ごーいんぐ魔人うぇい~魔人に転生しての気ままに我儘な異世界ライフ~

伊達メガネ

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第三章

激闘、真鉄人君

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『そろそろゲームも終わりでしょうか?』
『そうだね~~。もうネタも尽きちゃったよ~~』
 元の世界さんと異世界ちゃん二人の言葉にほっと胸をなでおろした。
 これまで訳のわからないゲームを色々とヤラされて、散々酷い目に合ってきたけど、ようやくそれも終わりのようだ。
「ようやく終わ――」
『では、最後の修行にいきましょう』
『ラァァァスト、トレェェニィィィ~~グゥゥ!』
「……最後? もういいじゃないですか? どうせ爆発するんだろうし、もうコリゴリですよ」
『安心してください。ちゃんと最後は修行です。これから改めて鉄人君とスパーリングをしてもらいます。ただし、前と同じことを行ってもあまり効果はありませんので、今回スパーリングを行う鉄人君は、以前とは少々異なります』
 ……っていわれてもね。まともな修行をするとは、思えないんですけど。ずっと爆発してばっかりだったし……。
 異世界ちゃんがこれまでの雰囲気とは打って変わって、厳かな調子で言葉を繰り出す。
『鉄人君よ、今こそ汝の真なる力を覚醒させ、比類なきつわものたる力を顕現させよ』
 異世界ちゃんの言葉に反応して、鉄人君の姿が変形する。頭の両側から闘牛のような大きな角が生えてきて、体全体が筋骨隆々と逞しくなり、右手にはモーニングスターのように棘が突き出た鉄球と、左手には大きなドリルアーム、膝から脛にはノコギリのような刃が付いていて、つま先と踵には鋭利な爪が突き出した。
 突然の鉄人君の凶悪な変貌ぶりに、目を丸くするしかなかった。
『少々姿形が変わってしまいましたけど、これまで通り仲良くしてやってください。ただ、流石に依然とは区別したほうがよろしいと思いますので、これからは「鉄人君」改め、「真鉄人君」と呼んであげてください』
『真なる力を開放した関係で、ちょっと見栄えが変わっちゃったけど~~、あんまり気にしないで、これからも仲良くしてあげてね~~』
「いや、コレ「少々」とか「ちょっと」と言うレベルじゃないでしょ! 初めてあった頃の面影が、全くないじゃないですか!」
『それでは、スパーリングを始めましょう』
『真鉄人君ファァイトォォ~~、レディィゴォォォ~~!』
「ちょっと待って! またいきなり過ぎるでしょ! ここまで変わったら完全に別人ですし、もっとこう……改めて自己紹介的なものとか、短いのか長いのかよくわからない付き合いだったけど、今までありがとうね、とか、そんな姿になって今更グレちゃったの――」
『集中していないと、危ないですよ』
『注意一秒怪我一生~~、後悔先に立たずの、後の祭り~~』
 ……⁉
 背中にゾクリと悪寒が走った。これまで生きてきた中で感じたことのない、強烈な重圧プレッシャーを感じる。
 真鉄人君がこちらに向けて、ゆっくりと歩き出した。
 なんだ? あれは……。
 真鉄人君の体から、黒いオーラのようのものが滲み出ている。
 鼓動が一気に高鳴り、恐怖が体を抑えつけてきてた。体が上手く動かない。さながら蛇に睨まれた蛙のようだ。
 文字通りあっと言う間であった。
「あ……」
 真鉄人君がいきなり目の前に躍り出る。さして動きは早くないのに、意識の隙間に滑り込むように虚を突かれ、一気に間合いを詰められた。
「ヤバ‼」
 咄嗟に両腕を上げて身構えようとした瞬間、目の前を突風が突き上げて、横に何かが転げ落ちた。
 チラリと横目に、見覚えのあるモノが映った。
 ……腕? なんで腕が……アレは⁉
 驚愕して自分の右腕を見ると、そこには在る筈のモノが無かった。
 代わりに目に映ったのは、腕の途中から肉が裂けて骨が剝き出しになり、勢いよく血が噴き出る光景だ。
 横に落ちていたのは、自分の右腕であった。
「はははぁぁあああぁぁぁ――――⁉」
 なんで⁉ なんで⁉ いや、見てない‼ 何も見ていない‼ 意識するな‼ 忘れろ‼ 兎に角忘れろ‼ でないと――。
 現実はいつも、こちらの都合などお構いなしにやって来る。
 右腕に、これまでに味わったことのない強烈な痛みが走った。
「クゥ――――――――――――ッ‼」
 あまりに痛みから体を硬直させて、その場に蹲った。
 痛い‼ 痛い‼ これ‼ ウォ――ッ‼ マジ‼ マジで――‼ 痛い‼ ちょっと痛いんですけどッ‼
 しかし、幸か不幸か痛みは直ぐに止む結果になった。
 頭に強い衝撃を感じると、ブレーカーが落ちるように意識が途絶えた。
 そして、今度はパソコンが起動するように、意識が段々と覚醒していく。
 数秒の後、意識がハッキリした時には、痛みは完全になくなっていた。
 何度も似たようなことを、繰り返していたおかげで、状況は直ぐに理解できた。
 それと、新たに気付かされた点もあった。
 ……今まで爆発ばっかりでうやむやな感じになっていたけど、やっぱり死んでいても、ちゃんと死ぬってことだな。


