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策略
プロポーズ??
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「社長と常務まで来るなんて」
雅夫兄さんと継母が参加するとあって、幹事の上野さんが口を尖らせていた。内輪だけの飲み会の域を超えたるためか、各営業所からも所長が来るようだ。
「藍野さんが短期間で業績に貢献してくれたから、社長も労いたいんだと思うよ」
「だったら契約期間守れって」
「ほんとよ、藍野さん、違約金ガッポリ取っちゃってくださいね」
「はは」
飲み会の店へ向かいながら、社員達があーだこーだと愚痴るものの、藍野さんはまるで他人事のように乾いた笑顔で応えていた。
ここに社長達が加われば、素も出せないツマラナイ会になるのは必至で、皆、二次会まで乗り切ろうと話していた。
上野さんが予約した店は、鉄板焼きがメインの居酒屋で大部屋を貸し切っていた。
「……うわ。葉月さんまで」
部屋には、副社長の葉月さんが待機していて、皆引いていた。
「遅い。待てなくて先に始めてるわよ」
もうビールを飲んでいる。
ほぼ出社しないのに、飲み会だけ来るなんて気まずくないのだろうか。もともとコミュ障なうえ、梅野家の人間である私も、居心地悪いのは間違いないのだけれど。
上座の真ん中に、雅夫兄さん、その右隣に葉月さんが並んで座っている。下座で若い営業マンを両隣に置いて、継母は上機嫌だ。
端っこの席の私の隣には竹林部長がいる。
主役の藍野さんは、上野さんともう一人の事務員に挟まれていた。
「皆様、お疲れ様です。本日は、私のような外部の者のために、このような送別会を開いていただき、ありがとうございます」
挨拶をする藍野さんを、上野さん達が潤んだ目で見つめている。
「この三ヶ月期間、皆様と真剣に議論できたことは、私にとっても大きな財産となりました」
藍野さんの挨拶中に、つまらなそうにスマホを弄る雅夫兄さんは最低だ。
継母は、じっと藍野さんを睨みつけていた。
乾杯の挨拶が終わり、各営業所の所長達は役員達に酌をして回る。
「そういえば、常務のお嬢さん、大学卒業したら入社されるんでしたよね?」
継母に酒を注ぎながら、北営業所の所長が何気に尋ねている。
瑠衣を彼氏の所から連れ戻しに行ったはずだが、今のところ彼女はまだ梅野家に帰ってきてはいない。
チビチビと飲みながら、私は聞き耳を立てていた。
「大学まで行かせてるのに、あんまり仕事では役に立ちそうにないのよね、うちの娘」
「実際に働いてみないと分からないじゃないですか」
「まぁ、そうだわね。でも、その前に結婚させちゃおうと思って」
「え、学生結婚ですか」
すでに酔ってるのか、顔を赤くした継母はペラペラと話す。
「相手は学生じゃないわよ、うちの大事な娘は、大企業のエリートにしか嫁がせないんだからさ」
瑠衣の彼氏は大学の先輩じゃなかった?
別れさせて見合いでも勧めるのだろうか?
モヤモヤしていると、
「おい、明日美」
離れた所から、雅夫兄さんが私を呼んだ。
「大皿の料理、皆に取り分けろ。空になった皿は持って行け。相変わらず気が利かねーな」
「……は、はい」
社員に言えばパワハラになりかねない事も、身内の私には平気で言う。
普段飲み会に出ない私は、取り分け方も下手くそだった。雅夫兄さんが舌打ちをする。
「分配能力もねーのか。もういいから、皆に聞いて皿引くついでに酒の注文してこい」
言われるがまま、私は皿を引きつつ、皆に注文を聞いて回った。幹事の上野さんとは目が合ったが、そっぽを向かれた。
ボタンを押して、店員を呼び出し、片付けの手伝いをする。
「え、あ、ありがとうございます」
戸惑う店員に連れ立って部屋を出て、ようやく息をついた。
やっぱり参加しなきゃ良かった。藍野さんとは土曜日に会えるのに。
ミドリ営業所での懇親会が楽しかったのは、自分を支配する人間がいなかったからだ。
こんな事を思っては主役に失礼だけど、お金払って楽しくないのは辛い。
店内の厨房カウンターに皿を置いて、貸し切り部屋へ戻ろうとしたら、竹林部長が煙草片手に出てきていた。
「ゆっくり飲めないね」
気の毒そうに言われて、気持ちが余計に沈む。
襖の向こうから、社員達の盛り上がる声が聞こえてきた。
「顎で遣われるのは慣れてるんですけど、会社や家以外でもだと疲れますね」
実の兄に、小間使いのように扱われる私を見て、藍野さんはどう思っただろう?
