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第三章
激闘、真鉄人君
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『そろそろゲームも終わりでしょうか?』
『そうだね~~。もうネタも尽きちゃったよ~~』
元の世界さんと異世界ちゃんの言葉にほっと胸をなでおろした。
これまで訳のわからないゲームを色々とヤラされて、散々酷い目に合ってきたけど、ようやくそれも終わりのようだ。
「ようやく終わ――」
『では、最後の修行にいきましょう』
『ラァァァスト、トレェェニィィィ~~グゥゥ!』
「……最後? もういいじゃないですか? どうせ爆発するんだろうし、もうコリゴリですよ」
『安心してください。ちゃんと最後は修行です。これから改めて鉄人君とスパーリングをしてもらいます。ただし、前と同じことを行ってもあまり効果はありませんので、今回スパーリングを行う鉄人君は、以前とは少々異なります』
……っていわれてもね。まともな修行をするとは、思えないんですけど。ずっと爆発してばっかりだったし……。
異世界ちゃんがこれまでの雰囲気とは打って変わって、厳かな調子で言葉を繰り出す。
『鉄人君よ、今こそ汝の真なる力を覚醒させ、比類なきつわものたる力を顕現させよ』
異世界ちゃんの言葉に反応して、鉄人君の姿が変形する。頭の両側から闘牛のような大きな角が生えてきて、体全体が筋骨隆々と逞しくなり、右手にはモーニングスターのように棘が突き出た鉄球と、左手には大きなドリルアーム、膝から脛にはノコギリのような刃が付いていて、つま先と踵には鋭利な爪が突き出した。
突然の鉄人君の凶悪な変貌ぶりに、目を丸くするしかなかった。
『少々姿形が変わってしまいましたけど、これまで通り仲良くしてやってください。ただ、流石に依然とは区別したほうがよろしいと思いますので、これからは「鉄人君」改め、「真鉄人君」と呼んであげてください』
『真なる力を開放した関係で、ちょっと見栄えが変わっちゃったけど~~、あんまり気にしないで、これからも仲良くしてあげてね~~』
「いや、コレ「少々」とか「ちょっと」と言うレベルじゃないでしょ! 初めてあった頃の面影が、全くないじゃないですか!」
『それでは、スパーリングを始めましょう』
『真鉄人君ファァイトォォ~~、レディィゴォォォ~~!』
「ちょっと待って! またいきなり過ぎるでしょ! ここまで変わったら完全に別人ですし、もっとこう……改めて自己紹介的なものとか、短いのか長いのかよくわからない付き合いだったけど、今までありがとうね、とか、そんな姿になって今更グレちゃったの――」
『集中していないと、危ないですよ』
『注意一秒怪我一生~~、後悔先に立たずの、後の祭り~~』
……⁉
背中にゾクリと悪寒が走った。これまで生きてきた中で感じたことのない、強烈な重圧を感じる。
真鉄人君がこちらに向けて、ゆっくりと歩き出した。
なんだ? あれは……。
真鉄人君の体から、黒いオーラのようのものが滲み出ている。
鼓動が一気に高鳴り、恐怖が体を抑えつけてきてた。体が上手く動かない。さながら蛇に睨まれた蛙のようだ。
文字通りあっと言う間であった。
「あ……」
真鉄人君がいきなり目の前に躍り出る。さして動きは早くないのに、意識の隙間に滑り込むように虚を突かれ、一気に間合いを詰められた。
「ヤバ‼」
咄嗟に両腕を上げて身構えようとした瞬間、目の前を突風が突き上げて、横に何かが転げ落ちた。
チラリと横目に、見覚えのあるモノが映った。
……腕? なんで腕が……アレは⁉
驚愕して自分の右腕を見ると、そこには在る筈のモノが無かった。
代わりに目に映ったのは、腕の途中から肉が裂けて骨が剝き出しになり、勢いよく血が噴き出る光景だ。
横に落ちていたのは、自分の右腕であった。
「はははぁぁあああぁぁぁ――――⁉」
なんで⁉ なんで⁉ いや、見てない‼ 何も見ていない‼ 意識するな‼ 忘れろ‼ 兎に角忘れろ‼ でないと――。
現実はいつも、こちらの都合などお構いなしにやって来る。
右腕に、これまでに味わったことのない強烈な痛みが走った。
「クゥ――――――――――――ッ‼」
あまりに痛みから体を硬直させて、その場に蹲った。
痛い‼ 痛い‼ これ‼ ウォ――ッ‼ マジ‼ マジで――‼ 痛い‼ ちょっと痛いんですけどッ‼
しかし、幸か不幸か痛みは直ぐに止む結果になった。
頭に強い衝撃を感じると、ブレーカーが落ちるように意識が途絶えた。
そして、今度はパソコンが起動するように、意識が段々と覚醒していく。
数秒の後、意識がハッキリした時には、痛みは完全になくなっていた。
何度も似たようなことを、繰り返していたおかげで、状況は直ぐに理解できた。
それと、新たに気付かされた点もあった。
……今まで爆発ばっかりでうやむやな感じになっていたけど、やっぱり死んでいても、ちゃんと死ぬってことだな。
元の世界さんと異世界ちゃんが呑気な調子で聞いてきた。
『どうでしたか? 真鉄人君は』
『つ、よ、い、でしょ~~! 真鉄人君!』
すかさず食い気味に声を返す。
「無理です‼ ギブアップします‼」
『まだ一回しかスパーリングを行っていないのに、随分と速いギブアップですね』
『ええ~~、ツマンな~~い!』
「ツマンなくはないです‼ 十分エキサイティングでしたよッ‼ あんなのとやり合っていたら、命が幾つあっても足りません‼」
『既に死んでいますので、そこは問題ないと思います』
『お前はもう死んでいる~~!』
「そういうことではなくて! 真鉄人君は頑張ればどうにかなる、というレベルを遥かに超えています! そもそも戦いにすらなっていないのですから、それをどうしろって言うのですか! いくらなんでも無理だっちゅ~~の!」
『ホラ~~!』
「………………何がです?」
『だっちゅ~~の~~!』
「わかりませんよ! 胸を寄せているのか知らないですけど! 貴方たちは光だけだから、何をやっているか分からないんです! それに古い! 古いですよ! 今の子たちじゃあわからないでしょ!」
『困りましたねぇ。こんなところでくじけられては、真鉄人君と仲良くなれませんよ』
『そうだよ~~! 「強敵」と書いて「友」と呼ぶんだよ~~!』
「男〇ですか! 「仲良くして下さい」って、そういう意味だったの⁉ って言うか、「これまで通り仲良くしてやって下さい」って言ってましたけど、これまでだってそんなに仲良くなかったですよ!」
『サラっと中々に、酷いことを言いますね』
『切ないね~~。仲良くしてると思ってたのは、真鉄人君の独りよがりだったの~~?』
「もういいですよ! なんかもう色々と! いい加減こういうの無しで、強くしてくれませんか?」
異世界ちゃんがあからさまに不満を表した。
『そういうの嫌い~~!』
「好きとか嫌いとか、そういう問題じゃないでしょ! こっちは命が掛かっているんですから!」
元の世界さんがこれまでと打って変わって、真剣なトーンで口を開いた。
『何の苦労も無しに、ただ与えられるだけで、「力」を自らの物にすることが出来るでしょうか? やはり苦難を糧に研鑽を積まなければ、真に「力」を会得することは叶わないでしょう。ましてや、貴方が求めるのは「魔物やモンスターを圧倒し、過酷な環境でもものともしない強さ」という突出したもの。もし使い方を誤れば、自らを災いに晒すばかりか、周りにも不幸を振りまいてしまいます。貴方だって安易に手に入るものを、慎重には扱いませんよね? 「修行」とは、そういったことに対しての意味もあるのですよ』
「……………………」
時折、至極真っ当なことを言うのだもんなぁ。確かにその通りだけど……。
だが、元の世界さんは直ぐに、これまで通り口調に戻ると、あっさりと言動を翻した。
『とは言いましても、今のままでは真鉄人君の足元にも及ばないどころか、足の裏の角質を削ることさえ叶いません。例の如くスキルでドーピングすることしましょう』
『ド~~ピングド~~ピング、ヤッホ~~ヤッホ~~♪』
「いや……素直にありがたいではあるのですけど。その「ドーピング」ってはちょっと……」
『先ずは現在の力を、底上げしましょう』
元の世界さんから小さな光が飛んできて、自分の体の中に入った。
魔導練気:魔力と闘気が扱えるようになり、その流れを感知できるようになる。
剛体功:気を体中にみなぎらせて力を増加させる。使用の際はOPが消費される。
軽身功:身軽になり素早く動けるようになる。使用の際ははOPが消費される。
サイコバリア:念動力による強固な障壁を、半円球状に展開する。使用の際はMPが消費される。
強化装甲:専用の装甲を装着。使用中はMPとOPが消費されていく。
「MPとOPって……アレですよね? ゲームとかでお馴染みの」
『ええ、その通りです。そのMPとOPになります』
やっぱり異世界って、そう言うのがあるんだな。
『今回のスパーリングに限っては、特別に制限なしの出玉開放状態なのだ~~。ジャンジャンバリバリ使いたい放題だよ~~』
「……パチンコみたいですね。使い方はこれまでと同じですか?」
『スキルによって多少使い方は変わります。「剛体功」と「軽身功」は一定のOPを消費して発動し、一時的にスキルの効果を得ますが、「魔導練気」は常時発動しているスキルなので、スキルを付加した時点で、その効果を得ます』
