Rabbit-foot

Suzuki_Aphro

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1. No pain, No gain.

8

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 俺はシートを倒さないままでいた。このまま眠りに着きたいところであるが、その前にはっきりさせたいことがあった。

 颯に目をやる。二つ折りにしたフェイスタオルで目元を覆っていた。

 やるなら今だ。体を捻り、颯に背を向けた格好でメッセージアプリを開く。

 ――颯が言ってる巴海沙って人、俺たちが中学の時にいなかったよな?

 文章を打ち終わると、明かりで颯が起きないように画面の明かりは最小限にしてから、シートとヘッドレストの隙間にスマートフォンを入れる。画面を下にしたまま慎重に。そして、目一杯仰け反り、バックミラーを見ながら端末の角を勝矢の体に数回当てる。しかし、もう眠ってしまったのか反応がない。

「フーーーッ」

 静かに息を吐く。一回目の挑戦は失敗した。もう一回、と思いきや、右上腕部をつつかれた。

 合図だと思った。腕を後ろに伸ばす。すると今度は、手の中の端末がスルリと抜けた。時間はかからなかった。勝矢は俺の文章を消さず、真下に返事を追記して返してくれた。

 ――うん。いなかったと思う。さっきの佐環との会話で言った「小学生だった頃」が事実なら。

 ――そうだよな。そもそも、同じ学校に通う生徒があんな大事件起こしていたら、流石に覚えているはずだし。

 ――まぁ、颯があの被害者とどこで知り合ったかまでは曖昧なままだね。真実を知りたいところだけど、人の過去を詮索するのは良くない。

 ――それもそうだな。ただの偶然であることを信じよう。

 勝矢はグッドマークの絵文字のみで返してきた。俺は彼との会話文を全部消し、スマートフォンをポケットにしまう。

 空気が抜けたボールのように、体がシートにへばりつく。

 これから俺たちの身に起こる、全貌を知ることができたなら。それでも俺は逃亡者として生きることを選択するのだろうか。



 
 コン、コン、コン。

 ゆっくりと片目を開ける。軽快なノック音の合間に籠ったような音。その正体は、警察官たちが車窓越しに俺たちへ呼びかけている音だった。

 急いで起き上がる。颯は熟睡しているが、勝矢も目を覚ましたようだ。体中が痛みだす中、手を伸ばしエンジンスタートボタンを押した。カーナビが起動したため、オーディオをオフにする。ディスプレイに表示された時間は九時三十二分。アラームをかけていたはずなのに、全く気付けなかった。

 三分の一ほど下がったところで、パワーウィンドウを止める。

「突然すみませんね」

 中年の男性警察官が、帽子のつばを持ちながら言った。

「いえ……。あの、何か……」

 無断駐車の件か、パトロールに来ただけか、それとも。

「この車、君の?」

「違います。これはレンタカーでして」

「なるほど。君たちは大学生? 身分証明できるものある?」

「大学生ですけど……免許証なら」

 あれ?

 背筋に一筋の汗が流れた。ポケットから、財布が失くなっている。

「あ、あれ……。どこ置いたっけ……」

 俺はドリンクホルダーの底や座席の下を探す。

 ない、ない、ない――。

 財布を颯の車に置いた記憶はないし、最後に財布をしまったのはいつだ。思い出せない。事故現場付近の階段に落としてしまったのか。

 警官が不審がっていると、ちょうど勝矢が起きてくれた。

「どうした、伊吹?」

「あぁ、勝矢。今、警察の人から声をかけられて」

「警察……?」
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