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二 渦
人を呪わば穴二つ 1
しおりを挟む「此の世をば我が世と思ふぞ望月の かけたることも無しと思へば」 / 藤原道長
――この世は 自分(道長)のためにあるようなものだ 望月(満月)のように 何も足りないものはない――
平安の世の栄華を極めた藤原道長。
この歌は、天皇に娘を嫁がせた時のお祝いの席で道長が詠んだものだ。
たとえ実の兄でもライバルとして蹴落とし、摂政・関白の地位に就いた藤原道長は、恨みや反感を受けることも多かったという。
そこで、道長は安倍晴明を頼りにするようになる。
道長が法成寺を建立している際、彼は、毎日のように子犬と一緒にその様子を見に行っていた。
ある日、いつになく、寺門で子犬が吠え、着物の裾を咥えて中に入れようとしないので、気になった道長は安倍晴明を呼ぶ。
その先には道長を呪うものが埋めてあるという――
「ならば、埋めてあるものを堀り出してみよ」
道長に言われた晴明は、すぐさまその場所を占い探し出す。
晴明に言われた場所を家人が掘り起こして見ると、指摘どおり呪いをかけた土器(壺)が出てきた。
その壺のふたを開けると、ムカデや毒蜘蛛などの無数の毒虫がうごめいていたという。
それは蟲術といって古代中国から伝わる呪いの呪術だった。
「『源氏物語』にもみられるように、一見表向きは華やかな世界ですが、裏を返せば出世のために人を呪い、汚い手を使い、他人を蹴落としてまで権力をつかむ泥沼の時代でした。自分の能力以外の実力で定められる運命、摂関政治に代表されるような身内での政治機構、これらの窮屈な世の中が貴族の心を縛り付け、恨みを生んだといえるでしょう。それは今の世も変わらないのです」
大好きな古典を扱った授業。
クラスメートのほとんどは退屈そうにしているけれど、私は平安時代の物語が大好きだった。
先生の光源氏のモデルだと言われる藤原道長の話を聞きながら、何となく頭には、橋本千尋先輩が頭に浮かんだ。
あの人って、あっさりしたイケメンというか、和風な感じが“光源氏”そのものだと思う。
着物とか着せたら絶対に似合いそう。
そういえば、あの試合の時から、まともに姿を見ないけど、橋本先輩は元気なのだろうか?
光源氏のせいじゃないけど、橋本先輩に会いたくなった。
休み時間。
「リリ、授業中、なんかニヤニヤしてなかった?」
加奈に言われて、またやってしまった、と思った。
好きな話や推しのことを思い浮かべると、私の顔はとてもだらしなくなるのだ。
「そんなことないよ、真剣に聞いてたし」
「あんなトローい話、よく真剣になれるね。私は欠伸ばっかしてたわよ」
「うん。見てた」
笑う私達の横を、スッ……と黒い影が通り過ぎる。
クラスメイトの朝美だ。
「朝美、昨日、インスタ更新してなかったじゃん!」
自分の席に着く朝美を追って加奈が尋ねるも、朝美は黙っていた。下を向いてボンヤリしてるように見えた。
「なに、あれ。感じ悪っ」
シカトされて腹を立てているのは加奈だけじゃなかった。
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その朝美が近頃、どういうわけか、とても暗いオーラを放っているのだった。
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