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第1章 酔いどれおじさんと青年
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おまけに最悪なのが、ユーティスと関係を持ったことへの記憶がすっぽりと抜け落ちていることだ。
「ええと、何から謝罪したらいいのやら。本当にすみません」
「あなたが貴族の馬車に轢かれたこと以外は俺が好きでやったことなので気にしないでください」
「うう、本当に申し訳ない。ところで俺を轢いたお貴族さまは何か言っていたりはした?」
「まあ、帰路を邪魔されたことで多少なりとも怒ってはいましたが、俺が話をつけたところすんなり帰ってくださいましたよ」
ロランを轢いた貴族が不満を申し立てていたことを聞き肝が冷え、その怒りをユーティスが沈めたと聞き心臓が止まりかけた。
貴族の怒りを話しをするだけで鎮められる彼は一体何者なのだろうか。そんじょそこらの貴族の子息の力ではまずあり得ない。
「どうしましたか、ロラン。何か都合が悪いことでもありましたか」
「ひえっ。いや、何も。」
「そうですか。あなたは俺の恋人なんですから何でも遠慮せずに話してくださいね」
「え、恋人?」
ロランは目を点にした。ユーティスと自分(冴えないおっさん)が恋人という信じられない事実を言われてしまったような気がする。
目に加えて耳までおかしくなってしまったのだろうか。ジェラリアの診察では指摘されなかった。彼は明日も診察に来ると言っていたからその時に申告しよう。
「聞き間違いだな、だっておかしい」
「何がおかしいのですか。もしかして俺とロランが恋人同士ということ? それとも他に何か?」
「俺たちが恋人同士だということに決まっているだろう!?」
慌てるロランに対してユーティスは冷静だ。自分は何もおかしなことは言っていないと、疑いのない目をしている。
「こんなことを聞いていいかわからないけど、ユーティスくんは年いくつ?」
「今年で23になります」
「ぐはっ」
23という数字がアラサーの心に突き刺さる。何故、一回りも年下の男をけしかけているのだ。
36歳と23歳。この世にこんなにも並べた時、グロテスクに感じる数字があるだろうか。
ああ、非常にまずい。精神的攻撃を受けたからか、頭の傷が脈打つ感覚までしてくる。
特に前世の記憶を思い出した今はより一層、胸が痛い。社会人としての倫理観に大きく反している己の行動を、今すぐにでも正したい衝動に駆られた。
「まさか、本当に記憶を無くしてしまったのですか。俺とのやりとりを全て?」
「申し訳ないが、そうみたいだ」
「そんな......」
正直に告白すると今まで冷静だったユーティスの気配が乱れた。魂が抜けてしまったような、力のない口調になる。
「俺、あなたが初めてだったのに」
「え」
「俺のこと好きだと言ってくれたのは嘘だったのですか」
「え」
ユーティスの口から語られる事実に冷や汗が止まらない。どうやら酒に溺れた自分はあの夜、本当に取り返しのつかないことをしてしまったらしい。
ロランは頭を下げた。
「本当に申し訳ない。ただ俺と君の年齢は13も離れていることに加えて、身分も違う。正しい関係性じゃない。あの夜のことは無かったことにしてほしい。偶然変なゴミを拾ってしまったとでも思ってくれ」
「そんな」
ロランとて最低なことを言っている自覚は大いにある。だがこれ以上最適な答えが見つからないのだ。
「治療代も今すぐには無理だがいずれ働いて返す。慰謝料も言われただけだそう」
「俺はそんなことは望んでいません」
「そうは言ってもこれは大切な問題だ」
ユーティスは黙ったままだ。こういう時にぼんやりとしか目が見えないことが煩わしい。
相手がどんな表情をしているのかがわからなければ次に何をいうべきなのかを把握することができないのだ。
「お金を準備することが難しければ、返金は必要ありません」
「いや、返すよ。それと俺の立場でいうのも何だけど、返金しなくてもいいだなんて軽い気持ちで言うものじゃない」
「俺は、軽い気持ちなんかじゃ」
「軽い気持ちでなかったとしてもだよ」
お金はとても大切なものだ。本当に大切なものはお金では買えない。ロランもそれは重々承知しているが、何をするにおいても金銭問題はついてまわる。
ユーティスはすっかり俯いて話さなくなってしまった。ロランがちらり様子を伺うと、直立不動の体制からゆらりと動き出す。
「......治療代は、1000万テイルです」
「わかった。期限の目処はどれくらいだろうか。できれば長く見積もってくれるとありがたい」
「期限は1年です。それ以上は待ちません」
「1年......申し訳ないがもう少し期間を設けることはできないだろうか? そんな短期間に大金の準備は難しい」
「であれば俺が立て替えます」
「え?」
「俺がそのお金を建て替えて、あなたが俺のそばでお金を返済するんです」
「ごめん言っている意味がよく理解できないんだが」
1000万テイルは庶民のロランにとって大金だ。しかし決して用意できない額ではない。お金を節約し、働くことさえできれば生きているうちに返済することができるだろう。
目がほとんど見えなくなってしまったロランにとっては厳しい話だができないことはない。いや、やるしかないのだ。
だが、返済期限を短く設定されてしまってはそれは叶わない。
交渉できるような立場ではないとわかっているが、期限を変更してもらうように頼み込むことしか選択肢に残されていなかった。
「ユーティスくんの純情を弄ぶ形になってしまったことは本当に申し訳ない。君さえ良ければ忘れてほしい。1000万テイルは何をしてでも返すから、それで勘弁してくれないだろうか」
