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理想と現実2 (神城視点)
吐き出し
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「あ、れ……何で、鈴木さん?」
時計を見る。まだ朝ではなかった。
「……あぁ、そっか」
寝落ちたんだ。
ちょっと張り切り過ぎた。
鈴木さんの頭を引き寄せて頭上部を触ってみる。見た目より柔らかい髪だった。
「夢見てたでしょ? ″大地″って言ってたよ」
俺の胸に顔を埋め、微睡んだ目で言われた。
「……たまに見るんだよね、兄貴と母さんの夢」
誰かにこんな話をしたことはなかった。
鈴木さんが眠そうな目をさらに細める。
「仲良くなかったの?」
「いや、兄弟仲は普通。でも母さんは兄貴ととても仲良かったんだ」
マザコンもしくは被害者ヅラしてるみたいで、話して憂鬱になった。
でも何歳になっても、本人がいなくなっても夢に見るのだから、マザコンなのかもしれない。
鈴木さんが俺の胸に完全に顔を埋めた。
こそばゆくて温かくて、猫を抱いてるみたいだ。
「どんなお兄さんだったの?」
柔らかい、湿った声で聞かれ、俺は兄貴のことを思い出した。子供で、でも大人な兄。身体も気持ちも大きかった。羨ましいほど、自由だった。
「ん。明るいけど、ワガママで奔放で暴れん坊だった」
鈴木さんが熱なく笑う。
「鈴木さんのお姉さんと似た所あるかも」
そう言うと、鈴木さんの表情が曇った。
俺と同じで、この人もきょうだいへのコンプレックスがあるのかもしれない。
ますます愛しい。
俺は、鈴木さんの身体を撫でて言った。
「俺の同級生がなつみの方で良かった」
それから鈴木さんが俺の家に越してきて、同居生活が始まる。
他人と一緒に暮らすなんて過去には留学時以外はなかった。
口には出さなかったけど、ちゃんと先まで見据えていた。
彼女のお姉さんに煽られたからじゃないけれど、結婚だって頭を過っていたのに――
そんな時に、会社でトラブルが立て続けに起こった。
はじめは、使用者の責任転嫁とも取れるクレームだけだったが、競合会社によるステマ、機器の健康被害と次から次へと波風が立ち、会社存続の危機さえ感じるほどになってきた。
「慰めてくれよ」
俺は、ランに話すように鈴木さんにそう言った。
ソファーで寛いでいた彼女に抱きつく。
「……何かあったの?」
鈴木さんが俺の髪を触る。彼女の胸に顔を埋め、その柔らかさに包まれる。俺は、今度は自社製品による健康被害の記事が出ることを話した。
「一応、子供の使用開始年齢は明記してるけど、説明不足だったみたいだね。うちのゲーム機普及と子供の斜視の増加に関連性があると某メディアが取り上げるらしい」
何かがおかしいと感じていても、まだ、確信が持てない。
大人になっても、経営者になっても、不安や憤りに押し潰されそうになる。こんな弱い自分は嫌だ。
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも……」
半分、本気の弱音を吐いて、鈴木さんの胸の先を布越しに咥えてみる。やっぱりそれじゃ物足りなくて、パジャマの裾を捲り上げた。
甘い匂い。
何故か懐かしい。
赤ん坊のようにむしゃぶりつく。鈴木さんが我慢するように声を抑えて言った。
「いっぱいいっぱいになる前に、何でもいいから吐き出して?」
「……そんなこと言ったら、鈴木さんの中に吐き出すよ」
この時の俺は、やや自暴自棄だった。
欲と不安が、他人のことまで考える余地を失わせていた。明るいリビングで脱衣も半端なまま、それが興奮を強くして避妊もせずに彼女の中に埋もれていった。
言葉のまんま、収縮を続ける鈴木さんの中で射精した。ドクドクと温かくて、それでいて罪悪感も押し寄せる。
中出し。
やってしまった。しかし、もう、どうにでもなれ。
今までこんなことは一度もなかった。
そして、副社長の裏切り疑惑。
経営者として自信を無くしかけていた俺は、鈴木さんを仕事のトラブルにこれ以上巻き込むのだけは避けたかった。
どうせなら退職してくれたほうがいい。