『「サイコバリア」と「強化装甲」は使用している間、ずっとMPやOPが使われていくから気を付けてね~~』
「ああ、必要無くなったら、スキルを止めないといけないと?」
『そゆこと~~。因みに、「強化装甲」を使う時は、変身ポーズを決めた後に、「装着」って叫んでね~~』
「変身ポーズ……?」
『カッコ良ければ、なんでもオーケーだよ~~』
急に、そんなことを言われてもな。う~~ん……。
「でしたら、取り敢えず……」
左の拳の掌を上にして腰だめに握り、右手を左斜め上に突き出し、ゆっくりと右斜め上に動かして、弓を引くように腰だめに引き、万歳するように両手を突き出して叫んだ。
「装着!」
『オリジナリティがないから、50点~~』
オリジナリティときたか……。
「それなら……」
両手を肘を起点にしてグルグルと回しながら、力強く地団駄を踏み鳴らして両手を天に突き出し、大きくジャンプして叫んだ。
「装着!」
『かっこ悪~~い。20点~~』
手厳しいな。オリジナリティはあったと思うけど。
「だったら……」
左右の正拳突きを繰り出し、裏拳から上段回し蹴り、さらに高く跳躍しながら後ろ回し蹴りを決め、締めにもう一度、左右の正拳突きを繰り出して叫んだ。
「装着!」
『結構カッコイイかも~~! 80点あげる~~!』
「そ、そうですか?」
なんか照れますなぁ。状況によっては、人前でコレをやるのかぁ……。
『それでは、そのポーズで登録してもいいですか?』
「登録……? 登録ってどういうことですか?」
『「強化装甲」を装着する際に使用する合図の登録です。任意のポーズで登録することが出来ます』
「んん⁉ それでしたら、変身ポーズって別にかっこよくなくても、なんでもいいんですか? 極端な話、親指を立てて「装着」って叫ぶだけでも……?」
『それでも可能です。基本的に間違って装着してしまう紛らわしいものや、覚えられないような複雑なものでもなければ問題ありません』
「だったら、それでいいんじゃないですか?」
『ええ~~! そんな変身ポーズ嫌だ~~! ツマンな~~い!』
「いや、こっ恥ずかしいから勘弁してほしいです。実際にやる方の身にもなって下さいよ。って言うか。それならそうと、先に言ってくれればいいのに……」
『なんだかちょっと面白そうでしてので、生暖かく見守っていました』
「……………………」
まあ、そういう人だよね。この人たちは……。
結局、異世界ちゃんがブーブー言うので、親指を立てるだけの装着はあきらめたが、最終的に胸の前で両腕を交差させて装着するという、それっぽい形で変身ポーズは落ち着いた。
「装着!」
次の瞬間、一瞬にして体を何かが包み込んだ。
「おおぅ⁉」
『こんな感じだよ~~』
異世界ちゃんがいつの間に出したのか、大きな鏡をこちらに向けた。
そこにはフルフェイスのヘルメットを被り、バイク用のプロテクターのような装甲を、全身に身に纏った自分が映っていた。
一瞬でこんな物を身に着けるなんて、ホントに変身って感じだな。
『結構イイ感じでしょう~~?』
軽く体を動かしてみる。
……プロテクターに金属が使われているのかな? 防御力はありそうな感じがする。少し重たい気もするけど、これぐらいなら問題ないだろう。
「ええ、悪くないです。それにちょっとカッコイイですね」
『でしょう~~! それと「強化装甲」は「魔光ブラスター」と連動しているんだよ~~』
「「魔光ブラスター」と連動……?」
『まあ、実際に使用してみれば、直ぐにわかるかと』
元の世界さんに言われるまま、一先ず魔光ブラスターを使ってみることにした。
「展開」
一瞬にして魔光ブラスターが、右手に現れた。
そして、ヘルメットのシールドに、赤いマーカーのようなものが現れた。
「これは…………あ⁉ もしかして!」
『既に察しがついていると思いますが、シールドに映っているのは、レーザーポインターと同じ役割をする、魔光ブラスターのサイトになります』
『サイトの下にあるバーで、魔光ブラスターのチャージ具合がわかるよ~~』
「おお、なるほど! これは便利ですね!」
『更に追加で、「異世界殺法」からとっておきの武技まで付けちゃうよ~~』
異世界ちゃんから小さな光が飛んできて、自分の体の中に入った。
波怪振:直接触れた物にたいして、破壊の振動波を流す。使用中はOPが消費され、強さによって消費量が変わる。
九十九乱撃:高速の拳を打ち込むラッシュスキル。実際に九十九回、殴る訳ではない。OPを消費して使用。
爆破轟裂拳:拳から衝撃波を撃ちこむ正拳突き。OPを消費して使用。
ライトニングレッグラリアート:雷をのせた蹴撃。レッグラリアートでなくてもオーケー。MPとOPを消費して使用。
オーラガード:闘気を腕に纏って防御力を上げる。OPを消費して使用。
『どうよ~~? イイ感じでしょ~~!』
「正直、「異世界殺法」って実体のないペーパー拳法と思っていましたけど、ちゃんと技があったんですね」
『ニャンだと~~! 「異世界殺法」なめんなよ~~!』
「武技と言っていましたけど、スキルとは別なものなんですか?」
『同じものと、思っていいよ~~』
『かなり大雑把な区別の仕方ですが、OPを消費するものを武技、MPを消費するものを魔法だと考えて下されば』
「こういうスキルって重ね掛けと言うか、一度に複数を同時に使えるのですか?」
『使えるか使えないかで言えば、使えます。ただ、同時に使用するスキルが増えれば増えるほど、脳に処理の負担をかけることになります』
「脳……ですか。パソコンのCPUや、メモリーのような感じですか?」
『そういう感じですね。仮に持ち合わせた処理能力の、限界を超える負担が強いられた場合、脳に障害が発生してしまう可能性があります』
「ええ⁉ そんなのヤバいじゃないですか! そう言うのは勘弁してほしいのですけど……」
『大丈夫、大丈夫~~。今は死んじゃっているから、そんなの影響ないよ~~。好きなだけ自由に使っちゃって~~』
「いや、なんでもかんでも「死んでいる」からで済ませられても、ちょっと困るのですけど。実際に転生した際には影響ありますよね?」
『転生後については、一つ考えがあります。まあ、今は気にせずともよいかと』
「……本当ですか?」
『まかしといて~~。カッコ良くしちゃるよ~~』
カッコ良く? どういうことだ? う~~ん、なんかヤな予感がするんだけど……。
『今は転生後のことよりも、武技の使い方の方を、気にされたほうがいいかと』
「ん? ……もしかして今までのスキルとは、使い方が違うと……?」
『そう言うこと~~。全部が全部ではないけど~~、単純にスイッチをONにするだけでは、武技は発動しないんだな~~、これが』
「でしたら、どのようにすればいいのですか?」
『簡単な説明ですが、武技を発動させるに対応する体勢、もしくは動きの後に、タイミングを合わせて#武技__アーツ__名を叫ぶ必要があります。因みに、魔法の場合ですと、呪文を唱えなければなりません』
魔法に呪文が必要なのは、なんとなく意識があったけど、武技にも、そういった類のものが必要なのか……。
「……なんか難しそうですね」
『そうでもないよ~~。要は君、慣れだよ、慣れ~~』
『前にも申しましたけど、「習うより慣れよ」ですね』
元の世界さんと異世界ちゃんの言葉に内心懐疑的ではあったが、練習がてら実際に試してみたところ、予想外に上手くいった。
感触としては、格闘ゲームのコマンド技の入力に、近い感じを覚えるのだが、体勢や動き、#武技__アーツ__名を叫ぶタイミングなどは難しく考える必要はなく、割と直感的に体を動かすだけで、武技は発動させることが出来る。
身も蓋もない言い方だが、武技が発動しないと思われる状況では発動しないし、発動しそうと思われる状況では発動できるのだ。逆立ちした状態では九十九乱撃は発動できないし、四の地固めの最中にライトニングレッグラリアートは使えない。まあ、その辺は察しがつきやすいので問題ないのだが、一つだけどうしても気になる部分がある。
「爆破轟裂拳!」
突き刺した拳から衝撃波が発生し、目の前の巨大な岩が、一瞬にして内部から爆ぜるように砕け散った。
相手取った巨大な岩は見る影もなく、周りには元巨大な岩だった岩石が散らばっている。
自分でやっておきながらも、そのあまりの惨状に驚嘆の声を上げた。
「ふぇぇ……、凄い威力だなぁ」
繰り返し武技の練習をしていると、元の世界さんと異世界ちゃんが声をかけてきた。
『なかなか良い調子じゃないですか』
『「異世界殺法」の伝承者なる日も近いぞよ~~』
「いや、それはちょっと、自分には荷が重いかと……」
人前でそれを名乗るのは、こっ恥ずかしいから遠慮したいです。口には出さないけどね。
「それよりも、相談と言うか確認したいことがあるのですが、武技使う時、どうしても名は叫ばなければ、ならないものなんですかね?」
『武技名を叫ぶのは大事です。こういうものは、叫ばなければなりません』
『必殺技を叫ぶのは、古来からの習わしだろうが~~!』
気持ちはわからなくもないんだけどなぁ。自分も叫ぶものだと思っていたし……。でも、実際にやってみると、ちょっとねぇ……。
「あの……「ライトニングレッグラリアート」って長いから、叫ぶのがしんどいんですよね……。後、変に間が空くし……」
『それなら「ライトニングキック」でもいいですよ』
『最悪~~、「ライトニング」だけでもオ~ケ~だよ~~』
「え⁉ それでも大丈夫なんですか?」
自分から聞いといてなんだけど、それで大丈夫なのかな?
