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第1章 酔いどれおじさんと青年
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しおりを挟む物思いに耽っていると孤児院の廊下を軽快に走るいくつもの足音が聞こえた。
ひとりの男の子がルーカスの足にしがみついた。
「ルーカス先生、ロランさん! ここにいるのー?」
「あらあら、待てずにきてしまったのか」
「うん。だって待っていてもちっとも来ないから。みんなまだー? って言ってるよ」
部屋に入ってきたのは7歳以下の子どもたちだ。それ以上年上の子どもたちはまだ学習の時間が終わっていないため、そうとわかる。
「ごめんな。さ、行こうか」
「わかった! ほら杖持って! 左は僕たちが支えるから」
ロランが暮らす孤児院には3歳から18歳までの身寄りのない子どもたちが暮らしている。
ロランが孤児院の一室で暮らすことになったとルーカスから紹介された時に戸惑いの表情を浮かべていた。しかし、その後子どもたちはすんなりと受け入れてくれた。
「今日は何をする? 鬼ごっこ? 隠れんぼ?」
「駄目だよ、それはロランさんができないから。仲間はずれは駄目」
「そうだった! そうだ、今日もいつも面白い話を聞かせてよ。ね、いいでしょ?」
大人の男が急に生活圏に入り込んできたら警戒されてしまうのではないかと思ったが、そうではなかったようだ。
どうしてだろうかとルーカスに尋ねると、子どもは自分に危害を加える人間を自然と感じ分けるものですよ、返答された。
「そうだなあ。みんな大人しく聞ける?」
「もちろん!」
幼児特有のきらきらとした声が、ロランの乾いた心に水を注いでくれる。決して満たされることはないが、救いだった。
子どもたちの手を借りて、庭に出向く。置かれている椅子に座るとその周りを取り囲むようにして子どもたちが集まってきた。
「今日は、とある国のお姫さまと王子さまの話をしようか」
ロランは孤児院の子どもたちに向けて、物語を聞かせている。足が悪く、目がほとんど見えないロランには子どもたちと遊ぶ手段が多く残されているわけではない。
「えー、おれはもっと格好いい魔法使いさまが出てくる話が聞きたいな」
「わたしはお姫さまの話聞きたい!」
「二人とも大丈夫だ。勇者さまもお姫さまも魔法使いさまも出てくるお話だからね」
子どもたちの要望は様々だ。ロランの仕事はそんな子どもたちの望みをなるべく叶えることができるような物語を考えることである。
初めて聞かせて欲しい物語の内容を提案された時は困惑したが、今ではそれも地に足がついてきた。
「昔々あるところに、小さくて綺麗なお姫さまがいました。お姫さまは他の人よりも小さい体で生まれたので、誰かに助けてもらわないと生きていくことはできません」
ロランが語っている物語は、小さなお姫さまとお姫さまを慕う王子さまと、魔法使いさまの話だ。
前世の記憶で知っている様々な童話を元としてこの世界に馴染むように常識を混ぜながら構築していくコツを最近習得した。
「お姫さまはそんな自分が好きではありませんでした。悲しむお姫さまを見て王子さまは問いかけます。どうして泣いているですか、あなたはよくやっている。自分を責める必要はありませんよ、と」
しかし、お姫さまの悲しみが消えることはありませんでした。
お姫さまが他の人と比べてできないことが多いことは紛れもない事実だったからです。そんな時、才能を見込まれた一人の魔法使いが王宮へやってきます。すぐに彼は、強く、たくましく、誰からも慕われる存在になりました。
お姫さまは彼を羨みました。そして彼のように色々な人から頼られたいと、たくさんのお手伝いを始めます。しかし全く上手くいきません。お姫さまは泣いてしまいました。
「ねえねえ、勇者さまのかっこいいシーンはまだなの? お姫さまの話ばっかりでつまんなーい」
「やっぱり、みんなで鬼ごっこをしたいなー。今日は晴れてるしさ」
「あれ、みんなもう飽きちゃった? じゃあ、お話しはここまでにするよ。遊んでおいで。ルーカスさんには俺から言っておくから」
「うん! ありがとう!」
子どもたちは話を聞くことに退屈してしまったようだ。ロランが了承すると、ピュンとすごい速さでいなくなってしまった。
椅子に座っているロランの元に残ったのは、お姫さまの物語が聞きたいと言っていた女の子、マティだけだった。
「私はもう少し話を聞きたかったのに......」
「また今度話すよ。君もみんなと遊びたいだろ? 行っておいでよ、俺は大丈夫だよ?」
「本当に? じゃあ行くけど。......一人で怪我したりしないでね」
ロランは微笑んで大丈夫だよ、と返した。マティは心配そうに振り返りながら遊んでいる子どもたちの輪に入っていった。
彼女は正義感が強く、面倒見がいい。ロランが孤児院に来た当初も、気を遣ってくれた。
「ルーカスに謝らないといけないな」
ロランだけでは子どもたちが安心して過ごせる環境を担保できない。壮年ではあるが、目が見え足腰のしっかりしているルーカスに助けてもらう他ないのだ。
その晩、ロランはベッドに寝転がり天井をぼんやりと見つめていた。
外は晴れていて月明かりが町中を照らしているはずだが、全く分からなかった。
いつもはおやすみ3秒のロランであるが時々、目が冴えてしまい眠れない日がある。そんな日はベッドの中で考え事をして眠気がやってくるのを待っていた。
最近は決まってユーティスのことを思い出していた。
「元気にしてるだろうか」
呟いてから自嘲気味に笑った。
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