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第1章 酔いどれおじさんと青年
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「そのような効果はなかったと思います」
「そうか。残念だけどしょうがないな」
ユーティスにもつけて欲しかったという言葉を飲み込んだ。
「あとさ、もう一つユーティスにお礼を言いたいことがあったんだ」
「なんでしょうか」
「俺、昔やりたかった夢、みたいなのがあったんだ。でも諸事情があってそれは叶えられなかった。そのうち気がついたら忘れていた」
マティと話している時に思い出したことがある。ロランは前世高校で歴史の教師として働いていた。歴史を学ぶことが好きだったことも職業選択のうちの一つだったが、それ以外にも理由があった。
誰かのための役に立てる人間でありたい。ロランは今も昔も誰かの笑顔を見ることが好きだ。他人のために尽くしたいという欲求が強いのだろう。
それが前世では教師という立場で若者の将来を手助けしていくこと、今世では実験に参加をし医療に貢献することにつながったのだ。
「ユーティスと出会って自分が何をして生きていきたいのか思い出すことができたよ。自分のやりたいことを思い出したんだ。新天地ではそれも頑張るつもり」
「できますよ、あなたなら」
ユーティスはロランの話を聞いて、あなたの気持ちを伝えてくれて嬉しいですと言った。
「ネックレス大事にするよ。今までありがとう。元気でな」
「はい。ロランも元気で」
別れ際の握手も抱擁もない。それが平凡なおじさんと騎士である青年の適切な距離なのだ。
孤児院がある場所とユーティスの家は逆方向にある。ロランは背を向けて元来た道を歩き始めた。
「......待って!」
「え?」
ユーティスの声がして、どうしたのだろうと立ち止まった時ロランはすでに彼の腕の中にいた。人通りの少ない道ではあるが、人の目はある。でもそんなこと気にならなかった。
肩に顔を埋められて吐息が耳のすぐそばで聞こえる。すでに知っている抱きしめる腕の強さが懐かしかった。
「やっぱり俺、これで終わりにしたくないです。きっぱりと諦めるつもりで来たのに、本当にずるいです」
振り絞るかのように吐き出された声がロランの心を強く揺さぶる。
「ずるい?」
「そうですよ、あなたはずるいです。俺、あなたに酷いことして泣かせたのに、こうして会ってくれるとか、料理を作ってくれるとか俺の目が綺麗だとか、そんなこと言って。本当になんなんだよ」
だんだんと腕に込められた力が強くなっていく。
彼を相当悩ませてしまったらしいとロランは今更自覚した。これがユーティスの本心なのだ。
「それにこんなネックレスをもらって喜んだりなんかして。こんなのみっともない独占欲だ」
ロランの首にかけられたネックレスを指の腹でなぞる。懇願するようにロランの両手を握った。
「あなたとの関係をこれっきりにしたくない。俺以外の誰かと並んで笑っている未来なんて、許せない。ずっと俺のそばに居てほしいんです」
「ユーティス」
食堂でシチューを食べていた時も2人で話をして盛り上がっていた時もそんな素振りを全く見せなかった。でも抑えていただけなのだ。こんな激情をどうやって隠していたというのだろう。
握られた手が熱を帯びてとじんわりと汗が滲んだ。
「すまないが、俺はユーティスのそばにはいられない。それに、君にはもっと相応しい人がいるはずだよ」
「わかってる。わかってますよあなたの気持ちが俺に向いていないことくらい。でも俺はここで終わりにしたくないんです」
やっと理解した。ユーティスはロランが想像していた以上に好いてくれていたのだ。
そんな彼の気持ちを蔑ろにするようなことばかりしてきてしまったと後悔する。
「じゃあいつか、な」
「え......?」
「ここで終わりにしたくないんだろ? 俺だって少しくらいユーティスの気持ちを理解できる。一方的に別れを告げられるのは悲しいから」
あなたは、本当にずるいとユーティスは言った。
そして先ほどまでの必死さは感じられない、余裕のある仕草でロランの手の甲に口付けた。
「いつかまた会える時が来たら、その時は全力で口説きにいくので覚悟してくださいね」
ロランは肯定することも否定することもしなかった。
