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第1章 酔いどれおじさんと青年
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辺境領を出る前日、ロランはユーティスを待っていた。ユーティスの家に住んでいた時に聞いた、騎士の仕事が休みだという日を選んだら出発ギリギリの日になってしまった。
指摘した場所に来てくれるかは賭けだった。だから聴き馴染んだ声を聞いた時、硬く結んでいた口端がゆるんだ。
「ロラン」
「ああ、ユーティス。来てくれたんだね」
「だってあなたが俺宛に手紙をくれたでしょう? すっぽかすわけにはいきませんよ」
「律儀だなあ」
ユーティスの様子は最後に会った時と何も変わらなかった。
「ロラン、就職先が決まったんですね」
「ようやくね。俺みたいなのを拾ってくれるなんてありがたいことだよ」
「そうやって自分を下げるような言い方しないでください」
「ごめん」
ロランが集合場所として指定したのは小さな食堂だった。その小さな食堂はロランが以前働いていた食堂と縁がある。賊に襲われ一部の用具や食材の貯蓄がなくなってしまった時、ロランが以前働いていた食堂物資の一部や従業員を派遣したのだ。
以降縁ができ、ロランは同僚と共に小さな食堂を訪れるようになった。そして今回、ロランが厨房を貸して欲しいと願い出た時に快く承諾してくれたのである。加えて日中で繁盛している時間にも関わらず店内を貸切にしてくれた。
ユーティスには先に席についていてもらい、ロランはすでに作っていた料理をとりに厨房へ向かった。
「はいどうぞ。俺が考案したスペシャルメニューです」
「これは......?」
「俺が作ったシチューだよ。とは言っても見える範囲には限りがあるから包丁を使うときは店長に助けてもらったりしたんだけどな」
「そうなんですね。......いただきます」
一口、口に入れてパクパクと食べ始める。
ユーティスが勢いよく食べている様子を見てロランは胸をなで下ろした。料理をしなくなって数ヶ月、腕が落ちてしまっていて不安だったのだ。
シチューを食べている様子を見ていると、ユーティスは恥ずかしくなったのかこほんと咳払いをした。
「おいしいかどうかとか、味の感想は聞かないんですか」
「聞いたら言わせたみたいで嫌だろ。え、もしかしておいしくない?」
「そんな心配する必要がないくらい、美味しいです」
「よかった。おいしくないって言われたらどうしようかと思ったよ」
「ロランが作ったものを俺が不味いなんて思うはずないでしょう? 全部好きです」
ユーティスは恥ずかしげもなく自分の気持ちを口にする。本音を隠してしまいがちなロランはそんな彼が大変好ましかった。
「嬉しいよ。これが俺にできる一番の恩返しだから」
「恩返しですか?」
「うん。ユーティスには俺が馬車に轢かれて怪我をしてから世話になりっぱなしだからさ。俺ができる一番自信のあるものを渡してありがとうって言いたかった」
なんとなくで始めた料理人の仕事だったが、それなりにやりがいを感じていた。
今世の中で一番に取り組んだことは料理であるといっても過言ではない。
「ユーティスは、よく俺が働いていた食堂に来てくれていただろう? 俺は厨房だったけど、あれだけのイケメンは従業員の中でも噂になるから覚えていたんだ」
「俺があの食堂に通っていたことを知っていたんですね」
「うん。でも見かけただけで声は聞いたことがなかったから、馬車に轢かれた夜のことを思い出すまでわからなかった」
勤務時間内ロランはほとんど厨房に居たため、客のことを知る機会はほとんどなかった。だがある日、同僚のうちの1人がすごいイケメンの騎士がやってきているから見てほしいと言われて2人でこっそり見に行ったのである。
同僚が言った通り、ユーティスの美貌は凄まじく、すぐに顔を覚えてしまった。まるで客席の一部が光り輝いているかのようだった。
「食堂に通ってたこと言ってくれたらよかったのに」
