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第2章 王都
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建国祭は国をあげてのお祭りだ。王都中の家々が飾り付けられ、多くの店が並び、広場では音楽が奏でられている。
レオナルドと道を一緒に歩いていると様々な人の好奇的な視線を感じる。
だが彼は全く気に求めていないようだ。貴族かつイケメンであると生きているだけで視線を集めてしまう。彼にとってそれが常であるから気にならないのだろう。
だがそうではないロランは短時間でどっと疲れてしまった。
「あ、ほらあそこにロランさんさ好きそうなものが売っています。行ってみましょう」
「はい」
王都の建国祭は多くの人が集まる。それに伴って雑貨や飲食を提供する店が数多くあった。
レオナルドがロランに提案したのは焼き串を売っているお店だ。お酒に合うということもあって、好んで食べている自覚はある。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
焼き串を受け取り、がぶりと頬張る。特製のタレと肉が絶妙に絡み合っていて、美味しい。
店で出てくる料理も美味しいが、外で食べるものも良さがある。
「美味しいです。濃い味付けはお酒に合うので好きなんですよね」
「そうだと思いました。以前、時々一人で晩酌をしていると言っていましたし、こういうのお好きなのかなって」
「デューラ卿は使用人たちの細かいところまで把握していますよね」
「職業病ですかね。相手のことを細部まで知り尽くさないと気が済まないのです」
貴族とはそういうものなのか。常に他者からの視線を浴びさられるのも苦労するものだ。
「だから、ロランさんがいつもつけないはずのアクセサリーをつけていることが気になって仕方ありません」
「!?」
シャツの隙間からちらりと顔を出しているシルバーのネックレスをレオナルド指差した。
ネックレスは辺境領から出る時、ユーティスからお守りとしてもらったものだ。
見られていたのだとロランは恥ずかしくなる。
「これは、大切な人にもらったお守りみたなものです。仕事中は外していますがそれ以外はつけていることが多いですね」
「そうだったんですか。このネックレスを送った人は幸せですね。こんなに大切に使ってもらえているんですから」
そうだったらいいなと思う反面、二年も前に別れたおじさんがもらったネックレスをつけ続けていることが異様なことなのではないかと不安になった。
「そうだったらいいですね」
「ええ」
その後も二人で建国祭を見て回った。賑わう屋台に広場の演奏に合わせて踊る踊り子、楽しそうに笑い合う人たち。
食堂で働いていた時、建国祭はかき入れ時で厨房に引きこもっていた。客が引いた頃には夕暮れで、すでに賑やかな時間は過ぎていた。
ずっと提供側だったロランにとって、新鮮な光景だった。
建国祭には行かないと言っていたのが嘘かのように夢中になっていた。
「あ、これも美味しいですよ、デューラ卿」
「ロランさん、私から誘っておいてこんなことを言うもの気が引けるのですが、食べ過ぎでは?」
「ほうですか?」
「そうですよ、今だって口にものを詰め込み過ぎてちゃんと話せなくなっています」
「ん......すみません」
屋台で勝ったカラフルなお菓子を飲み込む。レオナルドに指摘されて気がついたが、お腹もかなり出っ張っていて不恰好だ。
いかにも貴族風な男の隣に小太りのおじさん、みっともない光景だ。
「気をつけます」
「何やらすれ違っている気もしますが......。健康第一ですから食べ過ぎには注意してください」
「はい」
これではどちらが年上なのかわかったものではない。
ロランは食べたり、お酒を飲んだりすることが好きだ。
先の一件によりお酒を飲むことは控えるようにしているが、その反動で自分に見合わない量を食べてしまっている自覚がある。幸い体調は崩していないがいつボロが出てくるかわからない。
体調が万全となった今、浴に歯止めがかかりづらくなっている。
「そろそろ戻りましょうか」
「そうですね。十分満喫しましたから」
人混みを避けながら歩いているとどこからか悲鳴が上がった。
幸せな雰囲気が一気に緊張感あるものに変わっていく。
ざわめきが大きくなり、だんだんとロランたちがいる場所へ近づいてきた。
「盗人だ! 誰か捕まえてくれ!」
人をかき分けるようにして一人の男が飛び出してきた。覆面を被り顔を見えなくしているいかにもな風貌だ。
「ロランさん、協力に行ってきます」
レオナルドはブルーナ侯爵の側近ではあるが武道の心得もある。時々、ブルーナ侯爵家の騎士たちとともに、訓練をしていると同僚たちが話をしていた。
王都に住まう貴族として、秩序を乱すものを放っておくことはできないのだろう。
「わかりました待っていますね」
彼は体格にも恵まれている。よほどの相手でなければ大事に至ることもない。
ロランは迷惑にならないように道の端によって戻るのを待つ。
するとまたざわめきが起こった。今度のものは困惑や不安ではなく、羨望を含んだものだった。
『止まれ』
詠唱だ。詠唱とは魔法陣を作動させるために必要な鍵的な役割を果たしている。
つまりこの場で魔法を使った者がいるのだ。
盗人が魔法陣から現れた蔓のようなものに絡まれて動けなくなっていることから、奴を捕縛するために使われたのだとわかる。
「いったい誰が?」
平和を保つため公共の場で魔法を使うことができる人間は限られている。
国から認められた魔法使いが緊急事態に見舞われた場合、そして王都では王宮に仕えている魔法騎士のみが使うことができる。
