12 / 81
契約
雷2
しおりを挟む
「……停電?」
空調も止まった。
「直ぐに復旧するよ」
冷静な彼に暗闇の中で抱きすくめられた。
「……ちょ」
突き飛ばそうにも、しっかりとホールドされている。
「離してください、誰かに見られたら……」
「見えないよ」
こんな、守られるように触られた事ない。雨音と藍野さんの鼓動に包まれて、私の体温はジワジワと上がり始めていた。
「そのうち、どうでもよくなる」
「……え」
彼の吐息が耳を掠める。
「身体の関係のない恋愛感情なんて、あやふやで想い出にもならない」
「……そ、」
そうなのかもしれないけど。
長年の片思いを否定され、しかもあっさり認めてしまった自分が情けない。
「あ」
彼の言ってた通り、直ぐに電気は復旧した。
煌々とした灯りの下、腕の力を弱められ、私は直ぐに抱擁から逃げた。
「お疲れ様でした、お先に失礼します」
「送ろうか? 土砂降りだよ」
「大丈夫です」
事務所から出てエレベーターに乗り込んでも、まだ心臓がバクバク言っていた。
確かに外は土砂降りで、傘の無い私は酷い有様で帰宅した。
家には、珍しく大学生の義妹の瑠衣がいた。
「びしょ濡れじゃん。お風呂入んなよー」
「……先にご飯作るから」
一番風呂に私が入るなんてしたら、ここはキレる人の集まりだ。この瑠衣以外は。
「シャワーだけでもいいじゃん、そんなんでキッチン立てないでしょ」
幸いな事に、まだ雅夫兄さんや継母も帰宅していない。瑠衣の言うようにシャワーを速攻浴びる。
髪も乾かさないまま風呂の掃除をしていると、瑠衣が何か話したそうに脱衣所にいた。
「どうしたの?」
「私さー、好きな人いるんだよね」
まさかの恋バナ。浴槽を洗う手を止めて瑠衣の方を見る。
「彼氏?」
「そ。同じ大学の先輩」
「何か悩んでるの?」
「一緒に暮らそうって言われてる」
「……そ、う」
学生同士の同棲って意味あるのかな? 片時も離れたくないくらい好きなの?
「私ってさ、兄さんの会社に入るのが前提になってるけど、本当は卒業したら結婚したいんだよね」
元々は祖父の会社だった。
″兄さんの会社″にモヤッとしながら、黙って耳を傾ける。
「反対されると思う?」
「どうかな」
継母や義弟は、同棲自体は強く反対はしない気がする。
ただ、雅夫兄さんの場合は……。
「それでも出ていくけどさ、となると、私ちょっとは家事が出来ないとダメじゃない? だから教えて欲しいんだよね、料理とか」
瑠衣が少し恥ずかしそうにしている。
「なら、今日一緒に作る?」
「うん」
包丁を握った事もないらしい。林檎を皮ごと輪切りにしたのには笑ってしまった。
そんな瑠衣を眺めながら、この家から出ていくのにちょっと安堵する。
何故なら、雅夫兄さんが彼女に毒牙を剥ける可能性があったからだ。
私がこの家から出ていかない理由の一つ。
『お前が言う事聞かなかったら、瑠衣が代わりになるんだからな。俺にとってはどっちも他人の女だ』
昔、雅夫兄さんからそう言われた。
あの人からすると、半分しか血が繋がっていなかったら性の対象なのだ、と。
その夜遅く、雅夫兄さんと瑠衣の喧嘩する声が聞こえてきた。継母は不在らしく、仲裁する兄嫁の声が少しだけ混じっている。
恐らく、家を出て彼氏との同棲を反対されているのだろう。 ピラミッドの頂点が継母なのか雅夫兄さんなのかわからないが、自分達より下の人間が離れて行くのを許さない人達だ。
こんな所から、早く解き放たれたい。
会社が買収され、この家族が居なくなったら、私は自由になれる。
そのためには、藍野さんの言う通りにしないといけない。
いがみ合う義兄妹達の声に耳を澄ませながら、ゆっくりと目を閉じた。
空調も止まった。
「直ぐに復旧するよ」
冷静な彼に暗闇の中で抱きすくめられた。
「……ちょ」
突き飛ばそうにも、しっかりとホールドされている。
「離してください、誰かに見られたら……」
「見えないよ」
こんな、守られるように触られた事ない。雨音と藍野さんの鼓動に包まれて、私の体温はジワジワと上がり始めていた。
「そのうち、どうでもよくなる」
「……え」
彼の吐息が耳を掠める。
「身体の関係のない恋愛感情なんて、あやふやで想い出にもならない」
「……そ、」
そうなのかもしれないけど。
長年の片思いを否定され、しかもあっさり認めてしまった自分が情けない。
「あ」
彼の言ってた通り、直ぐに電気は復旧した。
煌々とした灯りの下、腕の力を弱められ、私は直ぐに抱擁から逃げた。
「お疲れ様でした、お先に失礼します」
「送ろうか? 土砂降りだよ」
「大丈夫です」
事務所から出てエレベーターに乗り込んでも、まだ心臓がバクバク言っていた。
確かに外は土砂降りで、傘の無い私は酷い有様で帰宅した。
家には、珍しく大学生の義妹の瑠衣がいた。
「びしょ濡れじゃん。お風呂入んなよー」
「……先にご飯作るから」
一番風呂に私が入るなんてしたら、ここはキレる人の集まりだ。この瑠衣以外は。
