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1. No pain, No gain.
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彼は窓の外を睨む。
「すみません、これって何の聴取ですか? 強制ではないんですよね? 僕たち、たまたま休んでいただけですが。身分証まで提示する必要あります?」
「強制ではなく任意です。この近くで少しトラブルがあったんで。不審な車を見なかったか訊いて回っているんですよ。それに、未成年であったら注意しないといけないからね」
この近くのトラブルに不審な車というのは、恐らくひき逃げ犯たちのことだろう。予想通り、犯人たちは逃亡することを選んだようだ。
警官は少しだけ右に移動する。佐環たちも聴取を受けている様子が見えた。
「僕たち、全員成人しています。あと、学生証は家に置いてきてしまいました」
勝矢の言葉を聞いてから「あ、ちょっと待っててもらっていい?」と、中年の警官は相方に呼ばれパトカーへ戻って行く。
佐環と目が合った。くっきりとした二重に右目の涙ぼくろが特徴で、髪型はアゴ下辺できっちり長さが揃えられたショートヘア。細長い指で、オッケーの形を作った。よかった、うまくやり過ごせているようだ。
気がかりなのは失くした財布だ。クレジットカードは持っていないが、結構な金額を用意していた。そして、身分証も入っている。事故現場付近で発見されたらどこかで盗まれたと主張するしかない。
「なんだ、二人とも早いな」
隣で寝ていた颯が大きく伸びをし言った。
「あ、颯。今警察官の人が来ていて……」
「は? 何で?」
俺は声抑えてと、ジェスチャーする。まだ警官は戻ってない。窓を閉め、先ほど起きたことを説明した。
「なるほどね。というか、もうこんな時間か……。昨日無理してでも運転すればよかった」
「とにかく、何か訊かれたらありのままを話そう。花火やゴミは片付けたし、酒も飲んでない。やましいことなんて、していないんだ」
勝矢が言った。昔から冷静で、笑うことはあっても、怒ったり泣いたりすることはなかった。人前では涙を流さない主義なのかもしれないが、感情の起伏はかなり少ないと思う。かと言って、薄情な性格などではなく、義理堅いところがある。肌が白く切れ長の目、背も平均よりやや高め。学生時代は密かにモテていた。
再び警官が戻ってきた。個別に話を訊きたいと言われたため、渋々応じることにした。
どこから来たのか、何しに来たのか、何時ごろからいるのか、他の四人とはどういった関係か、怪しい人や車を見なかったか、何かがぶつかる音や叫び声を聞かなかったか――。
俺は全ての質問を曖昧に躱した。最後に「何かあったらP市警察署まで」と言い残しパトカーへ戻って行った。しかし、パトカーが完全に去って行くまで安心はできなかった。米粒くらいの大きさになったところで、佐環が隣でため息をつく。
「私の車、グレーだから怪しまれたみたい。一応黒っぽい色をしてるからかな。しかもこの前壁にぶつけたキズ、修理してもらうの忘れちゃって。まぁ、そこまで目立ったキズじゃなかったからよかったけど」
傷と言えば、ひき逃げ犯の車にはカンガルーバーが装着されていると思っていたが、違ったか。
「あのさ、例の車ってカンガルーバーみたいなの着いていなかった?」
「カンガルーバーって、バンパー周りに装着する格子みたいなやつ?」
「そうそう。見間違いだったかな……」
「すみません、これって何の聴取ですか? 強制ではないんですよね? 僕たち、たまたま休んでいただけですが。身分証まで提示する必要あります?」
「強制ではなく任意です。この近くで少しトラブルがあったんで。不審な車を見なかったか訊いて回っているんですよ。それに、未成年であったら注意しないといけないからね」
この近くのトラブルに不審な車というのは、恐らくひき逃げ犯たちのことだろう。予想通り、犯人たちは逃亡することを選んだようだ。
警官は少しだけ右に移動する。佐環たちも聴取を受けている様子が見えた。
「僕たち、全員成人しています。あと、学生証は家に置いてきてしまいました」
勝矢の言葉を聞いてから「あ、ちょっと待っててもらっていい?」と、中年の警官は相方に呼ばれパトカーへ戻って行く。
佐環と目が合った。くっきりとした二重に右目の涙ぼくろが特徴で、髪型はアゴ下辺できっちり長さが揃えられたショートヘア。細長い指で、オッケーの形を作った。よかった、うまくやり過ごせているようだ。
気がかりなのは失くした財布だ。クレジットカードは持っていないが、結構な金額を用意していた。そして、身分証も入っている。事故現場付近で発見されたらどこかで盗まれたと主張するしかない。
「なんだ、二人とも早いな」
隣で寝ていた颯が大きく伸びをし言った。
「あ、颯。今警察官の人が来ていて……」
「は? 何で?」
俺は声抑えてと、ジェスチャーする。まだ警官は戻ってない。窓を閉め、先ほど起きたことを説明した。
「なるほどね。というか、もうこんな時間か……。昨日無理してでも運転すればよかった」
「とにかく、何か訊かれたらありのままを話そう。花火やゴミは片付けたし、酒も飲んでない。やましいことなんて、していないんだ」
勝矢が言った。昔から冷静で、笑うことはあっても、怒ったり泣いたりすることはなかった。人前では涙を流さない主義なのかもしれないが、感情の起伏はかなり少ないと思う。かと言って、薄情な性格などではなく、義理堅いところがある。肌が白く切れ長の目、背も平均よりやや高め。学生時代は密かにモテていた。
再び警官が戻ってきた。個別に話を訊きたいと言われたため、渋々応じることにした。
どこから来たのか、何しに来たのか、何時ごろからいるのか、他の四人とはどういった関係か、怪しい人や車を見なかったか、何かがぶつかる音や叫び声を聞かなかったか――。
俺は全ての質問を曖昧に躱した。最後に「何かあったらP市警察署まで」と言い残しパトカーへ戻って行った。しかし、パトカーが完全に去って行くまで安心はできなかった。米粒くらいの大きさになったところで、佐環が隣でため息をつく。
「私の車、グレーだから怪しまれたみたい。一応黒っぽい色をしてるからかな。しかもこの前壁にぶつけたキズ、修理してもらうの忘れちゃって。まぁ、そこまで目立ったキズじゃなかったからよかったけど」
傷と言えば、ひき逃げ犯の車にはカンガルーバーが装着されていると思っていたが、違ったか。
「あのさ、例の車ってカンガルーバーみたいなの着いていなかった?」
「カンガルーバーって、バンパー周りに装着する格子みたいなやつ?」
「そうそう。見間違いだったかな……」
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