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第2章 王都
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しおりを挟む「ね、言ったでしょう?」
「俺とデューラ卿はそんな関係では断じてないよ」
「本当ですかあ? 恥ずかしくて隠しているだけとか?」
「本当に違う。......トニー、俺から執事長に言って仕事を増やしてあげてもいいんだよ?」
「あ、ロランさん酷い! 冗談じゃないですかー」
好奇心旺盛な年頃の青年が噂話に興味を持つことは不思議ではない。だが、違うことははっきりと違うと言っておかなければ、今後のロランの名誉にも関わる。
「根拠のない噂は吹聴しないことだよ」
「わかりました。もうしません」
「ふっ、よろしい」
トニーは素直に謝った。もうしませんと言う言葉を孤児院にいた頃、子ども達を叱った時によく聞いた。
あの子達は元気にしているだろうか。年長者だった子はもうすでに孤児院を出ている年齢だ。
マティとルカにもらった手紙は大事に机の中にしまってある。医療実験が成功した後、すぐに読み返した。拙い字で、丁寧に文字を書こうとしている姿勢が伝わり、心が暖かくなったものだ。
「なんかロランさんって学校の先生みたいですよね。誰かを注意する時とかは特に」
「そうか? 過去に似たようなことをしていたこともあったけど、先生と呼ばれるほど大層な人間じゃないよ」
「またまた! ロランさんって教え方上手いし、同僚達にもめっちゃ慕われてるし、俺そういうの見てると結構鼻が高いんですよ」
「あまり人を煽てすぎないように。ほら、そろそろ昼食の時間も終わるよ」
「本当だ! 休憩の時間ってあっという間ですよね」
盆を下げ、午後の仕事場に向かう。穏やかな昼下がりはこうして過ぎていった。
......
「ロラン、ちょっといいですか」
「はい、なんでしょうか」
1日の仕事を終え、使用人用に建てられた宿舎へ帰ろうとしている時、執事長に呼び止められた。
「今度の建国祭の休暇についてです。あなたは休暇を申請していませんが、よろしいのですか?」
モノクルをかけ、上質なタキシードを着た執事長は、使用人たちの休日を管理することも仕事である。
「はい。何か問題でしょうか。もしかして何か不備でも?」
「いいえ、そうではないのです。ただ、他の使用人たちは休暇を取るので間違いがないように確認に来たというわけです」
彼の仕事は丁寧だ。使用人の中で影の薄いロランにも声をかけてくれる。
建国祭とは文字通り、システリア王国が建国した日を祝う国をあげての祭日である。初代国王が隣国レパスとの戦いで勝利を収め、開国を果たした。
以来記念の日には家族や恋人、友人など大切な人と過ごす日として国内各地で催し物が行われている。
「私には建国祭を過ごす友人も、家族もいませんからね。お休みをいただいても、逆に落ち着かないんです」
「こちらとしては、然るべき時に休んでいただきたいのですが。……それに、去年も一昨年も建国祭に参加していないでしょう? 今年こそはと思ったのです」
ブルーナ侯爵家にやってきてからの2年間、ロランは一度も建国祭に参加していない。理由は医療実験に参加したことにより、ある程度の行動を制限されていたからだ。
システリア王国は魔法大国とはいえ、その技術は発展途上である。貴族や一部の才能に恵まれた平民のみが魔法を使えるため、研究が早く進んでいかないというのが現状だ。
ゆえに実験を行った後どのような作用が起こるかが定かではなかった。
『今回の医療実験ははじめに、ブスケーさんの体内にある魔力とこちらが用意した研究員の魔力を結合させ、視力を回復するための基礎を作っていきます。魔力が体内に馴染んだ後、視力を回復するための魔法陣を作動させます』
この国で魔法を発動させるためには、魔法陣とそれを作動させるために十分な量の魔力を持つことが必要である。魔法を使うことができるのは貴族と一部の平民に限られるのはそのためだ。
貴族は幼い頃から、魔法陣を描くことを学び、才能ある平民は意図せずとも魔法陣を組み上げられる。
『実験が成功した後は経過観察に入ります。ブスケーさんの体が外的な魔力を拒否することがないか、視力の回復が一時的なものではないかなどを確認させていただきます』
そういうわけでロランは実験後何かと行動を制限されるようになった。
人混みが多いところへ行ってはいけない。研究員の目の届く範囲で生活をする。少しでも異変を感じた場合にはすぐに報告を行うなどだ。
「お気遣いありがとうございます。でも私はもう何年も建国祭に参加したことがないので、お休みはいただかなくて大丈夫なんです」
「かしこまりました。それではそのように処理いたします。退勤前の時間に失礼いたしました」
「こちらこそ、お疲れ様です」
ロランが住んでいた辺境領にも建国祭としても模様しものは行われていた。だが、勤務先が食堂のため、参加をして楽しむものというよりはかき入れ時として気合いを入れる日という認識が強かったのである。
純粋に祝祭として楽しんだのは子どもの時くらいだ。
「それにおじさんが1人で楽しめるような祭りじゃないしな」
ルーカス以外には行き先を伝えず、王都にやってきた。当然知り合いもいない。
ひとり寂しい身のロランにとって、建国祭は少し世間が騒がしくなる日という認識でしかないのだ。
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