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1. No pain, No gain.
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俺はシートを倒さないままでいた。このまま眠りに着きたいところであるが、その前にはっきりさせたいことがあった。
颯に目をやる。二つ折りにしたフェイスタオルで目元を覆っていた。
やるなら今だ。体を捻り、颯に背を向けた格好でメッセージアプリを開く。
――颯が言ってる巴海沙って人、俺たちが中学の時にいなかったよな?
文章を打ち終わると、明かりで颯が起きないように画面の明かりは最小限にしてから、シートとヘッドレストの隙間にスマートフォンを入れる。画面を下にしたまま慎重に。そして、目一杯仰け反り、バックミラーを見ながら端末の角を勝矢の体に数回当てる。しかし、もう眠ってしまったのか反応がない。
「フーーーッ」
静かに息を吐く。一回目の挑戦は失敗した。もう一回、と思いきや、右上腕部をつつかれた。
合図だと思った。腕を後ろに伸ばす。すると今度は、手の中の端末がスルリと抜けた。時間はかからなかった。勝矢は俺の文章を消さず、真下に返事を追記して返してくれた。
――うん。いなかったと思う。さっきの佐環との会話で言った「小学生だった頃」が事実なら。
――そうだよな。そもそも、同じ学校に通う生徒があんな大事件起こしていたら、流石に覚えているはずだし。
――まぁ、颯があの被害者とどこで知り合ったかまでは曖昧なままだね。真実を知りたいところだけど、人の過去を詮索するのは良くない。
――それもそうだな。ただの偶然であることを信じよう。
勝矢はグッドマークの絵文字のみで返してきた。俺は彼との会話文を全部消し、スマートフォンをポケットにしまう。
空気が抜けたボールのように、体がシートにへばりつく。
これから俺たちの身に起こる、全貌を知ることができたなら。それでも俺は逃亡者として生きることを選択するのだろうか。
コン、コン、コン。
ゆっくりと片目を開ける。軽快なノック音の合間に籠ったような音。その正体は、警察官たちが車窓越しに俺たちへ呼びかけている音だった。
急いで起き上がる。颯は熟睡しているが、勝矢も目を覚ましたようだ。体中が痛みだす中、手を伸ばしエンジンスタートボタンを押した。カーナビが起動したため、オーディオをオフにする。ディスプレイに表示された時間は九時三十二分。アラームをかけていたはずなのに、全く気付けなかった。
三分の一ほど下がったところで、パワーウィンドウを止める。
「突然すみませんね」
中年の男性警察官が、帽子のつばを持ちながら言った。
「いえ……。あの、何か……」
無断駐車の件か、パトロールに来ただけか、それとも。
「この車、君の?」
「違います。これはレンタカーでして」
「なるほど。君たちは大学生? 身分証明できるものある?」
「大学生ですけど……免許証なら」
あれ?
背筋に一筋の汗が流れた。ポケットから、財布が失くなっている。
「あ、あれ……。どこ置いたっけ……」
俺はドリンクホルダーの底や座席の下を探す。
ない、ない、ない――。
財布を颯の車に置いた記憶はないし、最後に財布をしまったのはいつだ。思い出せない。事故現場付近の階段に落としてしまったのか。
警官が不審がっていると、ちょうど勝矢が起きてくれた。
「どうした、伊吹?」
「あぁ、勝矢。今、警察の人から声をかけられて」
「警察……?」
颯に目をやる。二つ折りにしたフェイスタオルで目元を覆っていた。
やるなら今だ。体を捻り、颯に背を向けた格好でメッセージアプリを開く。
――颯が言ってる巴海沙って人、俺たちが中学の時にいなかったよな?
文章を打ち終わると、明かりで颯が起きないように画面の明かりは最小限にしてから、シートとヘッドレストの隙間にスマートフォンを入れる。画面を下にしたまま慎重に。そして、目一杯仰け反り、バックミラーを見ながら端末の角を勝矢の体に数回当てる。しかし、もう眠ってしまったのか反応がない。
「フーーーッ」
静かに息を吐く。一回目の挑戦は失敗した。もう一回、と思いきや、右上腕部をつつかれた。
合図だと思った。腕を後ろに伸ばす。すると今度は、手の中の端末がスルリと抜けた。時間はかからなかった。勝矢は俺の文章を消さず、真下に返事を追記して返してくれた。
――うん。いなかったと思う。さっきの佐環との会話で言った「小学生だった頃」が事実なら。
――そうだよな。そもそも、同じ学校に通う生徒があんな大事件起こしていたら、流石に覚えているはずだし。
――まぁ、颯があの被害者とどこで知り合ったかまでは曖昧なままだね。真実を知りたいところだけど、人の過去を詮索するのは良くない。
――それもそうだな。ただの偶然であることを信じよう。
勝矢はグッドマークの絵文字のみで返してきた。俺は彼との会話文を全部消し、スマートフォンをポケットにしまう。
空気が抜けたボールのように、体がシートにへばりつく。
これから俺たちの身に起こる、全貌を知ることができたなら。それでも俺は逃亡者として生きることを選択するのだろうか。
コン、コン、コン。
ゆっくりと片目を開ける。軽快なノック音の合間に籠ったような音。その正体は、警察官たちが車窓越しに俺たちへ呼びかけている音だった。
急いで起き上がる。颯は熟睡しているが、勝矢も目を覚ましたようだ。体中が痛みだす中、手を伸ばしエンジンスタートボタンを押した。カーナビが起動したため、オーディオをオフにする。ディスプレイに表示された時間は九時三十二分。アラームをかけていたはずなのに、全く気付けなかった。
三分の一ほど下がったところで、パワーウィンドウを止める。
「突然すみませんね」
中年の男性警察官が、帽子のつばを持ちながら言った。
「いえ……。あの、何か……」
無断駐車の件か、パトロールに来ただけか、それとも。
「この車、君の?」
「違います。これはレンタカーでして」
「なるほど。君たちは大学生? 身分証明できるものある?」
「大学生ですけど……免許証なら」
あれ?
背筋に一筋の汗が流れた。ポケットから、財布が失くなっている。
「あ、あれ……。どこ置いたっけ……」
俺はドリンクホルダーの底や座席の下を探す。
ない、ない、ない――。
財布を颯の車に置いた記憶はないし、最後に財布をしまったのはいつだ。思い出せない。事故現場付近の階段に落としてしまったのか。
警官が不審がっていると、ちょうど勝矢が起きてくれた。
「どうした、伊吹?」
「あぁ、勝矢。今、警察の人から声をかけられて」
「警察……?」
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