『特に問題ありません。それから、アーツ__#名が長いものは、多少、短縮しても構いません』
『いいんです~~。カッコ良ければ短縮しても、いいんです~~』
「いいんだ……」
リターンマッチの開始の合図と共に、心眼とピッチコントロールのスキルを発動させた。
集中力が高まり、感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。
前回は圧倒的な威圧感に飲まれて、何も行動できずに殺られてしまったが、今回はその対策として、直ぐにスキルを使うことにした。無論、強化装甲は開始前から装着済みだ。
真鉄人君がゆっくりと、静かに近づいてくる。体全体から禍々しい黒いオーラが滲み出ていた。
……相変わらず威圧感がハンパないねぇ。体が大きく感じるよ。って言うか、実際、鉄人君の頃と比べると、かなり大きくなっているよな。
深く深呼吸をして、気持ちを整える。
前回の嫌なことが思い浮かぶけど、ここまできたらヤルしかない!
真鉄人君が滑るように間を詰めて来た。そして、一切無駄のない滑らかな動きから、左手のドリルアームで、強烈なアッパーカットを突き上げた。
それをバックステップで後ろに下がり躱す。それと同時に、目の前を強い突風が突き抜けた。
怖ぇ――!
真鉄人君が続けざまに、右手のモーニングスターでストレートを放つ。
これも体を捻りながら横にステップを踏んで、なんとか躱した。
真鉄人君と一旦、間合いを取って気持ちを落ち着かせる。
「ふぅぅ――」
ちょっと危なかったけど、でも見える! 真鉄人の動きが見えるぞ! 体も動いてくれてるし、これならなんとかなりそうだ!
真鉄人君の死角になるように、サイドステップを軽快に刻みながら右から回り込む。
真鉄人君が、それに合わせて体を回転させた。
その際に生じる僅かな隙を狙って、攻撃を仕掛ける。
軽身功のスキルを使い瞬時に動いた。
「ライトニング!」
真鉄人君の右の膝に、雷の踵蹴り打ち込む。
真鉄人君にダメージを受けた様子は見られなかったが、一瞬、ほんの一瞬だが、動きが止まった。
今の自分には、それでも充分だった。
「ライトニング!」
ライトニングレッグラリアートによる雷プラス、軽身功のスキルによる一瞬の早業で、真鉄人君の腹部に中段回し蹴り、続けて側頭部に上段回し蹴りを炸裂させた。辺りに雷鳴が鳴り響く。
手応えバッチシ! ここで一気にいく! 剛体功とそれに――。
「九十九乱撃!」
怒涛の勢いで拳撃が繰り出され、真鉄人君を縦横無尽に打ち込んでいく。
「オオオォォォォ――――ゥゥッ‼」
イケる! これならイケるぞ!
しかし、勝利を確信した瞬間、思いもよらない反撃を食らった。
真鉄人君は九十九乱撃の猛打の嵐の中に、凶悪な右手のモーニングスターを突き刺した。
まるで鉄骨にでもぶつけられたような、凄まじい衝撃が頭部を襲う。
「グヒィ!」
ヘルメットが砕け散り、頭から床に打ち付けられて激しく転がっていく。
頭の中がグワングワンと鳴っていて、何がなんだがわからない。とにかく体中に衝撃が走っていた。
朦朧とする意識の中、何とか体を動かそうとする。
立ち上が……らないと……追撃が……。
しかし、気持ちとは裏腹に、体が言うことを聞いてくれない。
不意に、全てが止んだ。
あれほどの混迷状態であったものが、今は何事もなかったかのように、頭がスッキリとしていた。
……どうなったんだ? ……スパーリングが終わったのか?
体の状態を確かめながら、ゆっくりと立ち上がった。
あれほどのことがあったのに、体に一切ダメージは見当たらない。
周りを見渡すと、真鉄人君たちの姿が二十メートル以上は先に見えた。
……こんなにぶっ飛ばされていたのか。よく死ななかったな。いや、違うか、死んだから終わったのかな?
真鉄人君たちの元へ向けて、トボトボと歩き出す。
しかし、あの状態から一発でひっくり返す⁉ いくらなんでもそりゃないぜ。
だが、不思議と嫌な感じはなかった。むしろ気持ちが高揚しているのを感じる。
ハハ、なんだよ? 何かよくわからないけど、なんだか楽しくなってきたな。もしかして、これが強敵になるってことなのか?
再びスパーリングをする為に、真鉄人君たちの元へ歩む足を速めた。
あれからスパーリングを幾ら行っただろうか? 優に百は超えるであろう。
何度となく骨は砕かれ、肉は切り裂かれて、その結果は散々な有様だ。
スパーリングの間間に対策がてら練習を行い、色々と試してみたが、それでも真鉄人君には終始圧倒されて、底知れない強さをまざまざと見せつけられた。
どちらかと言うと、こういう荒事は苦手であきらめは早い方だと思っていたが、自分でも不思議なことに、一向に闘志が衰えることはなかった。
それにしても全く勝てないねぇ……。う~~ん、スキルを上手く使いこなせていないのかな? それとも、アプローチが悪いのか? 取り敢えずちょっと方向性を変えてみるか。
スパーリングの開始の掛け声と共に、軽身功のスキルを使用して、真鉄人君へ一気にダッシュした。
攻撃も防御も強力な為、どうにか隙を見つけようとして、真鉄人君の出方を窺う戦い方を繰り返していたが、どうしても強引に押し切られてします。リスクは上がるが、これまでと趣向を変えて、ここはひとつこちらから仕掛けてみることにした。
しかし、真鉄人君はこちらの考えを見透かしていた。
真鉄人君の右手には、既に黒い波動が宿っていて、カウンターを取るように、それを横に払って一閃させた。
黒い波動が扇状に投射され、一気に襲い掛かってくる。
「オワァッ⁉」
すんでのところで、スライディングして滑り込み躱した。
だが、その先に待ち構えていたのは、真鉄人君の強烈なフロントキックであった。
「オーラブロック!」
咄嗟にスキルも交えて、両腕を交差させて防御する。
「ンンギィッ!」
それでも、強烈なフロントキックを食らって、ピン本玉のように弾き飛ばされた。
強化装甲とオーラブロックが無ければ、この時点で終わっていただろう。
両腕に強い痛みを感じる。それを踏ん張って我慢し、体勢を立て直す為に急いで立ち上がった。
次の瞬間、思いもよらない光景が目に映る。
空中で黒い波動を纏った両手を握りしめ、腕を振り上げて大きくのけ反る真鉄人君の姿だ。
「マジでっ⁉」
あたふたしながらも、すぐさま飛び込むように横に転がった。
真鉄人君は地面に着地すると同時に、巨大な槌の如く両手を振り下ろした。
凄まじい衝突音と共に、黒い波動が衝撃波となって広がっていく。
「ウオゥッ!」
暴風のような強烈な衝撃波を受け、一気に吹き飛ばされた。
気が付いたら三十メートル近く吹き飛ばされていた。
クラクラする頭を振りながら起き上がる。体の至る所が痛い。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
乱れた呼吸を整えながら状況を確認する。
衝突で地面に出来たクレータの真ん中で、真鉄人君が両手を少し広げて、抱え込むような姿勢を取っていた。
そして、掌の間に幾つもの迸る光る球体が現れる。
「ゲェっ、マズいっ!」
光る球体は、一発でもまともに食らえば死に至らしめる、デンジャラスな炸裂弾だ。
真鉄人君の掌から、光る球体が勢いよく飛び出した。
それを見とがめて、猛然と横に駆け出す。
光る球体は誘導ミサイルのように、次々とこちら目がけて飛来してきた。
通過した後を光る球体が落下し、大きな音を立てて炸裂する。
炸裂音が背後から迫ってきた。
「一気に引き離してやる!」
軽身功のスキルを使い、更に駆けるスピードを上げた。
背後から聞こえていた炸裂音が離れていく。
猛然とかける中、横目で真鉄人君を確認する。
いつの間にか真鉄人君の目の前に、大きな魔法陣が展開されていた。
「あ、それは……!」
魔法陣から、無数の黒いレーザーのような閃光が放たれる。先程の炸裂弾よりも、遥かに弾速が速い。このままでは確実に直撃する。
「チキショウめ――!」
駆けるのを止め、強い慣性に逆らって、その場に停止する。
「サイコバリア!」
障壁が展開されると同時に、黒いレーザーが激突する。そして、少し遅れて炸裂弾も追いついてきた。
サイコバリア越しでも、かなりの衝撃が伝わってくる。
更に追加で、巨大な火の玉が降ってきて、サイコバリアに激突した。
「うひゃぁー」
サイコバリアの周りが炎で包まれ、まるでマグマの中にでも居るみたいだ。
それでもサイコバリアは崩れない。内部には熱は伝わってこずに安泰であった。
サイコバリアの頼もしさに、一見、安堵できる状況だが、口から出たのは泣き言だった。
「ダメだなこりゃ。もう詰んだな……」
サイコバリアは防御力が高く、360度の範囲を防いでくれる非常に優秀なスキルだが、その場から動けなくなるのが難点だ。しかも、現在のように絶え間なく攻撃されると、どうしても何も出来ずに動けなくなってしまう。
それでも、相手にサイコバリアを打ち破る力が無ければ問題ない。高い防御力から考えると、その実現性は非常に乏しく、むしろ攻め疲れを待って隙を突くチャンスだろう。普通ならそうだ、普通なら。
だがしかし、残念ながら、それを持っているのだ真鉄人君は。サイコバリアを打ち破れる力を。
周りの炎をものともせずに、真鉄人君がサイコバリアの前までやって来た。そして、おもむろに左腕のドリルアームを振りかぶり、勢いよく突き刺す。
サイコバリアが悲鳴を上げるかの如くに、金属が軋むような独特の音が伝わってくる。
このままならサイコバリアごと、ドリルアームによって葬り去られるだろう。かといって、サイコバリアを展開中は動くことは出来ないし、今解除しても瞬殺されるだけだ。
こうなってしまってはどうにもならないな。後は座して死を待つのみかぁ。あ~~あぁ、自分から仕掛けていくつもりだったのに、まともな攻撃ひとつ出来ていないや。
ふと、ある考えが頭に浮かんだ。
攻撃……? 別に攻撃出来ないってこともないのか。そうだよな!
