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第1章 酔いどれおじさんと青年
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しおりを挟むいずれこうなる運命だった。その時が今だっただけだ。ロランは覚悟を決めた。
心を押し殺して笑うことなど、造作もないことだ。特に前世の記憶を思い出してからは、それがより自然なものになったと思う。
最大の防御であり、武器を最大限に駆使してロランは顔を上げた。
「もう俺を解放してほしい。君への借金は一年後までにどんな手を使ってでも返すから」
「ロラン......」
ユーティスの声は最後の希望を打ち砕かれたというような悲痛さを帯びていた。
「君の気持ちは、俺には重いんだ」
「......っ!」
それが引き金となった。それまで大人しく話を聞いていたユーティスは我慢ならないと言ったように椅子の音をガタッと立てて、テーブルに手をついた。
「この家を出て行きたいんですか」
「君が許してくれるならそうしたい」
もう後戻りはできないのだ。
「......わかりました」
「ありがとう、ユーティス」
家を出ることをユーティスはあっさりと了承してくれた。もう少し引き留められるのではないかと思っていたロランにとっては拍子抜けだった。
そして安堵の笑みを浮かべた。
「あなたは、ずるいです」
「え?」
「じゃあ最後に、俺の願いを聞いてください。いいですよね?」
ユーティスは椅子に座っていたロランを軽々と持ち上げた。
連れてかれた先はユーティスの部屋だった。そしてベッドの上に軽く放り出される。
部屋の中は暗く、何も見えなかった。
「あなたには、俺に抱かれてもらいます。そのくらいいいでしょう?」
「......」
「今まであなたに尽くしたご褒美をください」
今まで色々な男と付き合ってきた。ロランにとってはまぐわいは躊躇するようなものではない。
何よりもユーティスの望みを叶えてあげたいと思ったのだ。出てきた言葉はあまりにも軽かった。
「いいよ」
「......あなたは酷い人だ」
そっと手を握り、口付けをされる。吐息は熱く、口腔内に唾液が混ざり込んだ。
視覚が働いていない分だけ、聴覚が敏感に働いている。擦れる布の音、触れ合う肌の音、そして口が触れ合うたびに出る卑猥な音を余すことなく拾ってしまうのだ。
「んふぅ」
何度も何度も角度を変えて振ってくる。気持ちがよくて眩暈がした。夢中になって唇を喰んでしまいそうになるのを必死に抑える。
(この感覚、前にも......)
おそらく、それはロランが馬車に轢かれたことで失ってしまった記憶の残骸だ。酔っているロランを丁寧に抱いてくれた時の気持ちよさがだんだんと蘇ってくる。
瞬く間に服が脱がされ、鎖骨に、胸に、腹に、そして今まで誰にも口付けられたことのないそこに触れられた。
「あぅ」
ロランの体がびくりとはねた。快楽を誘うように全身を触られて敏感になっている体は、わずかな快感も拾ってしまう。
「ふ、ふっ」
「声を我慢しないで。......あなたはここが好きでしたよね」
「ひゃあ!?」
乳首をきゅうと摘まれると、嬌声が漏れ出た。快感のあまり声を我慢することができない。
そうだ。あの日もこうして二人で混ざり合った。互いの熱を貪り、求め合った。
「や、やめて」
「やめません。これは俺のご褒美なんですよ?」
「そんな、ああんんん」
ロランは身をよじるが、ユーティスは構わず触り続けた。左乳首を指で揉みしだかれ、反対側を下で吸い上げられるとあっという間に達してしまった。
「いっぱい出た。気持ちよかったですか?」
「敏感なところを触られたら誰だってそうなる」
「それもそうですね」
ユーティスはロランの腹の上に吐き出された白濁をべろりと舐めた。そしてロランが止める間もなく、飲み込んでしまった。
「なんてことしてるんだ!」
「俺がしたかったことなんで、別にいいんですよ。それに今、あなたが俺に抱かれている立場でしょう? 最後なんですから好きに抱かせてください」