 元の世界さんと異世界ちゃんが呑気な調子で聞いてきた。
『どうでしたか? 真鉄人君は』
『つ、よ、い、でしょ~~! 真鉄人君!』
 すかさず食い気味に声を返す。
「無理です‼ ギブアップします‼」
『まだ一回しかスパーリングを行っていないのに、随分と速いギブアップですね』
『ええ~~、ツマンな~~い!』
「ツマンなくはないです‼ 十分エキサイティングでしたよッ‼ あんなのとやり合っていたら、命が幾つあっても足りません‼」
『既に死んでいますので、そこは問題ないと思います』
『お前はもう死んでいる~~!』
「そういうことではなくて! 真鉄人君アレは頑張ればどうにかなる、というレベルを遥かに超えています! そもそも戦いにすらなっていないのですから、それをどうしろって言うのですか! いくらなんでも無理だっちゅ~~の!」
『ホラ~~!』
「………………何がです?」
『だっちゅ~~の~~!』
「わかりませんよ! 胸を寄せているのか知らないですけど! 貴方たちは光だけだから、何をやっているか分からないんです! それに古い! 古いですよ! 今の子たちじゃあわからないでしょ!」
『困りましたねぇ。こんなところでくじけられては、真鉄人君と仲良くなれませんよ』
『そうだよ~~! 「強敵」と書いて「友」と呼ぶんだよ~~!』
「男〇ですか! 「仲良くして下さい」って、そういう意味だったの⁉ って言うか、「これまで通り仲良くしてやって下さい」って言ってましたけど、これまでだってそんなに仲良くなかったですよ!」
『サラっと中々に、酷いことを言いますね』
『切ないね~~。仲良くしてると思ってたのは、真鉄人君の独りよがりだったの~~?』
「もういいですよ! なんかもう色々と! いい加減こういうの無しで、強くしてくれませんか?」
 異世界ちゃんがあからさまに不満を表した。
『そういうの嫌い~~!』
「好きとか嫌いとか、そういう問題じゃないでしょ! こっちは命が掛かっているんですから!」
 元の世界さんがこれまでと打って変わって、真剣マジなトーンで口を開いた。
『何の苦労も無しに、ただ与えられるだけで、「力」を自らの物にすることが出来るでしょうか? やはり苦難を糧に研鑽を積まなければ、真に「力」を会得することは叶わないでしょう。ましてや、貴方が求めるのは「魔物やモンスターを圧倒し、過酷な環境でもものともしない強さ」という突出したもの。もし使い方を誤れば、自らを災いに晒すばかりか、周りにも不幸を振りまいてしまいます。貴方だって安易に手に入るものを、慎重には扱いませんよね? 「修行」とは、そういったことに対しての意味もあるのですよ』
「……………………」
 時折、至極真っ当なことを言うのだもんなぁ。確かにその通りだけど……。
 だが、元の世界さんは直ぐに、これまで通り口調に戻ると、あっさりと言動を翻した。
『とは言いましても、今のままでは真鉄人君の足元にも及ばないどころか、足の裏の角質を削ることさえ叶いません。例の如くスキルでドーピングすることしましょう』
『ド~~ピングド~~ピング、ヤッホ~~ヤッホ~~♪』
「いや……素直にありがたいではあるのですけど。その「ドーピング」ってはちょっと……」