「展開!」
ハンマーを起こして、魔光ブラスターを構える。
狙いは真鉄人君のドリルアームだ。
タイミングが……大事。
あまり褒められたことじゃないが、これまで何度となく、同じような状況で繰り返し殺られてきた。
今こそ、その糧が生きる時。
段々とサイコバリアの悲鳴が激しくなっていき、経験が合図を鳴らす。
「今だ!」
引き金を引くと同時に、サイコバリアが砕け散った。
銃口からフルチャージされた極太の閃光が発射され、真鉄人君のドリルアームを貫く。
左腕が丸ごと吹き飛び、真鉄人君が信じられないものでも見るかのように、己の肩口付近に顔を向けた。
「どうだ、思い知ったかっ!」
思わず歓喜の声を上げたが、直ぐに我に返った。
あれ⁉ これ凄いチャンスじゃないか? 今行くべきだよな!
魔光ブラスターを収納しながら、一気に真鉄人君の懐に入り、胴体を両手でしっかりと掴まえた。
「波壊振!」
フルパワーで破壊の振動波を流し込む。すると、真鉄人君の胴体に音を立てて亀裂が入った。
イケるか――⁉
不意になんとも言えない悪寒が走った。
咄嗟に両手を放し、直ぐにバックステップをして距離を取る。
その直後、目の前を突風が突き抜けた。
真鉄人君の右腕による、モーニングスター付きのアッパーカットだ。
「アッブね―! もう少しで……ん⁉」
しかし、真鉄人君の攻撃は、それで終わりではなかった。振り上げた勢いを利用して、後ろ飛び回し蹴りを放ってきた。
「グウッ!」
どうにか両腕で防御したが、またしても強烈な蹴りで、ピンポン玉の如く弾き飛ばされた。
地面に吹き飛ばされ転がりながらも、直ぐに体勢を立て直して立ち上がった。
遠く離れた位置に真鉄人君が見える。
それは異様な光景であった。
左腕を吹き飛ばされたというのに、真鉄人君の体から黒いオーラがどんどん溢れ出し、威圧感が格段に強くなって凄みを増している。
「へへ……ヤバいねぇ。メッチャ怒っている感じだなぁ。オレ程度にそこまでヤラられたのが、気に食わないってか」
それでも、数えきれないほどスパーリングを行ってきたが、真鉄人君にここまでダメージを与えたことは、一度として無かった。
自らを鼓舞するように言い聞かせる。
「今だ……今がチャンスなんだ! 気後れしている場合じゃない!」
魔光ブラスターを展開し、真鉄人君に向けて走り出した。
真鉄人君も示し合わせたかのように、こちらに向かって走りだす。
魔光ブラスターから閃光を放ち、真鉄人君を牽制しつつ、軽身功のスキルを使い、更に走る速度を上げた。
真鉄人君は右肩付近に、魔法陣の盾を展開させ、閃光を弾きながら突進してくる。
それを見とがめ、強く地面を蹴った。
「ライトニング!」
軽身功の全速力に加え、雷を付加したドロップキック。
真鉄人君が展開する魔法陣の盾に、ドロップキックが直撃し雷が轟く。
互いの慣性が激しくぶつかり合い、真鉄人君がよろけて二、三歩後退した。
「これでも倒れないのか⁉ でも――」
魔光ブラスターを操作して、真鉄人君に銃口を向けた。
それに反応して、真鉄人君が肩口をこちらに向け、魔法陣の盾を前に出す。
引き金を引くと、銃口から光る球体が発射され、真鉄人君の目の前で、破裂して大きな音をたてた。
閃光弾。強烈な光と爆音で相手にショックを与え、行動を阻害する、魔光ブラスターのオプションだ。
真鉄人君はモーニングスターの右腕で顔を覆い、動きが固まった。
「流石の真鉄人君も、これは予想してなかっただろっ!」
魔光ブラスターを格納して、左手を前に出し、そこから弓を引くように、右手をゆっくりと後ろに下げていく。
それに呼応して、魔導練気により体内で練られた気が、右の拳に集まっていった。
真鉄人君がようやく閃光弾のショックから立ち上がり、こちらを見たがめて、モーニングスターの右腕を振り上げた。
「遅いよ」
こちらの方が半歩、動くのが早かった。
「爆破轟裂拳!」
波壊振によってできた真鉄人君の胴体の亀裂に、右の正拳を打ち込むと、それと同時に、拳に集まっていた気が、衝撃波となって爆発する。
真鉄人君の胴体に入っていた亀裂の部分が、衝撃波によって吹き飛んで、砕け散った。
真鉄人君はヨロヨロと後退り、その場に膝をついた。砕け散った部分からは、漆黒の闇だけが見える。
それでも、真鉄人君は立ち上がろうと動き出す。
「展開」
ハンマーを起こして、魔光ブラスターを構えた。
真鉄人君はダメージから、動きがかなり緩慢としている。
最終的に真鉄人が立ち上がった頃には、魔光ブラスターはフルチャージされていた。
引き金を引くと、魔光ブラスターの銃口から、極太の閃光が発射された。
極太の閃光が真鉄人君の胴体を貫き、反対側が見えるほどの大きな穴をあけた。
そして、真鉄人君は溺れる人の様に、手を伸ばしてゆっくりと藻掻きながら倒れた。
真鉄人君に動く様子は見られない。
辺りは静寂に包まれた。
「ハァ……ハァ……ヤッた……のか?」
生存確認の為、真鉄人君に近づく。
真鉄人君は胸と脇腹に大きな穴が開いていて、微動だにしない。
「……これ倒しているよな? 勝ったって……こと……?」
ここにきて、ようやく事を認識する。
両腕を震わせて構え、歓喜を上げて吠えた。
「オオオォォォォ――――――っ‼ ヤッタ―! やったぞ! ついに倒したんだ!」
何百回と行ってきたスパーリングの中で、ようやく手にした勝利に、心底打ち震えた。
何度心が折れかけただろうか? 何度となく骨は砕かれ、肉は切り裂かれて散々ひどい目に合いながらも、それでもどうにか踏みとどまり、真鉄人君に食らいついてきた。
この勝利を手に出来たのも、ひとえに……正直、自分でもよくわからないけど、不思議とずっと続けてこれた成果だろうな。
不意に、真鉄人君が何事もなかったかのように、すくりと立ち上がった。
「えええぇぇぇぇぇぇ――――――っ⁉」
あれだけダメージを与えたのに、真鉄人君の体には、損傷個所が全く見当たらなかった。
驚愕して目を丸くしていると、横から声が聞こえてきた。
『おめでとうございます。あなたの勝利ですね』
『You、win~~!』
『驚きましたね。まさか勝ってしまうとは』
『ホント~~、ビックリだよ~~』
真鉄人君にようやく勝利できたのは嬉しいが、元の世界さんと異世界ちゃんの言葉に違和感を覚えた。
「ど、どうも。あの……随分と驚いていますね」
『ええ、勝つとは思っていませんでしたから』
『まさか、まさかの~~、勝利だからね~~』
ここである疑念が生まれた。
「えぇ……と、これ勝てない想定だったんですか? もしかして負けイベントって言われる奴?」
元の世界さんと異世界ちゃんはあっさりと白状した。
『そうですね』
『そうだよ~~』
「だったら、途中で止めてくれてもいいじゃないですか! 結構いっぱい酷い目に合いましたよ! そしたらこんなにまで、苦労しなくても良かったのに!」
『ええ、そうでしょうね。でも、なかなか面白い見世物だったので、ついつい見入ってしまいました』
『そうね~~。でも~~、どうせ死んでいるんだから、いいじゃな~~い。気にすんなよ~~』
「いやいやいや、気にしますよ! って言うか、なんでも面白いとか、死んでるからで片づけられたら、こっちはたまったもんじゃないです!」
『いいじゃないですか。その分、大分頑張りましたので、真鉄人君も貴方のことを強敵として認めてくれてますよ』
『そうだよ~~。真鉄人君に勝利したのを記念して~~、特別に勇者として讃えようぞ~~』
直ぐ傍らで、真鉄人君が無言で拍手していた。
「あ、ありがとう……。でも、嬉しいんだか嬉しくないんだか、ちょっと微妙な感じが……」
『おや、お気に召しませんか?」
『ええ~~ぇ! また、そんなこと言って~~、真鉄人君も悲しんじゃうよ~~!」
真鉄人君は無言で突っ立っていた。
「いや、あの、そう言われましても、表情無いし、しゃべんないから、よくわからないんですけど」
『それはさておき、「修行」は、これで終了となります』
『これで「異世界殺法」の伝承者だね~~』
「……本当ですか?」
ようやく「修行」から解放されるのは嬉しいが、これまでのこともあってか、どうしても猜疑心が強くなってしまう。
元の世界さんと異世界ちゃんはキッパリと言った。
『本当です』
『本当だよ~~』
これまでの「修行」の日々が脳裏に浮かぶ。
正直、何一ついいことは無かったし、二度とやりたくはないけど、それも終了した今となっていは、感慨もひとしおだ。
「本当なんだ……」
『ええ、これからは貴方が「異世界殺法」の伝承者です』
『応よ~~。伝承者として「異世界殺法」の普及に、励むがよいぞ~~』
「いや、そっちじゃねぇよっ‼ 「修行」が終了かだよっ‼」
『ああ、そっちですか。特にネタも無いので、もう終わりですよ』
『そっち~~。もう飽きちゃったし、終わりでいいよ~~』
「……そんな理由なの……」
「それでは、「修行」が終わりましたので、これからは「お勉強」の時間です』
『イエ~~ス! イッツ、スタディタ~~イム』
「………………はい?」
『そうだね~~。もうネタも尽きちゃったよ~~』
元の世界さんと異世界ちゃんの言葉にほっと胸をなでおろした。
これまで訳のわからないゲームを色々とヤラされて、散々酷い目に合ってきたけど、ようやくそれも終わりのようだ。