恥ずかしいし、情けない。
「もう、明日美さんは家を出て結婚した方が幸せになれるんじゃないかな」
「相手がいませんよ。こんな何の取り柄もない女、誰が結婚しようと思います?」
自虐は相手を疲れさせるというのに、つい言ってしまった。
竹林部長は、微かに笑って囁くように言った。
「俺なら、喜んで引き受けるよ」
雅夫兄さんと継母が参加するとあって、幹事の上野さんが口を尖らせていた。内輪だけの飲み会の域を超えたるためか、各営業所からも所長が来るようだ。
「藍野さんが短期間で業績に貢献してくれたから、社長も労いたいんだと思うよ」
「だったら契約期間守れって」
「ほんとよ、藍野さん、違約金ガッポリ取っちゃってくださいね」
「はは」
飲み会の店へ向かいながら、社員達があーだこーだと愚痴るものの、藍野さんはまるで他人事のように乾いた笑顔で応えていた。
ここに社長達が加われば、素も出せないツマラナイ会になるのは必至で、皆、二次会まで乗り切ろうと話していた。
上野さんが予約した店は、鉄板焼きがメインの居酒屋で大部屋を貸し切っていた。
「……うわ。葉月さんまで」
部屋には、副社長の葉月さんが待機していて、皆引いていた。
「遅い。待てなくて先に始めてるわよ」
もうビールを飲んでいる。
ほぼ出社しないのに、飲み会だけ来るなんて気まずくないのだろうか。もともとコミュ障なうえ、梅野家の人間である私も、居心地悪いのは間違いないのだけれど。
上座の真ん中に、雅夫兄さん、その右隣に葉月さんが並んで座っている。下座で若い営業マンを両隣に置いて、継母は上機嫌だ。
端っこの席の私の隣には竹林部長がいる。
主役の藍野さんは、上野さんともう一人の事務員に挟まれていた。
「皆様、お疲れ様です。本日は、私のような外部の者のために、このような送別会を開いていただき、ありがとうございます」
挨拶をする藍野さんを、上野さん達が潤んだ目で見つめている。
「この三ヶ月期間、皆様と真剣に議論できたことは、私にとっても大きな財産となりました」
藍野さんの挨拶中に、つまらなそうにスマホを弄る雅夫兄さんは最低だ。
継母は、じっと藍野さんを睨みつけていた。
乾杯の挨拶が終わり、各営業所の所長達は役員達に酌をして回る。
「そういえば、常務のお嬢さん、大学卒業したら入社されるんでしたよね?」
継母に酒を注ぎながら、北営業所の所長が何気に尋ねている。
瑠衣を彼氏の所から連れ戻しに行ったはずだが、今のところ彼女はまだ梅野家に帰ってきてはいない。
チビチビと飲みながら、私は聞き耳を立てていた。
「大学まで行かせてるのに、あんまり仕事では役に立ちそうにないのよね、うちの娘」
「実際に働いてみないと分からないじゃないですか」
「まぁ、そうだわね。でも、その前に結婚させちゃおうと思って」
「え、学生結婚ですか」
すでに酔ってるのか、顔を赤くした継母はペラペラと話す。
「相手は学生じゃないわよ、うちの大事な娘は、大企業のエリートにしか嫁がせないんだからさ」
瑠衣の彼氏は大学の先輩じゃなかった?
別れさせて見合いでも勧めるのだろうか?
モヤモヤしていると、
「おい、明日美」
離れた所から、雅夫兄さんが私を呼んだ。
「大皿の料理、皆に取り分けろ。空になった皿は持って行け。相変わらず気が利かねーな」
「……は、はい」
社員に言えばパワハラになりかねない事も、身内の私には平気で言う。
普段飲み会に出ない私は、取り分け方も下手くそだった。雅夫兄さんが舌打ちをする。
「分配能力もねーのか。もういいから、皆に聞いて皿引くついでに酒の注文してこい」
言われるがまま、私は皿を引きつつ、皆に注文を聞いて回った。幹事の上野さんとは目が合ったが、そっぽを向かれた。
ボタンを押して、店員を呼び出し、片付けの手伝いをする。
「え、あ、ありがとうございます」
戸惑う店員に連れ立って部屋を出て、ようやく息をついた。
やっぱり参加しなきゃ良かった。藍野さんとは土曜日に会えるのに。
ミドリ営業所での懇親会が楽しかったのは、自分を支配する人間がいなかったからだ。
こんな事を思っては主役に失礼だけど、お金払って楽しくないのは辛い。
店内の厨房カウンターに皿を置いて、貸し切り部屋へ戻ろうとしたら、竹林部長が煙草片手に出てきていた。
「ゆっくり飲めないね」
気の毒そうに言われて、気持ちが余計に沈む。
襖の向こうから、社員達の盛り上がる声が聞こえてきた。
「顎で遣われるのは慣れてるんですけど、会社や家以外でもだと疲れますね」
実の兄に、小間使いのように扱われる私を見て、藍野さんはどう思っただろう?
恥ずかしいし、情けない。
「もう、明日美さんは家を出て結婚した方が幸せになれるんじゃないかな」
「相手がいませんよ。こんな何の取り柄もない女、誰が結婚しようと思います?」
自虐は相手を疲れさせるというのに、つい言ってしまった。
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「俺なら、喜んで引き受けるよ」
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