「事故に遭った夜のことを覚えていない人にいっても仕方がないかと思ったんです」
「それもそうか」
そしてロランは頬に笑みを浮かべた。今までの感謝を込めて。
「ユーティスがあの夜助けてくれなかったら、俺は今ここに生きていなかった。本当にありがとう」
「......いいえ、誰かを助けるのは当たり前のことですから」
「ユーティスは本当にいい子だな」
「子ども扱いはやめてください」
ごめんごめんとロランは言った。孤児院で子どもたちと暮らす事で癖になってしまったようだ。
だがユーティスの声色がまんざらではなさそうだったので、そのまま撫で続けた。
「もう......。満足しましたか?」
「満足した」
「そんなに俺の頭を撫でられて嬉しかったんですね」
「うん」
「ふっ、素直」
(ああ、今すぐにでも目が見えるようになったらいいのに)
これほど視力が戻ることを望んだことはなかった。
ユーティスは今どんな顔でどんな風に笑っているのだろうか。
一度だけ見たユーティスの瞳は澄んだ空のように綺麗で、まるで宝石のようだった。
それをもう一度この目で見たかった。
ひとしきり時間を満喫した後、ユーティスとの最後の会をお開きにすることにした。
「今日は俺のわがままに付き合ってくれてありがとう」
「いいえ、こちらこそ楽しかったです。新生活、頑張ってくださいね。目も良くないんですから、無理しないでください」
「わかってるよ。相変わらず心配性だな」
「そんなことはありません。みんな思っていることです」
おじさんの行先を心配してくれるなんて人間はそういない。これからどんなことが待ち受けていようともそれだけで頑張る気力が湧いてくることだろう。
「それと、これ。ロランにプレゼント。目が良くなるようなお守りのようなものですね」
ユーティスがくれたのは小さな装飾のついたネックレスだった。手際よくロランの首にかける。
「ありがとう。大切にするよ。俺がお礼をする日だったのにもらっちゃったな」
「気にしないでください。俺の気持ちですから」
本当に気がきく人だ。ロランは嬉しくなってネックレスをそっと触った。
「ありがとう。あのさこのネックレス、目を守るお守りだったりもする?」
「どうしてそんなことを?」
「だって、ユーティスもつけた方がいいかなと思ってさ。目が綺麗だから」
指摘した場所に来てくれるかは賭けだった。だから聴き馴染んだ声を聞いた時、硬く結んでいた口端がゆるんだ。
「ロラン」
「ああ、ユーティス。来てくれたんだね」
「だってあなたが俺宛に手紙をくれたでしょう? すっぽかすわけにはいきませんよ」
「律儀だなあ」
ユーティスの様子は最後に会った時と何も変わらなかった。
「ロラン、就職先が決まったんですね」
「ようやくね。俺みたいなのを拾ってくれるなんてありがたいことだよ」
「そうやって自分を下げるような言い方しないでください」
「ごめん」
ロランが集合場所として指定したのは小さな食堂だった。その小さな食堂はロランが以前働いていた食堂と縁がある。賊に襲われ一部の用具や食材の貯蓄がなくなってしまった時、ロランが以前働いていた食堂物資の一部や従業員を派遣したのだ。
以降縁ができ、ロランは同僚と共に小さな食堂を訪れるようになった。そして今回、ロランが厨房を貸して欲しいと願い出た時に快く承諾してくれたのである。加えて日中で繁盛している時間にも関わらず店内を貸切にしてくれた。
ユーティスには先に席についていてもらい、ロランはすでに作っていた料理をとりに厨房へ向かった。
「はいどうぞ。俺が考案したスペシャルメニューです」
「これは......?」
「俺が作ったシチューだよ。とは言っても見える範囲には限りがあるから包丁を使うときは店長に助けてもらったりしたんだけどな」
「そうなんですね。......いただきます」
一口、口に入れてパクパクと食べ始める。
ユーティスが勢いよく食べている様子を見てロランは胸をなで下ろした。料理をしなくなって数ヶ月、腕が落ちてしまっていて不安だったのだ。
