どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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サプライズは成功! けど後の厄介事のせいで素直に喜べない!

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 お兄様へのサプライズは無事、何事も無く成功した。
 王都への道は何も起こらなかったし、王都の屋敷も相変わらず堅牢な要塞のようだったけれど、変わらない。
 何より出迎えてくれたお兄様の驚いた顔を見れただけで私的には大満足である。
 随行員、と言うかルビーン達が付いてきた事にお兄様は少し驚いていたけれど、私よりも獣人に関して知識があるのか、特に何かを問いかけられる事は無かった。
 ……これは私も本腰入れて獣人について調べるべきなのだろうか?
 ルビーン達とは打って変わって、アズィンゲインに関して言えば、お兄様は一瞬胡乱な眼差しを向けたが、直ぐにそれを隠し、以降は護衛の一人として扱う事にしたらしい。
 顔合わせの後、アズィンゲインのいない所で「大丈夫かい?」とは聞かれたけど。
 私としては今の所、私を害する気がない事は分かっているので「大丈夫です」と答える事しか出来なかった。
 苦笑した私に思う所があったかもしれないけど、お兄様は納得はしておらずとも、私とお父様の決定に反対する気はないらしく、何も言われなかった。
 ただまぁ「何かあったらすぐに言うんだよ」とは言われたから、アズィンゲインが何かおかしな素振りを見せればすぐに捕縛する可能性はあるけど。
 
 まぁ、でもお兄様の事だし、無い罪を捏造してまではアズィンゲインには何もしないし、問題ないけどね。

 そんなお兄様に倣う事にしたのか屋敷の人達も取り敢えずアズィンゲインの扱いに関しては保留となったみたいだ。
 アズィンゲインにとっては思ったよりも過ごしやすいかもしれない。
 私としても家の中がギスギスするのも勘弁してほしいので、有難い事である。
 お兄様との時間は何の憂いも無く、楽しく過ごしたいからね。
 ダメ押しかもしれないけど、アズィンゲインには元隊長の話は控えるように一応言ってある。
 良くない憶測を呼ぶし、結果として問題に発展するのは困るからという理由からだ。
 私はお兄様の手を煩わすために王都に来たわけではないのだ。
 不穏な芽は摘んでおくに限る。
 思い切り私情と言えば私情なのは事実だし、全部理由も話した上で控えるように言った訳だけどアズィンゲインは特に反対する事無く「承知しました」と言っただけだった。
 以降、元隊長の話は一度も言ってこない。
 ただ一護衛として動くアズィンゲインの様子に私は安堵よりも困惑が先立ってしまう。
 彼がラーズシュタイン家の私兵になったのは一重に「私が元隊長の事を記憶から消し去る事が我慢できない」からだ。
 自分が今尚敬愛している元隊長の全てを粉々にした私が、その存在を忘れる事。
 それが彼にとって何よりも我慢ならない行為だったのだ。
 だからこそ元隊長の事を私に語り、敬愛を伝える事でたとえ私の心の片隅だろうと残る事を望んでいる。
 彼はきっと私が既に元隊長の顔もあやふやな事に気づいているだろう。
 同時に自分のしている事がどれだけ無駄な行為かという事も。
 それでも彼が語る事をやめないのは、それだけ元隊長を敬愛しているからなのだと思う。
 許されない罪を犯そうとも敬愛は消えず、全てを粉々に砕いた私という存在にとって塵芥以下のモノとなる事を恐れ、怒っている。
 彼の複雑な胸の内の一部を言語化すれば、こんな感じなのだと思う。
 人の事は言えないかもしれないが、彼も彼で相当難儀な性格をしていると思っていしまう。
 
「<正直、アズィンゲインがいる限り、元隊長殿の存在の全てを忘れる事は無いから、彼の目的は果たされているんだけどねぇ>」
「<それはそれで、キシサマとっちゃ不本意だろーがな>」