「ようやく終わ――」
『では、最後の修行にいきましょう』
『ラァァァスト、トレェェニィィィ~~グゥゥ!』
「……最後? もういいじゃないですか? どうせ爆発するんだろうし、もうコリゴリですよ」
『安心してください。ちゃんと最後は修行です。これから改めて鉄人君とスパーリングをしてもらいます。ただし、前と同じことを行ってもあまり効果はありませんので、今回スパーリングを行う鉄人君は、以前とは少々異なります』
……っていわれてもね。まともな修行をするとは、思えないんですけど。ずっと爆発してばっかりだったし……。
異世界ちゃんがこれまでの雰囲気とは打って変わって、厳かな調子で言葉を繰り出す。
『鉄人君よ、今こそ汝の真なる力を覚醒させ、比類なきつわものたる力を顕現させよ』
異世界ちゃんの言葉に反応して、鉄人君の姿が変形する。頭の両側から闘牛のような大きな角が生えてきて、体全体が筋骨隆々と逞しくなり、右手にはモーニングスターのように棘が突き出た鉄球と、左手には大きなドリルアーム、膝から脛にはノコギリのような刃が付いていて、つま先と踵には鋭利な爪が突き出した。
突然の鉄人君の凶悪な変貌ぶりに、目を丸くするしかなかった。
『少々姿形が変わってしまいましたけど、これまで通り仲良くしてやってください。ただ、流石に依然とは区別したほうがよろしいと思いますので、これからは「鉄人君」改め、「真鉄人君」と呼んであげてください』
『真なる力を開放した関係で、ちょっと見栄えが変わっちゃったけど~~、あんまり気にしないで、これからも仲良くしてあげてね~~』
「いや、コレ「少々」とか「ちょっと」と言うレベルじゃないでしょ! 初めてあった頃の面影が、全くないじゃないですか!」
『それでは、スパーリングを始めましょう』
『真鉄人君ファァイトォォ~~、レディィゴォォォ~~!』
「ちょっと待って! またいきなり過ぎるでしょ! ここまで変わったら完全に別人ですし、もっとこう……改めて自己紹介的なものとか、短いのか長いのかよくわからない付き合いだったけど、今までありがとうね、とか、そんな姿になって今更グレちゃったの――」
『集中していないと、危ないですよ』
『注意一秒怪我一生~~、後悔先に立たずの、後の祭り~~』
……⁉
背中にゾクリと悪寒が走った。これまで生きてきた中で感じたことのない、強烈な重圧を感じる。
真鉄人君がこちらに向けて、ゆっくりと歩き出した。
なんだ? あれは……。
真鉄人君の体から、黒いオーラのようのものが滲み出ている。
鼓動が一気に高鳴り、恐怖が体を抑えつけてきてた。体が上手く動かない。さながら蛇に睨まれた蛙のようだ。
文字通りあっと言う間であった。
「あ……」
真鉄人君がいきなり目の前に躍り出る。さして動きは早くないのに、意識の隙間に滑り込むように虚を突かれ、一気に間合いを詰められた。
「ヤバ‼」
咄嗟に両腕を上げて身構えようとした瞬間、目の前を突風が突き上げて、横に何かが転げ落ちた。
チラリと横目に、見覚えのあるモノが映った。
……腕? なんで腕が……アレは⁉
驚愕して自分の右腕を見ると、そこには在る筈のモノが無かった。
代わりに目に映ったのは、腕の途中から肉が裂けて骨が剝き出しになり、勢いよく血が噴き出る光景だ。
横に落ちていたのは、自分の右腕であった。
「はははぁぁあああぁぁぁ――――⁉」
なんで⁉ なんで⁉ いや、見てない‼ 何も見ていない‼ 意識するな‼ 忘れろ‼ 兎に角忘れろ‼ でないと――。
現実はいつも、こちらの都合などお構いなしにやって来る。
右腕に、これまでに味わったことのない強烈な痛みが走った。
「クゥ――――――――――――ッ‼」
あまりに痛みから体を硬直させて、その場に蹲った。
痛い‼ 痛い‼ これ‼ ウォ――ッ‼ マジ‼ マジで――‼ 痛い‼ ちょっと痛いんですけどッ‼
しかし、幸か不幸か痛みは直ぐに止む結果になった。
頭に強い衝撃を感じると、ブレーカーが落ちるように意識が途絶えた。
そして、今度はパソコンが起動するように、意識が段々と覚醒していく。
数秒の後、意識がハッキリした時には、痛みは完全になくなっていた。
何度も似たようなことを、繰り返していたおかげで、状況は直ぐに理解できた。
それと、新たに気付かされた点もあった。
……今まで爆発ばっかりでうやむやな感じになっていたけど、やっぱり死んでいても、ちゃんと死ぬってことだな。
元の世界さんと異世界ちゃんが呑気な調子で聞いてきた。
『どうでしたか? 真鉄人君は』
『つ、よ、い、でしょ~~! 真鉄人君!』
すかさず食い気味に声を返す。
「無理です‼ ギブアップします‼」
『まだ一回しかスパーリングを行っていないのに、随分と速いギブアップですね』
『ええ~~、ツマンな~~い!』
「ツマンなくはないです‼ 十分エキサイティングでしたよッ‼ あんなのとやり合っていたら、命が幾つあっても足りません‼」
『既に死んでいますので、そこは問題ないと思います』
『お前はもう死んでいる~~!』
「そういうことではなくて! 真鉄人君は頑張ればどうにかなる、というレベルを遥かに超えています! そもそも戦いにすらなっていないのですから、それをどうしろって言うのですか! いくらなんでも無理だっちゅ~~の!」
『ホラ~~!』
「………………何がです?」
『だっちゅ~~の~~!』
「わかりませんよ! 胸を寄せているのか知らないですけど! 貴方たちは光だけだから、何をやっているか分からないんです! それに古い! 古いですよ! 今の子たちじゃあわからないでしょ!」
『困りましたねぇ。こんなところでくじけられては、真鉄人君と仲良くなれませんよ』
『そうだよ~~! 「強敵」と書いて「友」と呼ぶんだよ~~!』
「男〇ですか! 「仲良くして下さい」って、そういう意味だったの⁉ って言うか、「これまで通り仲良くしてやって下さい」って言ってましたけど、これまでだってそんなに仲良くなかったですよ!」
『サラっと中々に、酷いことを言いますね』
『切ないね~~。仲良くしてると思ってたのは、真鉄人君の独りよがりだったの~~?』
「もういいですよ! なんかもう色々と! いい加減こういうの無しで、強くしてくれませんか?」
異世界ちゃんがあからさまに不満を表した。
『そういうの嫌い~~!』
「好きとか嫌いとか、そういう問題じゃないでしょ! こっちは命が掛かっているんですから!」
元の世界さんがこれまでと打って変わって、真剣なトーンで口を開いた。
『何の苦労も無しに、ただ与えられるだけで、「力」を自らの物にすることが出来るでしょうか? やはり苦難を糧に研鑽を積まなければ、真に「力」を会得することは叶わないでしょう。ましてや、貴方が求めるのは「魔物やモンスターを圧倒し、過酷な環境でもものともしない強さ」という突出したもの。もし使い方を誤れば、自らを災いに晒すばかりか、周りにも不幸を振りまいてしまいます。貴方だって安易に手に入るものを、慎重には扱いませんよね? 「修行」とは、そういったことに対しての意味もあるのですよ』
「……………………」
時折、至極真っ当なことを言うのだもんなぁ。確かにその通りだけど……。
だが、元の世界さんは直ぐに、これまで通り口調に戻ると、あっさりと言動を翻した。
『とは言いましても、今のままでは真鉄人君の足元にも及ばないどころか、足の裏の角質を削ることさえ叶いません。例の如くスキルでドーピングすることしましょう』
『ド~~ピングド~~ピング、ヤッホ~~ヤッホ~~♪』
「いや……素直にありがたいではあるのですけど。その「ドーピング」ってはちょっと……」
『先ずは現在の力を、底上げしましょう』
元の世界さんから小さな光が飛んできて、自分の体の中に入った。
魔導練気:魔力と闘気が扱えるようになり、その流れを感知できるようになる。
剛体功:気を体中にみなぎらせて力を増加させる。使用の際はOPが消費される。
軽身功:身軽になり素早く動けるようになる。使用の際ははOPが消費される。
サイコバリア:念動力による強固な障壁を、半円球状に展開する。使用の際はMPが消費される。
強化装甲:専用の装甲を装着。使用中はMPとOPが消費されていく。
「MPとOPって……アレですよね? ゲームとかでお馴染みの」
『ええ、その通りです。そのMPとOPになります』
やっぱり異世界って、そう言うのがあるんだな。
『今回のスパーリングに限っては、特別に制限なしの出玉開放状態なのだ~~。ジャンジャンバリバリ使いたい放題だよ~~』
「……パチンコみたいですね。使い方はこれまでと同じですか?」
『スキルによって多少使い方は変わります。「剛体功」と「軽身功」は一定のOPを消費して発動し、一時的にスキルの効果を得ますが、「魔導練気」は常時発動しているスキルなので、スキルを付加した時点で、その効果を得ます』
『「サイコバリア」と「強化装甲」は使用している間、ずっとMPやOPが使われていくから気を付けてね~~』
「ああ、必要無くなったら、スキルを止めないといけないと?」
『そゆこと~~。因みに、「強化装甲」を使う時は、変身ポーズを決めた後に、「装着」って叫んでね~~』
