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1. No pain, No gain.
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◇
十年前のあの日、P市にある名無しの浜辺で、俺を含めたQ大学の同期五人は花火を楽しむために集まった。十月の下旬、平日の夜だったため俺たち以外に人気はない。
「えー! またー?」
俺はチョキを出した手を見下ろし、ため息をついた。
「ほんと、伊吹ってじゃんけん弱くて助かるわー」
「ちゃんとカメラ持ってけよ! 本物のユーレイが映るかもしれないんだから」
「分かってるって……」
交わした会話は他愛もなかった。細かな内容はよく覚えていないが、「じゃんけんで負けたやつが近くの神社へ肝試しに行こう」と誰かが言い出し、そのじゃんけんで負けてしまったのが俺だった。
ここ数年、運が悪いと感じる。新しく買った原付のタイヤは釘を踏んでパンクするし、食べたかった弁当が直前になって売り切れる。それでも幸運なことはあった。先週、ある企業から内定をもらったことだ。大企業とまではいかないが、社風や給料は悪くない。
ここにいる全員、就職が決まっておりあとは卒業するだけの身だった。卒業すれば俺たちはバラバラになるだろう。お互い仕事やら家庭やらで集まりたくても集まれない。こんなことをするのもこれで最後になる、はずだった。
「はぁ……。じゃ、行ってくる」
カメラが録画モードになっていることを確認し歩き出した。目的の神社があるのは片側一車線の道路を挟んだ小高い場所。そこに着いたら境内まで登って写真を撮ってこなければいけない。
「気ぃつけて行けよー」
ニヤニヤしながら颯が言った。兄貴肌の野球バカ。中学校の時一緒のクラスになり、高校は別になったが大学で再会した。大手商社の営業職に就職予定。
「僕も行こうか? 田舎とはいえ真夜中だし」
声をかけたのは勝矢だった。彼は幼稚園からの腐れ縁で、中学から高校まで共に吹奏楽部に所属していた。手先が器用で自動車部品会社に就職予定。
「平気、平気。これでも足は速い方だから」
「そうだよ。子どもじゃないんだから」
嗣乃が俺の返事に付け加えた。隣に立っている佐環も頷く。
二人は大学時代からの知り合いで、同じサークルに所属しており交流していく内に意気投合した。佐環は公務員として、嗣乃は貿易会社に就職予定。
贅沢を言うなら嗣乃とは卒業しても付き合いを続けていたい。彼女とは話や趣味も合うし、たまにだけど二人だけで出かける時もあった。それも嗣乃から誘ってくれていた。だから、チャンスがあれば告白したいとタイミングを伺っているのだけど、もし断られたら気まずくなるからといつまでも怖気づいている。それに佐環から、彼女の理想はかなり高いと言われ益々勇気を失くした。
浜辺を離れ緩やかな坂道を歩く。神社の前を通る道路に出るまで街灯はなく、スマートフォンのライトを頼りに慎重に一歩を踏み出す。非科学的なことは信じない方だが、灯りがないとどうにも気味が悪い。両肩に何かが重くのしかかっているような気がしてきた。アスファルトの道は途中から階段になり、思った以上に遠く息を切らしながら登っていると、ようやく石造りの鳥居が見えてきた。あと少し。最後の段に足が差し掛かったその時。
「うわぁー!」と野太い声が聞こえたと同時に、ドンッと鈍い音が闇の中に落ちた。続けてキーッと長く甲高い音がすぐ近くで響く。
十年前のあの日、P市にある名無しの浜辺で、俺を含めたQ大学の同期五人は花火を楽しむために集まった。十月の下旬、平日の夜だったため俺たち以外に人気はない。
「えー! またー?」
俺はチョキを出した手を見下ろし、ため息をついた。
「ほんと、伊吹ってじゃんけん弱くて助かるわー」
「ちゃんとカメラ持ってけよ! 本物のユーレイが映るかもしれないんだから」
「分かってるって……」
交わした会話は他愛もなかった。細かな内容はよく覚えていないが、「じゃんけんで負けたやつが近くの神社へ肝試しに行こう」と誰かが言い出し、そのじゃんけんで負けてしまったのが俺だった。
ここ数年、運が悪いと感じる。新しく買った原付のタイヤは釘を踏んでパンクするし、食べたかった弁当が直前になって売り切れる。それでも幸運なことはあった。先週、ある企業から内定をもらったことだ。大企業とまではいかないが、社風や給料は悪くない。
ここにいる全員、就職が決まっておりあとは卒業するだけの身だった。卒業すれば俺たちはバラバラになるだろう。お互い仕事やら家庭やらで集まりたくても集まれない。こんなことをするのもこれで最後になる、はずだった。
「はぁ……。じゃ、行ってくる」
カメラが録画モードになっていることを確認し歩き出した。目的の神社があるのは片側一車線の道路を挟んだ小高い場所。そこに着いたら境内まで登って写真を撮ってこなければいけない。
「気ぃつけて行けよー」
ニヤニヤしながら颯が言った。兄貴肌の野球バカ。中学校の時一緒のクラスになり、高校は別になったが大学で再会した。大手商社の営業職に就職予定。
「僕も行こうか? 田舎とはいえ真夜中だし」
声をかけたのは勝矢だった。彼は幼稚園からの腐れ縁で、中学から高校まで共に吹奏楽部に所属していた。手先が器用で自動車部品会社に就職予定。
「平気、平気。これでも足は速い方だから」
「そうだよ。子どもじゃないんだから」
嗣乃が俺の返事に付け加えた。隣に立っている佐環も頷く。
二人は大学時代からの知り合いで、同じサークルに所属しており交流していく内に意気投合した。佐環は公務員として、嗣乃は貿易会社に就職予定。
贅沢を言うなら嗣乃とは卒業しても付き合いを続けていたい。彼女とは話や趣味も合うし、たまにだけど二人だけで出かける時もあった。それも嗣乃から誘ってくれていた。だから、チャンスがあれば告白したいとタイミングを伺っているのだけど、もし断られたら気まずくなるからといつまでも怖気づいている。それに佐環から、彼女の理想はかなり高いと言われ益々勇気を失くした。
浜辺を離れ緩やかな坂道を歩く。神社の前を通る道路に出るまで街灯はなく、スマートフォンのライトを頼りに慎重に一歩を踏み出す。非科学的なことは信じない方だが、灯りがないとどうにも気味が悪い。両肩に何かが重くのしかかっているような気がしてきた。アスファルトの道は途中から階段になり、思った以上に遠く息を切らしながら登っていると、ようやく石造りの鳥居が見えてきた。あと少し。最後の段に足が差し掛かったその時。
「うわぁー!」と野太い声が聞こえたと同時に、ドンッと鈍い音が闇の中に落ちた。続けてキーッと長く甲高い音がすぐ近くで響く。
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