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第2章 王都
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『2つほどお願いがあります』
ブルーナ伯爵家の医療実験に参加するにあたって、ロランがレオナルドに願い出たことは2つだった。
1つ目は1000万テイルを借してほしいということ、もう1つは伯爵家からの借金を返すための働き口を提供してほしいということだった。
レオナルドには他に何か望むことはないのかと聞かれ、ないと答えた。
あなたは欲がないんですねと言い、二つ返事で了承してくれた。
(俺に欲がない?)
いや、欲だらけだろう。だからユーティスのことを傷つけてしまったし、未来の約束まで取り付けてしまった。
彼よりも自分の方が年上で大人だと豪語するためには、最後の別れの時にそんなことをするべきではなかった。
「あとはここを拭けば終わりかな」
ロランは現在、ブルーナ伯爵家で使用人として働いている。願い事のうちの1つである働き口を提供てほしいという要求を叶えてくれたのだ。また、1000万テイルも用意してくれたので、小切手をユーティスの家に送ってもらった。ロランの居場所がわからないように手配までしてくれたという。
加えて、ロランは医療実験に参加するにあたって謝礼を受け取ったため、借金は残りわずかになっていた。
あまりにも良すぎる待遇に初めは戸惑っていたが、だんだんとそれがブルーナ侯爵家でも当たり前だということを理解した。
『福利厚生がしっかりしているなんて王都では当たり前ですよ』
『そうそう、当然の権利ですから』
『何か困ったことがあったら執事長に言うといいですよ。すぐに対応してくれます』
名門ブルーナ伯爵家に仕えている使用人たちの中には、名の知れた貴族の分家や男爵家出身者が多くいる。ロランのように平民の方が少数派だ。
「ロランさん、ここの掃除終わりました?」
「まだだよ。少しぼーっとしていたみたいだ」
「そうっすか。じゃあ俺先に食堂に行ってますね。早く来てくださいよ。今日はロランさんの好きなシチューが出るみたいです!」
「わかった。すぐ行くね」
使用人たちのために用意された食堂へ駆け足で向かって行った青年トニーも、侯爵家で働く数少ない平民のうちの1人だ。年は17歳。その若さで使用人に選ばれたのだからおそらくかなり優秀な人材だろうと予想している。
本人はあっけらかんとした性格のため確信は持てないが。
トニーに少し遅れてロランも担当場所の掃除を終えた。換気のために開けていた窓からは侯爵家自慢の庭園がよく見える。
庭師が丁寧に手入れをしている庭は豪奢で貴族たちを出迎えていた。
すると足音が一つ、近づいてきた。
「ロランさん、そんなところで何を? 体調が優れませんか」
気がついた時にはロラン呼びに変わっていた。
「デューラ卿。いいえ、なんでもありませんよ。どちらかというより、卿の方がお疲れのように見えます」
「ああ、わかりますか? 私のことを上司が雑に扱うんですよ。付き合いが長いことをいいことに、あちこちに遠征させるんです。おかげでくたくただ」
「ご苦労様です」
ロランがリエト辺境伯領地から王都にあるブルーナ伯爵家にやってきて2年が経過していた。
すでに完成間近だった魔法医療の実験は無事成功した。実験がもっと過酷なものになると予想していたロランにとっては拍子抜けだった。
一時期ロランを悩ませていた問題はすぐに解決されてしまったのだ。
「そんなことは別にいいんです。定期検診の結果はどうでした?」
「良好だと医師の方には言っていただけましたよ。体力も、事故に遭う前にほとんど戻っているとお墨付きをいただきました」
「それは良いことですね。ライオスさまもお喜びになるでしょう」
ライオスさまとは、ブルーナ侯爵のファーストネームである。レオナルドはライオスとは昔馴染みであり、仲の良い友人でもあるようだ。
ライオスは温厚な人だ。ロランは何度も顔を合わせているが、気が立っているところを見たことは一度もない。
「では私はライオスさまに報告をしに行かなければならないので、失礼します。お仕事の邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いいえ。久しぶりにお話をすることができて楽しかったですよ」
「......私もです。それではまた」
レオナルドは優雅な足取りでその場を去っていった。
その後、掃除の片付けを済ませて食堂へ行き、ほくほくとした気持ちで昼食のシチューを受け取った。
「ロランさん、こっちです!」
先に食堂へやってきていたトニーが取ってくれていた席に座る。トニーはすでに昼食の半分を食べ終えていた。
「遅かったですね。何かあったんですか?」
「デューラ卿がお戻りになったんだよ。それで話していたら遅くなったんだ」
「デューラ卿が! あの方は多忙ですよね。見かけたと思ったらすぐにどこかへいってしまう感じで」
「本当にね。お忙しい方だ」
おしゃべりなトニーと会話をしながらシチューを頬張る。侯爵家の専属シェフが作っているため絶品だ。
「でも、ロランさんには話しかけるんですよね。使用人たちの間でも噂になっていますよ。あの2人は並々ならぬ関係なんじゃないかとか、デューラ卿の片想いだろう、とか」
「ごふっ!? ......一体誰がそんなことを?」
「使用人のみんなです。ほら、あそこの席からロランさんに話を聞きたい女性たちがちらちらと視線を送っています」
トニーが視線を送った先を見てみると確かに女性2人と目が合った。そしてこちらが気まずくなってしまうくらいに目を逸らされる。
ブルーナ伯爵家の医療実験に参加するにあたって、ロランがレオナルドに願い出たことは2つだった。
1つ目は1000万テイルを借してほしいということ、もう1つは伯爵家からの借金を返すための働き口を提供してほしいということだった。
レオナルドには他に何か望むことはないのかと聞かれ、ないと答えた。
あなたは欲がないんですねと言い、二つ返事で了承してくれた。
(俺に欲がない?)