その時が本当に来て欲しいのかロランは判断ができなかった。
そして胸にはほんのりとしたあたたかさだけが残ったのだった。
「そうか。残念だけどしょうがないな」
ユーティスにもつけて欲しかったという言葉を飲み込んだ。
「あとさ、もう一つユーティスにお礼を言いたいことがあったんだ」
「なんでしょうか」
「俺、昔やりたかった夢、みたいなのがあったんだ。でも諸事情があってそれは叶えられなかった。そのうち気がついたら忘れていた」
マティと話している時に思い出したことがある。ロランは前世高校で歴史の教師として働いていた。歴史を学ぶことが好きだったことも職業選択のうちの一つだったが、それ以外にも理由があった。
誰かのための役に立てる人間でありたい。ロランは今も昔も誰かの笑顔を見ることが好きだ。他人のために尽くしたいという欲求が強いのだろう。
それが前世では教師という立場で若者の将来を手助けしていくこと、今世では実験に参加をし医療に貢献することにつながったのだ。
「ユーティスと出会って自分が何をして生きていきたいのか思い出すことができたよ。自分のやりたいことを思い出したんだ。新天地ではそれも頑張るつもり」
「できますよ、あなたなら」
ユーティスはロランの話を聞いて、あなたの気持ちを伝えてくれて嬉しいですと言った。
「ネックレス大事にするよ。今までありがとう。元気でな」
「はい。ロランも元気で」
別れ際の握手も抱擁もない。それが平凡なおじさんと騎士である青年の適切な距離なのだ。
孤児院がある場所とユーティスの家は逆方向にある。ロランは背を向けて元来た道を歩き始めた。
「......待って!」
「え?」
ユーティスの声がして、どうしたのだろうと立ち止まった時ロランはすでに彼の腕の中にいた。人通りの少ない道ではあるが、人の目はある。でもそんなこと気にならなかった。
肩に顔を埋められて吐息が耳のすぐそばで聞こえる。すでに知っている抱きしめる腕の強さが懐かしかった。
「やっぱり俺、これで終わりにしたくないです。きっぱりと諦めるつもりで来たのに、本当にずるいです」
振り絞るかのように吐き出された声がロランの心を強く揺さぶる。
「ずるい?」
「そうですよ、あなたはずるいです。俺、あなたに酷いことして泣かせたのに、こうして会ってくれるとか、料理を作ってくれるとか俺の目が綺麗だとか、そんなこと言って。本当になんなんだよ」
だんだんと腕に込められた力が強くなっていく。
彼を相当悩ませてしまったらしいとロランは今更自覚した。これがユーティスの本心なのだ。
「それにこんなネックレスをもらって喜んだりなんかして。こんなのみっともない独占欲だ」
ロランの首にかけられたネックレスを指の腹でなぞる。懇願するようにロランの両手を握った。
「あなたとの関係をこれっきりにしたくない。俺以外の誰かと並んで笑っている未来なんて、許せない。ずっと俺のそばに居てほしいんです」
「ユーティス」
食堂でシチューを食べていた時も2人で話をして盛り上がっていた時もそんな素振りを全く見せなかった。でも抑えていただけなのだ。こんな激情をどうやって隠していたというのだろう。
握られた手が熱を帯びてとじんわりと汗が滲んだ。
「すまないが、俺はユーティスのそばにはいられない。それに、君にはもっと相応しい人がいるはずだよ」
「わかってる。わかってますよあなたの気持ちが俺に向いていないことくらい。でも俺はここで終わりにしたくないんです」
やっと理解した。ユーティスはロランが想像していた以上に好いてくれていたのだ。
そんな彼の気持ちを蔑ろにするようなことばかりしてきてしまったと後悔する。
「じゃあいつか、な」
「え......?」
「ここで終わりにしたくないんだろ? 俺だって少しくらいユーティスの気持ちを理解できる。一方的に別れを告げられるのは悲しいから」
あなたは、本当にずるいとユーティスは言った。
そして先ほどまでの必死さは感じられない、余裕のある仕草でロランの手の甲に口付けた。
「いつかまた会える時が来たら、その時は全力で口説きにいくので覚悟してくださいね」
ロランは肯定することも否定することもしなかった。
その時が本当に来て欲しいのかロランは判断ができなかった。
そして胸にはほんのりとしたあたたかさだけが残ったのだった。
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