【番外編更新予定】酔いどれおじさんは、若き騎士に求愛される

泉あけの

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第1章 酔いどれおじさんと青年

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 しっかり者のユーティスはロランが心配せずともきちんとした生活を送っているだろう。
 
 夜は変なことまで考え込んでしまうからよくない。

「何も考えるな」

 思考することをやめてくれない頭を諭す。しかし一向に眠れる気配がない。
 
 仕方ないと、ベッドに入る前に準備していた水を飲んだ。水分で喉を潤すと自覚していた以上に乾いていたことに気がついた。

『だからこまめに水分を取ってくださいと言っているんですよ。脱水状態になったらどうするんですか?』
『大丈夫だよ。今までなったことないし』
『脱水状態は大変ですよ。気持ち悪くなるし、クラクラするし。ロランはそういうの嫌でしょう?』
『......嫌だ』
『ですよね。嫌だったらちゃんと飲むようにしてください』

 ロランはユーティスに説得されて、頻繁に水を飲むようになった。他にもユーティスと暮らすことで身についた習慣がいくつかある。

 正しくない関係だと突き放したのに、こうして未練がましく思い出してはため息をついている。

「本当にどうしようもないな」

 遅くまで起きているから変なことを考えてしまうのだ。
 ベッドに入り直して顔がすっぽりと隠れるまで布団で覆う。

 今日子どもたちに語った物語のお姫さまと王子さまと魔法使いさまの物語。あの話の続きは至って簡単なものだ。
 
 お姫さまが嫉妬心を向けていた魔法使いさまは、本当は臆病な人間だった。それを知ったお姫さまは、魔法使いさまも自分と同じ気持ちを持っているのだと知る。そして相手を思いやる大切さを学ぶのだ。
 
 だんだんと情を育んでいく二人はお互いの強さを分け合い成長していく。
 
 物語の最後には正直な心に従い、お姫さまは王子さまと、魔法使いさまは国と共に生きていくことを決めた。

 システリア王国に伝わる童話の話を元にしているこの物語の登場人物はそう言う生き方を選んだ。
 
 ではロランはどうだろうか。この人生に後悔のないような選択をできているだろうか。どれだけ自問自答してもわからなかった。そのまま眠ってしまった。

......

 翌る日、孤児院にジェラリアがやってきた。渋々といった様子でロランの診察を進めていく。
 
 表情が見えない中でも不機嫌さが伝わってくるのだから相当なものだ。
 
 だがその理由がロランにはわかっているので、触れはしない。

「......今日の診察は終わりです。経過は問題ありません。このまま順調にいけば杖なしでも歩けるようになるでしょう。ただ、目に関しては何とも言えませんね」
「わかりました。診察ありがとうございます」
「いえ、これが仕事ですから。......アリアンヌとユーティスに言われなければきていませんよ」
「......お手数をおかけします」

 ジェラリアはロランがアリアンヌに嘘をついたこととユーティスの想いを無碍にしたことを怒っている。当然だ。
 
 彼にとって二人は大事な存在だ。そんな二人がたった一人のおじさんに振り回されていたら、嫌悪感が出る。

「......どうしてブスケーさんは私に対して怒らないのですか。自分でも嫌な態度をとっていると重々承知しています」
「いや、それは、元はと言えば俺が悪いので。何かを言う資格なんてありませんよ」

 ロランがしでかしたことを可視化してみると、散々なものだった。色々な人たちにお世話になっている身で迷惑をかけるなど言語道断だ。

「あなたはわかっていない。私はアリアンヌとユーティスにしたことを怒っているのではありません。あなたと彼らの間で起こったことに口出しをする権利などありませんから。私が怒っているのはあなたのその、生きることへの姿勢です」
「姿勢?」

 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので首を傾げた。

「アリアンヌとの件は本人から聞きました。ブスケーさんが足を痛めてしまったのは彼女の監督不足です。症状について嘘をつく患者は少なくありませんから」
「すみません」
「話が逸れましたね。私は今まで自分にとって後悔のない選択をしてきました。貴族の籍を外れるというユーティスに着いて行くと決めたことも後悔していませんよ」

 ジェラリアの人生の指針は、やらずに後悔するよりはやってみること。真剣に語られロランの気持ちが揺れた。

 ロランは今まで平坦な人生を歩んできた。ここ最近は勤めていた食堂が潰れてしまったり、貴族の馬車に引かれたりと散々だが、それは異例なことだった。

「ブスケーさんはどうですか。後悔のしない選択をしてきたでしょうか。差し出がましいことを言いますが、曖昧な選択をしているあなたを見ていると腹が立ちます」
「腹が立つ? 先生が?」
「はい。もどかしいとでも言いましょうか。私は短気なのでそう思ってしまうのかもしれません」
「......」

 ジェラリアの指摘は図星だった。ユーティスに誰の助けも借りることなく一人で生きていきたいと言っておきながら、孤児院で世話になり、未練がましくユーティスとの日々を思い返したりしているのだ。

「ロランさん、あなたはユーティスのことが好きですか」

 その質問は以前、アリアンヌにされたものと同じだった。
 
「好きだよ」

 ユーティスの家から孤児院にやってきて、彼を思い出さない日はなかった。

 恋という感情はなかったが、大切だった。

「奇遇ですね。私もです。......だから幸せになってもらいたいのです」
「先生」

 ユーティスとジェラリアは幼い頃から貴族の家で育ち、籍を離れた後も交流がある。家族のように幸せを願う気持ちはおそらくロランよりも大きいはずだ。

「まあ、こんなことをブスケーさんに言っても仕方がありませんね。人間の感情はどうにもなりませんから」

 ジェラリアは少し寂しそうに呟いた。

「あの、先生?」
「すみません。忘れてください。また診察に来ます」

 そしてジェラリアはいつものように医院へ帰っていった。

 
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