「シャワーだけでもいいじゃん、そんなんでキッチン立てないでしょ」
幸いな事に、まだ雅夫兄さんや継母も帰宅していない。瑠衣の言うようにシャワーを速攻浴びる。
髪も乾かさないまま風呂の掃除をしていると、瑠衣が何か話したそうに脱衣所にいた。
「どうしたの?」
「私さー、好きな人いるんだよね」
まさかの恋バナ。浴槽を洗う手を止めて瑠衣の方を見る。
「彼氏?」
「そ。同じ大学の先輩」
「何か悩んでるの?」
「一緒に暮らそうって言われてる」
「……そ、う」
学生同士の同棲って意味あるのかな? 片時も離れたくないくらい好きなの?
「私ってさ、兄さんの会社に入るのが前提になってるけど、本当は卒業したら結婚したいんだよね」
元々は祖父の会社だった。
″兄さんの会社″にモヤッとしながら、黙って耳を傾ける。
「反対されると思う?」
「どうかな」
継母や義弟は、同棲自体は強く反対はしない気がする。
ただ、雅夫兄さんの場合は……。
「それでも出ていくけどさ、となると、私ちょっとは家事が出来ないとダメじゃない? だから教えて欲しいんだよね、料理とか」
瑠衣が少し恥ずかしそうにしている。
「なら、今日一緒に作る?」
「うん」
包丁を握った事もないらしい。林檎を皮ごと輪切りにしたのには笑ってしまった。
そんな瑠衣を眺めながら、この家から出ていくのにちょっと安堵する。
何故なら、雅夫兄さんが彼女に毒牙を剥ける可能性があったからだ。
私がこの家から出ていかない理由の一つ。
『お前が言う事聞かなかったら、瑠衣が代わりになるんだからな。俺にとってはどっちも他人の女だ』
昔、雅夫兄さんからそう言われた。
あの人からすると、半分しか血が繋がっていなかったら性の対象なのだ、と。
その夜遅く、雅夫兄さんと瑠衣の喧嘩する声が聞こえてきた。継母は不在らしく、仲裁する兄嫁の声が少しだけ混じっている。
恐らく、家を出て彼氏との同棲を反対されているのだろう。 ピラミッドの頂点が継母なのか雅夫兄さんなのかわからないが、自分達より下の人間が離れて行くのを許さない人達だ。
こんな所から、早く解き放たれたい。
会社が買収され、この家族が居なくなったら、私は自由になれる。
そのためには、藍野さんの言う通りにしないといけない。
いがみ合う義兄妹達の声に耳を澄ませながら、ゆっくりと目を閉じた。
11
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―
佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。
19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。
しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。
突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。
「焦らず、お前のペースで進もう」
そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。
けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。
学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。
外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。
「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」
余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。
理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。
「ゆっくり」なんて、ただの建前。
一度火がついた熱は、誰にも止められない。
兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
夏目萌
恋愛
過去の恋愛が原因で、「女にだらしない男」を何よりも嫌う向坂 来海(29)。
一方、御曹司で誰にでも優しく、来る者拒まず──けれど、誰にも本気になったことのない羽柴 充輝(29)。
本来なら交わるはずのなかった二人は、ある出来事をきっかけに関わるようになる。
他の女性とは違い媚びることも期待することもない来海の態度に、充輝は次第に強く惹かれていく。
「誰にも本気にならない」はずだった彼の、一途すぎる想いに触れ、恋を信じることを避けてきた来海の心は少しずつ揺らぎ始めていき――。
不器用で焦れったくて、簡単には進まない二人の恋の行方は……。
他サイト様にも掲載中
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる