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第1章 酔いどれおじさんと青年
閑話 ユーティス②
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その後、ベッドの上での色ごとが終わり少し目を離した隙にロランが外に出ていってしまい焦って追いかけた。
貴族の馬車に轢かれているところを見てしまった時は体の芯が冷えた。急いでジェラリアに連絡をして医院に運んでもらった。
ロランを轢いた馬車の持ち主は辺境領を治めるリエト辺境伯家のご令嬢だった。
『わたくしの馬車に傷をつけるなんて! こんなの許されないわ。あの平民どうしてくれようかしら』
夜会帰りの彼女は令嬢らしからぬ様子で憤慨していた。豪奢なドレスと宝飾品を身に纏っていた彼女は、夜会で大輪の花のように美しかったのだろう。ただその外見に心が伴っておらず、ユーティスの目には滑稽にうつった。
ジェラリアの医院に連れて行かれたロランの代わりに街の警備隊とやりとりをしているとそれに気がついた令嬢がやってきた。
『あなた、さっきの平民の知り合い?』
『はい。ユーティス・ナットと申します、ご令嬢』
『......随分といい男じゃない。わたくしの馬車を傷つけた平民には相応の罰を与えようと思っていたけれど気が変わったわ。あなたわたくしの男になりなさい』
『申し訳ございません。俺は平民なので仰っている意味がよくわかりません』
やんわりと断ったつもりだったが、リエト辺境伯令嬢は言葉をそのまま受け取った。
望んだ通りの答えが返ってこないからなのか、不満を表している。
『だからわたくしの馬車を傷つけたあの平民を見逃す代わりに、わたくしに従いなさいと言っているのよ』
『ですが俺のような平民がご令嬢のそばにいては、ご迷惑になってしまうのではないですか?』
『そんなの関係ないわ、わたくしは侯爵家の一人娘よ? 変ないちゃもんをつけてくる人間なんてどうでもできるの。あなたさっきの平民がどうなってもいいの? 助けを呼ぶ時、随分必死そうだったけれど?』
ジェラリアに連絡していたところを見られてしまっていたらしい。タイミングが悪いなと心のか中で舌打ちをした。
ロランに危害が及ぶことは避けたいところだ。ここは素直に従っておくほうが良さそうだ。
ユーティスは騎士らしく、その場で跪いた。
『わかりました。喜んでお受けさせていただきます』
『ふんっ、最初からそう言えばいいのよ。これからよろしくね?』
彼女の絡みつくような視線を感じ、ユーティスは表情を曇らせた。社交界でいつも浴びていたものと同じだ。容姿ばかりに執着し、それ以外は存在していないかのように振る舞うのだ。
その後ジェラリアとアリアンヌの治療により、ロランは回復していった。医院からユーティスの家に治療の場が移されてから数日、ロランは目を覚ました。だが、ロランは2人が出会った夜のことを全く覚えていなかった。その時のショックといったらない。
それでもロランと過ごす日々はとても幸せだった。恋しい相手がそばにいて、話をしてくれたり頼ってくれたりする。手の温もりを感じるだけで胸が高鳴って、仕事の疲れなんて吹っ飛んでしまうのだから相当だ。
『今日こそ俺を恋人にしてくれますか?』
少しずつ、時々大胆に好意を伝えた。彼は歳や身分を気にしていたようだったが、愛の前にそんなものは些細なことだと思っていた。
また事故の際に発生したお金や治療費を返済させてほしいとロランに言われた時は必要ないと答えた。ロランを助けたのは半分は責任感、もう半分は好意によるものだった。邪な気持ちが入っている分、お金くらいは出させて欲しかったのだ。
だが何度返済の必要はないと言っても、ロランは引き下がらなかった。だからユーティスも意地になった。1000万テイル。これはシステリア王国に住む平民が30年以上労働して、やっと貯められる額である。
事故の後遺症があるロランにとって、1000万テイルを返済することは不可能に近かった。返済が終わるまでは、強制的にユーティスの側にいることになる。長い間生活を共にすることができると内心明暗に思っていたのだ。
『もう俺を解放してほしい。君への借金は一年後までにどんな手を使ってでも返すから』
己の過ちに気がついた時にはもう遅かった。
『君の気持ちは、俺には重いんだ』
俺は母を襲ったあの男と同じだ。大切にしたいはずの人の気持ちを蔑ろにして、自分の利を優先した。その理由がなんであれ許されるような行為ではない。
ロランが家を出てからも会いに行く勇気はなかった。できたことといえば、ジェラリアを酒に誘い、未練たらしく愚痴をこぼすことくらいだった。
情けなかった。どこから何を間違えてしまったのだろうか。途中から? それとも最初からだろうか。考えても答えは出なかった。
仕事に行き、リエト侯爵令嬢から召集がきた際には侯爵家へ出向いた。面倒くさかったが、今ユーティスがロランのためにできることはそれしかなかった。
ほんの少しでも、彼を守ることにつながっていると思えば苦ではなくなった。未練がましい思考が嫌になったが止めようとは思わなかった。
