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契約
雷
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「今夜出られない?」
藍野さんは、すかさず誘ってきた。
ここで暗示が解けたかのように、私は現実に引き戻された。夜は家事がてんこ盛りだ。
「す、すみません、私、夜に外出とか殆どした事なくて」
「主婦みたいだな」
藍野さんは驚き、
「いつでも、急でもいい、時間取れそうなら連絡して」
微かに笑って、私とメッセージアプリのアカウントを交換をした。
その後は、会社に戻って通常の業務に入った。
「お疲れ様です」
「お帰りなさい。明日美さん、藍野さん独り占めしないでくださいよー、頼みたい事いっぱいあったのに」
上野さんを始め、総務課の社員が藍野さんを待ち構えていた。
すっかり彼の事は高級派遣社員扱いだ。今までならコンサルなのに申し訳ないな、と感じるだけだったが、彼の他の目的を知った今、違う視線で見てしまう。
頼まれ事をこなす藍野さんの目によって、″必要な人材″と″不必要な人材″が選別されているのだろう。
少しヒヤヒヤしながら、他の社員と藍野さんのやり取りを気にしていたら、
「明日美さん、ちょっと変じゃない?」
竹林部長が書類精査の途中に声を掛けてきた。
「そうですか?」
「あんまり周りの声を気にしないタイプなのに、今日はソワソワして集中出来てない感じ」
「それ、傍若無人って意味ですか?」
「悪く捉えすぎ。マイペースだとか孤高って事」
孤高……。そんなかっこいいものじゃないけど。
「北営業所で何かあった?」
「いいえ、藍野さんのお陰でスムーズに事が運びました」
「そう」
竹林部長は、藍野さんへ視線をやり、その後は何も言わなかった。
″明日美さんは、ああいう人と深く付き合うと変われるんじゃないかな?″
前に部長が言ってたアレは、男女としてって事よね?
私を何とも思ってないって言われたのも同じだ。
虚しいけど、藍野さんと付き合えば、綺麗サッパリ忘れられるのかな?
だけど、何で藍野さんは私なんか誘ってきたの?
無自覚Мの女なんて、他にもいるだろうに。
性癖を指摘されたり、買収の斡旋を目論んでいる事を明かされたり、精神的に忙し過ぎて、いつもより疲労を感じた。
「明日美さん、この前頼んだ表出来てる?」
定時間際、私を翻弄する張本人がクールな顔をして尋ねてきた。
「IT資産管理表ですね。あと三営業所分で終わりです」
「そう。じゃあ待ってる」
頼んだ時は急がないと言っていたのに。
ポチポチ入力していると、いつもは遅くまで残る竹林部長が、「先に失礼するね」と皆に声を掛けて出て行った。何か用があるのだろう。
「大雨降りそうだから、皆、早めに切り上げなよ」
部長に言われて、窓を見たら確かにビルの向こう側がどんより曇っている。
片思い相手の背中を見送り、いつの間にか事務所には、藍野さんと自分の二人きりになっていた。
「皆、帰ったんですね」
「一応、今日はノー残業デーだから」
藍野さんが時計を見た。
「そういうのありましたね」
最後のデータを入力し終える。藍野さんが来てから皆が実行するようになったけど、私はあまり関係なく感じていた。
「明日美さんて」
帰り支度をしていると、
「竹林さんが好きなの?」
藍野さんから直球を食らい、声が上ずった。
「……な、何で、わ」
「見てれば分かるよ」
え……。
それ、皆も? なら、もしかして兄達も?