「変身ポーズ……?」
『カッコ良ければ、なんでもオーケーだよ~~』
急に、そんなことを言われてもな。う~~ん……。
「でしたら、取り敢えず……」
左の拳の掌を上にして腰だめに握り、右手を左斜め上に突き出し、ゆっくりと右斜め上に動かして、弓を引くように腰だめに引き、万歳するように両手を突き出して叫んだ。
「装着!」
『オリジナリティがないから、50点~~』
オリジナリティときたか……。
「それなら……」
両手を肘を起点にしてグルグルと回しながら、力強く地団駄を踏み鳴らして両手を天に突き出し、大きくジャンプして叫んだ。
「装着!」
『かっこ悪~~い。20点~~』
手厳しいな。オリジナリティはあったと思うけど。
「だったら……」
左右の正拳突きを繰り出し、裏拳から上段回し蹴り、さらに高く跳躍しながら後ろ回し蹴りを決め、締めにもう一度、左右の正拳突きを繰り出して叫んだ。
「装着!」
『結構カッコイイかも~~! 80点あげる~~!』
「そ、そうですか?」
なんか照れますなぁ。状況によっては、人前でコレをやるのかぁ……。
『それでは、そのポーズで登録してもいいですか?』
「登録……? 登録ってどういうことですか?」
『「強化装甲」を装着する際に使用する合図の登録です。任意のポーズで登録することが出来ます』
「んん⁉ それでしたら、変身ポーズって別にかっこよくなくても、なんでもいいんですか? 極端な話、親指を立てて「装着」って叫ぶだけでも……?」
『それでも可能です。基本的に間違って装着してしまう紛らわしいものや、覚えられないような複雑なものでもなければ問題ありません』
「だったら、それでいいんじゃないですか?」
『ええ~~! そんな変身ポーズ嫌だ~~! ツマンな~~い!』
「いや、こっ恥ずかしいから勘弁してほしいです。実際にやる方の身にもなって下さいよ。って言うか。それならそうと、先に言ってくれればいいのに……」
『なんだかちょっと面白そうでしてので、生暖かく見守っていました』
「……………………」
まあ、そういう人だよね。この人たちは……。
結局、異世界ちゃんがブーブー言うので、親指を立てるだけの装着はあきらめたが、最終的に胸の前で両腕を交差させて装着するという、それっぽい形で変身ポーズは落ち着いた。
「装着!」
次の瞬間、一瞬にして体を何かが包み込んだ。
「おおぅ⁉」
『こんな感じだよ~~』
異世界ちゃんがいつの間に出したのか、大きな鏡をこちらに向けた。
そこにはフルフェイスのヘルメットを被り、バイク用のプロテクターのような装甲を、全身に身に纏った自分が映っていた。
一瞬でこんな物を身に着けるなんて、ホントに変身って感じだな。
『結構イイ感じでしょう~~?』
軽く体を動かしてみる。
……プロテクターに金属が使われているのかな? 防御力はありそうな感じがする。少し重たい気もするけど、これぐらいなら問題ないだろう。
「ええ、悪くないです。それにちょっとカッコイイですね」
『でしょう~~! それと「強化装甲」は「魔光ブラスター」と連動しているんだよ~~』
「「魔光ブラスター」と連動……?」
『まあ、実際に使用してみれば、直ぐにわかるかと』
元の世界さんに言われるまま、一先ず魔光ブラスターを使ってみることにした。
「展開」
一瞬にして魔光ブラスターが、右手に現れた。
そして、ヘルメットのシールドに、赤いマーカーのようなものが現れた。
「これは…………あ⁉ もしかして!」
『既に察しがついていると思いますが、シールドに映っているのは、レーザーポインターと同じ役割をする、魔光ブラスターのサイトになります』
『サイトの下にあるバーで、魔光ブラスターのチャージ具合がわかるよ~~』
「おお、なるほど! これは便利ですね!」
『更に追加で、「異世界殺法」からとっておきの武技まで付けちゃうよ~~』
異世界ちゃんから小さな光が飛んできて、自分の体の中に入った。
波怪振:直接触れた物にたいして、破壊の振動波を流す。使用中はOPが消費され、強さによって消費量が変わる。
九十九乱撃:高速の拳を打ち込むラッシュスキル。実際に九十九回、殴る訳ではない。OPを消費して使用。
爆破轟裂拳:拳から衝撃波を撃ちこむ正拳突き。OPを消費して使用。
ライトニングレッグラリアート:雷をのせた蹴撃。レッグラリアートでなくてもオーケー。MPとOPを消費して使用。
オーラガード:闘気を腕に纏って防御力を上げる。OPを消費して使用。
『どうよ~~? イイ感じでしょ~~!』
「正直、「異世界殺法」って実体のないペーパー拳法と思っていましたけど、ちゃんと技があったんですね」
『ニャンだと~~! 「異世界殺法」なめんなよ~~!』
「武技と言っていましたけど、スキルとは別なものなんですか?」
『同じものと、思っていいよ~~』
『かなり大雑把な区別の仕方ですが、OPを消費するものを武技、MPを消費するものを魔法だと考えて下されば』
「こういうスキルって重ね掛けと言うか、一度に複数を同時に使えるのですか?」
『使えるか使えないかで言えば、使えます。ただ、同時に使用するスキルが増えれば増えるほど、脳に処理の負担をかけることになります』
「脳……ですか。パソコンのCPUや、メモリーのような感じですか?」
『そういう感じですね。仮に持ち合わせた処理能力の、限界を超える負担が強いられた場合、脳に障害が発生してしまう可能性があります』
「ええ⁉ そんなのヤバいじゃないですか! そう言うのは勘弁してほしいのですけど……」
『大丈夫、大丈夫~~。今は死んじゃっているから、そんなの影響ないよ~~。好きなだけ自由に使っちゃって~~』
「いや、なんでもかんでも「死んでいる」からで済ませられても、ちょっと困るのですけど。実際に転生した際には影響ありますよね?」
『転生後については、一つ考えがあります。まあ、今は気にせずともよいかと』
「……本当ですか?」
『まかしといて~~。カッコ良くしちゃるよ~~』
カッコ良く? どういうことだ? う~~ん、なんかヤな予感がするんだけど……。
『今は転生後のことよりも、武技の使い方の方を、気にされたほうがいいかと』
「ん? ……もしかして今までのスキルとは、使い方が違うと……?」
『そう言うこと~~。全部が全部ではないけど~~、単純にスイッチをONにするだけでは、武技は発動しないんだな~~、これが』
「でしたら、どのようにすればいいのですか?」
『簡単な説明ですが、武技を発動させるに対応する体勢、もしくは動きの後に、タイミングを合わせて#武技__アーツ__名を叫ぶ必要があります。因みに、魔法の場合ですと、呪文を唱えなければなりません』
魔法に呪文が必要なのは、なんとなく意識があったけど、武技にも、そういった類のものが必要なのか……。
「……なんか難しそうですね」
『そうでもないよ~~。要は君、慣れだよ、慣れ~~』
『前にも申しましたけど、「習うより慣れよ」ですね』
元の世界さんと異世界ちゃんの言葉に内心懐疑的ではあったが、練習がてら実際に試してみたところ、予想外に上手くいった。
感触としては、格闘ゲームのコマンド技の入力に、近い感じを覚えるのだが、体勢や動き、#武技__アーツ__名を叫ぶタイミングなどは難しく考える必要はなく、割と直感的に体を動かすだけで、武技は発動させることが出来る。
身も蓋もない言い方だが、武技が発動しないと思われる状況では発動しないし、発動しそうと思われる状況では発動できるのだ。逆立ちした状態では九十九乱撃は発動できないし、四の地固めの最中にライトニングレッグラリアートは使えない。まあ、その辺は察しがつきやすいので問題ないのだが、一つだけどうしても気になる部分がある。
「爆破轟裂拳!」
突き刺した拳から衝撃波が発生し、目の前の巨大な岩が、一瞬にして内部から爆ぜるように砕け散った。
相手取った巨大な岩は見る影もなく、周りには元巨大な岩だった岩石が散らばっている。
自分でやっておきながらも、そのあまりの惨状に驚嘆の声を上げた。
「ふぇぇ……、凄い威力だなぁ」
繰り返し武技の練習をしていると、元の世界さんと異世界ちゃんが声をかけてきた。
『なかなか良い調子じゃないですか』
『「異世界殺法」の伝承者なる日も近いぞよ~~』
「いや、それはちょっと、自分には荷が重いかと……」
人前でそれを名乗るのは、こっ恥ずかしいから遠慮したいです。口には出さないけどね。
「それよりも、相談と言うか確認したいことがあるのですが、武技使う時、どうしても名は叫ばなければ、ならないものなんですかね?」
『武技名を叫ぶのは大事です。こういうものは、叫ばなければなりません』
『必殺技を叫ぶのは、古来からの習わしだろうが~~!』
気持ちはわからなくもないんだけどなぁ。自分も叫ぶものだと思っていたし……。でも、実際にやってみると、ちょっとねぇ……。
「あの……「ライトニングレッグラリアート」って長いから、叫ぶのがしんどいんですよね……。後、変に間が空くし……」
『それなら「ライトニングキック」でもいいですよ』
『最悪~~、「ライトニング」だけでもオ~ケ~だよ~~』
「え⁉ それでも大丈夫なんですか?」
自分から聞いといてなんだけど、それで大丈夫なのかな?
