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長い冬
片思い
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竹林部長は、総務課と経理を兼任する多忙な人だ。
元々は、関連会社の営業をしていたらしいけれど、まだ父が現役中にヘッドハンティングされてUMENOの経理になった。
齢は三十七。バツイチだと噂で聞いた事がある。
「昨日、北営業所に行ってきたんだって? 大変だったね」
「作業自体は大変じゃなかったんですけどね」
こうやって労ってくれるのは、社内では竹林部長だけ。わけのわからないままIT担当になった私に、パソコンの基礎を教えてくれたのもこの人だ。
「デスクトップ型のパソコン持って帰ってきたの? そりゃ凄い」
「笑ってますけど、本当に重たかったんですよ」
「明日美さん、細身なのに力あるんだな」
笑ったら出来る目元の小さな皺が、穏やかな人柄を表しているようで好きだ。
「多分握力20くらいありますよ」
「それ微妙じゃない?」
「どうなんでしょ? 腕相撲とかしてみます?」
笑って、腕まくりする部長の手の血管を見つめる。褐色の肌に浮き出た血管も好き。
辛い事が多いけど、竹林部長がいるから今までやり過ごせて来たと思う。
私は三年もの間、一回り以上歳の離れた上司に片思いしていた。
「随分と楽しそうじゃないの」
そこへ継母が現れた。
会社では常務執行役という肩書きだが、ほぼ会社には現れない。ましてやこんなに朝早くからは絶対に。
「おはようございます、常務」
竹林部長の顔が引き締まる。私も何か良くない事が会社に起こったのかな、と感じた。
「竹林部長、決算書の事だけど」
二人が会議室に消えて行き、私は昨日やり残した雑務に取り掛かる。
「おはようございまーす」
九時前に上野さんが出勤してきた。
「常務が来てるんですね」「ええ」
強烈な香水の匂いでわかるらしい。
「竹林部長と話してるって事は、例の話かな?」
上野さんの推し量るような視線に気が付いたが、私は何も返せない。普通の従業員以上に会社の事は分からないし、知らされていないからだ。
「UMENOって三年連続赤字らしいですもんね」
決算書を公告し開示しているからそれは知っている。
雅夫兄さんに会社が引き継がれてからは、業績はずっと思わしくない。
「人件費削減とかあるかもですね」
上野さんが私をチラ見した。
梅野家の人間でありながら、雑用ばかりしてる私など、要らないと思われてるんだろう。私の方こそ、あの家族からは離れたいし、今の仕事だって好きじゃないけど。私は、本人の居ない竹林部長のデスクを眺める。
「それじゃ連絡頼んだわよ」「はい」
会議室から継母と部長が出てきて、上野さんが立ち上がり会釈をする。
継母はそれに目もくれず、出社してきた若い男性社員にだけ「おはよう~」と笑みを見せて立ち去って行った。
「常務の話なんだったんですか?」
竹林部長の元へ上野さん近寄り、私も思わず聞き耳を立てた。
「前から提案してた、外部のコンサルを入れる話が進展したんだよ」
「それくらいしないとダメってなんですね」
「身内ばっかりだとどうしても甘くなるからね」
部長が言葉を濁してる。自分達には甘く他人には厳しい典型的な家族が経営陣なのだから、報酬などに問題があるのかもしれない。
「前から目星を付けていた会社から有能な人を派遣して貰う事になったから」
竹林部長が上部署にいる皆に報告。不意に目が合い、私は顔を紅くした。
好きになると、何でもない事が嬉しかったり恥ずかしかったりするのを、大人になってから知った。
元々は、関連会社の営業をしていたらしいけれど、まだ父が現役中にヘッドハンティングされてUMENOの経理になった。
齢は三十七。バツイチだと噂で聞いた事がある。
「昨日、北営業所に行ってきたんだって? 大変だったね」
「作業自体は大変じゃなかったんですけどね」
こうやって労ってくれるのは、社内では竹林部長だけ。わけのわからないままIT担当になった私に、パソコンの基礎を教えてくれたのもこの人だ。
「デスクトップ型のパソコン持って帰ってきたの? そりゃ凄い」
「笑ってますけど、本当に重たかったんですよ」
「明日美さん、細身なのに力あるんだな」
笑ったら出来る目元の小さな皺が、穏やかな人柄を表しているようで好きだ。
「多分握力20くらいありますよ」
「それ微妙じゃない?」
「どうなんでしょ? 腕相撲とかしてみます?」
笑って、腕まくりする部長の手の血管を見つめる。褐色の肌に浮き出た血管も好き。
辛い事が多いけど、竹林部長がいるから今までやり過ごせて来たと思う。
私は三年もの間、一回り以上歳の離れた上司に片思いしていた。
「随分と楽しそうじゃないの」
そこへ継母が現れた。
会社では常務執行役という肩書きだが、ほぼ会社には現れない。ましてやこんなに朝早くからは絶対に。
「おはようございます、常務」
竹林部長の顔が引き締まる。私も何か良くない事が会社に起こったのかな、と感じた。
「竹林部長、決算書の事だけど」
二人が会議室に消えて行き、私は昨日やり残した雑務に取り掛かる。
「おはようございまーす」
九時前に上野さんが出勤してきた。
「常務が来てるんですね」「ええ」
強烈な香水の匂いでわかるらしい。
「竹林部長と話してるって事は、例の話かな?」
上野さんの推し量るような視線に気が付いたが、私は何も返せない。普通の従業員以上に会社の事は分からないし、知らされていないからだ。
「UMENOって三年連続赤字らしいですもんね」
決算書を公告し開示しているからそれは知っている。
雅夫兄さんに会社が引き継がれてからは、業績はずっと思わしくない。
「人件費削減とかあるかもですね」
上野さんが私をチラ見した。
梅野家の人間でありながら、雑用ばかりしてる私など、要らないと思われてるんだろう。私の方こそ、あの家族からは離れたいし、今の仕事だって好きじゃないけど。私は、本人の居ない竹林部長のデスクを眺める。
「それじゃ連絡頼んだわよ」「はい」
会議室から継母と部長が出てきて、上野さんが立ち上がり会釈をする。
継母はそれに目もくれず、出社してきた若い男性社員にだけ「おはよう~」と笑みを見せて立ち去って行った。
「常務の話なんだったんですか?」
竹林部長の元へ上野さん近寄り、私も思わず聞き耳を立てた。
「前から提案してた、外部のコンサルを入れる話が進展したんだよ」
「それくらいしないとダメってなんですね」
「身内ばっかりだとどうしても甘くなるからね」
部長が言葉を濁してる。自分達には甘く他人には厳しい典型的な家族が経営陣なのだから、報酬などに問題があるのかもしれない。
「前から目星を付けていた会社から有能な人を派遣して貰う事になったから」
竹林部長が上部署にいる皆に報告。不意に目が合い、私は顔を紅くした。
好きになると、何でもない事が嬉しかったり恥ずかしかったりするのを、大人になってから知った。
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