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長い冬
明日美の虐げられ日常 (夜)
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血の繋がらない弟は、継母が連れて来た時から私の部屋に遠慮なく入ってくるから苦手だった。
「何?」
おまけに酒臭い。
まだ二十三歳だというのに、不摂生な生活を送っているせいか、雅夫兄さんと違って肌は荒れ、肥満気味だ。
「そんなに身構えるなよ」
スマホを持ってニヤニヤしてベッドへ近寄ってくる。血の繋がった姉弟だってこんなに距離感バグらないはずだ。
「これ、機種変したんだけど、引き継ぎ出来てないデータあるんだよな、ちょっとやってくんない?」
私は携帯ショップの店員か?
そんなくだらない事、こんな真夜中に頼む?
「そういうの詳しくないから」
顔を背けると、凱也はベッドに腰を落として私の肩を掴んできた。
「詳しくないって、お前こういうの専門だろ?」
「専門なんてない。そもそも中卒だし」
手を振り払おうとしたら、凱也がスマホの画面を私の目の前に突き出した。
「そんなん言っていいのかよ? 機種変しても″コレ″はデータ移行出来てんだぞ?」
「……!」
視界に飛び込んで来た白い画像に、また冷たい汗が流れる。
「子供の頃とはいえ、お前の素っ裸の写真、エッロ。これ、雅夫兄さんに貰っておいて良かったわ」
血の気の引く私の頬にスマホを撫でつける。
「古いスマホ貸してくれたらデータ移行やってみるから」
「ふん、始めっから素直に頷いてりゃいいんだよー。 RAINのやり取り全部移しとけよ」
凱也が出ていく。唇が震えて憎しみさえ湧いてきた。
……憎しみ。
誰に?
母と私を不幸にした父親? それとも私から全てをった継母? その手下のような兄弟?
瞼を閉じても脳裏に浮かんでくるのは、さっき見せられた″小学生の私″だ。
継母に懐かなかった私は、ある日、庭の物置に閉じ込められた。
継母の灰皿を誤って床に落とし、灰で床を汚したからだ。
『謝れ』と叩かれたが、テーブルの角に置いていた方が悪いと思ったし、何より素直じゃなかった私は、頑なに口を閉ざしていた。
『謝るまで外に出すんじゃないよ』
雅夫兄さんにそう言いつけ、継母は外出した。
八歳上の雅夫兄さんは、その頃、受験生で鬱憤が溜まっていたのか、懐かない私を父に隠れて虐めていた。
『お前、虫が嫌いなんだろ?』
梅雨の蒸し暑い物置きの中に入ってきた雅夫兄さんは、私に虫籠に入れたアゲハ蝶を見せた。
私は悲鳴を上げ、物置の隅っこに逃げた。
『こんなに綺麗なのに何で嫌いなんだよ? 頭オカシイんじゃないの?』
雅夫兄さんは、虫籠から蝶を放した。
狭い物置に、翅音が響いて鳥肌が立ったのを今も憶えている。
『ゴメンナサイっ! ここから出してー!』
謝ったら出して貰えると思ったのに、雅夫兄さんは入り口を塞いだままだった。
『じゃあ、脱げ』
″じゃあ″の意味がわからなかった。
『な、何で?』
蝶が私の耳元を飛んで行った。
大きな悲鳴を上げて、私は雅夫兄さんを押し退けて物置から飛び出そうとした。しかし、許されなかった。
私は、雅夫兄さんにまるでボールのように蹴られたのだ。
倒れて、恐怖で固まった。
この人が家に来てからというもの、罵られたり物を隠されたり、小さな虐めはあったけど暴力は無かったから。
『さっさと脱げ』
何故か、雅夫兄さんが先に服を脱ぎ始めた。
高湿度の薄暗い空間に、どこを目掛けて飛んでくるのか分からない蝶と裸の兄――
暑さで頭がぼうっとしてきた私は、操られるように汗ばんだティシャツを脱いだ。
まだブラジャーは付けておらず、少しだけ膨らんだ胸が露わになると、雅夫兄さんがポケットから携帯電話を取り出した。それで息荒く私の肌を撮りまくっていた。
その時の写真を、雅夫兄さんはまだ持っている。
おまけに義理の弟と共有し、何かにつけて脅してくる。
それに、抗えない自分が憎い。
朝。
洗濯を回しながら皆の朝食を作り、余った食材で自分の弁当を作る。会社の給与はほぼ継母の手に渡っている為、昼休みに外食などした事もないのだった。
「行ってきます」
そして、家は誰よりも早く出る。継母は早くても七時起きだし、重役出勤する兄夫婦と弟達はもっと遅い。
煩わしい家族との時間より、一人での出勤時間の方が穏やかでいられる。
そして。
私が総務課で誰よりも早く出勤するのには、他に理由があった。
「おはよう、今日も早いね」
「おはようございます、部長」
同じように早く来る竹林部長と、二人で話をしたいからだった。
「何?」
おまけに酒臭い。
まだ二十三歳だというのに、不摂生な生活を送っているせいか、雅夫兄さんと違って肌は荒れ、肥満気味だ。
「そんなに身構えるなよ」
スマホを持ってニヤニヤしてベッドへ近寄ってくる。血の繋がった姉弟だってこんなに距離感バグらないはずだ。
「これ、機種変したんだけど、引き継ぎ出来てないデータあるんだよな、ちょっとやってくんない?」
私は携帯ショップの店員か?