シチューを食べている様子を見ていると、ユーティスは恥ずかしくなったのかこほんと咳払いをした。
「おいしいかどうかとか、味の感想は聞かないんですか」
「聞いたら言わせたみたいで嫌だろ。え、もしかしておいしくない?」
「そんな心配する必要がないくらい、美味しいです」
「よかった。おいしくないって言われたらどうしようかと思ったよ」
「ロランが作ったものを俺が不味いなんて思うはずないでしょう? 全部好きです」
ユーティスは恥ずかしげもなく自分の気持ちを口にする。本音を隠してしまいがちなロランはそんな彼が大変好ましかった。
「嬉しいよ。これが俺にできる一番の恩返しだから」
「恩返しですか?」
「うん。ユーティスには俺が馬車に轢かれて怪我をしてから世話になりっぱなしだからさ。俺ができる一番自信のあるものを渡してありがとうって言いたかった」
なんとなくで始めた料理人の仕事だったが、それなりにやりがいを感じていた。
今世の中で一番に取り組んだことは料理であるといっても過言ではない。
「ユーティスは、よく俺が働いていた食堂に来てくれていただろう? 俺は厨房だったけど、あれだけのイケメンは従業員の中でも噂になるから覚えていたんだ」
「俺があの食堂に通っていたことを知っていたんですね」
「うん。でも見かけただけで声は聞いたことがなかったから、馬車に轢かれた夜のことを思い出すまでわからなかった」
勤務時間内ロランはほとんど厨房に居たため、客のことを知る機会はほとんどなかった。だがある日、同僚のうちの1人がすごいイケメンの騎士がやってきているから見てほしいと言われて2人でこっそり見に行ったのである。
同僚が言った通り、ユーティスの美貌は凄まじく、すぐに顔を覚えてしまった。まるで客席の一部が光り輝いているかのようだった。
「食堂に通ってたこと言ってくれたらよかったのに」
「事故に遭った夜のことを覚えていない人にいっても仕方がないかと思ったんです」
「それもそうか」
そしてロランは頬に笑みを浮かべた。今までの感謝を込めて。
「ユーティスがあの夜助けてくれなかったら、俺は今ここに生きていなかった。本当にありがとう」
「......いいえ、誰かを助けるのは当たり前のことですから」
「ユーティスは本当にいい子だな」
「子ども扱いはやめてください」
ごめんごめんとロランは言った。孤児院で子どもたちと暮らす事で癖になってしまったようだ。
だがユーティスの声色がまんざらではなさそうだったので、そのまま撫で続けた。
「もう......。満足しましたか?」
「満足した」
「そんなに俺の頭を撫でられて嬉しかったんですね」
「うん」
「ふっ、素直」
(ああ、今すぐにでも目が見えるようになったらいいのに)
これほど視力が戻ることを望んだことはなかった。
ユーティスは今どんな顔でどんな風に笑っているのだろうか。
一度だけ見たユーティスの瞳は澄んだ空のように綺麗で、まるで宝石のようだった。
それをもう一度この目で見たかった。
ひとしきり時間を満喫した後、ユーティスとの最後の会をお開きにすることにした。
「今日は俺のわがままに付き合ってくれてありがとう」
「いいえ、こちらこそ楽しかったです。新生活、頑張ってくださいね。目も良くないんですから、無理しないでください」
「わかってるよ。相変わらず心配性だな」
「そんなことはありません。みんな思っていることです」
おじさんの行先を心配してくれるなんて人間はそういない。これからどんなことが待ち受けていようともそれだけで頑張る気力が湧いてくることだろう。
「それと、これ。ロランにプレゼント。目が良くなるようなお守りのようなものですね」
ユーティスがくれたのは小さな装飾のついたネックレスだった。手際よくロランの首にかける。
「ありがとう。大切にするよ。俺がお礼をする日だったのにもらっちゃったな」
「気にしないでください。俺の気持ちですから」
本当に気がきく人だ。ロランは嬉しくなってネックレスをそっと触った。
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