【虐げヒロインはドSエリートに翻弄される】〜囚える鎖を放すか否か(仮)

光月海愛(こうつきみあ)

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契約

雷2

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「……停電?」

 空調も止まった。

「直ぐに復旧するよ」

 冷静な彼に暗闇の中で抱きすくめられた。

「……ちょ」

 突き飛ばそうにも、しっかりとホールドされている。

「離してください、誰かに見られたら……」
「見えないよ」

 こんな、守られるように触られた事ない。雨音と藍野さんの鼓動に包まれて、私の体温はジワジワと上がり始めていた。

「そのうち、どうでもよくなる」
「……え」

 彼の吐息が耳を掠める。

「身体の関係のない恋愛感情なんて、あやふやで想い出にもならない」
「……そ、」

 そうなのかもしれないけど。
 長年の片思いを否定され、しかもあっさり認めてしまった自分が情けない。

「あ」

 彼の言ってた通り、直ぐに電気は復旧した。
 煌々とした灯りの下、腕の力を弱められ、私は直ぐに抱擁から逃げた。

「お疲れ様でした、お先に失礼します」
「送ろうか? 土砂降りだよ」
「大丈夫です」

 事務所から出てエレベーターに乗り込んでも、まだ心臓がバクバク言っていた。

 確かに外は土砂降りで、傘の無い私は酷い有様で帰宅した。
 家には、珍しく大学生の義妹の瑠衣がいた。

「びしょ濡れじゃん。お風呂入んなよー」
「……先にご飯作るから」

 一番風呂に私が入るなんてしたら、ここはキレる人の集まりだ。この瑠衣以外は。

「シャワーだけでもいいじゃん、そんなんでキッチン立てないでしょ」

 幸いな事に、まだ雅夫兄さんや継母も帰宅していない。瑠衣の言うようにシャワーを速攻浴びる。
 髪も乾かさないまま風呂の掃除をしていると、瑠衣が何か話したそうに脱衣所にいた。

「どうしたの?」
「私さー、好きな人いるんだよね」

 まさかの恋バナ。浴槽を洗う手を止めて瑠衣の方を見る。

「彼氏?」
「そ。同じ大学の先輩」
「何か悩んでるの?」
「一緒に暮らそうって言われてる」
「……そ、う」

 学生同士の同棲って意味あるのかな? 片時も離れたくないくらい好きなの?

「私ってさ、兄さんの会社に入るのが前提になってるけど、本当は卒業したら結婚したいんだよね」

 元々は祖父の会社だった。
 ″兄さんの会社″にモヤッとしながら、黙って耳を傾ける。

「反対されると思う?」
「どうかな」

 継母や義弟は、同棲自体は強く反対はしない気がする。
 ただ、雅夫兄さんの場合は……。

「それでも出ていくけどさ、となると、私ちょっとは家事が出来ないとダメじゃない? だから教えて欲しいんだよね、料理とか」

 瑠衣が少し恥ずかしそうにしている。

「なら、今日一緒に作る?」
「うん」

 包丁を握った事もないらしい。林檎を皮ごと輪切りにしたのには笑ってしまった。
 そんな瑠衣を眺めながら、この家から出ていくのにちょっと安堵する。
 何故なら、雅夫兄さんが彼女に毒牙を剥ける可能性があったからだ。
 私がこの家から出ていかない理由の一つ。

『お前が言う事聞かなかったら、瑠衣が代わりになるんだからな。俺にとってはどっちも他人の女だ』

 昔、雅夫兄さんからそう言われた。
 あの人からすると、半分しか血が繋がっていなかったら性の対象なのだ、と。

 その夜遅く、雅夫兄さんと瑠衣の喧嘩する声が聞こえてきた。継母は不在らしく、仲裁する兄嫁の声が少しだけ混じっている。
 恐らく、家を出て彼氏との同棲を反対されているのだろう。 ピラミッドの頂点が継母なのか雅夫兄さんなのかわからないが、自分達より下の人間が離れて行くのを許さない人達だ。

 こんな所から、早く解き放たれたい。
 会社が買収され、この家族が居なくなったら、私は自由になれる。
 そのためには、藍野さんの言う通りにしないといけない。

 いがみ合う義兄妹達の声に耳を澄ませながら、ゆっくりと目を閉じた。

 
 

 











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