そんなくだらない事、こんな真夜中に頼む?
「そういうの詳しくないから」
顔を背けると、凱也はベッドに腰を落として私の肩を掴んできた。
「詳しくないって、お前こういうの専門だろ?」
「専門なんてない。そもそも中卒だし」
手を振り払おうとしたら、凱也がスマホの画面を私の目の前に突き出した。
「そんなん言っていいのかよ? 機種変しても″コレ″はデータ移行出来てんだぞ?」
「……!」
視界に飛び込んで来た白い画像に、また冷たい汗が流れる。
「子供の頃とはいえ、お前の素っ裸の写真、エッロ。これ、雅夫兄さんに貰っておいて良かったわ」
血の気の引く私の頬にスマホを撫でつける。
「古いスマホ貸してくれたらデータ移行やってみるから」
「ふん、始めっから素直に頷いてりゃいいんだよー。 RAINのやり取り全部移しとけよ」
凱也が出ていく。唇が震えて憎しみさえ湧いてきた。
……憎しみ。
誰に?
母と私を不幸にした父親? それとも私から全てをった継母? その手下のような兄弟?
瞼を閉じても脳裏に浮かんでくるのは、さっき見せられた″小学生の私″だ。
継母に懐かなかった私は、ある日、庭の物置に閉じ込められた。
継母の灰皿を誤って床に落とし、灰で床を汚したからだ。
『謝れ』と叩かれたが、テーブルの角に置いていた方が悪いと思ったし、何より素直じゃなかった私は、頑なに口を閉ざしていた。
『謝るまで外に出すんじゃないよ』
雅夫兄さんにそう言いつけ、継母は外出した。
八歳上の雅夫兄さんは、その頃、受験生で鬱憤が溜まっていたのか、懐かない私を父に隠れて虐めていた。
『お前、虫が嫌いなんだろ?』
梅雨の蒸し暑い物置きの中に入ってきた雅夫兄さんは、私に虫籠に入れたアゲハ蝶を見せた。
私は悲鳴を上げ、物置の隅っこに逃げた。
『こんなに綺麗なのに何で嫌いなんだよ? 頭オカシイんじゃないの?』
雅夫兄さんは、虫籠から蝶を放した。
狭い物置に、翅音が響いて鳥肌が立ったのを今も憶えている。
『ゴメンナサイっ! ここから出してー!』
謝ったら出して貰えると思ったのに、雅夫兄さんは入り口を塞いだままだった。
『じゃあ、脱げ』
″じゃあ″の意味がわからなかった。
『な、何で?』
蝶が私の耳元を飛んで行った。
大きな悲鳴を上げて、私は雅夫兄さんを押し退けて物置から飛び出そうとした。しかし、許されなかった。
私は、雅夫兄さんにまるでボールのように蹴られたのだ。
倒れて、恐怖で固まった。
この人が家に来てからというもの、罵られたり物を隠されたり、小さな虐めはあったけど暴力は無かったから。
『さっさと脱げ』
何故か、雅夫兄さんが先に服を脱ぎ始めた。
高湿度の薄暗い空間に、どこを目掛けて飛んでくるのか分からない蝶と裸の兄――
暑さで頭がぼうっとしてきた私は、操られるように汗ばんだティシャツを脱いだ。
まだブラジャーは付けておらず、少しだけ膨らんだ胸が露わになると、雅夫兄さんがポケットから携帯電話を取り出した。それで息荒く私の肌を撮りまくっていた。
その時の写真を、雅夫兄さんはまだ持っている。
おまけに義理の弟と共有し、何かにつけて脅してくる。
それに、抗えない自分が憎い。
朝。
洗濯を回しながら皆の朝食を作り、余った食材で自分の弁当を作る。会社の給与はほぼ継母の手に渡っている為、昼休みに外食などした事もないのだった。
「行ってきます」
そして、家は誰よりも早く出る。継母は早くても七時起きだし、重役出勤する兄夫婦と弟達はもっと遅い。
煩わしい家族との時間より、一人での出勤時間の方が穏やかでいられる。
そして。
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