本日は桜・恋日和 ーツアーコンダクター 紫都の慕情の旅

光月海愛(こうつきみあ)

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第四章 浩司と転機

報復

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「えっ?」
   
  上野泰子が怪訝な表情を浮かべたが、俺は構わずに、携帯電話を取り出して、その待ち受け画面を見せつけた。
    
  それは、もちろん、俺の中では永遠のヒーロー、
リバーフェニックス、しかも映画の広告でも使われていた半裸の画像だ。
   
「……わかりませんか?」
    
  それを 覗きこんで見つめる上野泰子は、まだ俺の言いたい事に気がついていない。
 
 「僕、本当は、女性は苦手なんですよ」

 「えっ、冗談ですよね?」
     
  ようやく、俺の企み通りの反応を見せてくれた上野泰子は、信じられない、という顔をした。
 
 「冗談でこんな事いいません。だから、あなたの気持ちには応えられない。申し訳ない」
     
   自分でも俳優になれるんじゃないかと思うくらい、リバーばりの繊細な表情で謝る。
  
 「そう、そうだったの……そう言われてみれば、私に性的な視線を送らなかったの、岡田さんだけだった。変だと思ったの」
     
   へっ。
   と、鼻を鳴らしたいのを堪えて、悩ましげな表情を作り続けた。
    
 「……わかりました。あなたがゲイだって事は誰にも公言しませんし、差別もしません。ですのでさっきの話は忘れてください」
   
 「ええ、僕も誰にも言いません。ですので今後ともわが社を宜しくお願い致します」
     
   今度はキアヌばりのクールな笑みを浮かべて頭を下げる。
   
   それを見た上野泰子は、
 
 「……一杯だけ、飲んで帰りますね」
    
   本当に惜しいという表情を見せて、やけ酒のような飲み方をした。
    
   その様子を見守りながら、キアヌに成りきって一時間後。ようやく解放。
   この時は、これでおさまったのだが……。


  わが社と上野ブライダルとの提携契約が順調に進んだ頃、
   
 「赤ちゃんできたみたいなの」
     
  倫子が妊娠をした。
      
  付き合って五年目のことだった。
      
  半同棲みたいな生活をしていた俺達だったが、ちゃんとけじめをつける良いキッカケだと思って、直ぐに入籍を決めた。
  
   上司に報告すると、
   
 「式は勿論、上野ブライダルだよな?」
   
 「あ、いや。俺の地元は九州なんで」
 
 「上野ブライダルは九州にも支店がある。それより、どうだ? この際、ハワイで挙式したら」
  
 「それは、身重の彼女に聞いてみないと……」
   
 「どっちにしろ、上野ブライダル以外で挙げたら角がたつ。夫の顔に泥を塗るような決断はしないだろ」
  
   有無を言わさず、俺の挙式・披露宴の場所を決めつけた。

  まいった。
    
  俺の結婚の情報を、上野泰子が掴まないはずがなく、式場予約後、彼女からのラインが来て、それを見た途端、背筋が凍ったのを覚えている。

 【ご結婚おめでとうございます。奥様、ご懐妊ということで。
   
     …………嘘つき。
    
   わざわざうちを使うあたり無神経過ぎませんか?
   私を侮辱した男は許さない】

   
   ″ 許さない ″ 。
     
   文字通りの理不尽な報復が待っていた。












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