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第1章 酔いどれおじさんと青年
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孤児院の様子は普段と異なっていた。
「ねーえ、ロランさん。今日はお外へいっちゃいけないの?」
「今日はルーカスさんが留守にしているからね。退屈かもしれないけど部屋の中で遊ぼうか」
「そっか、残念だけどしょうがないよね」
今日はルーカスが孤児院を留守にしている。理由はロランたちが住んでいる孤児院の運営元の役員会議に出席しなければならなくなったからだ。
ルーカスがいない間の監督者はロランだけのため、子どもたちは室内にいてもらうことになっている。とはいえ、今日の夜にはルーカスが帰ってくることになっているためしばしの辛抱だ。
しかし事件は起きてしまった。昼食の時間が終わり、各々が自由時間をとっている際、ロランのところへマティがやって来た。
「ロランさん! ルカがいなくなっちゃた!」
「ルカが?」
「うん。今日は外に行っちゃ駄目なのに、気になるものがあるからちょっと行ってくるって外に行っちゃったの」
マティは顔色を青くして訴える。
ロランは落ち着いて対応した。
「そうか、わかった。具体的にいつ頃出て行ったのか教えてくれる?」
「うんと、ご飯を食べ終わってすぐだったと思う」
昼食後すぐということはまだ遠くへ行ってるわけではないだろう。
「よし、俺が探しに行ってくる。みんなは孤児院の中でちゃんと待っててくれ」
「でもロランさん、目が見えないんだよね?」
「大丈夫だ。少しなら見える。ルカもすぐに見つかるだろうから心配しないで」
「うん」
ロランは孤児院の最年長者である青年に留守を頼んだ。最低限の支度だけをしてルカを探すために孤児院の外に出た。
「ルカーどこにいるんだ! 返事をしてくれ!」
遠くまで聞こえるように声を張りあげる。だが返事はない。
ルカは好奇心旺盛な少年だ。もしかしたら気になるものとやらに夢中になって孤児院の敷地外へ行ってしまったのかもしれない。
「行こう」
迷っている暇はない。ロランの視力は健常者の半分にも満たないが、それは些細な問題だ。
ルカがこうしている間にも危険な目に遭っているかもしれないのだから。
「ルカ! ルカ!」
大声でルカの名前を呼んだ。どれだけそうしていただろうか。息が切れてきた。
視界が不明瞭で先のわからない長い道をひたすらに走っているような気分だ。
だが足を止めるわけにはいかない。ロランは次々と道ゆく人にルカの特徴を聞いて尋ねた。
「見つからない」
「......あの、すみません。小さな男の子を探している方ですか?」
途方に暮れそうになっていると一人の女性が話しかけてきた。
ロランは藁にもすがる思いだった。
「はい。どこかで見ませんでしたか?」
「多分なんですが私、その子を見たと思います」
「本当ですか!? 場所はどの辺ですか!?」
「ええ、この道を曲がった角のところです」
「わかりました、ありがとうございます!」
親切な女性にお礼を言って、言われた通りの場所に急ぐ。
幸運だったのは現在いる通りが、ルーカスと買い出しで何度も通ったことがある道だったことだ。ぼんやりと視界の中でも進んでいくことができる。
「ルカ! ルカ、いる!?」
「......ロランさん?」
女性に言われた通りの角を曲がり、名前を呼んだ。すると探し続けていたルカの声が聞こえた。
だが姿が見えない。
ルカは今年6歳になる。にも関わらず、そのくらいの年頃の背格好をした人影が見当たらないのだ。
「ルカ、どこだ!?」
「ロランさんここだよ」
ロランの肩をルカの小さな手がポンポンと叩く。姿をとらえて安堵した。
「ルカ! よかった。怪我とか痛いところとかはないか?」
「うん、大丈夫」
「ああ、本当によかったよ」
見つかってよかったと安堵すると共に違和感が出た。
ルカはまだ6歳になる前の子どもだ。当然身長も低く、ロランの肩に手が届くことはありえない。
「ぼく、このおじさんに助けてもらったんだ」
「おじさん......」
ロランは感情が先走り全ての状況を把握できていなかった。冷静になりルカを助けてくれた男性の存在をようやく確認した。背が高く、真っ黒なローブを着ている。
ルカの手が肩に届いたのは、男性が孤児院を抜け出して迷子になってしまい慌てていたルカを落ち着かせるために抱いてくれていたからだった。
「は、初めまして。ロラン・ブスケーと申します。この度はルカを助けてくださりありがとうございます」
「いいえ、その子が迷子になったと言っていたので一緒にいただけですから」
「何かお礼をさせてください」
「結構です。お礼を言われるようなことは何もしていませんよ」
男性は低く落ち着いた声で答えた。彼は明らかに平民ではない立派な服装をしている。
「では、ご厚意に甘えさせていただきますね」
「そうしてください。......あの、失礼ですがブスケーさんは目が悪いのですか」
「そう、ですね。お恥ずかしいのですが、私の不注意で事故に遭いまして。視力が低下してしまったのです」
ははは、と乾いた笑いをロランは漏らした。ルカや初対面の男性に対して正直に事情を話すことはできないが、頭の中にはすっかりあの夜の出来事が思い起こされてしまった。
ロランが質問に答えると男性は何やら考え込んだ。
「......ブスケーさん。今度、私と一対一で会うことは可能でしょうか」
「え?」
「私の名前はレオナルド・デューラ。とある貴族の側近をしております」
「ええと」
男性_レオナルド・デューラはロランが想像していた以上に高い身分の男性だったようだ。
それに加えて食い気味で後日会えないかと聞いてくるものだから、ロランの頭はパンク寸前である。
「あなたの目の回復についてお手伝いできるかもしれないのです」
