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第2章 王都
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建国祭当日、いつものように出勤する準備をしているとトニーがやってきた。
「あれ、ロランさん? 今日は休みなんじゃないんですか」
「うん、執事長に言って出勤させてもらうんだ」
「はあー、ロランさんは本当に真面目ですね」
「そういうのはいいから。トニーは建国祭に行くのか?」
「はい! 建国祭は楽しい催し物でいっぱいですから、めいいっぱい遊んでこようと思います!」
トニーは王都出身だ。ブルーナ侯爵家に使用人として雇われる前からの友人達と一緒に祭りを見てまわるらしい。
いつもは侯爵家から支給されている使用人用の服を着ているからか、私服を着るとより幼く見える。
若者が楽しそうに浮かれている様子を見てロランも嬉しくなった。
「楽しむのはいいけど、あまりは目を外し過ぎないようにね」
「はーい。お土産買ってきますから楽しみにしていてくださいね!」
支度を済ませたトニーは軽やかな足取りで宿舎を飛び出していく、他の使用人達も同じように浮き足立っているようで全体的に浮ついた雰囲気が流れていた。
(俺ももう少し柔軟性があれば楽しめたのかもしれないな)
だがおじさんであるロランにとって今までの生き方を急に変えることは難しい。
いつも通りの日々を淡々と生きる。ハプニングが起きるのは時々でいいのだ。
「あれ、ロランさん。どうして今日も仕事を?」
「デューラ卿こそ」
昼下がり、いつものように仕事をしているとレオナルドがやってきた。てっきり彼も仕事を休んでいると思っていたので、声をかけられた時は体がびくりと跳ねてしまった。
「私はいつも通り、上司にこき使われているのですよ。おかげで建国祭を楽しみ損ねています」
「ご苦労様です」
「ロランさんこそ、他の使用人は皆で払っていますよね? ......もしかして集団的ないじめ、ですか?」
「ち、違いますよ! これは自分で望んでやっていることです!」
「ふ、冗談ですよ。言ってみたかっただけです。今日ロランさんが仕事をしていることは執事長からも聞いています」
「心臓に悪い冗談はやめてください」
身分が高い方の冗談は、平民にとっては冗談に聞こえない。
「デューラ卿は冗談を言ったりするんですね」
「おや、言わないように見えますか」
「言わないというか......知らないように見えます」
レオナルド・デューラという男はいかにも貴族というような風貌をしている。しっかりと切り揃えられた豊かな髪、色気を感じる涼しげな目元、堂々と背筋を伸ばし歩く姿はまさに貴族らしい自信を感じられるものだ。
それに加えて、ブルーナ侯爵の側近であり懐刀のような役目も果たしている。使用人、特に女性達の間ではスマートでイケメンだともっぱらの噂だ。
「そんな立派な人間ではありませんよ。思い返してみてください。私はロランさんに、上司にこき使われて大変だと愚痴をこぼしているでしょう? もし冗談を知らない人間がいたとしたら、愚痴をこぼすことも知らないはずです」
「そう、ですか?」
「そうですよ」
謎理論で押し切られてしまった感が否めないが、深掘りするような話題でもない。
レオナルドは本題だというように話を続けた。
「ロランさん、最近の体調はどうですか」
「問題ありませんよ。目もしっかりと見えていますし、朝昼晩規則正しい生活をしているので」
「それはよかった。体調は万全というわけですね。じゃあ、行きましょうか」
じゃあ? 話の意図が全く掴めない。目を白黒させるロランを見てレオナルドは微笑んだ。
「なんの用事もない私がここに来たとお思いですか? 私はロランさんをお誘いに来たのですよ」
「お誘い?」
「はい。一緒に建国祭を見てまわりませんか」
さらに混乱が加速した。レオナルドは男女関係なくモテる。建国祭を一緒にまわる相手もおそらく引く手数多だ。そんな彼がどうしてロランを誘うのだろう。
「急に上司から休暇が降りまして、誘う相手を探していたのです。祝祭の日に一人というのは寂しいですからね。そこで、勝手にロランさんの休暇の申請もしてきてしまいました」
「え!?」
「執事長もいいと言ってくれましたし、心置きなく参加できますね」
そこまで根回しされていたのか。これではもう、行かないと拒否することはできない。
仕方がないとロランは肩の力を抜いた。
「デューラ卿は意外と強引なんですね」
「今更ですよ。あなたを医療実験に誘った時からずっと」
(そうかもしれない)
レオナルドと辺境領で出会ってから、ロランの生活は一段と変化をした。少し彼を見誤っていたのかもしれない。
......