興が覚めてしまうと言わんばかりに、口付けられる。自分の欲を飲み込んだ後の口付けなどと考えている暇もなかった。
ユーティスに触られるたびに嬌声が出てくる。どれくらいそうしていたのだろうか。やっとユーティスの手がロランの秘孔にたどり着いた。
「あ、んんっ」
潤滑油をたっぷりと手に取り、ロランの筋をほぐしていく。いろいろな場所を攻められていると柔らかくなり、だんだん受け入れる準備が整っていった。
「そろそろ大丈夫でしょう。ほら、力を抜いて。血が出ますよ」
「......」
秘孔にユーティスの肉棒がぴたりと押し当てられる。1度目の記憶を飛ばしてしまったことがとても惜しいとロランは思った。
(これで終わりなんだ)
この行為を終えてしまえば、ロランとユーティスの関係は明確に変わってしまう。どんなに恋しく思ってもこの家での二人の生活は戻ってこない。
二人の生活が終わりを迎えることをロランは望んだ。それが正しいことだと思ったからだ。今でもその考えは変わらない。
けれど、一度誰かと生活を共にする幸せを知ってしまった。幸せの終焉を寂しいと思ってしまうのだ。
「泣いているんですか」
「泣いてない」
「でも、頬が濡れている」
止めどなく溢れるみっともない涙をユーティスが拭ってくれる。
ロランは彼を傷つけた。労ってもらう資格などありはしない。やめてくれと、優しい腕を払った。
「......止めましょう」
「どうして? 俺は全然平気だ」
「俺が平気じゃないんです」
ユーティスはロランの体から手を離した。ロランはその手を引き留めてしまいたくなる衝動をわずかな理性で抑える。
「俺は好きな相手が泣いている時にまぐわうような人間ではありません」
寂しげに一言を言い残して、ユーティスは部屋を出て行った。その後、彼は朝食の時間まで戻ってくることはなかった。
一人きりの朝、目が覚めた時ロランは失っていた記憶をすっかり思い出していた。
自暴自棄になりなけなしの金を使って、酒場で酒を浴びるように飲んだ夜。ロランはカウンター席の隣で一人飲みをしていたユーティスに声をかけたのだ。
『なーなー、お兄さんこの後、暇?』
『時間は空いていますよ』
『だったらさー、俺とセックスしよう?』
『俺は他人とは性交はしない主義です』
『でももう俺たちは知り合いだろ? いいじゃん、しよう?』
『知り合いとはできませんね』
『えーケチ。......じゃあ俺のこと恋人にして? そしたらいい?』
『あなた本気で言ってるんですか?』
『もちのロン!!』
『はあ。仕方がないですね』
何を言っても仕方がないと悟ったのか、ユーティスはロランの相手をしてくれた。
そしてまぐわっている際も何度も愛の言葉を口にしてくれた。リップサービスだと思っていたが本当だったのだろうか。
俺のことを好きだと言ってくれたではないですか、と言っていた時のユーティスの声が耳から離れない。
やはり自分は彼のそばにいてはいけないと、再確認したのだった。
......
その後ロランは街の孤児院の一部屋に住まわせてもらっていた。ユーティスが手配してくれたのだ。彼には全く頭が上がらない。自分一人で生きていきたいとのたまったくせに、結局は手を借りる他なかった。
孤児院の管理者であるルーカスも人手が足りないからと快く受け入れてくれた。
ロランのリハビリは順調に進み、杖を使えば自力で歩けるまでになっている。
ただどれだけ治療を続けても視力だけは一向に戻る気配はなかった。
「ロラン、調子はどうだい?」
「ルーカスさん、だいぶいいですよ。今日は晴れているので余計に」
「そうか。君さえ良ければ子どもたちの話し相手になってくれないだろうか」
「わかりました。俺で良ければ」
この孤児院はユーティスが幼い頃から通っている場所であり、ルーカスとは長く交流があると言っていた。
加えてジェラリアとアリアンヌもかつてはユーティスが籍を置いていた家にメイドの母と共に住み込みをしており、ユーティスの付き人として度々訪れていたそうだ。
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