そして、おそらくこの場にいるのは魔法騎士の方だ。
「お怪我はありませんか」
レオナルドと道を一緒に歩いていると様々な人の好奇的な視線を感じる。
だが彼は全く気に求めていないようだ。貴族かつイケメンであると生きているだけで視線を集めてしまう。彼にとってそれが常であるから気にならないのだろう。
だがそうではないロランは短時間でどっと疲れてしまった。
「あ、ほらあそこにロランさんさ好きそうなものが売っています。行ってみましょう」
「はい」
王都の建国祭は多くの人が集まる。それに伴って雑貨や飲食を提供する店が数多くあった。
レオナルドがロランに提案したのは焼き串を売っているお店だ。お酒に合うということもあって、好んで食べている自覚はある。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
焼き串を受け取り、がぶりと頬張る。特製のタレと肉が絶妙に絡み合っていて、美味しい。
店で出てくる料理も美味しいが、外で食べるものも良さがある。
「美味しいです。濃い味付けはお酒に合うので好きなんですよね」
「そうだと思いました。以前、時々一人で晩酌をしていると言っていましたし、こういうのお好きなのかなって」
「デューラ卿は使用人たちの細かいところまで把握していますよね」
「職業病ですかね。相手のことを細部まで知り尽くさないと気が済まないのです」
貴族とはそういうものなのか。常に他者からの視線を浴びさられるのも苦労するものだ。
「だから、ロランさんがいつもつけないはずのアクセサリーをつけていることが気になって仕方ありません」
「!?」
シャツの隙間からちらりと顔を出しているシルバーのネックレスをレオナルド指差した。
ネックレスは辺境領から出る時、ユーティスからお守りとしてもらったものだ。
見られていたのだとロランは恥ずかしくなる。
「これは、大切な人にもらったお守りみたなものです。仕事中は外していますがそれ以外はつけていることが多いですね」
「そうだったんですか。このネックレスを送った人は幸せですね。こんなに大切に使ってもらえているんですから」
そうだったらいいなと思う反面、二年も前に別れたおじさんがもらったネックレスをつけ続けていることが異様なことなのではないかと不安になった。
「そうだったらいいですね」
「ええ」
その後も二人で建国祭を見て回った。賑わう屋台に広場の演奏に合わせて踊る踊り子、楽しそうに笑い合う人たち。
食堂で働いていた時、建国祭はかき入れ時で厨房に引きこもっていた。客が引いた頃には夕暮れで、すでに賑やかな時間は過ぎていた。
ずっと提供側だったロランにとって、新鮮な光景だった。
建国祭には行かないと言っていたのが嘘かのように夢中になっていた。
「あ、これも美味しいですよ、デューラ卿」
「ロランさん、私から誘っておいてこんなことを言うもの気が引けるのですが、食べ過ぎでは?」
「ほうですか?」
「そうですよ、今だって口にものを詰め込み過ぎてちゃんと話せなくなっています」
「ん......すみません」
屋台で勝ったカラフルなお菓子を飲み込む。レオナルドに指摘されて気がついたが、お腹もかなり出っ張っていて不恰好だ。
いかにも貴族風な男の隣に小太りのおじさん、みっともない光景だ。
「気をつけます」
「何やらすれ違っている気もしますが......。健康第一ですから食べ過ぎには注意してください」
「はい」
これではどちらが年上なのかわかったものではない。
ロランは食べたり、お酒を飲んだりすることが好きだ。
先の一件によりお酒を飲むことは控えるようにしているが、その反動で自分に見合わない量を食べてしまっている自覚がある。幸い体調は崩していないがいつボロが出てくるかわからない。
体調が万全となった今、浴に歯止めがかかりづらくなっている。
「そろそろ戻りましょうか」
「そうですね。十分満喫しましたから」
人混みを避けながら歩いているとどこからか悲鳴が上がった。
幸せな雰囲気が一気に緊張感あるものに変わっていく。
ざわめきが大きくなり、だんだんとロランたちがいる場所へ近づいてきた。
「盗人だ! 誰か捕まえてくれ!」
人をかき分けるようにして一人の男が飛び出してきた。覆面を被り顔を見えなくしているいかにもな風貌だ。
「ロランさん、協力に行ってきます」
レオナルドはブルーナ侯爵の側近ではあるが武道の心得もある。時々、ブルーナ侯爵家の騎士たちとともに、訓練をしていると同僚たちが話をしていた。
王都に住まう貴族として、秩序を乱すものを放っておくことはできないのだろう。
「わかりました待っていますね」
彼は体格にも恵まれている。よほどの相手でなければ大事に至ることもない。
ロランは迷惑にならないように道の端によって戻るのを待つ。
するとまたざわめきが起こった。今度のものは困惑や不安ではなく、羨望を含んだものだった。
『止まれ』
詠唱だ。詠唱とは魔法陣を作動させるために必要な鍵的な役割を果たしている。
つまりこの場で魔法を使った者がいるのだ。
盗人が魔法陣から現れた蔓のようなものに絡まれて動けなくなっていることから、奴を捕縛するために使われたのだとわかる。
「いったい誰が?」
平和を保つため公共の場で魔法を使うことができる人間は限られている。
国から認められた魔法使いが緊急事態に見舞われた場合、そして王都では王宮に仕えている魔法騎士のみが使うことができる。
そして、おそらくこの場にいるのは魔法騎士の方だ。
「お怪我はありませんか」
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