いや、欲だらけだろう。だからユーティスのことを傷つけてしまったし、未来の約束まで取り付けてしまった。
彼よりも自分の方が年上で大人だと豪語するためには、最後の別れの時にそんなことをするべきではなかった。
「あとはここを拭けば終わりかな」
ロランは現在、ブルーナ伯爵家で使用人として働いている。願い事のうちの1つである働き口を提供てほしいという要求を叶えてくれたのだ。また、1000万テイルも用意してくれたので、小切手をユーティスの家に送ってもらった。ロランの居場所がわからないように手配までしてくれたという。
加えて、ロランは医療実験に参加するにあたって謝礼を受け取ったため、借金は残りわずかになっていた。
あまりにも良すぎる待遇に初めは戸惑っていたが、だんだんとそれがブルーナ侯爵家でも当たり前だということを理解した。
『福利厚生がしっかりしているなんて王都では当たり前ですよ』
『そうそう、当然の権利ですから』
『何か困ったことがあったら執事長に言うといいですよ。すぐに対応してくれます』
名門ブルーナ伯爵家に仕えている使用人たちの中には、名の知れた貴族の分家や男爵家出身者が多くいる。ロランのように平民の方が少数派だ。
「ロランさん、ここの掃除終わりました?」
「まだだよ。少しぼーっとしていたみたいだ」
「そうっすか。じゃあ俺先に食堂に行ってますね。早く来てくださいよ。今日はロランさんの好きなシチューが出るみたいです!」
「わかった。すぐ行くね」
使用人たちのために用意された食堂へ駆け足で向かって行った青年トニーも、侯爵家で働く数少ない平民のうちの1人だ。年は17歳。その若さで使用人に選ばれたのだからおそらくかなり優秀な人材だろうと予想している。
本人はあっけらかんとした性格のため確信は持てないが。
トニーに少し遅れてロランも担当場所の掃除を終えた。換気のために開けていた窓からは侯爵家自慢の庭園がよく見える。
庭師が丁寧に手入れをしている庭は豪奢で貴族たちを出迎えていた。
すると足音が一つ、近づいてきた。
「ロランさん、そんなところで何を? 体調が優れませんか」
気がついた時にはロラン呼びに変わっていた。
「デューラ卿。いいえ、なんでもありませんよ。どちらかというより、卿の方がお疲れのように見えます」
「ああ、わかりますか? 私のことを上司が雑に扱うんですよ。付き合いが長いことをいいことに、あちこちに遠征させるんです。おかげでくたくただ」
「ご苦労様です」
ロランがリエト辺境伯領地から王都にあるブルーナ伯爵家にやってきて2年が経過していた。
すでに完成間近だった魔法医療の実験は無事成功した。実験がもっと過酷なものになると予想していたロランにとっては拍子抜けだった。
一時期ロランを悩ませていた問題はすぐに解決されてしまったのだ。
「そんなことは別にいいんです。定期検診の結果はどうでした?」
「良好だと医師の方には言っていただけましたよ。体力も、事故に遭う前にほとんど戻っているとお墨付きをいただきました」
「それは良いことですね。ライオスさまもお喜びになるでしょう」
ライオスさまとは、ブルーナ侯爵のファーストネームである。レオナルドはライオスとは昔馴染みであり、仲の良い友人でもあるようだ。
ライオスは温厚な人だ。ロランは何度も顔を合わせているが、気が立っているところを見たことは一度もない。
「では私はライオスさまに報告をしに行かなければならないので、失礼します。お仕事の邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いいえ。久しぶりにお話をすることができて楽しかったですよ」
「......私もです。それではまた」
レオナルドは優雅な足取りでその場を去っていった。
その後、掃除の片付けを済ませて食堂へ行き、ほくほくとした気持ちで昼食のシチューを受け取った。
「ロランさん、こっちです!」
先に食堂へやってきていたトニーが取ってくれていた席に座る。トニーはすでに昼食の半分を食べ終えていた。
「遅かったですね。何かあったんですか?」
「デューラ卿がお戻りになったんだよ。それで話していたら遅くなったんだ」
「デューラ卿が! あの方は多忙ですよね。見かけたと思ったらすぐにどこかへいってしまう感じで」
「本当にね。お忙しい方だ」
おしゃべりなトニーと会話をしながらシチューを頬張る。侯爵家の専属シェフが作っているため絶品だ。
「でも、ロランさんには話しかけるんですよね。使用人たちの間でも噂になっていますよ。あの2人は並々ならぬ関係なんじゃないかとか、デューラ卿の片想いだろう、とか」
「ごふっ!? ......一体誰がそんなことを?」
「使用人のみんなです。ほら、あそこの席からロランさんに話を聞きたい女性たちがちらちらと視線を送っています」
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