『先ずは現在の力を、底上げしましょう』
 元の世界さんから小さな光が飛んできて、自分の体の中に入った。

 魔導練気まどうれんき:魔力と闘気が扱えるようになり、その流れを感知できるようになる。

 剛体功ごうたいこう:気を体中にみなぎらせて力を増加させる。使用の際はOPオーラポイントが消費される。

 軽身功けいしんこう:身軽になり素早く動けるようになる。使用の際ははOPが消費される。

 サイコバリア:念動力による強固な障壁を、半円球状に展開する。使用の際はMPマジックポイントが消費される。

 強化装甲きょうかそうこう:専用の装甲を装着。使用中はMPとOPが消費されていく。

「MPとOPって……アレですよね? ゲームとかでお馴染みの」
『ええ、その通りです。そのMPとOPになります』
 やっぱり異世界って、そう言うのがあるんだな。
『今回のスパーリングに限っては、特別に制限なしの出玉開放状態なのだ~~。ジャンジャンバリバリ使いたい放題だよ~~』
「……パチンコみたいですね。使い方はこれまでと同じですか?」
『スキルによって多少使い方は変わります。「剛体功」と「軽身功」は一定のOPを消費して発動し、一時的にスキルの効果を得ますが、「魔導練気」は常時発動しているスキルなので、スキルを付加した時点で、その効果を得ます』
『「サイコバリア」と「強化装甲」は使用している間、ずっとMPやOPが使われていくから気を付けてね~~』
「ああ、必要無くなったら、スキルを止めないといけないと?」
『そゆこと~~。因みに、「強化装甲」を使う時は、変身ポーズを決めた後に、「装着」って叫んでね~~』
「変身ポーズ……?」
『カッコ良ければ、なんでもオーケーだよ~~』
 急に、そんなことを言われてもな。う~~ん……。
「でしたら、取り敢えず……」
 左の拳の掌を上にして腰だめに握り、右手を左斜め上に突き出し、ゆっくりと右斜め上に動かして、弓を引くように腰だめに引き、万歳するように両手を突き出して叫んだ。
「装着!」
『オリジナリティがないから、50点~~』
 オリジナリティときたか……。
「それなら……」
 両手を肘を起点にしてグルグルと回しながら、力強く地団駄を踏み鳴らして両手を天に突き出し、大きくジャンプして叫んだ。
「装着!」
『かっこ悪~~い。20点~~』
 手厳しいな。オリジナリティはあったと思うけど。
「だったら……」
 左右の正拳突きを繰り出し、裏拳から上段回し蹴り、さらに高く跳躍しながら後ろ回し蹴りを決め、締めにもう一度、左右の正拳突きを繰り出して叫んだ。
「装着!」
『結構カッコイイかも~~! 80点あげる~~!』
「そ、そうですか?」
 なんか照れますなぁ。状況によっては、人前でコレをやるのかぁ……。
『それでは、そのポーズで登録してもいいですか?』
「登録……? 登録ってどういうことですか?」
『「強化装甲」を装着する際に使用する合図シグナルの登録です。任意のポーズで登録することが出来ます』
「んん⁉ それでしたら、変身ポーズって別にかっこよくなくても、なんでもいいんですか? 極端な話、親指を立てて「装着」って叫ぶだけでも……?」
『それでも可能です。基本的に間違って装着してしまう紛らわしいものや、覚えられないような複雑なものでもなければ問題ありません』
「だったら、それでいいんじゃないですか?」
『ええ~~! そんな変身ポーズ嫌だ~~! ツマンな~~い!』
「いや、こっ恥ずかしいから勘弁してほしいです。実際にやる方の身にもなって下さいよ。って言うか。それならそうと、先に言ってくれればいいのに……」
『なんだかちょっと面白そうでしてので、生暖かく見守っていました』
「……………………」
 まあ、そういう人だよね。この人たちは……。
 結局、異世界ちゃんがブーブー言うので、親指を立てるだけの装着はあきらめたが、最終的に胸の前で両腕を交差させて装着するという、それっぽい形で変身ポーズは落ち着いた。
「装着!」
 次の瞬間、一瞬にして体を何かが包み込んだ。
「おおぅ⁉」
『こんな感じだよ~~』
 異世界ちゃんがいつの間に出したのか、大きな鏡をこちらに向けた。
 そこにはフルフェイスのヘルメットを被り、バイク用のプロテクターのような装甲を、全身に身に纏った自分が映っていた。
 一瞬でこんな物を身に着けるなんて、ホントに変身って感じだな。
『結構イイ感じでしょう~~?』
 軽く体を動かしてみる。
 ……プロテクターに金属が使われているのかな? 防御力はありそうな感じがする。少し重たい気もするけど、これぐらいなら問題ないだろう。
「ええ、悪くないです。それにちょっとカッコイイですね」
『でしょう~~! それと「強化装甲」は「魔光ブラスター」と連動しているんだよ~~』
「「魔光ブラスター」と連動……?」
『まあ、実際に使用してみれば、直ぐにわかるかと』
 元の世界さんに言われるまま、一先ず魔光ブラスターを使ってみることにした。
「展開」
 一瞬にして魔光ブラスターが、右手に現れた。
 そして、ヘルメットのシールドに、赤いマーカーのようなものが現れた。
「これは…………あ⁉ もしかして!」
『既に察しがついていると思いますが、シールドに映っているのは、レーザーポインターと同じ役割をする、魔光ブラスターのサイトになります』
『サイトの下にあるバーで、魔光ブラスターのチャージ具合がわかるよ~~』
「おお、なるほど! これは便利ですね!」


