を言ってしまえば家族は皆【闇の貴色】を纏っていない、という事もある。
 私以外に気を付けなければいけない知り合いなどヴァイディーウス様ぐらいだが、殿下は現在学園にいるだろうし、そうではない時間は王城にいる。
 そこまで手を出す馬鹿などそうそうはいない。
 
 心配して下さっているのは分かるけど、この件に関して私が関わる事はないだろうなぁ。

 私は見ず知らずの存在に涙し助けたいと考えるような心優しき少女ではないのだ。
 家族に何ら被害が出そうでもない限り、関係無いと言い切る事が出来る。

「とはいえ、ワタクシがその集団に関わる事はないと思いますわ。理由も御座いませんしね」
「確かにキース嬢ちゃんの性格で首を突っ込むとは思わないけどな……妙な所で巻き込まれる可能性がありそうでなぁ」
「そうは言いますが、ワタクシの周りで狙われる方なんて殿下以外はシュティン先生ぐらいですから。大丈夫だとおもいますわ」

 シュティン先生がターゲットになった場合、嬉々として相手締め上げて集団ごと殲滅すると思う。
 先生方って学園時代の仲間であるお父様達、この場合陛下も含めて大好きだから、悩みの種なんてサクッとしめて終わらせると思うんだよねぇ。
 ま、そんな事になっても「手を出した相手が悪かったですね。ご愁傷様」としか言えないけど。
 
「おいおい。オマエさんの知り合いは攻略不可の砦か、なんかか?」
「現状、極々狭い交友関係から条件に合う方を上げると御二方ぐらいなものですから」
「そりゃオマエさん自体が気を付ければ何の問題もなさそうだな」

 「この男に関しちゃ最近力を付けた程度の輩じゃどうもできないだろうからな」と至極嫌そうに言い切るタンネルブルクさん。
 ふむ、仲が悪い割に実力は認めてる、と。
 
 こういう冷静さ、というか嫌いでも過小評価や過大評価をしないって事も高位ランクになるためには必要なのかな?

 なら私が高位ランクになるのは難しそうだ。
 自分を過大評価する事は無いだろうけど、嫌いな相手を正しく評価できるかがどうかが怪しい。
 そこまで観察して評価しても、興味がなくなって直ぐに忘れそうだ。
 ああ、でも、その前にそこまで「嫌いな相手」が出来る可能性が低いか。

 とはいえ、心配して態々来て下さったのだ。
 ならば私も最大限気を付けるべきだろう。
 別に面倒事に自ら首を突っ込んでいく程、私はトラブルが好きなわけではないのだから。

「ともかく、先生方もタンネルブルク殿達もワタクシをご心配して頂き有難う御座います。皆様の忠告を忘れず王都に行きたいと思いますわ」

 微笑む私に四人とも苦笑いを返してきた。
 ……別に私自ら厄介事に飛び込む程暇でも無ければ、無鉄砲でもないのですが?

 今まで巻き込まれたあれやこれやが脳裏に浮かび僅かに眉を顰めてお茶に口を付ける。
 飲んだお茶が少しだけ苦く感じたのは、きっと気のせいのはずだ。


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