赤面を通り越し、私は青ざめた。
「安心して。俺が明日美さんをそういう目で見てるから気が付いただけたから」
「そういう目?」
藍野さんが小さく笑う。
「性的な目」
今度は耳から紅くなったのがわかった。
「そ、そろそろ私も帰りま、」
席を立ち、事務所を出ようとしたら腕を掴まれた。
「警戒し過ぎだよ」
「いや、普通しますよ、そんな事言われたら」
「付き合ったからと、俺が、梅野家のテリトリーで即効手を出すわけない」
「そ、そうでしょうけど」
と、その時、急にドン! と雷が落ちる。
窓に閃光が見えた後、室内が真っ暗になった。
藍野さんは、すかさず誘ってきた。
ここで暗示が解けたかのように、私は現実に引き戻された。夜は家事がてんこ盛りだ。
「す、すみません、私、夜に外出とか殆どした事なくて」
「主婦みたいだな」
藍野さんは驚き、
「いつでも、急でもいい、時間取れそうなら連絡して」
微かに笑って、私とメッセージアプリのアカウントを交換をした。
その後は、会社に戻って通常の業務に入った。
「お疲れ様です」
「お帰りなさい。明日美さん、藍野さん独り占めしないでくださいよー、頼みたい事いっぱいあったのに」
上野さんを始め、総務課の社員が藍野さんを待ち構えていた。
すっかり彼の事は高級派遣社員扱いだ。今までならコンサルなのに申し訳ないな、と感じるだけだったが、彼の他の目的を知った今、違う視線で見てしまう。
頼まれ事をこなす藍野さんの目によって、″必要な人材″と″不必要な人材″が選別されているのだろう。
少しヒヤヒヤしながら、他の社員と藍野さんのやり取りを気にしていたら、
「明日美さん、ちょっと変じゃない?」
竹林部長が書類精査の途中に声を掛けてきた。
「そうですか?」
「あんまり周りの声を気にしないタイプなのに、今日はソワソワして集中出来てない感じ」
「それ、傍若無人って意味ですか?」
「悪く捉えすぎ。マイペースだとか孤高って事」
孤高……。そんなかっこいいものじゃないけど。
「北営業所で何かあった?」
「いいえ、藍野さんのお陰でスムーズに事が運びました」
「そう」
竹林部長は、藍野さんへ視線をやり、その後は何も言わなかった。
″明日美さんは、ああいう人と深く付き合うと変われるんじゃないかな?″
前に部長が言ってたアレは、男女としてって事よね?
私を何とも思ってないって言われたのも同じだ。
虚しいけど、藍野さんと付き合えば、綺麗サッパリ忘れられるのかな?
だけど、何で藍野さんは私なんか誘ってきたの?
無自覚Мの女なんて、他にもいるだろうに。
性癖を指摘されたり、買収の斡旋を目論んでいる事を明かされたり、精神的に忙し過ぎて、いつもより疲労を感じた。
「明日美さん、この前頼んだ表出来てる?」
定時間際、私を翻弄する張本人がクールな顔をして尋ねてきた。
「IT資産管理表ですね。あと三営業所分で終わりです」
「そう。じゃあ待ってる」
頼んだ時は急がないと言っていたのに。
ポチポチ入力していると、いつもは遅くまで残る竹林部長が、「先に失礼するね」と皆に声を掛けて出て行った。何か用があるのだろう。
「大雨降りそうだから、皆、早めに切り上げなよ」
部長に言われて、窓を見たら確かにビルの向こう側がどんより曇っている。
片思い相手の背中を見送り、いつの間にか事務所には、藍野さんと自分の二人きりになっていた。
「皆、帰ったんですね」
「一応、今日はノー残業デーだから」
藍野さんが時計を見た。
「そういうのありましたね」
最後のデータを入力し終える。藍野さんが来てから皆が実行するようになったけど、私はあまり関係なく感じていた。
「明日美さんて」
帰り支度をしていると、
「竹林さんが好きなの?」
藍野さんから直球を食らい、声が上ずった。
「……な、何で、わ」
「見てれば分かるよ」
え……。
それ、皆も? なら、もしかして兄達も?
赤面を通り越し、私は青ざめた。
「安心して。俺が明日美さんをそういう目で見てるから気が付いただけたから」
「そういう目?」
藍野さんが小さく笑う。
「性的な目」
今度は耳から紅くなったのがわかった。
「そ、そろそろ私も帰りま、」
席を立ち、事務所を出ようとしたら腕を掴まれた。
「警戒し過ぎだよ」
「いや、普通しますよ、そんな事言われたら」
「付き合ったからと、俺が、梅野家のテリトリーで即効手を出すわけない」
「そ、そうでしょうけど」
と、その時、急にドン! と雷が落ちる。
窓に閃光が見えた後、室内が真っ暗になった。
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