『更に追加で、「異世界殺法」からとっておきの武技アーツまで付けちゃうよ~~』
 異世界ちゃんから小さな光が飛んできて、自分の体の中に入った。

 波怪振はかいしん:直接触れた物にたいして、破壊の振動波を流す。使用中はOPが消費され、強さによって消費量が変わる。

 九十九乱撃つくもらんげき:高速の拳を打ち込むラッシュスキル。実際に九十九回、殴る訳ではない。OPを消費して使用。

 爆破轟裂拳ばくはごうれつけん:拳から衝撃波を撃ちこむ正拳突き。OPを消費して使用。

 ライトニングレッグラリアート:雷をのせた蹴撃。レッグラリアートでなくてもオーケー。MPとOPを消費して使用。

 オーラガード:闘気を腕に纏って防御力を上げる。OPを消費して使用。

『どうよ~~? イイ感じでしょ~~!』
「正直、「異世界殺法」って実体のないペーパー拳法と思っていましたけど、ちゃんと技があったんですね」
『ニャンだと~~! 「異世界殺法」なめんなよ~~!』
武技アーツと言っていましたけど、スキルとは別なものなんですか?」
『同じものと、思っていいよ~~』
『かなり大雑把な区別の仕方ですが、OPを消費するものを武技アーツ、MPを消費するものを魔法マジックだと考えて下されば』
「こういうスキルって重ね掛けと言うか、一度に複数を同時に使えるのですか?」
『使えるか使えないかで言えば、使えます。ただ、同時に使用するスキルが増えれば増えるほど、脳に処理の負担をかけることになります』
「脳……ですか。パソコンのCPUや、メモリーのような感じですか?」
『そういう感じですね。仮に持ち合わせた処理能力の、限界を超える負担が強いられた場合、脳に障害が発生してしまう可能性があります』
「ええ⁉ そんなのヤバいじゃないですか! そう言うのは勘弁してほしいのですけど……」
『大丈夫、大丈夫~~。今は死んじゃっているから、そんなの影響ないよ~~。好きなだけ自由に使っちゃって~~』
「いや、なんでもかんでも「死んでいる」からで済ませられても、ちょっと困るのですけど。実際に転生した際には影響ありますよね?」
『転生後については、一つ考えがあります。まあ、今は気にせずともよいかと』
「……本当ですか?」
『まかしといて~~。カッコ良くしちゃるよ~~』
 カッコ良く? どういうことだ? う~~ん、なんかヤな予感がするんだけど……。
『今は転生後のことよりも、武技アーツの使い方の方を、気にされたほうがいいかと』
「ん? ……もしかして今までのスキルとは、使い方が違うと……?」
『そう言うこと~~。全部が全部ではないけど~~、単純にスイッチをONにするだけでは、武技アーツは発動しないんだな~~、これが』
「でしたら、どのようにすればいいのですか?」
『簡単な説明ですが、武技アーツを発動させるに対応する体勢、もしくは動きモーションの後に、タイミングを合わせて#武技__アーツ__名を叫ぶ必要があります。因みに、魔法マジックの場合ですと、呪文を唱えなければなりません』
 魔法マジックに呪文が必要なのは、なんとなく意識があったけど、武技アーツにも、そういった類のものが必要なのか……。
「……なんか難しそうですね」
『そうでもないよ~~。要は君、慣れだよ、慣れ~~』
『前にも申しましたけど、「習うより慣れよ」ですね』
 元の世界さんと異世界ちゃんふたりの言葉に内心懐疑的ではあったが、練習がてら実際に試してみたところ、予想外に上手くいった。
 感触としては、格闘ゲームのコマンド技の入力に、近い感じを覚えるのだが、体勢や動きモーション、#武技__アーツ__名を叫ぶタイミングなどは難しく考える必要はなく、割と直感的に体を動かすだけで、武技アーツは発動させることが出来る。
 身も蓋もない言い方だが、武技アーツが発動しないと思われる状況では発動しないし、発動しそうと思われる状況では発動できるのだ。逆立ちした状態では九十九乱撃つくもらんげきは発動できないし、四の地固めの最中にライトニングレッグラリアートは使えない。まあ、その辺は察しがつきやすいので問題ないのだが、一つだけどうしても気になる部分がある。
「爆破轟裂拳!」
 突き刺した拳から衝撃波が発生し、目の前の巨大な岩が、一瞬にして内部から爆ぜるように砕け散った。
 相手取った巨大な岩は見る影もなく、周りには元巨大な岩だった岩石が散らばっている。
 自分でやっておきながらも、そのあまりの惨状に驚嘆の声を上げた。
「ふぇぇ……、凄い威力だなぁ」
 繰り返し武技アーツの練習をしていると、元の世界さんと異世界ちゃんふたりが声をかけてきた。
『なかなか良い調子じゃないですか』
『「異世界殺法」の伝承者なる日も近いぞよ~~』
「いや、それはちょっと、自分には荷が重いかと……」
 人前でそれを名乗るのは、こっ恥ずかしいから遠慮したいです。口には出さないけどね。
「それよりも、相談と言うか確認したいことがあるのですが、武技アーツ使う時、どうしても名は叫ばなければ、ならないものなんですかね?」
武技アーツ名を叫ぶのは大事です。こういうものは、叫ばなければなりません』
『必殺技を叫ぶのは、古来からの習わしだろうが~~!』
 気持ちはわからなくもないんだけどなぁ。自分も叫ぶものだと思っていたし……。でも、実際にやってみると、ちょっとねぇ……。
「あの……「ライトニングレッグラリアート」って長いから、叫ぶのがしんどいんですよね……。後、変に間が空くし……」
『それなら「ライトニングキック」でもいいですよ』
『最悪~~、「ライトニング」だけでもオ~ケ~だよ~~』
「え⁉ それでも大丈夫なんですか?」
 自分から聞いといてなんだけど、それで大丈夫なのかな?
『特に問題ありません。それから、アーツ__#名が長いものは、多少、短縮しても構いません』
『いいんです~~。カッコ良ければ短縮しても、いいんです~~』
「いいんだ……」


