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策略
ハグ
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「……は、い?」
驚いて、囁かれた耳元を思わず手で覆った。
それ、私と結婚してもいいって意味?
「部長、もう酔ってます?」
「いや。俺は酒飲んでないから」
じゃあ、冗談?
急にどうしたの?
部長に会釈だけして、部屋に入る。
確かに、隣の竹林部長のグラスの酒は全く減ってなかった。
斜向かいの藍野さんを見ると、上野さんにお酌されていた。
お酒は強いはずだけど、次から次へと注がれて、少し顔が赤くなっている。
「明日美さん、先日は落雷の件で来て頂いてありがとうございました」
藍野さんを目で追う私に、群馬のミドリ営業所の所長が話しかけてきた。
「いいえ、あれからITインフラは正常に稼働してますか?」
「お陰さまで家電まで新しくなって皆喜んでました。しかし、もう事務所自体が古くて、そろそろ引っ越しか建て直しが必要みたいです」
確かに雨漏りが酷かった。UMENOが買収されたら真っ先に解体させられそうな事務所だ。
「社長か常務に相談してみては?」
「まぁ、そうですね。それとは別件なんですが、近頃、ある会社の人間が周辺を調査してるみたいで」
所長が声を潜めた。
「ある会社?」
「羽取HDです」
――羽取ホールディングス。
それは知らない人が居ないほどの、インテリア・家具業界における国内最大手の小売企業だ。
物流ライセンスも取って、日本に留まらずアジア各国にも出店している。
藍野さんが言うUMENOを買収したがっている会社かもしれない。
「社長の耳に入れる前に、明日美さんへご報告しておこうと思いまして」
「……雅夫兄さんは知らないんですね」
「恐らく」
ミドリ営業所の所長は祖父の時代から勤めていたらしく、今の経営陣のやり方に不満を持っている、と懇親会の時話していた。
「ありがとうございます。こちらでも調べておきます」
調べると言っても藍野さんに聞き出すだけだけど。
早く二人で話したいと思ったが、
「藍野さん、二次会、ダーツバー行きますよね? ね? 主役ですもんね」
彼は皆に囲まれて、その時間は無さそうだ。
「俺も行くからなー」
雅夫兄さんまで参加するつもりらしく、社員達は笑顔を引きつらせていた。どうして空気が読めないんだろう。
「お疲れ様でした、お先に失礼します」「藍野さん、お世話になりました、是非また一緒に仕事しましょうね」
一次会のお開きとなり、帰宅組はタクシー乗り場へ向かう。
私は、と。
タクシー代が惜しいから、勿論電車で帰るつもりだった。
駅へ向かっていると、
「明日美さん」
竹林部長に呼び止められた。
「同じ方向だからタクシー同乗したら?」
「……え」
「というか、常務に頼まれたから。ちゃんと家まで送るようにって」
「えっ!」
どういう風の吹き回し? 私が逃げないように監視でも頼んでるの?
「その美里さんは?」
「常務も葉月さんも二次会行くみたいだよ」
「そうなんですか」
上野さん達を気の毒に思いながらも、帰宅してもあの人達が居ないのなら、と私としては気楽になった。
お言葉に甘えて、竹林部長とタクシーに乗った。
結局飲まなかったのだろうか。部長からはお酒の匂いはしなかった。
「明日美さん、お酒強いんだね」
「そうですね、酔わなかったです」
「酔ってる所見たかったな」
「なんでですか?」
「きっと可愛いだろうから」
「、え」
今日の部長はおかしい。
何でこんな惑わすことばかり言うの?
それに、何か近いし。
後部座席は二人しかいないのに、ここまで密に座る必要があるだろうか?
肩と肩が触れ合うほどの近さに、車内で私は緊張しまくっていた。
「着きましたよ」
梅野家の前でタクシーが停まると、精算し、何故か竹林部長まで一緒に降りてきた。わけがわからない。
「部長のお家って、」
「すぐ近くだから」
「近くって」
近所に住んでるなんて聞いたことないけど。
「家の中に入るのを見届けるように言われてるんだ」
にわかに信じれないことを言って、竹林部長は玄関先まで付いてきた。
本当に継母が頼んだんだろうか?
