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2. No penny, No pardon.
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彼とはマッチングアプリで知り合った。当時は大学生で、顔合わせ以降、定期的に誘われていた。今や長期の太客だ。
SNSで噂されているように、私はパパ活をして金を稼いでいる。こっちはお金目的で、向こうは私の体目的で。もちろん二人の間に愛情や友情などない。とは言え、相当気に入ってくれたのか、あの事がバレた後も変わらず呼んでくれる。私が”マリア”ではなく、古味山嗣乃であるとこは承知の上で。
「みんなその内忘れるから大丈夫だよ。それより、こっちに来る気ない? お手当もずむし、応援もするから」
「うん。考えておく」
彼は私の太ももの上に手を置き、体格に合わない細い指でゆっくりと撫でた。彼は行為の対価とは別に援助資金を出すと言ってくれた。彼からすれば従順な若い女性――若いと言ってもアラサーなのだが――を傍に置いておきたいだけなのだろう。
「そうだ、ワインでも飲む?」
彼が立ち上がり言う。
「いや、いいよ」
「遠慮しなくていいよ。飲みなって。飲めば気分も晴れるしさ」
「……うん。じゃあそうする」
ここは無理してでも飲まないと機嫌を悪くしてしまう。ワイングラスを受り、香りを嗅ぐ。彼曰くこのワインは「重厚で成熟した香り」をしているらしいが、どれも大して変わらない。液体を口に含むと果実の渋みが滑らかに広がった。
アルコールを飲むと退屈な長話のあと必ず肉体関係を迫って来る。選り好みなんてしていられない。今はこの人を頼るしかないのだ。何より彼はSNSでの炎上について「興味がない」と言ってくれた。SNSでは私たちの素性を大げさに肉付けし、肥大化したもう一人の古味山嗣乃の話題で持ちきりだ。
――被害者が亡くなっているのに、自分たちはのうのうと生きていることに憤りを感じる。犯人もそうだけど、時効まで黙っていた目撃者たちにも制裁が必要。
この投稿が目についた時は少しだけ自分の行動を後悔した。まさか時効寸前まで犯人たちが逃亡できるとは思いもしなかった。しかしながら、謝罪を表明するつもりはない。謝罪すれば多くの人たちは満たされるかもしれないが、過去に戻ることはできない。だから謝罪はしたい人だけすればいい。何より、私たちはひき逃げ犯ではない。
「マリアちゃん。俺さ、マリアちゃんが好きだよ。本気かも」
酒が回ってきたのか、いつもより声を高くして甘えるように寄りかかってきた。首筋や鎖骨に唇を充て熱のこもった息を耳に吹きかけている。
「マリアちゃん……。場所、移動しよっか……」
「うん……」
本名で呼ばない辺り本気じゃないに決まっている。
こんな状況で抱こうとする彼もそれに応える私も、SNSで誹謗する人たちと同じ穴のムジナだ。自分がロクな人間ではないことが、決定的に分かったのは……父と住むようになってからだったかな。それとも、もう少し前だったかな。
SNSで噂されているように、私はパパ活をして金を稼いでいる。こっちはお金目的で、向こうは私の体目的で。もちろん二人の間に愛情や友情などない。とは言え、相当気に入ってくれたのか、あの事がバレた後も変わらず呼んでくれる。私が”マリア”ではなく、古味山嗣乃であるとこは承知の上で。
「みんなその内忘れるから大丈夫だよ。それより、こっちに来る気ない? お手当もずむし、応援もするから」
「うん。考えておく」
彼は私の太ももの上に手を置き、体格に合わない細い指でゆっくりと撫でた。彼は行為の対価とは別に援助資金を出すと言ってくれた。彼からすれば従順な若い女性――若いと言ってもアラサーなのだが――を傍に置いておきたいだけなのだろう。
「そうだ、ワインでも飲む?」
彼が立ち上がり言う。
「いや、いいよ」
「遠慮しなくていいよ。飲みなって。飲めば気分も晴れるしさ」
「……うん。じゃあそうする」
ここは無理してでも飲まないと機嫌を悪くしてしまう。ワイングラスを受り、香りを嗅ぐ。彼曰くこのワインは「重厚で成熟した香り」をしているらしいが、どれも大して変わらない。液体を口に含むと果実の渋みが滑らかに広がった。
アルコールを飲むと退屈な長話のあと必ず肉体関係を迫って来る。選り好みなんてしていられない。今はこの人を頼るしかないのだ。何より彼はSNSでの炎上について「興味がない」と言ってくれた。SNSでは私たちの素性を大げさに肉付けし、肥大化したもう一人の古味山嗣乃の話題で持ちきりだ。
――被害者が亡くなっているのに、自分たちはのうのうと生きていることに憤りを感じる。犯人もそうだけど、時効まで黙っていた目撃者たちにも制裁が必要。
この投稿が目についた時は少しだけ自分の行動を後悔した。まさか時効寸前まで犯人たちが逃亡できるとは思いもしなかった。しかしながら、謝罪を表明するつもりはない。謝罪すれば多くの人たちは満たされるかもしれないが、過去に戻ることはできない。だから謝罪はしたい人だけすればいい。何より、私たちはひき逃げ犯ではない。
「マリアちゃん。俺さ、マリアちゃんが好きだよ。本気かも」
酒が回ってきたのか、いつもより声を高くして甘えるように寄りかかってきた。首筋や鎖骨に唇を充て熱のこもった息を耳に吹きかけている。
「マリアちゃん……。場所、移動しよっか……」
「うん……」
本名で呼ばない辺り本気じゃないに決まっている。
こんな状況で抱こうとする彼もそれに応える私も、SNSで誹謗する人たちと同じ穴のムジナだ。自分がロクな人間ではないことが、決定的に分かったのは……父と住むようになってからだったかな。それとも、もう少し前だったかな。
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