 リターンマッチの開始の合図と共に、心眼とピッチコントロールのスキルを発動させた。
 集中力が高まり、感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。
 前回は圧倒的な威圧感プレッシャーに飲まれて、何も行動できずに殺られてしまったが、今回はその対策として、直ぐにスキルを使うことにした。無論、強化装甲は開始前から装着済みだ。
 真鉄人君がゆっくりと、静かに近づいてくる。体全体から禍々しい黒いオーラが滲み出ていた。
 ……相変わらず威圧感プレッシャーがハンパないねぇ。体が大きく感じるよ。って言うか、実際、鉄人君の頃と比べると、かなり大きくなっているよな。
 深く深呼吸をして、気持ちを整える。
 前回の嫌なことが思い浮かぶけど、ここまできたらヤルしかない!
 真鉄人君が滑るように間を詰めて来た。そして、一切無駄のない滑らかな動きから、左手のドリルアームで、強烈なアッパーカットを突き上げた。
 それをバックステップで後ろに下がり躱す。それと同時に、目の前を強い突風が突き抜けた。
 怖ぇ――!
 真鉄人君が続けざまに、右手のモーニングスターでストレートを放つ。
 これも体を捻りながら横にステップを踏んで、なんとか躱した。
 真鉄人君と一旦、間合いを取って気持ちを落ち着かせる。
「ふぅぅ――」
 ちょっと危なかったけど、でも見える! 真鉄人の動きが見えるぞ! 体も動いてくれてるし、これならなんとかなりそうだ! 
 真鉄人君の死角になるように、サイドステップを軽快に刻みながら右から回り込む。
 真鉄人君が、それに合わせて体を回転させた。
 その際に生じる僅かな隙を狙って、攻撃を仕掛ける。
 軽身功のスキルを使い瞬時に動いた。
「ライトニング!」
 真鉄人君の右の膝に、雷の踵蹴り打ち込む。
 真鉄人君にダメージを受けた様子は見られなかったが、一瞬、ほんの一瞬だが、動きが止まった。
 今の自分には、それでも充分だった。
「ライトニング!」
 ライトニングレッグラリアートによる雷プラス、軽身功のスキルによる一瞬の早業で、真鉄人君の腹部に中段回し蹴り、続けて側頭部に上段回し蹴りを炸裂させた。辺りに雷鳴が鳴り響く。
 手応えバッチシ! ここで一気にいく! 剛体功とそれに――。
「九十九乱撃!」
 怒涛の勢いで拳撃が繰り出され、真鉄人君を縦横無尽に打ち込んでいく。
「オオオォォォォ――――ゥゥッ‼」
 イケる! これならイケるぞ!
 しかし、勝利を確信した瞬間、思いもよらない反撃を食らった。
 真鉄人君は九十九乱撃の猛打の嵐の中に、凶悪な右手のモーニングスターを突き刺した。
 まるで鉄骨にでもぶつけられたような、凄まじい衝撃が頭部を襲う。
「グヒィ!」
 ヘルメットが砕け散り、頭から床に打ち付けられて激しく転がっていく。
 頭の中がグワングワンと鳴っていて、何がなんだがわからない。とにかく体中に衝撃が走っていた。
 朦朧とする意識の中、何とか体を動かそうとする。
 立ち上が……らないと……追撃が……。
 しかし、気持ちとは裏腹に、体が言うことを聞いてくれない。
 不意に、全てが止んだ。
 あれほどの混迷状態であったものが、今は何事もなかったかのように、頭がスッキリとしていた。
 ……どうなったんだ? ……スパーリングが終わったのか?
 体の状態を確かめながら、ゆっくりと立ち上がった。
 あれほどのことがあったのに、体に一切ダメージは見当たらない。
 周りを見渡すと、真鉄人君たちの姿が二十メートル以上は先に見えた。
 ……こんなにぶっ飛ばされていたのか。よく死ななかったな。いや、違うか、死んだから終わったのかな?
 真鉄人君たちの元へ向けて、トボトボと歩き出す。
 しかし、あの状態から一発でひっくり返す⁉ いくらなんでもそりゃないぜ。
 だが、不思議と嫌な感じはなかった。むしろ気持ちが高揚しているのを感じる。
 ハハ、なんだよ? 何かよくわからないけど、なんだか楽しくなってきたな。もしかして、これが強敵ともになるってことなのか?
 再びスパーリングをする為に、真鉄人君たちの元へ歩む足を速めた。