ロランから就職先が決まったと手紙をもらった時は正直驚いた。ユーティスは彼にひどいことをしたのだ。
もう連絡をもらえることはないと思っていた。
そして驚くべきことにロランは未来の約束をしてくれた。彼からもらったいつかを大事に心の中にそっとしまったのだった。
貴族の馬車に轢かれているところを見てしまった時は体の芯が冷えた。急いでジェラリアに連絡をして医院に運んでもらった。
ロランを轢いた馬車の持ち主は辺境領を治めるリエト辺境伯家のご令嬢だった。
『わたくしの馬車に傷をつけるなんて! こんなの許されないわ。あの平民どうしてくれようかしら』
夜会帰りの彼女は令嬢らしからぬ様子で憤慨していた。豪奢なドレスと宝飾品を身に纏っていた彼女は、夜会で大輪の花のように美しかったのだろう。ただその外見に心が伴っておらず、ユーティスの目には滑稽にうつった。
ジェラリアの医院に連れて行かれたロランの代わりに街の警備隊とやりとりをしているとそれに気がついた令嬢がやってきた。
『あなた、さっきの平民の知り合い?』
『はい。ユーティス・ナットと申します、ご令嬢』
『......随分といい男じゃない。わたくしの馬車を傷つけた平民には相応の罰を与えようと思っていたけれど気が変わったわ。あなたわたくしの男になりなさい』
『申し訳ございません。俺は平民なので仰っている意味がよくわかりません』
やんわりと断ったつもりだったが、リエト辺境伯令嬢は言葉をそのまま受け取った。
望んだ通りの答えが返ってこないからなのか、不満を表している。
『だからわたくしの馬車を傷つけたあの平民を見逃す代わりに、わたくしに従いなさいと言っているのよ』
『ですが俺のような平民がご令嬢のそばにいては、ご迷惑になってしまうのではないですか?』
『そんなの関係ないわ、わたくしは侯爵家の一人娘よ? 変ないちゃもんをつけてくる人間なんてどうでもできるの。あなたさっきの平民がどうなってもいいの? 助けを呼ぶ時、随分必死そうだったけれど?』
ジェラリアに連絡していたところを見られてしまっていたらしい。タイミングが悪いなと心のか中で舌打ちをした。
ロランに危害が及ぶことは避けたいところだ。ここは素直に従っておくほうが良さそうだ。
ユーティスは騎士らしく、その場で跪いた。
『わかりました。喜んでお受けさせていただきます』
『ふんっ、最初からそう言えばいいのよ。これからよろしくね?』
彼女の絡みつくような視線を感じ、ユーティスは表情を曇らせた。社交界でいつも浴びていたものと同じだ。容姿ばかりに執着し、それ以外は存在していないかのように振る舞うのだ。
その後ジェラリアとアリアンヌの治療により、ロランは回復していった。医院からユーティスの家に治療の場が移されてから数日、ロランは目を覚ました。だが、ロランは2人が出会った夜のことを全く覚えていなかった。その時のショックといったらない。
それでもロランと過ごす日々はとても幸せだった。恋しい相手がそばにいて、話をしてくれたり頼ってくれたりする。手の温もりを感じるだけで胸が高鳴って、仕事の疲れなんて吹っ飛んでしまうのだから相当だ。
『今日こそ俺を恋人にしてくれますか?』
少しずつ、時々大胆に好意を伝えた。彼は歳や身分を気にしていたようだったが、愛の前にそんなものは些細なことだと思っていた。
また事故の際に発生したお金や治療費を返済させてほしいとロランに言われた時は必要ないと答えた。ロランを助けたのは半分は責任感、もう半分は好意によるものだった。邪な気持ちが入っている分、お金くらいは出させて欲しかったのだ。
だが何度返済の必要はないと言っても、ロランは引き下がらなかった。だからユーティスも意地になった。1000万テイル。これはシステリア王国に住む平民が30年以上労働して、やっと貯められる額である。
事故の後遺症があるロランにとって、1000万テイルを返済することは不可能に近かった。返済が終わるまでは、強制的にユーティスの側にいることになる。長い間生活を共にすることができると内心明暗に思っていたのだ。
『もう俺を解放してほしい。君への借金は一年後までにどんな手を使ってでも返すから』
己の過ちに気がついた時にはもう遅かった。
『君の気持ちは、俺には重いんだ』
俺は母を襲ったあの男と同じだ。大切にしたいはずの人の気持ちを蔑ろにして、自分の利を優先した。その理由がなんであれ許されるような行為ではない。
ロランが家を出てからも会いに行く勇気はなかった。できたことといえば、ジェラリアを酒に誘い、未練たらしく愚痴をこぼすことくらいだった。
情けなかった。どこから何を間違えてしまったのだろうか。途中から? それとも最初からだろうか。考えても答えは出なかった。
仕事に行き、リエト侯爵令嬢から召集がきた際には侯爵家へ出向いた。面倒くさかったが、今ユーティスがロランのためにできることはそれしかなかった。
ほんの少しでも、彼を守ることにつながっていると思えば苦ではなくなった。未練がましい思考が嫌になったが止めようとは思わなかった。
ロランから就職先が決まったと手紙をもらった時は正直驚いた。ユーティスは彼にひどいことをしたのだ。
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