【番外編更新予定】酔いどれおじさんは、若き騎士に求愛される

泉あけの

文字の大きさ
16 / 48
第1章 酔いどれおじさんと青年

16

しおりを挟む
「そのような効果はなかったと思います」
「そうか。残念だけどしょうがないな」

 ユーティスにもつけて欲しかったという言葉を飲み込んだ。

「あとさ、もう一つユーティスにお礼を言いたいことがあったんだ」
「なんでしょうか」
「俺、昔やりたかった夢、みたいなのがあったんだ。でも諸事情があってそれは叶えられなかった。そのうち気がついたら忘れていた」

 マティと話している時に思い出したことがある。ロランは前世高校で歴史の教師として働いていた。歴史を学ぶことが好きだったことも職業選択のうちの一つだったが、それ以外にも理由があった。
 
 誰かのための役に立てる人間でありたい。ロランは今も昔も誰かの笑顔を見ることが好きだ。他人のために尽くしたいという欲求が強いのだろう。

 それが前世では教師という立場で若者の将来を手助けしていくこと、今世では実験に参加をし医療に貢献することにつながったのだ。
 
「ユーティスと出会って自分が何をして生きていきたいのか思い出すことができたよ。自分のやりたいことを思い出したんだ。新天地ではそれも頑張るつもり」
「できますよ、あなたなら」

 ユーティスはロランの話を聞いて、あなたの気持ちを伝えてくれて嬉しいですと言った。

「ネックレス大事にするよ。今までありがとう。元気でな」
「はい。ロランも元気で」

 別れ際の握手も抱擁もない。それが平凡なおじさんと騎士である青年の適切な距離なのだ。
 
 孤児院がある場所とユーティスの家は逆方向にある。ロランは背を向けて元来た道を歩き始めた。

「......待って!」
「え?」

 ユーティスの声がして、どうしたのだろうと立ち止まった時ロランはすでに彼の腕の中にいた。人通りの少ない道ではあるが、人の目はある。でもそんなこと気にならなかった。
 
 肩に顔を埋められて吐息が耳のすぐそばで聞こえる。すでに知っている抱きしめる腕の強さが懐かしかった。
 
「やっぱり俺、これで終わりにしたくないです。きっぱりと諦めるつもりで来たのに、本当にずるいです」

 振り絞るかのように吐き出された声がロランの心を強く揺さぶる。
 
「ずるい?」
「そうですよ、あなたはずるいです。俺、あなたに酷いことして泣かせたのに、こうして会ってくれるとか、料理を作ってくれるとか俺の目が綺麗だとか、そんなこと言って。本当になんなんだよ」

 だんだんと腕に込められた力が強くなっていく。
 
 彼を相当悩ませてしまったらしいとロランは今更自覚した。これがユーティスの本心なのだ。
 
「それにこんなネックレスをもらって喜んだりなんかして。こんなのみっともない独占欲だ」

 ロランの首にかけられたネックレスを指の腹でなぞる。懇願するようにロランの両手を握った。

「あなたとの関係をこれっきりにしたくない。俺以外の誰かと並んで笑っている未来なんて、許せない。ずっと俺のそばに居てほしいんです」
「ユーティス」

 食堂でシチューを食べていた時も2人で話をして盛り上がっていた時もそんな素振りを全く見せなかった。でも抑えていただけなのだ。こんな激情をどうやって隠していたというのだろう。

 握られた手が熱を帯びてとじんわりと汗が滲んだ。

「すまないが、俺はユーティスのそばにはいられない。それに、君にはもっと相応しい人がいるはずだよ」
「わかってる。わかってますよあなたの気持ちが俺に向いていないことくらい。でも俺はここで終わりにしたくないんです」

 やっと理解した。ユーティスはロランが想像していた以上に好いてくれていたのだ。

 そんな彼の気持ちを蔑ろにするようなことばかりしてきてしまったと後悔する。

「じゃあいつか、な」
「え......?」
「ここで終わりにしたくないんだろ? 俺だって少しくらいユーティスの気持ちを理解できる。一方的に別れを告げられるのは悲しいから」

 あなたは、本当にずるいとユーティスは言った。
 そして先ほどまでの必死さは感じられない、余裕のある仕草でロランの手の甲に口付けた。
 
「いつかまた会える時が来たら、その時は全力で口説きにいくので覚悟してくださいね」

 ロランは肯定することも否定することもしなかった。
 
 その時が本当に来て欲しいのかロランは判断ができなかった。
 
 そして胸にはほんのりとしたあたたかさだけが残ったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない

天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。 「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」 ――新王から事実上の追放を受けたガイ。 副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。 ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。 その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。 兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。 エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに―― 筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。 ※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

断罪回避のために親友と仮婚約したはずが、想像以上に執着されていた。

鷲井戸リミカ
BL
ある日アーサーは、自分がネット小説の世界に転生していることに気が付いた。前世の記憶によれば親友のフェルディナンドは、悪役令息という役割らしい。最終的に婚約者から婚約破棄され、断罪後は国外追放されてしまうのだとか。 大事な親友が不幸になるのを見過ごすわけにはいかない。とにかく物語の主人公たちから距離をとらせようと、アーサーはフェルディナンドを自分の婚約者にしてしまった。 とりあえず仮婚約という形にしておいて、学園を卒業したら婚約を解消してしまえばいい。そう考えていたはずがアーサーのとある発言をきっかけに、フェルディナンドの執着が明らかになり……。 ハッピーエンドです。

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!

カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。 魔法と剣、そして魔物がいる世界で 年の差12歳の政略結婚?! ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。 冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。 人形のような美少女?になったオレの物語。 オレは何のために生まれたのだろうか? もう一人のとある人物は……。 2022年3月9日の夕方、本編完結 番外編追加完結。

処理中です...