 あれからスパーリングを幾ら行っただろうか? 優に百は超えるであろう。
 何度となく骨は砕かれ、肉は切り裂かれて、その結果は散々な有様だ。
 スパーリングの間間に対策がてら練習を行い、色々と試してみたが、それでも真鉄人君には終始圧倒されて、底知れない強さをまざまざと見せつけられた。
 どちらかと言うと、こういう荒事は苦手であきらめは早い方だと思っていたが、自分でも不思議なことに、一向に闘志が衰えることはなかった。
 それにしても全く勝てないねぇ……。う~~ん、スキルを上手く使いこなせていないのかな? それとも、アプローチが悪いのか? 取り敢えずちょっと方向性を変えてみるか。
 スパーリングの開始の掛け声と共に、軽身功のスキルを使用して、真鉄人君へ一気にダッシュした。
 攻撃も防御も強力な為、どうにか隙を見つけようとして、真鉄人君の出方を窺う戦い方を繰り返していたが、どうしても強引に押し切られてします。リスクは上がるが、これまでと趣向を変えて、ここはひとつこちらから仕掛けてみることにした。
 しかし、真鉄人君はこちらの考えを見透かしていた。
 真鉄人君の右手には、既に黒い波動が宿っていて、カウンターを取るように、それを横に払って一閃させた。
 黒い波動が扇状に投射され、一気に襲い掛かってくる。
「オワァッ⁉」
 すんでのところで、スライディングして滑り込み躱した。
 だが、その先に待ち構えていたのは、真鉄人君の強烈なフロントキックであった。
「オーラブロック!」
 咄嗟にスキルも交えて、両腕を交差させて防御する。
「ンンギィッ!」
 それでも、強烈なフロントキックを食らって、ピン本玉のように弾き飛ばされた。
 強化装甲とオーラブロックが無ければ、この時点で終わっていただろう。
 両腕に強い痛みを感じる。それを踏ん張って我慢し、体勢を立て直す為に急いで立ち上がった。
 次の瞬間、思いもよらない光景が目に映る。
 空中で黒い波動を纏った両手を握りしめ、腕を振り上げて大きくのけ反る真鉄人君の姿だ。
「マジでっ⁉」
 あたふたしながらも、すぐさま飛び込むように横に転がった。
 真鉄人君は地面に着地すると同時に、巨大な槌の如く両手を振り下ろした。
 凄まじい衝突音と共に、黒い波動が衝撃波となって広がっていく。
「ウオゥッ!」
 暴風のような強烈な衝撃波を受け、一気に吹き飛ばされた。
 気が付いたら三十メートル近く吹き飛ばされていた。
 クラクラする頭を振りながら起き上がる。体の至る所が痛い。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
 乱れた呼吸を整えながら状況を確認する。
 衝突で地面に出来たクレータの真ん中で、真鉄人君が両手を少し広げて、抱え込むような姿勢を取っていた。
 そして、掌の間に幾つもの迸る光る球体が現れる。
「ゲェっ、マズいっ!」
 光る球体は、一発でもまともに食らえば死に至らしめる、デンジャラスな炸裂弾だ。
 真鉄人君の掌から、光る球体が勢いよく飛び出した。
 それを見とがめて、猛然と横に駆け出す。
 光る球体は誘導ミサイルのように、次々とこちら目がけて飛来してきた。
 通過した後を光る球体が落下し、大きな音を立てて炸裂する。
 炸裂音が背後から迫ってきた。
「一気に引き離してやる!」
 軽身功のスキルを使い、更に駆けるスピードを上げた。
 背後から聞こえていた炸裂音が離れていく。
 猛然とかける中、横目で真鉄人君を確認する。
 いつの間にか真鉄人君の目の前に、大きな魔法陣が展開されていた。
「あ、それは……!」
 魔法陣から、無数の黒いレーザーのような閃光が放たれる。先程の炸裂弾よりも、遥かに弾速が速い。このままでは確実に直撃する。
「チキショウめ――!」
 駆けるのを止め、強い慣性に逆らって、その場に停止する。
「サイコバリア!」
 障壁が展開されると同時に、黒いレーザーが激突する。そして、少し遅れて炸裂弾も追いついてきた。
 サイコバリア越しでも、かなりの衝撃が伝わってくる。
 更に追加で、巨大な火の玉が降ってきて、サイコバリアに激突した。
「うひゃぁー」
 サイコバリアの周りが炎で包まれ、まるでマグマの中にでも居るみたいだ。
 それでもサイコバリアは崩れない。内部には熱は伝わってこずに安泰であった。
 サイコバリアの頼もしさに、一見、安堵できる状況だが、口から出たのは泣き言だった。
「ダメだなこりゃ。もう詰んだな……」
 サイコバリアは防御力が高く、360度の範囲を防いでくれる非常に優秀なスキルだが、その場から動けなくなるのが難点だ。しかも、現在のように絶え間なく攻撃されると、どうしても何も出来ずに動けなくなってしまう。
 それでも、相手にサイコバリアを打ち破る力が無ければ問題ない。高い防御力から考えると、その実現性は非常に乏しく、むしろ攻め疲れを待って隙を突くチャンスだろう。普通ならそうだ、普通なら。
 だがしかし、残念ながら、それを持っているのだ真鉄人君は。サイコバリアを打ち破れる力を。
 周りの炎をものともせずに、真鉄人君がサイコバリアの前までやって来た。そして、おもむろに左腕のドリルアームを振りかぶり、勢いよく突き刺す。
 サイコバリアが悲鳴を上げるかの如くに、金属が軋むような独特の音が伝わってくる。
 このままならサイコバリアごと、ドリルアームによって葬り去られるだろう。かといって、サイコバリアを展開中は動くことは出来ないし、今解除しても瞬殺されるだけだ。
 こうなってしまってはどうにもならないな。後は座して死を待つのみかぁ。あ~~あぁ、自分から仕掛けていくつもりだったのに、まともな攻撃ひとつ出来ていないや。
 ふと、ある考えが頭に浮かんだ。
 攻撃……? 別に攻撃出来ないってこともないのか。そうだよな!
「展開!」
 ハンマーを起こして、魔光ブラスターを構える。
 狙いは真鉄人君のドリルアームだ。
 タイミングが……大事。
 あまり褒められたことじゃないが、これまで何度となく、同じような状況で繰り返し殺られてきた。