結婚して、家庭に入ってくれたら、そっちのほうが気が楽だった。
「体調、変わりない?」
だから、こんなことを訊いた。
時計を見る。まだ朝ではなかった。
「……あぁ、そっか」
寝落ちたんだ。
ちょっと張り切り過ぎた。
鈴木さんの頭を引き寄せて頭上部を触ってみる。見た目より柔らかい髪だった。
「夢見てたでしょ? ″大地″って言ってたよ」
俺の胸に顔を埋め、微睡んだ目で言われた。
「……たまに見るんだよね、兄貴と母さんの夢」
誰かにこんな話をしたことはなかった。
鈴木さんが眠そうな目をさらに細める。
「仲良くなかったの?」
「いや、兄弟仲は普通。でも母さんは兄貴ととても仲良かったんだ」
マザコンもしくは被害者ヅラしてるみたいで、話して憂鬱になった。
でも何歳になっても、本人がいなくなっても夢に見るのだから、マザコンなのかもしれない。
鈴木さんが俺の胸に完全に顔を埋めた。
こそばゆくて温かくて、猫を抱いてるみたいだ。
「どんなお兄さんだったの?」
柔らかい、湿った声で聞かれ、俺は兄貴のことを思い出した。子供で、でも大人な兄。身体も気持ちも大きかった。羨ましいほど、自由だった。
「ん。明るいけど、ワガママで奔放で暴れん坊だった」
鈴木さんが熱なく笑う。
「鈴木さんのお姉さんと似た所あるかも」
そう言うと、鈴木さんの表情が曇った。
俺と同じで、この人もきょうだいへのコンプレックスがあるのかもしれない。
ますます愛しい。
俺は、鈴木さんの身体を撫でて言った。
「俺の同級生がなつみの方で良かった」
それから鈴木さんが俺の家に越してきて、同居生活が始まる。
他人と一緒に暮らすなんて過去には留学時以外はなかった。
口には出さなかったけど、ちゃんと先まで見据えていた。
彼女のお姉さんに煽られたからじゃないけれど、結婚だって頭を過っていたのに――
そんな時に、会社でトラブルが立て続けに起こった。
はじめは、使用者の責任転嫁とも取れるクレームだけだったが、競合会社によるステマ、機器の健康被害と次から次へと波風が立ち、会社存続の危機さえ感じるほどになってきた。
「慰めてくれよ」
俺は、ランに話すように鈴木さんにそう言った。
ソファーで寛いでいた彼女に抱きつく。
「……何かあったの?」
鈴木さんが俺の髪を触る。彼女の胸に顔を埋め、その柔らかさに包まれる。俺は、今度は自社製品による健康被害の記事が出ることを話した。
「一応、子供の使用開始年齢は明記してるけど、説明不足だったみたいだね。うちのゲーム機普及と子供の斜視の増加に関連性があると某メディアが取り上げるらしい」
何かがおかしいと感じていても、まだ、確信が持てない。
大人になっても、経営者になっても、不安や憤りに押し潰されそうになる。こんな弱い自分は嫌だ。
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも……」
半分、本気の弱音を吐いて、鈴木さんの胸の先を布越しに咥えてみる。やっぱりそれじゃ物足りなくて、パジャマの裾を捲り上げた。
甘い匂い。
何故か懐かしい。
赤ん坊のようにむしゃぶりつく。鈴木さんが我慢するように声を抑えて言った。
「いっぱいいっぱいになる前に、何でもいいから吐き出して?」
「……そんなこと言ったら、鈴木さんの中に吐き出すよ」
この時の俺は、やや自暴自棄だった。
欲と不安が、他人のことまで考える余地を失わせていた。明るいリビングで脱衣も半端なまま、それが興奮を強くして避妊もせずに彼女の中に埋もれていった。
言葉のまんま、収縮を続ける鈴木さんの中で射精した。ドクドクと温かくて、それでいて罪悪感も押し寄せる。
中出し。
やってしまった。しかし、もう、どうにでもなれ。
今までこんなことは一度もなかった。
そして、副社長の裏切り疑惑。
経営者として自信を無くしかけていた俺は、鈴木さんを仕事のトラブルにこれ以上巻き込むのだけは避けたかった。
どうせなら退職してくれたほうがいい。
結婚して、家庭に入ってくれたら、そっちのほうが気が楽だった。
「体調、変わりない?」
だから、こんなことを訊いた。
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