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変化
挑発
しおりを挟む野沢さんがいつ入ってくるかなんて分からない。
黙っていると、
「お前、野沢に言ったら殺すからな」
一人にお面を完全に外され、顎が割れるんじゃないかと思うほど強く掴まれる。
「痛……」
この前、南くんに首を絞められたことを思い出した。
あの時も苦しかった。
男の子の力って時には凶器だ。
「保険とっとくか」
羽交い締めにしているのとは別の手が、お化け用のマントを捲り始め、
「パンツと貧乳捕られて恥ずかしいのはどっちだ?」
大人が子供に選ばせるような聞き方をしてした。
どっちも嫌に決まってる。
スマホのカメラをこちらに向けられると、短い悲鳴が口から飛び出した。
潰れそうなほど顔をガッツリ固定されたまま、
「見ろ、こいつの顔、不っ細工がますますスゲー事になってるぞ!」
笑う上級生の男達は、スマホのシャッターを続けて押す。
マントの下のスカートを間繰り上げられ下着が見えそうになって、必死に抵抗した。
「なんだ、こいつ。一丁前に見せパン穿いてるよ」
カメラを向けていた男子が軽く舌打ち。
すると、
「美海!」
颯斗くんが屋敷内を走ってやってきた。
「ちぇ、誰か来たし」
暗がりの中、手作りの壁が壊れそうな勢いで駆け寄る颯斗くんを見て、上級生は私から手を離した。
「颯斗くん……」
「なかなか客が出ていかないって浜谷さんが言ってたから」
颯斗くんの声を聞いて、ホッしてホロリと涙腺が弱まっていく。
同時に、不気味な照明しかなかったお化け屋敷に、パッと、いつもの電灯の明るさが伴った。
それで、颯斗くんに、気がつかれてしまった。
「……美海に、なにしたんだよ?」
「は? 何もしてないし、こんなブスに」
上級生たちは、そのまま出口から出ていこうとした。
「じゃなんで美海が泣くんだよ!」
颯斗くんは、蹴り倒された墓石と、私の顔を交互に見て三年生に詰め寄る。
「知るか」「うっぜぇな」
「こいつ、転校生だろ、クラスの女が騒いでた」
一人が、「野沢の……」と耳打ちすると、一番、体格のいい男子が、
「野沢フったのって、お前かよ?」
「で、このブスと付き合ってんの?」
面白くなさげな顔で颯斗くんを振り返って見ていた。
「お前、ブス専なの?」
そして。
スマホを取り出して、さっき撮った、私の姿を颯斗くんに見せつける。
「この顔とチューとかすんの? すげーね」
顎を掴まれて、歪んだ顔で泣く私の顔ーー
「しかも貧乳とか、野沢よりいいとこ、何一つねーじゃん」
そんなの、言われなくても自覚あるのに。
力だけじゃない、言葉でも男の子は女の子を傷付ける。
「……なんだよ、その写真……」
画像を見た颯斗くんの顔が、更に険しくなっていく。
「美海に、何してた?」
「颯斗くん、私は何もされてないから、ここ、早く片付けよう」
南くんを殴って問題になったからこそ、これ以上巻き込みたくない。
私は、上級生に凄む颯斗くんの腕を取った。
それなのに、心無い挑発はまだ続く。
「野沢とどっちが大きいか触っただけだよな?」
「!」
颯斗くんの腕が、勢い良く振り上がった。
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