 今こそ、その糧が生きる時。
 段々とサイコバリアの悲鳴が激しくなっていき、経験が合図シグナルを鳴らす。
「今だ!」
 引き金を引くと同時に、サイコバリアが砕け散った。
 銃口からフルチャージされた極太の閃光が発射され、真鉄人君のドリルアームを貫く。
 左腕が丸ごと吹き飛び、真鉄人君が信じられないものでも見るかのように、己の肩口付近に顔を向けた。
「どうだ、思い知ったかっ!」
 思わず歓喜の声を上げたが、直ぐに我に返った。
 あれ⁉ これ凄いチャンスじゃないか? 今行くべきだよな!
 魔光ブラスターを収納しながら、一気に真鉄人君の懐に入り、胴体を両手でしっかりと掴まえた。
「波壊振!」
 フルパワーで破壊の振動波を流し込む。すると、真鉄人君の胴体に音を立てて亀裂が入った。
 イケるか――⁉
 不意になんとも言えない悪寒が走った。
 咄嗟に両手を放し、直ぐにバックステップをして距離を取る。
 その直後、目の前を突風が突き抜けた。
 真鉄人君の右腕による、モーニングスター付きのアッパーカットだ。
「アッブね―! もう少しで……ん⁉」
 しかし、真鉄人君の攻撃は、それで終わりではなかった。振り上げた勢いを利用して、後ろ飛び回し蹴りを放ってきた。
「グウッ!」
 どうにか両腕で防御したが、またしても強烈な蹴りで、ピンポン玉の如く弾き飛ばされた。
 地面に吹き飛ばされ転がりながらも、直ぐに体勢を立て直して立ち上がった。
 遠く離れた位置に真鉄人君が見える。
 それは異様な光景であった。
 左腕を吹き飛ばされたというのに、真鉄人君の体から黒いオーラがどんどん溢れ出し、威圧感プレッシャーが格段に強くなって凄みを増している。
「へへ……ヤバいねぇ。メッチャ怒っている感じだなぁ。オレ程度にそこまでヤラられたのが、気に食わないってか」
 それでも、数えきれないほどスパーリングを行ってきたが、真鉄人君にここまでダメージを与えたことは、一度として無かった。
 自らを鼓舞するように言い聞かせる。
「今だ……今がチャンスなんだ! 気後れしている場合じゃない!」
 魔光ブラスターを展開し、真鉄人君に向けて走り出した。
 真鉄人君も示し合わせたかのように、こちらに向かって走りだす。
 魔光ブラスターから閃光を放ち、真鉄人君を牽制しつつ、軽身功のスキルを使い、更に走る速度を上げた。
 真鉄人君は右肩付近に、魔法陣の盾を展開させ、閃光を弾きながら突進してくる。
 それを見とがめ、強く地面を蹴った。
「ライトニング!」
 軽身功の全速力に加え、雷を付加したドロップキック。
 真鉄人君が展開する魔法陣の盾に、ドロップキックが直撃し雷が轟く。
 互いの慣性が激しくぶつかり合い、真鉄人君がよろけて二、三歩後退した。
「これでも倒れないのか⁉ でも――」
 魔光ブラスターを操作して、真鉄人君に銃口を向けた。
 それに反応して、真鉄人君が肩口をこちらに向け、魔法陣の盾を前に出す。
 引き金を引くと、銃口から光る球体が発射され、真鉄人君の目の前で、破裂して大きな音をたてた。
 閃光弾。強烈な光と爆音で相手にショックを与え、行動を阻害する、魔光ブラスターのオプションだ。
 真鉄人君はモーニングスターの右腕で顔を覆い、動きが固まった。
「流石の真鉄人君オマエも、これは予想してなかっただろっ!」
 魔光ブラスターを格納して、左手を前に出し、そこから弓を引くように、右手をゆっくりと後ろに下げていく。
 それに呼応して、魔導練気により体内で練られた気が、右の拳に集まっていった。
 真鉄人君がようやく閃光弾のショックから立ち上がり、こちらを見たがめて、モーニングスターの右腕を振り上げた。
「遅いよ」
 こちらの方が半歩、動くのが早かった。
「爆破轟裂拳!」
 波壊振によってできた真鉄人君の胴体の亀裂に、右の正拳を打ち込むと、それと同時に、拳に集まっていた気が、衝撃波となって爆発する。
 真鉄人君の胴体に入っていた亀裂の部分が、衝撃波によって吹き飛んで、砕け散った。
 真鉄人君はヨロヨロと後退り、その場に膝をついた。砕け散った部分からは、漆黒の闇だけが見える。
 それでも、真鉄人君は立ち上がろうと動き出す。
「展開」
 ハンマーを起こして、魔光ブラスターを構えた。
 真鉄人君はダメージから、動きがかなり緩慢としている。
 最終的に真鉄人が立ち上がった頃には、魔光ブラスターはフルチャージされていた。
 引き金を引くと、魔光ブラスターの銃口から、極太の閃光が発射された。
 極太の閃光が真鉄人君の胴体を貫き、反対側が見えるほどの大きな穴をあけた。
 そして、真鉄人君は溺れる人の様に、手を伸ばしてゆっくりと藻掻きながら倒れた。
 真鉄人君に動く様子は見られない。
 辺りは静寂に包まれた。
「ハァ……ハァ……ヤッた……のか?」
 生存確認の為、真鉄人君に近づく。
 真鉄人君は胸と脇腹に大きな穴が開いていて、微動だにしない。
「……これ倒しているよな? 勝ったって……こと……?」
 ここにきて、ようやく事を認識する。
 両腕を震わせて構え、歓喜を上げて吠えた。
「オオオォォォォ――――――っ‼ ヤッタ―! やったぞ! ついに倒したんだ!」
 何百回と行ってきたスパーリングの中で、ようやく手にした勝利に、心底打ち震えた。
 何度心が折れかけただろうか? 何度となく骨は砕かれ、肉は切り裂かれて散々ひどい目に合いながらも、それでもどうにか踏みとどまり、真鉄人君に食らいついてきた。
 この勝利を手に出来たのも、ひとえに……正直、自分でもよくわからないけど、不思議とずっと続けてこれた成果だろうな。
 不意に、真鉄人君が何事もなかったかのように、すくりと立ち上がった。
「えええぇぇぇぇぇぇ――――――っ⁉」
 あれだけダメージを与えたのに、真鉄人君の体には、損傷個所が全く見当たらなかった。
 驚愕して目を丸くしていると、横から声が聞こえてきた。
『おめでとうございます。あなたの勝利ですね』
『You、win~~!』