『特に問題ありません。それから、アーツ__#名が長いものは、多少、短縮しても構いません』
『いいんです~~。カッコ良ければ短縮しても、いいんです~~』
「いいんだ……」
リターンマッチの開始の合図と共に、心眼とピッチコントロールのスキルを発動させた。
集中力が高まり、感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。
前回は圧倒的な威圧感に飲まれて、何も行動できずに殺られてしまったが、今回はその対策として、直ぐにスキルを使うことにした。無論、強化装甲は開始前から装着済みだ。
真鉄人君がゆっくりと、静かに近づいてくる。体全体から禍々しい黒いオーラが滲み出ていた。
……相変わらず威圧感がハンパないねぇ。体が大きく感じるよ。って言うか、実際、鉄人君の頃と比べると、かなり大きくなっているよな。
深く深呼吸をして、気持ちを整える。
前回の嫌なことが思い浮かぶけど、ここまできたらヤルしかない!
真鉄人君が滑るように間を詰めて来た。そして、一切無駄のない滑らかな動きから、左手のドリルアームで、強烈なアッパーカットを突き上げた。
それをバックステップで後ろに下がり躱す。それと同時に、目の前を強い突風が突き抜けた。
怖ぇ――!
真鉄人君が続けざまに、右手のモーニングスターでストレートを放つ。
これも体を捻りながら横にステップを踏んで、なんとか躱した。
真鉄人君と一旦、間合いを取って気持ちを落ち着かせる。
「ふぅぅ――」
ちょっと危なかったけど、でも見える! 真鉄人の動きが見えるぞ! 体も動いてくれてるし、これならなんとかなりそうだ!
真鉄人君の死角になるように、サイドステップを軽快に刻みながら右から回り込む。
真鉄人君が、それに合わせて体を回転させた。
その際に生じる僅かな隙を狙って、攻撃を仕掛ける。
軽身功のスキルを使い瞬時に動いた。
「ライトニング!」
真鉄人君の右の膝に、雷の踵蹴り打ち込む。
真鉄人君にダメージを受けた様子は見られなかったが、一瞬、ほんの一瞬だが、動きが止まった。
今の自分には、それでも充分だった。
「ライトニング!」
ライトニングレッグラリアートによる雷プラス、軽身功のスキルによる一瞬の早業で、真鉄人君の腹部に中段回し蹴り、続けて側頭部に上段回し蹴りを炸裂させた。辺りに雷鳴が鳴り響く。
手応えバッチシ! ここで一気にいく! 剛体功とそれに――。
「九十九乱撃!」
怒涛の勢いで拳撃が繰り出され、真鉄人君を縦横無尽に打ち込んでいく。
「オオオォォォォ――――ゥゥッ‼」
イケる! これならイケるぞ!
しかし、勝利を確信した瞬間、思いもよらない反撃を食らった。
真鉄人君は九十九乱撃の猛打の嵐の中に、凶悪な右手のモーニングスターを突き刺した。
まるで鉄骨にでもぶつけられたような、凄まじい衝撃が頭部を襲う。
「グヒィ!」
ヘルメットが砕け散り、頭から床に打ち付けられて激しく転がっていく。
頭の中がグワングワンと鳴っていて、何がなんだがわからない。とにかく体中に衝撃が走っていた。
朦朧とする意識の中、何とか体を動かそうとする。
立ち上が……らないと……追撃が……。
しかし、気持ちとは裏腹に、体が言うことを聞いてくれない。
不意に、全てが止んだ。
あれほどの混迷状態であったものが、今は何事もなかったかのように、頭がスッキリとしていた。
……どうなったんだ? ……スパーリングが終わったのか?
体の状態を確かめながら、ゆっくりと立ち上がった。
あれほどのことがあったのに、体に一切ダメージは見当たらない。
周りを見渡すと、真鉄人君たちの姿が二十メートル以上は先に見えた。
……こんなにぶっ飛ばされていたのか。よく死ななかったな。いや、違うか、死んだから終わったのかな?
真鉄人君たちの元へ向けて、トボトボと歩き出す。
しかし、あの状態から一発でひっくり返す⁉ いくらなんでもそりゃないぜ。
だが、不思議と嫌な感じはなかった。むしろ気持ちが高揚しているのを感じる。
ハハ、なんだよ? 何かよくわからないけど、なんだか楽しくなってきたな。もしかして、これが強敵になるってことなのか?
再びスパーリングをする為に、真鉄人君たちの元へ歩む足を速めた。
あれからスパーリングを幾ら行っただろうか? 優に百は超えるであろう。
何度となく骨は砕かれ、肉は切り裂かれて、その結果は散々な有様だ。
スパーリングの間間に対策がてら練習を行い、色々と試してみたが、それでも真鉄人君には終始圧倒されて、底知れない強さをまざまざと見せつけられた。
どちらかと言うと、こういう荒事は苦手であきらめは早い方だと思っていたが、自分でも不思議なことに、一向に闘志が衰えることはなかった。
それにしても全く勝てないねぇ……。う~~ん、スキルを上手く使いこなせていないのかな? それとも、アプローチが悪いのか? 取り敢えずちょっと方向性を変えてみるか。
スパーリングの開始の掛け声と共に、軽身功のスキルを使用して、真鉄人君へ一気にダッシュした。
攻撃も防御も強力な為、どうにか隙を見つけようとして、真鉄人君の出方を窺う戦い方を繰り返していたが、どうしても強引に押し切られてします。リスクは上がるが、これまでと趣向を変えて、ここはひとつこちらから仕掛けてみることにした。
しかし、真鉄人君はこちらの考えを見透かしていた。
真鉄人君の右手には、既に黒い波動が宿っていて、カウンターを取るように、それを横に払って一閃させた。
黒い波動が扇状に投射され、一気に襲い掛かってくる。
「オワァッ⁉」
すんでのところで、スライディングして滑り込み躱した。
だが、その先に待ち構えていたのは、真鉄人君の強烈なフロントキックであった。
「オーラブロック!」
咄嗟にスキルも交えて、両腕を交差させて防御する。
「ンンギィッ!」
それでも、強烈なフロントキックを食らって、ピン本玉のように弾き飛ばされた。
強化装甲とオーラブロックが無ければ、この時点で終わっていただろう。
両腕に強い痛みを感じる。それを踏ん張って我慢し、体勢を立て直す為に急いで立ち上がった。
次の瞬間、思いもよらない光景が目に映る。
空中で黒い波動を纏った両手を握りしめ、腕を振り上げて大きくのけ反る真鉄人君の姿だ。
「マジでっ⁉」
あたふたしながらも、すぐさま飛び込むように横に転がった。
真鉄人君は地面に着地すると同時に、巨大な槌の如く両手を振り下ろした。
凄まじい衝突音と共に、黒い波動が衝撃波となって広がっていく。
「ウオゥッ!」
暴風のような強烈な衝撃波を受け、一気に吹き飛ばされた。
気が付いたら三十メートル近く吹き飛ばされていた。
クラクラする頭を振りながら起き上がる。体の至る所が痛い。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
乱れた呼吸を整えながら状況を確認する。
衝突で地面に出来たクレータの真ん中で、真鉄人君が両手を少し広げて、抱え込むような姿勢を取っていた。
そして、掌の間に幾つもの迸る光る球体が現れる。
「ゲェっ、マズいっ!」
光る球体は、一発でもまともに食らえば死に至らしめる、デンジャラスな炸裂弾だ。
真鉄人君の掌から、光る球体が勢いよく飛び出した。
それを見とがめて、猛然と横に駆け出す。
光る球体は誘導ミサイルのように、次々とこちら目がけて飛来してきた。
通過した後を光る球体が落下し、大きな音を立てて炸裂する。
炸裂音が背後から迫ってきた。
「一気に引き離してやる!」
軽身功のスキルを使い、更に駆けるスピードを上げた。
背後から聞こえていた炸裂音が離れていく。
猛然とかける中、横目で真鉄人君を確認する。
いつの間にか真鉄人君の目の前に、大きな魔法陣が展開されていた。
「あ、それは……!」
魔法陣から、無数の黒いレーザーのような閃光が放たれる。先程の炸裂弾よりも、遥かに弾速が速い。このままでは確実に直撃する。
「チキショウめ――!」
駆けるのを止め、強い慣性に逆らって、その場に停止する。
「サイコバリア!」
障壁が展開されると同時に、黒いレーザーが激突する。そして、少し遅れて炸裂弾も追いついてきた。
サイコバリア越しでも、かなりの衝撃が伝わってくる。
更に追加で、巨大な火の玉が降ってきて、サイコバリアに激突した。
「うひゃぁー」
サイコバリアの周りが炎で包まれ、まるでマグマの中にでも居るみたいだ。
それでもサイコバリアは崩れない。内部には熱は伝わってこずに安泰であった。
サイコバリアの頼もしさに、一見、安堵できる状況だが、口から出たのは泣き言だった。
「ダメだなこりゃ。もう詰んだな……」
サイコバリアは防御力が高く、360度の範囲を防いでくれる非常に優秀なスキルだが、その場から動けなくなるのが難点だ。しかも、現在のように絶え間なく攻撃されると、どうしても何も出来ずに動けなくなってしまう。
それでも、相手にサイコバリアを打ち破る力が無ければ問題ない。高い防御力から考えると、その実現性は非常に乏しく、むしろ攻め疲れを待って隙を突くチャンスだろう。普通ならそうだ、普通なら。
だがしかし、残念ながら、それを持っているのだ真鉄人君は。サイコバリアを打ち破れる力を。
周りの炎をものともせずに、真鉄人君がサイコバリアの前までやって来た。そして、おもむろに左腕のドリルアームを振りかぶり、勢いよく突き刺す。
サイコバリアが悲鳴を上げるかの如くに、金属が軋むような独特の音が伝わってくる。
このままならサイコバリアごと、ドリルアームによって葬り去られるだろう。かといって、サイコバリアを展開中は動くことは出来ないし、今解除しても瞬殺されるだけだ。
こうなってしまってはどうにもならないな。後は座して死を待つのみかぁ。あ~~あぁ、自分から仕掛けていくつもりだったのに、まともな攻撃ひとつ出来ていないや。
ふと、ある考えが頭に浮かんだ。
攻撃……? 別に攻撃出来ないってこともないのか。そうだよな!
