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長い冬
Мですよね?
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男性と二人きりでの移動すら初めての私は、車内で緊張しまくっていた。一方の藍野さんは、鼻歌まじりで運転している。
「社用車空いてて良かったですね、天気も良いし」
「え、ええ。晴れて何よりです」
「明日美さん、何か変ですよ?」
「そうですか?」
「そんなに窓側に身体寄せて」
「あ」
自然とそうなっていた。
事務所だと全然意識しないのに。だって、この人、凄くいい匂いするんだもの。
「俺、警戒されてる? それとも臭いですか?」
藍野さんが自身をクンと嗅ぐ。
「いいえ、そんな事ありません! むしろっ」
「むしろ?」
「フェロモンダダ漏れで」
「フェロモン? 俺から?」
藍野さんが噴き出して笑った。
私の前でこんなふうに笑う人、竹林部長以外は初めてだ。
「明日美さん、面白いな」
そんな事言われたのも初めて。
そこからは少し砕けた感じで話が出来て、すると北営業所まではあっという間に到着してしまった。
「お疲れ様です」
事務所に顔を出すと、相変わらず間宮と事務員しか居ない。
「あー、お疲れ様です」
適当に挨拶してきたが、私の後に続く藍野さんを見て二人は椅子から立ち上がった。
「初めまして、アジャストコンサルティングの藍野です」
「あぁ! 凄腕だと噂の……」
間宮は羨望の眼差しを向け、事務員はうっとりするような目つきに変わっていた。(私一人の時と随分態度違うじゃないの)
「所長のパソコンが電源入らなくなったそうで、何か試されましたか?」
私の代わりに藍野さんが尋ねる。
「電源入らない物の何を確認すればいいんですか? それに自分のじゃないし」
「でも、所長は間宮さんが出来ると思って頼んだんでしょ?」
「まぁ、設定を明日美さんに頼んだのも知らないですからね」
「じゃあ、尚更今後は自分達でトラブル対応出来るようになってください」
「は?」
「今日は素人でも出来るマニュアルを持ってきたので保管して今後はこれで対応して貰えますか?」
いつの間にそんなもの作ったんだろ?
藍野さんは印刷したそれを間宮に渡して、所長のパソコンを触っていた。
「新しいし、埃や湿気が原因のショートじゃないと思うんだけどな」
「そうですね」
私は室内を見回し、雑然としてはいるけれどOA機器に悪影響出る環境ではないな、と思った。
配線を確認しても正常。電源ケーブルや周辺機器を外し暫く放電しても電源は入らない。
「電源ユニットかマザーボードが悪いんだと思います。まだ新しいからこれは不良品かも。販売店に問い合わせてください」
「え」
結局、私が電話で言った事を藍野さんにも言われ、間宮が渋々事務員に電話をかけさせていた。
「こんな事で本社から人を寄越させないように。あまりにも無能過ぎます」
無能とまで言われ、電話をかけていた事務員と間宮は顔を引きつられせていた。
「いつも振り回されてるんですか?」
帰りの車内で藍野さんがムッツリとして言う。
「すみません、藍野さんに同行して貰ったのにしょうもない内容で。電話で私がもっと強気で指示を出せば良かったのに」
誰かの不機嫌な横顔を見ると、つい萎縮してしまう。
「明日美さんが謝る必要ない。というか、明日美さん、この理不尽な環境に慣れすぎです」
「……すみません」
言った後に、ハッと口を押さえる。
″謝らないと酷い目に遭う″
そんな幼少期からのトラウマが今も自分を支配している。そう思ってきたのだけど――……
「俺は、あなたが単に可哀想な人じゃないってわかってます」
「……え」
可哀想な人じゃない?
「あなた、Мですよね?」
藍野さんはガラス玉のような、美しい、しかし温度のない瞳で私を見た。
「俺とは相性が良さそうだ」
「社用車空いてて良かったですね、天気も良いし」
「え、ええ。晴れて何よりです」
「明日美さん、何か変ですよ?」
「そうですか?」
「そんなに窓側に身体寄せて」
「あ」
自然とそうなっていた。
事務所だと全然意識しないのに。だって、この人、凄くいい匂いするんだもの。
「俺、警戒されてる? それとも臭いですか?」
藍野さんが自身をクンと嗅ぐ。
「いいえ、そんな事ありません! むしろっ」
「むしろ?」
「フェロモンダダ漏れで」
「フェロモン? 俺から?」
藍野さんが噴き出して笑った。
私の前でこんなふうに笑う人、竹林部長以外は初めてだ。
「明日美さん、面白いな」
そんな事言われたのも初めて。
そこからは少し砕けた感じで話が出来て、すると北営業所まではあっという間に到着してしまった。
「お疲れ様です」
事務所に顔を出すと、相変わらず間宮と事務員しか居ない。
「あー、お疲れ様です」
適当に挨拶してきたが、私の後に続く藍野さんを見て二人は椅子から立ち上がった。
「初めまして、アジャストコンサルティングの藍野です」
「あぁ! 凄腕だと噂の……」
間宮は羨望の眼差しを向け、事務員はうっとりするような目つきに変わっていた。(私一人の時と随分態度違うじゃないの)
「所長のパソコンが電源入らなくなったそうで、何か試されましたか?」
私の代わりに藍野さんが尋ねる。
「電源入らない物の何を確認すればいいんですか? それに自分のじゃないし」
「でも、所長は間宮さんが出来ると思って頼んだんでしょ?」
「まぁ、設定を明日美さんに頼んだのも知らないですからね」
「じゃあ、尚更今後は自分達でトラブル対応出来るようになってください」
「は?」
「今日は素人でも出来るマニュアルを持ってきたので保管して今後はこれで対応して貰えますか?」
いつの間にそんなもの作ったんだろ?
藍野さんは印刷したそれを間宮に渡して、所長のパソコンを触っていた。
「新しいし、埃や湿気が原因のショートじゃないと思うんだけどな」
「そうですね」
私は室内を見回し、雑然としてはいるけれどOA機器に悪影響出る環境ではないな、と思った。
配線を確認しても正常。電源ケーブルや周辺機器を外し暫く放電しても電源は入らない。
「電源ユニットかマザーボードが悪いんだと思います。まだ新しいからこれは不良品かも。販売店に問い合わせてください」
「え」
結局、私が電話で言った事を藍野さんにも言われ、間宮が渋々事務員に電話をかけさせていた。
「こんな事で本社から人を寄越させないように。あまりにも無能過ぎます」
無能とまで言われ、電話をかけていた事務員と間宮は顔を引きつられせていた。
「いつも振り回されてるんですか?」
帰りの車内で藍野さんがムッツリとして言う。
「すみません、藍野さんに同行して貰ったのにしょうもない内容で。電話で私がもっと強気で指示を出せば良かったのに」
誰かの不機嫌な横顔を見ると、つい萎縮してしまう。
「明日美さんが謝る必要ない。というか、明日美さん、この理不尽な環境に慣れすぎです」
「……すみません」
言った後に、ハッと口を押さえる。
″謝らないと酷い目に遭う″
そんな幼少期からのトラウマが今も自分を支配している。そう思ってきたのだけど――……
「俺は、あなたが単に可哀想な人じゃないってわかってます」
「……え」
可哀想な人じゃない?
「あなた、Мですよね?」
藍野さんはガラス玉のような、美しい、しかし温度のない瞳で私を見た。
「俺とは相性が良さそうだ」
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