玄関の鍵を回していると、背後にふわっと体温が重なった。煙草の匂いがより近くなる。
部長が抱き締めてきたからだ。
驚いて、囁かれた耳元を思わず手で覆った。
それ、私と結婚してもいいって意味?
「部長、もう酔ってます?」
「いや。俺は酒飲んでないから」
じゃあ、冗談?
急にどうしたの?
部長に会釈だけして、部屋に入る。
確かに、隣の竹林部長のグラスの酒は全く減ってなかった。
斜向かいの藍野さんを見ると、上野さんにお酌されていた。
お酒は強いはずだけど、次から次へと注がれて、少し顔が赤くなっている。
「明日美さん、先日は落雷の件で来て頂いてありがとうございました」
藍野さんを目で追う私に、群馬のミドリ営業所の所長が話しかけてきた。
「いいえ、あれからITインフラは正常に稼働してますか?」
「お陰さまで家電まで新しくなって皆喜んでました。しかし、もう事務所自体が古くて、そろそろ引っ越しか建て直しが必要みたいです」
確かに雨漏りが酷かった。UMENOが買収されたら真っ先に解体させられそうな事務所だ。
「社長か常務に相談してみては?」
「まぁ、そうですね。それとは別件なんですが、近頃、ある会社の人間が周辺を調査してるみたいで」
所長が声を潜めた。
「ある会社?」
「羽取HDです」
――羽取ホールディングス。
それは知らない人が居ないほどの、インテリア・家具業界における国内最大手の小売企業だ。
物流ライセンスも取って、日本に留まらずアジア各国にも出店している。
藍野さんが言うUMENOを買収したがっている会社かもしれない。
「社長の耳に入れる前に、明日美さんへご報告しておこうと思いまして」
「……雅夫兄さんは知らないんですね」
「恐らく」
ミドリ営業所の所長は祖父の時代から勤めていたらしく、今の経営陣のやり方に不満を持っている、と懇親会の時話していた。
「ありがとうございます。こちらでも調べておきます」
調べると言っても藍野さんに聞き出すだけだけど。
早く二人で話したいと思ったが、
「藍野さん、二次会、ダーツバー行きますよね? ね? 主役ですもんね」
彼は皆に囲まれて、その時間は無さそうだ。
「俺も行くからなー」
雅夫兄さんまで参加するつもりらしく、社員達は笑顔を引きつらせていた。どうして空気が読めないんだろう。
「お疲れ様でした、お先に失礼します」「藍野さん、お世話になりました、是非また一緒に仕事しましょうね」
一次会のお開きとなり、帰宅組はタクシー乗り場へ向かう。
私は、と。
タクシー代が惜しいから、勿論電車で帰るつもりだった。
駅へ向かっていると、
「明日美さん」
竹林部長に呼び止められた。
「同じ方向だからタクシー同乗したら?」
「……え」
「というか、常務に頼まれたから。ちゃんと家まで送るようにって」
「えっ!」
どういう風の吹き回し? 私が逃げないように監視でも頼んでるの?
「その美里さんは?」
「常務も葉月さんも二次会行くみたいだよ」
「そうなんですか」
上野さん達を気の毒に思いながらも、帰宅してもあの人達が居ないのなら、と私としては気楽になった。
お言葉に甘えて、竹林部長とタクシーに乗った。
結局飲まなかったのだろうか。部長からはお酒の匂いはしなかった。
「明日美さん、お酒強いんだね」
「そうですね、酔わなかったです」
「酔ってる所見たかったな」
「なんでですか?」
「きっと可愛いだろうから」
「、え」
今日の部長はおかしい。
何でこんな惑わすことばかり言うの?
それに、何か近いし。
後部座席は二人しかいないのに、ここまで密に座る必要があるだろうか?
肩と肩が触れ合うほどの近さに、車内で私は緊張しまくっていた。
「着きましたよ」
梅野家の前でタクシーが停まると、精算し、何故か竹林部長まで一緒に降りてきた。わけがわからない。
「部長のお家って、」
「すぐ近くだから」
「近くって」
近所に住んでるなんて聞いたことないけど。
「家の中に入るのを見届けるように言われてるんだ」
にわかに信じれないことを言って、竹林部長は玄関先まで付いてきた。
本当に継母が頼んだんだろうか?
玄関の鍵を回していると、背後にふわっと体温が重なった。煙草の匂いがより近くなる。
部長が抱き締めてきたからだ。
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