「展開!」
ハンマーを起こして、魔光ブラスターを構える。
狙いは真鉄人君のドリルアームだ。
タイミングが……大事。
あまり褒められたことじゃないが、これまで何度となく、同じような状況で繰り返し殺られてきた。
今こそ、その糧が生きる時。
段々とサイコバリアの悲鳴が激しくなっていき、経験が合図を鳴らす。
「今だ!」
引き金を引くと同時に、サイコバリアが砕け散った。
銃口からフルチャージされた極太の閃光が発射され、真鉄人君のドリルアームを貫く。
左腕が丸ごと吹き飛び、真鉄人君が信じられないものでも見るかのように、己の肩口付近に顔を向けた。
「どうだ、思い知ったかっ!」
思わず歓喜の声を上げたが、直ぐに我に返った。
あれ⁉ これ凄いチャンスじゃないか? 今行くべきだよな!
魔光ブラスターを収納しながら、一気に真鉄人君の懐に入り、胴体を両手でしっかりと掴まえた。
「波壊振!」
フルパワーで破壊の振動波を流し込む。すると、真鉄人君の胴体に音を立てて亀裂が入った。
イケるか――⁉
不意になんとも言えない悪寒が走った。
咄嗟に両手を放し、直ぐにバックステップをして距離を取る。
その直後、目の前を突風が突き抜けた。
真鉄人君の右腕による、モーニングスター付きのアッパーカットだ。
「アッブね―! もう少しで……ん⁉」
しかし、真鉄人君の攻撃は、それで終わりではなかった。振り上げた勢いを利用して、後ろ飛び回し蹴りを放ってきた。
「グウッ!」
どうにか両腕で防御したが、またしても強烈な蹴りで、ピンポン玉の如く弾き飛ばされた。
地面に吹き飛ばされ転がりながらも、直ぐに体勢を立て直して立ち上がった。
遠く離れた位置に真鉄人君が見える。
それは異様な光景であった。
左腕を吹き飛ばされたというのに、真鉄人君の体から黒いオーラがどんどん溢れ出し、威圧感が格段に強くなって凄みを増している。
「へへ……ヤバいねぇ。メッチャ怒っている感じだなぁ。オレ程度にそこまでヤラられたのが、気に食わないってか」
それでも、数えきれないほどスパーリングを行ってきたが、真鉄人君にここまでダメージを与えたことは、一度として無かった。
自らを鼓舞するように言い聞かせる。
「今だ……今がチャンスなんだ! 気後れしている場合じゃない!」
魔光ブラスターを展開し、真鉄人君に向けて走り出した。
真鉄人君も示し合わせたかのように、こちらに向かって走りだす。
魔光ブラスターから閃光を放ち、真鉄人君を牽制しつつ、軽身功のスキルを使い、更に走る速度を上げた。
真鉄人君は右肩付近に、魔法陣の盾を展開させ、閃光を弾きながら突進してくる。
それを見とがめ、強く地面を蹴った。
「ライトニング!」
軽身功の全速力に加え、雷を付加したドロップキック。
真鉄人君が展開する魔法陣の盾に、ドロップキックが直撃し雷が轟く。
互いの慣性が激しくぶつかり合い、真鉄人君がよろけて二、三歩後退した。
「これでも倒れないのか⁉ でも――」
魔光ブラスターを操作して、真鉄人君に銃口を向けた。
それに反応して、真鉄人君が肩口をこちらに向け、魔法陣の盾を前に出す。
引き金を引くと、銃口から光る球体が発射され、真鉄人君の目の前で、破裂して大きな音をたてた。
閃光弾。強烈な光と爆音で相手にショックを与え、行動を阻害する、魔光ブラスターのオプションだ。
真鉄人君はモーニングスターの右腕で顔を覆い、動きが固まった。
「流石の真鉄人君も、これは予想してなかっただろっ!」
魔光ブラスターを格納して、左手を前に出し、そこから弓を引くように、右手をゆっくりと後ろに下げていく。
それに呼応して、魔導練気により体内で練られた気が、右の拳に集まっていった。
真鉄人君がようやく閃光弾のショックから立ち上がり、こちらを見たがめて、モーニングスターの右腕を振り上げた。
「遅いよ」
こちらの方が半歩、動くのが早かった。
「爆破轟裂拳!」
波壊振によってできた真鉄人君の胴体の亀裂に、右の正拳を打ち込むと、それと同時に、拳に集まっていた気が、衝撃波となって爆発する。
真鉄人君の胴体に入っていた亀裂の部分が、衝撃波によって吹き飛んで、砕け散った。
真鉄人君はヨロヨロと後退り、その場に膝をついた。砕け散った部分からは、漆黒の闇だけが見える。
それでも、真鉄人君は立ち上がろうと動き出す。
「展開」
ハンマーを起こして、魔光ブラスターを構えた。
真鉄人君はダメージから、動きがかなり緩慢としている。
最終的に真鉄人が立ち上がった頃には、魔光ブラスターはフルチャージされていた。
引き金を引くと、魔光ブラスターの銃口から、極太の閃光が発射された。
極太の閃光が真鉄人君の胴体を貫き、反対側が見えるほどの大きな穴をあけた。
そして、真鉄人君は溺れる人の様に、手を伸ばしてゆっくりと藻掻きながら倒れた。
真鉄人君に動く様子は見られない。
辺りは静寂に包まれた。
「ハァ……ハァ……ヤッた……のか?」
生存確認の為、真鉄人君に近づく。
真鉄人君は胸と脇腹に大きな穴が開いていて、微動だにしない。
「……これ倒しているよな? 勝ったって……こと……?」
ここにきて、ようやく事を認識する。
両腕を震わせて構え、歓喜を上げて吠えた。
「オオオォォォォ――――――っ‼ ヤッタ―! やったぞ! ついに倒したんだ!」
何百回と行ってきたスパーリングの中で、ようやく手にした勝利に、心底打ち震えた。
何度心が折れかけただろうか? 何度となく骨は砕かれ、肉は切り裂かれて散々ひどい目に合いながらも、それでもどうにか踏みとどまり、真鉄人君に食らいついてきた。
この勝利を手に出来たのも、ひとえに……正直、自分でもよくわからないけど、不思議とずっと続けてこれた成果だろうな。
不意に、真鉄人君が何事もなかったかのように、すくりと立ち上がった。
「えええぇぇぇぇぇぇ――――――っ⁉」
あれだけダメージを与えたのに、真鉄人君の体には、損傷個所が全く見当たらなかった。
驚愕して目を丸くしていると、横から声が聞こえてきた。
『おめでとうございます。あなたの勝利ですね』
『You、win~~!』
『驚きましたね。まさか勝ってしまうとは』
『ホント~~、ビックリだよ~~』
真鉄人君にようやく勝利できたのは嬉しいが、元の世界さんと異世界ちゃんの言葉に違和感を覚えた。
「ど、どうも。あの……随分と驚いていますね」
『ええ、勝つとは思っていませんでしたから』
『まさか、まさかの~~、勝利だからね~~』
ここである疑念が生まれた。
「えぇ……と、これ勝てない想定だったんですか? もしかして負けイベントって言われる奴?」
元の世界さんと異世界ちゃんはあっさりと白状した。
『そうですね』
『そうだよ~~』
「だったら、途中で止めてくれてもいいじゃないですか! 結構いっぱい酷い目に合いましたよ! そしたらこんなにまで、苦労しなくても良かったのに!」
『ええ、そうでしょうね。でも、なかなか面白い見世物だったので、ついつい見入ってしまいました』
『そうね~~。でも~~、どうせ死んでいるんだから、いいじゃな~~い。気にすんなよ~~』
「いやいやいや、気にしますよ! って言うか、なんでも面白いとか、死んでるからで片づけられたら、こっちはたまったもんじゃないです!」
『いいじゃないですか。その分、大分頑張りましたので、真鉄人君も貴方のことを強敵として認めてくれてますよ』
『そうだよ~~。真鉄人君に勝利したのを記念して~~、特別に勇者として讃えようぞ~~』
直ぐ傍らで、真鉄人君が無言で拍手していた。
「あ、ありがとう……。でも、嬉しいんだか嬉しくないんだか、ちょっと微妙な感じが……」
『おや、お気に召しませんか?」
『ええ~~ぇ! また、そんなこと言って~~、真鉄人君も悲しんじゃうよ~~!」
真鉄人君は無言で突っ立っていた。
「いや、あの、そう言われましても、表情無いし、しゃべんないから、よくわからないんですけど」
『それはさておき、「修行」は、これで終了となります』
『これで「異世界殺法」の伝承者だね~~』
「……本当ですか?」
ようやく「修行」から解放されるのは嬉しいが、これまでのこともあってか、どうしても猜疑心が強くなってしまう。
元の世界さんと異世界ちゃんはキッパリと言った。
『本当です』
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『ええ、これからは貴方が「異世界殺法」の伝承者です』
『応よ~~。伝承者として「異世界殺法」の普及に、励むがよいぞ~~』
「いや、そっちじゃねぇよっ‼ 「修行」が終了かだよっ‼」
『ああ、そっちですか。特にネタも無いので、もう終わりですよ』
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