「......」
「ユーティスくん?」
「......俺は、あなたと一緒にいたいだけなんです」
「え?」
ぼそりとつぶやかれた言葉を、おじさんの耳が拾うことはそう簡単ではない。
「ええと、何から謝罪したらいいのやら。本当にすみません」
「あなたが貴族の馬車に轢かれたこと以外は俺が好きでやったことなので気にしないでください」
「うう、本当に申し訳ない。ところで俺を轢いたお貴族さまは何か言っていたりはした?」
「まあ、帰路を邪魔されたことで多少なりとも怒ってはいましたが、俺が話をつけたところすんなり帰ってくださいましたよ」
ロランを轢いた貴族が不満を申し立てていたことを聞き肝が冷え、その怒りをユーティスが沈めたと聞き心臓が止まりかけた。
貴族の怒りを話しをするだけで鎮められる彼は一体何者なのだろうか。そんじょそこらの貴族の子息の力ではまずあり得ない。
「どうしましたか、ロラン。何か都合が悪いことでもありましたか」
「ひえっ。いや、何も。」
「そうですか。あなたは俺の恋人なんですから何でも遠慮せずに話してくださいね」
「え、恋人?」
ロランは目を点にした。ユーティスと自分(冴えないおっさん)が恋人という信じられない事実を言われてしまったような気がする。
目に加えて耳までおかしくなってしまったのだろうか。ジェラリアの診察では指摘されなかった。彼は明日も診察に来ると言っていたからその時に申告しよう。
「聞き間違いだな、だっておかしい」
「何がおかしいのですか。もしかして俺とロランが恋人同士ということ? それとも他に何か?」
「俺たちが恋人同士だということに決まっているだろう!?」
慌てるロランに対してユーティスは冷静だ。自分は何もおかしなことは言っていないと、疑いのない目をしている。
「こんなことを聞いていいかわからないけど、ユーティスくんは年いくつ?」
「今年で23になります」
「ぐはっ」
23という数字がアラサーの心に突き刺さる。何故、一回りも年下の男をけしかけているのだ。
36歳と23歳。この世にこんなにも並べた時、グロテスクに感じる数字があるだろうか。
ああ、非常にまずい。精神的攻撃を受けたからか、頭の傷が脈打つ感覚までしてくる。
特に前世の記憶を思い出した今はより一層、胸が痛い。社会人としての倫理観に大きく反している己の行動を、今すぐにでも正したい衝動に駆られた。
「まさか、本当に記憶を無くしてしまったのですか。俺とのやりとりを全て?」
「申し訳ないが、そうみたいだ」
「そんな......」
正直に告白すると今まで冷静だったユーティスの気配が乱れた。魂が抜けてしまったような、力のない口調になる。
「俺、あなたが初めてだったのに」
「え」
「俺のこと好きだと言ってくれたのは嘘だったのですか」
「え」
ユーティスの口から語られる事実に冷や汗が止まらない。どうやら酒に溺れた自分はあの夜、本当に取り返しのつかないことをしてしまったらしい。
ロランは頭を下げた。
「本当に申し訳ない。ただ俺と君の年齢は13も離れていることに加えて、身分も違う。正しい関係性じゃない。あの夜のことは無かったことにしてほしい。偶然変なゴミを拾ってしまったとでも思ってくれ」
「そんな」
ロランとて最低なことを言っている自覚は大いにある。だがこれ以上最適な答えが見つからないのだ。
「治療代も今すぐには無理だがいずれ働いて返す。慰謝料も言われただけだそう」
「俺はそんなことは望んでいません」
「そうは言ってもこれは大切な問題だ」
ユーティスは黙ったままだ。こういう時にぼんやりとしか目が見えないことが煩わしい。
相手がどんな表情をしているのかがわからなければ次に何をいうべきなのかを把握することができないのだ。
「お金を準備することが難しければ、返金は必要ありません」
「いや、返すよ。それと俺の立場でいうのも何だけど、返金しなくてもいいだなんて軽い気持ちで言うものじゃない」
「俺は、軽い気持ちなんかじゃ」
「軽い気持ちでなかったとしてもだよ」
お金はとても大切なものだ。本当に大切なものはお金では買えない。ロランもそれは重々承知しているが、何をするにおいても金銭問題はついてまわる。
ユーティスはすっかり俯いて話さなくなってしまった。ロランがちらり様子を伺うと、直立不動の体制からゆらりと動き出す。
「......治療代は、1000万テイルです」
「わかった。期限の目処はどれくらいだろうか。できれば長く見積もってくれるとありがたい」
「期限は1年です。それ以上は待ちません」
「1年......申し訳ないがもう少し期間を設けることはできないだろうか? そんな短期間に大金の準備は難しい」
「であれば俺が立て替えます」
「え?」
「俺がそのお金を建て替えて、あなたが俺のそばでお金を返済するんです」
「ごめん言っている意味がよく理解できないんだが」
1000万テイルは庶民のロランにとって大金だ。しかし決して用意できない額ではない。お金を節約し、働くことさえできれば生きているうちに返済することができるだろう。
目がほとんど見えなくなってしまったロランにとっては厳しい話だができないことはない。いや、やるしかないのだ。
だが、返済期限を短く設定されてしまってはそれは叶わない。
交渉できるような立場ではないとわかっているが、期限を変更してもらうように頼み込むことしか選択肢に残されていなかった。
「ユーティスくんの純情を弄ぶ形になってしまったことは本当に申し訳ない。君さえ良ければ忘れてほしい。1000万テイルは何をしてでも返すから、それで勘弁してくれないだろうか」
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