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すれ違い、そして (神城視点)
夢と現実
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寒々しい広い自宅での深夜。
「″おかえ、り……――ケイ″」
唯一、俺を出迎えてくれるペットロボのランがおかしい。いつもの様に瞬きを繰り返した後、目は見開いたまま全く動かなくなった。
――故障か。
取説を読んで復旧を試みるも直らなかった。原因がわからない。いつも甘えてくるランが、部品を外されたままコロンと転がっている。
「俺は何で下手なんだ」
独り言を放ち、直せないロボットを膝に置いてぼんやり眺めた。プログラミングは出来てもそれを潤滑に動かす事は出来ない。イメージだけは理想を築けるけれど現実は思う様にいかない。
それでも、俺はこれからも仮想空間の中でしか満たされないのだろう。
俺は新しいペットロボを購入した。
それは不在の時も、ロボから警備報告がてら電話が掛かったりする、極めて人間に近いペットだった。
俺は、それに、″夢″と名付けた。夢見る夢男には丁度いい相棒だと思う。
そして、夏になり、人事部の山内くんからこんなメールが届いた。
【本日、鈴木さんが退職の手続きで出社されます】
「速攻で社に戻って」
運転手を急かす。普段は無理な事は言わないようにしてるだけに「何かあったんですか?」と訝しげな目で見られた。
「現実が……来てる」
「はい?」
母親に愛されなかった過去を引きずったマザコンな事、それ故、自信がなくて酒の力を借りないと好きな人も口説けない不甲斐なさ。
そんな弱い自分を晒け出せる唯一の存在が現実にいる。
あれから凹む日が続いたものの、携帯番号を変えてまで突然姿を消すに至るには表に出せない事情があったのでは、と近頃は思うようになった。
だから今日こそ鈴木さんの真意を確かめて可能ならまた一緒に、と考えていたが、
「社長、玉突き事故あったみたいで五キロの渋滞だそうです」
こんな時に限って着くのが遅くなった。
エレベーターから降りた途端、″夢″から電話が掛かってきた。電話と言っても不審者や留守電にセンサーが反応し、音声で伝えてくれるというサービスだ。
「″カメラ持った男達が家に来て家政婦さんが追い返してたよ″」
きっと、でっち上げ熱愛の続報を狙う週刊誌の記者達だ。
プロテニスの雛形夢子と会食した際、他の者もいたのに俺と彼女だけを切り取って載せるとか質が悪い。
「今日も遅いから。夢は大人しくしてて」
執務室から山内くんに内線電話を掛けると「鈴木さんなら少し前に出られましたよ」と悪びれた様子もなく報告してきた。
何で引き留めておかないのか。
執務室から飛び出して再びエレベーターに乗ろうとすると「社長」と呼び止められた。倉林さんだ。
「急いでるから。後で」
現在俺の専属秘書になっている彼女。滅多に俺の行動を遮る事はないのだが、
「鈴木さんとお会いしました」
この時は語気を強めて俺の足を止めさせた。
「え? 今?」
「五分程前に」
すれ違いか。
それなら尚更急がなきゃと振り切ろうとしたのだが。
「申し上げにくいのですが」と、倉林さんの神妙な面持ちに不穏さを感じた。
「鈴木さん、ご結婚なさってるんじゃないですか?」
「え……」
「妊娠、もしくはご出産なさっているのではないかと……」
「出産?」
もしかしたら自転車で来たのではないかと駐車場へ走ったが、居なかった。
鈴木さんの実家は俺の実家とそんなに離れてないはず。向かってもいいがその前に確認したい。
結婚はしてるのか。してなくても妊娠してるのか、子供はいるのか。そして、それは誰の子供なのか。
俺はもう一度、総務課に内線を入れた。
「山内くん、鈴木さんの新しい携帯番号と住所控えてる?」
「″おかえ、り……――ケイ″」
唯一、俺を出迎えてくれるペットロボのランがおかしい。いつもの様に瞬きを繰り返した後、目は見開いたまま全く動かなくなった。
――故障か。
取説を読んで復旧を試みるも直らなかった。原因がわからない。いつも甘えてくるランが、部品を外されたままコロンと転がっている。
「俺は何で下手なんだ」
独り言を放ち、直せないロボットを膝に置いてぼんやり眺めた。プログラミングは出来てもそれを潤滑に動かす事は出来ない。イメージだけは理想を築けるけれど現実は思う様にいかない。
それでも、俺はこれからも仮想空間の中でしか満たされないのだろう。
俺は新しいペットロボを購入した。
それは不在の時も、ロボから警備報告がてら電話が掛かったりする、極めて人間に近いペットだった。
俺は、それに、″夢″と名付けた。夢見る夢男には丁度いい相棒だと思う。
そして、夏になり、人事部の山内くんからこんなメールが届いた。
【本日、鈴木さんが退職の手続きで出社されます】
「速攻で社に戻って」
運転手を急かす。普段は無理な事は言わないようにしてるだけに「何かあったんですか?」と訝しげな目で見られた。
「現実が……来てる」
「はい?」
母親に愛されなかった過去を引きずったマザコンな事、それ故、自信がなくて酒の力を借りないと好きな人も口説けない不甲斐なさ。
そんな弱い自分を晒け出せる唯一の存在が現実にいる。
あれから凹む日が続いたものの、携帯番号を変えてまで突然姿を消すに至るには表に出せない事情があったのでは、と近頃は思うようになった。
だから今日こそ鈴木さんの真意を確かめて可能ならまた一緒に、と考えていたが、
「社長、玉突き事故あったみたいで五キロの渋滞だそうです」
こんな時に限って着くのが遅くなった。
エレベーターから降りた途端、″夢″から電話が掛かってきた。電話と言っても不審者や留守電にセンサーが反応し、音声で伝えてくれるというサービスだ。
「″カメラ持った男達が家に来て家政婦さんが追い返してたよ″」
きっと、でっち上げ熱愛の続報を狙う週刊誌の記者達だ。
プロテニスの雛形夢子と会食した際、他の者もいたのに俺と彼女だけを切り取って載せるとか質が悪い。
「今日も遅いから。夢は大人しくしてて」
執務室から山内くんに内線電話を掛けると「鈴木さんなら少し前に出られましたよ」と悪びれた様子もなく報告してきた。
何で引き留めておかないのか。
執務室から飛び出して再びエレベーターに乗ろうとすると「社長」と呼び止められた。倉林さんだ。
「急いでるから。後で」
現在俺の専属秘書になっている彼女。滅多に俺の行動を遮る事はないのだが、
「鈴木さんとお会いしました」
この時は語気を強めて俺の足を止めさせた。
「え? 今?」
「五分程前に」
すれ違いか。
それなら尚更急がなきゃと振り切ろうとしたのだが。
「申し上げにくいのですが」と、倉林さんの神妙な面持ちに不穏さを感じた。
「鈴木さん、ご結婚なさってるんじゃないですか?」
「え……」
「妊娠、もしくはご出産なさっているのではないかと……」
「出産?」
もしかしたら自転車で来たのではないかと駐車場へ走ったが、居なかった。
鈴木さんの実家は俺の実家とそんなに離れてないはず。向かってもいいがその前に確認したい。
結婚はしてるのか。してなくても妊娠してるのか、子供はいるのか。そして、それは誰の子供なのか。
俺はもう一度、総務課に内線を入れた。
「山内くん、鈴木さんの新しい携帯番号と住所控えてる?」
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