 クロイツが笑う。
 もう騎士ではない彼を“キシサマ”と呼ぶのは彼なりの皮肉だ。

「<そもそも私の性情を真っ向から否定したのが珍しいから放置しているだけだし?>」
「<オマエ、それどー考えても悪女の言い分って奴じゃね?>」
「<あはは、今更だよねぇ。私がこの年でどれだけ悪女呼びされてると思う? はっきり言って皆さん私の年忘れすぎだよね!>」

 女狐呼びもどうかと思うけど、その内泥棒猫とか言われそうだ。……いや、この世界にそんな言葉存在しないか。

「<けどま、悪女かどうかはともかく、本当に面白いと思ったのは事実だよ。私は自身が欠けている事を自覚しているし、それを理解して傍に居てくれる人達が存在している事も理解してる>」

 性情は普通は変えられない。
 表面上繕う事は出来ても根底から変えてしまえば、それは既に“私”じゃない存在となる。
 だからこそ私は私自身を恐れる者や嫌悪する者の罵倒の言葉に対して何も思わない。
 変えられない事も、その性情が決して善きモノない事も自覚しているからだ。
 其の上で理解してくれる人がいるのだから罵倒に思う事なんて浮かぶはずもない。
 
「<たださぁ。真っ向から間違っていると言い切り、正攻法で少しでも変えてやると言い切った人には初めてあったんだよね。そんな彼を支えているのは元隊長への敬愛と忠誠。……だからかな? 少しばかり興味が沸いちゃったんだよねぇ>」

 『前』の時を合わせても、そんな人にはあった事が無い。
 だから私は彼に興味と少しばかりの期待をしているのだ。
 もし、もしも彼がその自身の信を貫くのならば?

「<性情を根底から変える事なんて無理だけど、全く変化しない訳じゃない。さてはて、彼の言葉は私に届くのかな?>」
「<最後は人ごとかよ。大体変化したとしても多少って事だろーが。それじゃどう足掻いても性格はわりーって事になるじゃねーか>」
「<そうだねぇ。けどそれこそ今更じゃない?>」

 私がアズィンゲインに抱いているモノは“人”を相手にしていると言うには無機質、無感動だ。
 きっと、それはまるで実験対象を相手にでもしているようだと思う。
 傍から見れば私は立派な悪役だ。
 けど、それがどうしたと言うのだろうか?

「<彼は私の味方でも無ければ私の懐に入る事も無いのだから。悪役と罵られようがどうでも良い事だからね>」
「<そりゃ、ごもっとも>」

 クロイツが喉で笑う。
 此処で私を糾弾しないのだからクロイツだって充分共犯なのだ。
 それも今更だけど。
 なんせクロイツは私にとって唯一の『同胞』なのだから。
 なんによせ不毛であると分かっているアズィンゲインの行く末は当事者であろうと分からない事だろう。
 この不毛で生産性の無い探り合いにも似た観察は中々終わらない。――ゴールが無いのだから仕方の無い事だけど。
 
 まぁ、それもこの王都にて過ごす事が転換点でなければだけど、ね。





 私がお兄様に会いに行って直ぐに学園は休みに入った。
 けど、一年生であるお兄様は課題やらなんやらでちょくちょく学園に行って忙しそうである。
 正直に言えば寂しいけど、今は屋敷に居ればお兄様は帰ってくるから領地に居る時よりは全然良い、と自分を慰めていたり。
 お兄様のいない時間は先生から出された課題をやったり工房で錬金術の練習をしたり。
 明らかに令嬢らしくない生活を送っている自覚はある。
 けど、王都での不穏な噂を聞いている身としては冒険者キースとして外に行くのも気が引ける。
 先生やタンネルブルクさん達の忠告を無視してまで外に出る必要は無いってのもあるけど。
 問題は……強いて言えば、錬金術の材料を自分で取りにいけない事かな?
 ただし、現時点での私は基礎の練習しか許されていない。
 その事には特に文句も無いから今の私にとっては基礎の練度を上げる事が最優先であり、自分でアレンジレシピを考えるなんてまだまだ先の話なのだ。
 だから、属性水とかばっかり作ってるし、どっちかと言えば付加錬金の練度の方が高くなっていっている気がする。
 それはそれで守護の付加が出来るし、悪い事じゃないけど。

