Rabbit-foot

Suzuki_Aphro

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1. No pain, No gain.

3

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 突然の出来事に、一瞬体の動きが固まった。仄かなガソリン臭が漂う。スマートフォンのライトを消して、近くにあった電柱の陰へ隠れる。そして、音がした方へゆっくりと顔を出す。今分かることは、道路脇にある街灯の下にカンガルーバーを装着した黒っぽい大きな車が照らされていたこと、現場に複数の男女がいたことだけ。

「私たち……。どうすんの?」

「仕方ねーだろ! 逃げるしかない!」

「酒飲んでるし……。バレないかな?」

 足が竦み、その場で尻もちを着いてしまった。掌に小石が突き刺さる。

 波の音で途切れ途切れになっているため、正確な人数や内容は不明だ。だけど、非常にマズイ事態であることは分かる。おそらく、彼らは何かを轢いてしまったのだ。最悪の場合、人間を轢いてしまった。そして俺は偶然にも事故の目撃者となってしまった。それだけならまだよかった。これがただの事故で済んだのなら。

 ――緊急事態! 誰か来て! ヤバいことになってる!

 這うように階段を降りながら同期たちにメッセージを送る。

 ――どーした? ユーレイでも出たか?

 颯が呑気に返してくる。

 ――違うよ! とにかく、誰か来て! 俺一人じゃ対処できない!

 ――不審者に襲われてるとか?

 今度は佐環が返事をした。

 ――見た方が早い! とにかく誰でもいいから!

 ――分かった。今そっちに行く。もし何かあったら全力で車まで走るんだ。

 流石、勝矢だ。スマートフォンを胸に押し当て深呼吸をし、体を無理やり縮こませて気配を消そうとした。

 酒という単語が出ていたからこのまま逃げる可能性もある。人を死なせて逃げようなど考えている奴らなら、まともな人間でなかったら……。何をされるか分からない。見つかってはダメだ。ヤバい奴らには関わらないのが最善だ。

 頼む、頼む……。

 耳を澄ませれば澄ますほど、聞こえてくるのは自分の心音だけになっていく。運転手達は逃げたのか、それとも救急に電話しているのか、もう立ち上がっていいのか分からなくなっていると誰かが膝を軽く叩いた。

「勝矢……」

 暗闇に目が慣れたおかげで勝矢だとすぐに認識できた。彼は頷き、メッセージを送信した。

 ――どうした?

 俺が「説明は後で。みんな、とにかく静かにここを離れて」と打ち終えたところで、嗣乃が割って入ってきた。

 ――あんなところで何してるのかな?

 隣に気配を感じて見ると気づかぬうちに彼女がしゃがんでいた。しーっと人差し指を立て、片方の指で「ほら、あそこ」と示している。

 ――みんな静かに! 身を屈めて。

 俺の代わりに勝矢が送信する。少し下ったところに目をやると佐環と颯がこちらの様子を伺っていた。

 車の運転手たちはどうなったんだ。鈴虫と波の音しか残っていない。戻るなら今かと考えていると、再び会話が聞こえてきた。

「早く……」

「……ないよ」

「行こう……」

 短いやり取りの後、ドアの閉まる音が数回。そしてバックブザーを鳴らし、例の車はエンジンを吹かして遠くへ去っていった。
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