「目の回復ですか?」
「はい」
思ってもみない提案だった。
「ねーえ、ロランさん。今日はお外へいっちゃいけないの?」
「今日はルーカスさんが留守にしているからね。退屈かもしれないけど部屋の中で遊ぼうか」
「そっか、残念だけどしょうがないよね」
今日はルーカスが孤児院を留守にしている。理由はロランたちが住んでいる孤児院の運営元の役員会議に出席しなければならなくなったからだ。
ルーカスがいない間の監督者はロランだけのため、子どもたちは室内にいてもらうことになっている。とはいえ、今日の夜にはルーカスが帰ってくることになっているためしばしの辛抱だ。
しかし事件は起きてしまった。昼食の時間が終わり、各々が自由時間をとっている際、ロランのところへマティがやって来た。
「ロランさん! ルカがいなくなっちゃた!」
「ルカが?」
「うん。今日は外に行っちゃ駄目なのに、気になるものがあるからちょっと行ってくるって外に行っちゃったの」
マティは顔色を青くして訴える。
ロランは落ち着いて対応した。
「そうか、わかった。具体的にいつ頃出て行ったのか教えてくれる?」
「うんと、ご飯を食べ終わってすぐだったと思う」
昼食後すぐということはまだ遠くへ行ってるわけではないだろう。
「よし、俺が探しに行ってくる。みんなは孤児院の中でちゃんと待っててくれ」
「でもロランさん、目が見えないんだよね?」
「大丈夫だ。少しなら見える。ルカもすぐに見つかるだろうから心配しないで」
「うん」
ロランは孤児院の最年長者である青年に留守を頼んだ。最低限の支度だけをしてルカを探すために孤児院の外に出た。
「ルカーどこにいるんだ! 返事をしてくれ!」
遠くまで聞こえるように声を張りあげる。だが返事はない。
ルカは好奇心旺盛な少年だ。もしかしたら気になるものとやらに夢中になって孤児院の敷地外へ行ってしまったのかもしれない。
「行こう」
迷っている暇はない。ロランの視力は健常者の半分にも満たないが、それは些細な問題だ。
ルカがこうしている間にも危険な目に遭っているかもしれないのだから。
「ルカ! ルカ!」
大声でルカの名前を呼んだ。どれだけそうしていただろうか。息が切れてきた。
視界が不明瞭で先のわからない長い道をひたすらに走っているような気分だ。
だが足を止めるわけにはいかない。ロランは次々と道ゆく人にルカの特徴を聞いて尋ねた。
「見つからない」
「......あの、すみません。小さな男の子を探している方ですか?」
途方に暮れそうになっていると一人の女性が話しかけてきた。
ロランは藁にもすがる思いだった。
「はい。どこかで見ませんでしたか?」
「多分なんですが私、その子を見たと思います」
「本当ですか!? 場所はどの辺ですか!?」
「ええ、この道を曲がった角のところです」
「わかりました、ありがとうございます!」
親切な女性にお礼を言って、言われた通りの場所に急ぐ。
幸運だったのは現在いる通りが、ルーカスと買い出しで何度も通ったことがある道だったことだ。ぼんやりと視界の中でも進んでいくことができる。
「ルカ! ルカ、いる!?」
「......ロランさん?」
女性に言われた通りの角を曲がり、名前を呼んだ。すると探し続けていたルカの声が聞こえた。
だが姿が見えない。
ルカは今年6歳になる。にも関わらず、そのくらいの年頃の背格好をした人影が見当たらないのだ。
「ルカ、どこだ!?」
「ロランさんここだよ」
ロランの肩をルカの小さな手がポンポンと叩く。姿をとらえて安堵した。
「ルカ! よかった。怪我とか痛いところとかはないか?」
「うん、大丈夫」
「ああ、本当によかったよ」
見つかってよかったと安堵すると共に違和感が出た。
ルカはまだ6歳になる前の子どもだ。当然身長も低く、ロランの肩に手が届くことはありえない。
「ぼく、このおじさんに助けてもらったんだ」
「おじさん......」
ロランは感情が先走り全ての状況を把握できていなかった。冷静になりルカを助けてくれた男性の存在をようやく確認した。背が高く、真っ黒なローブを着ている。
ルカの手が肩に届いたのは、男性が孤児院を抜け出して迷子になってしまい慌てていたルカを落ち着かせるために抱いてくれていたからだった。
「は、初めまして。ロラン・ブスケーと申します。この度はルカを助けてくださりありがとうございます」
「いいえ、その子が迷子になったと言っていたので一緒にいただけですから」
「何かお礼をさせてください」
「結構です。お礼を言われるようなことは何もしていませんよ」
男性は低く落ち着いた声で答えた。彼は明らかに平民ではない立派な服装をしている。
「では、ご厚意に甘えさせていただきますね」
「そうしてください。......あの、失礼ですがブスケーさんは目が悪いのですか」
「そう、ですね。お恥ずかしいのですが、私の不注意で事故に遭いまして。視力が低下してしまったのです」
ははは、と乾いた笑いをロランは漏らした。ルカや初対面の男性に対して正直に事情を話すことはできないが、頭の中にはすっかりあの夜の出来事が思い起こされてしまった。
ロランが質問に答えると男性は何やら考え込んだ。
「......ブスケーさん。今度、私と一対一で会うことは可能でしょうか」
「え?」
「私の名前はレオナルド・デューラ。とある貴族の側近をしております」
「ええと」
男性_レオナルド・デューラはロランが想像していた以上に高い身分の男性だったようだ。
それに加えて食い気味で後日会えないかと聞いてくるものだから、ロランの頭はパンク寸前である。
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「目の回復ですか?」
「はい」
思ってもみない提案だった。
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