「ロランさん、行きましょう」
「は、はい」
私服に着替えたロランはレオナルドと合流をした。念の為執事長に外出の許可を取りに行くとすでにレオナルドが済ませてくれたと言われた。加えて楽しんできてくださいねとも言われてしまった。
部屋に戻り、久しぶりにクローゼットの中を見渡してみると、服が数なく隙間だらけだった。最低限まわせる用のシャツにスラックス、服の方も流行を過ぎていて古くなっている。
だが、それしか着るものがないので最低限の身だしなみを整えて、集合場所に向かった。
「ロランさんの私服を見るのは久しぶりですね」
「自分でもそう思います。デューラ卿はおしゃれですね」
「ありがとうございます。私もあまり私服を着る機会がないので少し不安だったのですが、そう言っていただけてほっとしました」
(何を言っているんだか)
レオナルドは自信なさげに微笑んでいるが、彼が身につけているのは国内で有名なブランドの服だ。シンプルな作りでありながら、細かい部分に装飾があしらわれている。身につけている小物達も趣味がよく、周囲の人々に溶け込めるように地味なものを選択したようだが逆効果だ。
素材の良さがより際立ち、人の目を集めてしまうに違いない。
「あれ、ロランさん? 今日は休みなんじゃないんですか」
「うん、執事長に言って出勤させてもらうんだ」
「はあー、ロランさんは本当に真面目ですね」
「そういうのはいいから。トニーは建国祭に行くのか?」
「はい! 建国祭は楽しい催し物でいっぱいですから、めいいっぱい遊んでこようと思います!」
トニーは王都出身だ。ブルーナ侯爵家に使用人として雇われる前からの友人達と一緒に祭りを見てまわるらしい。
いつもは侯爵家から支給されている使用人用の服を着ているからか、私服を着るとより幼く見える。
若者が楽しそうに浮かれている様子を見てロランも嬉しくなった。
「楽しむのはいいけど、あまりは目を外し過ぎないようにね」
「はーい。お土産買ってきますから楽しみにしていてくださいね!」
支度を済ませたトニーは軽やかな足取りで宿舎を飛び出していく、他の使用人達も同じように浮き足立っているようで全体的に浮ついた雰囲気が流れていた。
(俺ももう少し柔軟性があれば楽しめたのかもしれないな)
だがおじさんであるロランにとって今までの生き方を急に変えることは難しい。
いつも通りの日々を淡々と生きる。ハプニングが起きるのは時々でいいのだ。
「あれ、ロランさん。どうして今日も仕事を?」
「デューラ卿こそ」
昼下がり、いつものように仕事をしているとレオナルドがやってきた。てっきり彼も仕事を休んでいると思っていたので、声をかけられた時は体がびくりと跳ねてしまった。
「私はいつも通り、上司にこき使われているのですよ。おかげで建国祭を楽しみ損ねています」
「ご苦労様です」
「ロランさんこそ、他の使用人は皆で払っていますよね? ......もしかして集団的ないじめ、ですか?」
「ち、違いますよ! これは自分で望んでやっていることです!」
「ふ、冗談ですよ。言ってみたかっただけです。今日ロランさんが仕事をしていることは執事長からも聞いています」
「心臓に悪い冗談はやめてください」
身分が高い方の冗談は、平民にとっては冗談に聞こえない。
「デューラ卿は冗談を言ったりするんですね」
「おや、言わないように見えますか」
「言わないというか......知らないように見えます」
レオナルド・デューラという男はいかにも貴族というような風貌をしている。しっかりと切り揃えられた豊かな髪、色気を感じる涼しげな目元、堂々と背筋を伸ばし歩く姿はまさに貴族らしい自信を感じられるものだ。
それに加えて、ブルーナ侯爵の側近であり懐刀のような役目も果たしている。使用人、特に女性達の間ではスマートでイケメンだともっぱらの噂だ。
「そんな立派な人間ではありませんよ。思い返してみてください。私はロランさんに、上司にこき使われて大変だと愚痴をこぼしているでしょう? もし冗談を知らない人間がいたとしたら、愚痴をこぼすことも知らないはずです」
「そう、ですか?」
「そうですよ」
謎理論で押し切られてしまった感が否めないが、深掘りするような話題でもない。
レオナルドは本題だというように話を続けた。
「ロランさん、最近の体調はどうですか」
「問題ありませんよ。目もしっかりと見えていますし、朝昼晩規則正しい生活をしているので」
「それはよかった。体調は万全というわけですね。じゃあ、行きましょうか」
じゃあ? 話の意図が全く掴めない。目を白黒させるロランを見てレオナルドは微笑んだ。
「なんの用事もない私がここに来たとお思いですか? 私はロランさんをお誘いに来たのですよ」
「お誘い?」
「はい。一緒に建国祭を見てまわりませんか」
さらに混乱が加速した。レオナルドは男女関係なくモテる。建国祭を一緒にまわる相手もおそらく引く手数多だ。そんな彼がどうしてロランを誘うのだろう。
「急に上司から休暇が降りまして、誘う相手を探していたのです。祝祭の日に一人というのは寂しいですからね。そこで、勝手にロランさんの休暇の申請もしてきてしまいました」
「え!?」
「執事長もいいと言ってくれましたし、心置きなく参加できますね」
そこまで根回しされていたのか。これではもう、行かないと拒否することはできない。
仕方がないとロランは肩の力を抜いた。
「デューラ卿は意外と強引なんですね」
「今更ですよ。あなたを医療実験に誘った時からずっと」
(そうかもしれない)
レオナルドと辺境領で出会ってから、ロランの生活は一段と変化をした。少し彼を見誤っていたのかもしれない。
......
「ロランさん、行きましょう」
「は、はい」
私服に着替えたロランはレオナルドと合流をした。念の為執事長に外出の許可を取りに行くとすでにレオナルドが済ませてくれたと言われた。加えて楽しんできてくださいねとも言われてしまった。
部屋に戻り、久しぶりにクローゼットの中を見渡してみると、服が数なく隙間だらけだった。最低限まわせる用のシャツにスラックス、服の方も流行を過ぎていて古くなっている。
だが、それしか着るものがないので最低限の身だしなみを整えて、集合場所に向かった。
「ロランさんの私服を見るのは久しぶりですね」
「自分でもそう思います。デューラ卿はおしゃれですね」
「ありがとうございます。私もあまり私服を着る機会がないので少し不安だったのですが、そう言っていただけてほっとしました」
(何を言っているんだか)
レオナルドは自信なさげに微笑んでいるが、彼が身につけているのは国内で有名なブランドの服だ。シンプルな作りでありながら、細かい部分に装飾があしらわれている。身につけている小物達も趣味がよく、周囲の人々に溶け込めるように地味なものを選択したようだが逆効果だ。
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