 と、令嬢らしくない生活とは言ったけど、勿論それだけではない。
 本音としては令嬢らしない事ばかりしていたいけれど、屋敷の使用人の方々はお母様から何かを言いつけられているらしく、そうもいかないのだ。
 マナーや楽器演奏、茶会などの基本的な事など、そういった令嬢として必須事項の時間もキチンと取らされている。
 いえね?
 別に私だって公爵令嬢である自覚あるからね?
 ニッコリ笑って有無を言わさずマナーの先生の所に連行しなくても言われれば自分で行きますから。
 ただ、この前は錬成のキリが悪くて、このままだと失敗するから部屋の外に出なかっただけで。
 ……そりゃ昼ご飯の時間になっても出れなかったのは悪いとは思うんだけどさ。
 成功するかどうかの瀬戸際だったんです!
 だから、その「年相応の所もおありなんですね。オホホ」って感じの生暖かい微笑みはやめて下さいませんかね?
 クロイツが影で爆笑してるしルビーン達が素で笑ってるしで散々な上、挙句アズィンゲインは呆然としていたし。
 周囲に甚大な被害が出ているのですが。
 お兄様にも苦笑されたし。
 皆酷いですよね?
 私の味方はリアだけです。
 ……ただしアズィンゲインの反応だけはほんとーに解せんのですけどね。

 とまぁ、令嬢らしいようで全くらしくない生活をしている私の元に先触れが来た。
 内容は両殿下がラーズシュタイン家に来るとの事。
 どうやら王都の屋敷では私にも知らせてくれるらしいです。
 詳しい内容を聞くと学園でお兄様とヴァイディーウス様が合流し共にいらっしゃるので先にいらっしゃるロアベーツィア様の相手を私にして欲しいとの事。
 あれ? トーネ先生いないけどいいのかな?
 いやまぁロアベーツィア様だってそれは知っているだろうし、それでも来るって言っているのなら私には何の問題もないけどさ。
 
「あ、問題はあるか」
「何だよ、一体」
「あーいや。ロアベーツィア様が来るって事は……あの御三方も来るって事だよね?」

 名前をはっきり言わなかったけど、それだけで通じたらしくクロイツが明らかに嫌な顔になった。

「今まではさ、合わせないようにしてたし、知らないと思うんだよね」
「けど、今回はそーはいかねーか」
「と、思うんだよねぇ」

 後ろ暗い事があるから隠していたわけじゃない。
 ただ顔を合わせれば面倒な事になるのは分かってたし、それは領地のラーズシュタイン家の人達も同じ事を考えていたのか、彼等が顔を合わせた事は無い。
 けど、このままといかないのも、まぁ真実なのだ。

「本当の事を言うならルビーン達と合わせるのも厄介事になりそうな気がするんだよねぇ」
「あー。あん時いたな。そういや」

 そうなのだ。
 今からくる御三方の内、多分、お二人はルビーン達の顔を知っているのだ。――しかも暗殺者としての二人を、だ。
 獣人の特性と両殿下、どころか国王陛下も承知の事だと説明すれば飲み込んではくれるだろうけど。
 心から納得するかと言われれば難しいだろう。
 
「クソ真面目ってかある意味でプライドたけーというか……今回リーノに付いてきた奴等、地雷すぎだろ」
「いや、まさか殿下達が此処までフットワークが軽いとは」

 前もって知っていたら何が何でも同行を拒否したってのに。

「とは言え、もう来るのは確定している事だし、どうしようもないんだけどねぇ」
「少しでも騒動が小さい事を願うしかねーんじゃね?」
「……ですよねぇ」

 私達はロアベーツィア様達の訪問で起こる騒動を考えて盛大なため息をつくのだった。
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