【番外編更新予定】酔いどれおじさんは、若き騎士に求愛される

泉あけの

文字の大きさ
18 / 48
第1章 酔いどれおじさんと青年

閑話 ユーティス②

しおりを挟む
 その後、ベッドの上での色ごとが終わり少し目を離した隙にロランが外に出ていってしまい焦って追いかけた。
 
 貴族の馬車に轢かれているところを見てしまった時は体の芯が冷えた。急いでジェラリアに連絡をして医院に運んでもらった。

 ロランを轢いた馬車の持ち主は辺境領を治めるリエト辺境伯家のご令嬢だった。

 『わたくしの馬車に傷をつけるなんて! こんなの許されないわ。あの平民どうしてくれようかしら』

 夜会帰りの彼女は令嬢らしからぬ様子で憤慨していた。豪奢なドレスと宝飾品を身に纏っていた彼女は、夜会で大輪の花のように美しかったのだろう。ただその外見に心が伴っておらず、ユーティスの目には滑稽にうつった。

 ジェラリアの医院に連れて行かれたロランの代わりに街の警備隊とやりとりをしているとそれに気がついた令嬢がやってきた。

 『あなた、さっきの平民の知り合い?』
 『はい。ユーティス・ナットと申します、ご令嬢』
 『......随分といい男じゃない。わたくしの馬車を傷つけた平民には相応の罰を与えようと思っていたけれど気が変わったわ。あなたわたくしの男になりなさい』
 『申し訳ございません。俺は平民なので仰っている意味がよくわかりません』

 やんわりと断ったつもりだったが、リエト辺境伯令嬢は言葉を受け取った。
 
 望んだ通りの答えが返ってこないからなのか、不満を表している。

『だからわたくしの馬車を傷つけたあの平民を見逃す代わりに、わたくしに従いなさいと言っているのよ』
『ですが俺のような平民がご令嬢のそばにいては、ご迷惑になってしまうのではないですか?』
『そんなの関係ないわ、わたくしは侯爵家の一人娘よ? 変ないちゃもんをつけてくる人間なんてどうでもできるの。あなたさっきの平民がどうなってもいいの? 助けを呼ぶ時、随分必死そうだったけれど?』

 ジェラリアに連絡していたところを見られてしまっていたらしい。タイミングが悪いなと心のか中で舌打ちをした。
 
 ロランに危害が及ぶことは避けたいところだ。ここは素直に従っておくほうが良さそうだ。
 
 ユーティスは騎士らしく、その場でひざまずいた。

『わかりました。喜んでお受けさせていただきます』
『ふんっ、最初からそう言えばいいのよ。これからよろしくね?』

 彼女の絡みつくような視線を感じ、ユーティスは表情を曇らせた。社交界でいつも浴びていたものと同じだ。容姿ばかりに執着し、それ以外は存在していないかのように振る舞うのだ。

 その後ジェラリアとアリアンヌの治療により、ロランは回復していった。医院からユーティスの家に治療の場が移されてから数日、ロランは目を覚ました。だが、ロランは2人が出会った夜のことを全く覚えていなかった。その時のショックといったらない。
 
 それでもロランと過ごす日々はとても幸せだった。恋しい相手がそばにいて、話をしてくれたり頼ってくれたりする。手の温もりを感じるだけで胸が高鳴って、仕事の疲れなんて吹っ飛んでしまうのだから相当だ。

『今日こそ俺を恋人にしてくれますか?』
 
 少しずつ、時々大胆に好意を伝えた。彼は歳や身分を気にしていたようだったが、愛の前にそんなものは些細なことだと思っていた。
 
 また事故の際に発生したお金や治療費を返済させてほしいとロランに言われた時は必要ないと答えた。ロランを助けたのは半分は責任感、もう半分は好意によるものだった。よこしまな気持ちが入っている分、お金くらいは出させて欲しかったのだ。
 
 だが何度返済の必要はないと言っても、ロランは引き下がらなかった。だからユーティスも意地になった。1000万テイル。これはシステリア王国に住む平民が30年以上労働して、やっと貯められる額である。

 事故の後遺症があるロランにとって、1000万テイルを返済することは不可能に近かった。返済が終わるまでは、強制的にユーティスの側にいることになる。長い間生活を共にすることができると内心明暗に思っていたのだ。

『もう俺を解放してほしい。君への借金は一年後までにどんな手を使ってでも返すから』

 己の過ちに気がついた時にはもう遅かった。
 
『君の気持ちは、俺には重いんだ』
 
 俺は母を襲ったあの男と同じだ。大切にしたいはずの人の気持ちを蔑ろにして、自分の利を優先した。その理由がなんであれ許されるような行為ではない。
 
 ロランが家を出てからも会いに行く勇気はなかった。できたことといえば、ジェラリアを酒に誘い、未練たらしく愚痴をこぼすことくらいだった。

 情けなかった。どこから何を間違えてしまったのだろうか。途中から? それとも最初からだろうか。考えても答えは出なかった。
 
 仕事に行き、リエト侯爵令嬢から召集がきた際には侯爵家へ出向いた。面倒くさかったが、今ユーティスがロランのためにできることはそれしかなかった。
 
 ほんの少しでも、彼を守ることにつながっていると思えば苦ではなくなった。未練がましい思考が嫌になったが止めようとは思わなかった。
 
 ロランから就職先が決まったと手紙をもらった時は正直驚いた。ユーティスは彼にひどいことをしたのだ。
 もう連絡をもらえることはないと思っていた。

 そして驚くべきことにロランは未来の約束をしてくれた。彼からもらったを大事に心の中にそっとしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない

天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。 「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」 ――新王から事実上の追放を受けたガイ。 副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。 ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。 その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。 兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。 エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに―― 筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。 ※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

断罪回避のために親友と仮婚約したはずが、想像以上に執着されていた。

鷲井戸リミカ
BL
ある日アーサーは、自分がネット小説の世界に転生していることに気が付いた。前世の記憶によれば親友のフェルディナンドは、悪役令息という役割らしい。最終的に婚約者から婚約破棄され、断罪後は国外追放されてしまうのだとか。 大事な親友が不幸になるのを見過ごすわけにはいかない。とにかく物語の主人公たちから距離をとらせようと、アーサーはフェルディナンドを自分の婚約者にしてしまった。 とりあえず仮婚約という形にしておいて、学園を卒業したら婚約を解消してしまえばいい。そう考えていたはずがアーサーのとある発言をきっかけに、フェルディナンドの執着が明らかになり……。 ハッピーエンドです。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

処理中です...