『驚きましたね。まさか勝ってしまうとは』
『ホント~~、ビックリだよ~~』
 真鉄人君にようやく勝利できたのは嬉しいが、元の世界さんと異世界ちゃんふたりの言葉に違和感を覚えた。
「ど、どうも。あの……随分と驚いていますね」
『ええ、勝つとは思っていませんでしたから』
『まさか、まさかの~~、勝利だからね~~』
 ここである疑念が生まれた。
「えぇ……と、これ勝てない想定だったんですか? もしかして負けイベントって言われる奴?」
 元の世界さんと異世界ちゃんふたりはあっさりと白状した。
『そうですね』
『そうだよ~~』
「だったら、途中で止めてくれてもいいじゃないですか! 結構いっぱい酷い目に合いましたよ! そしたらこんなにまで、苦労しなくても良かったのに!」
『ええ、そうでしょうね。でも、なかなか面白い見世物だったので、ついつい見入ってしまいました』
『そうね~~。でも~~、どうせ死んでいるんだから、いいじゃな~~い。気にすんなよ~~』
「いやいやいや、気にしますよ! って言うか、なんでも面白いとか、死んでるからで片づけられたら、こっちはたまったもんじゃないです!」
『いいじゃないですか。その分、大分頑張りましたので、真鉄人君も貴方のことを強敵として認めてくれてますよ』
『そうだよ~~。真鉄人君に勝利したのを記念して~~、特別に勇者として讃えようぞ~~』
 直ぐ傍らで、真鉄人君が無言で拍手していた。
「あ、ありがとう……。でも、嬉しいんだか嬉しくないんだか、ちょっと微妙な感じが……」
『おや、お気に召しませんか?」
『ええ~~ぇ! また、そんなこと言って~~、真鉄人君も悲しんじゃうよ~~!」
 真鉄人君は無言で突っ立っていた。
「いや、あの、そう言われましても、表情無いし、しゃべんないから、よくわからないんですけど」
『それはさておき、「修行」は、これで終了となります』
『これで「異世界殺法」の伝承者だね~~』
「……本当ですか?」
 ようやく「修行」から解放されるのは嬉しいが、これまでのこともあってか、どうしても猜疑心が強くなってしまう。
 元の世界さんと異世界ちゃんふたりはキッパリと言った。
『本当です』
『本当だよ~~』
 これまでの「修行」の日々が脳裏に浮かぶ。
 正直、何一ついいことは無かったし、二度とやりたくはないけど、それも終了した今となっていは、感慨もひとしおだ。
「本当なんだ……」
『ええ、これからは貴方が「異世界殺法」の伝承者です』
『応よ~~。伝承者として「異世界殺法」の普及に、励むがよいぞ~~』
「いや、そっちじゃねぇよっ‼ 「修行」が終了かだよっ‼」
『ああ、そっちですか。特にネタも無いので、もう終わりですよ』
『そっち~~。もう飽きちゃったし、終わりでいいよ~~』
「……そんな理由なの……」
「それでは、「修行」が終わりましたので、これからは「お勉強」の時間です』
『イエ~~ス! イッツ、スタディタ~~イム』
「………………はい?」
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