【番外編更新予定】酔いどれおじさんは、若き騎士に求愛される

泉あけの

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第2章 王都

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 魔法騎士は盗人に向けて使用した魔法が、周囲の人々に怪我をさせていないかと声をかけている。
 
 その人物を見た時ロランは両目を見開いた。

(どうしてここに?)
 
 事故に遭い、視力が落ちる前に彼の姿を見た。二年以上も前のことだが、見間違うはずがないほどしっかりと脳裏に焼き付いている。
 
 その男の髪は豊かな金色で、瞳は空を写したかのように美しい。辺境領に残してきた数少ない心残り。
 
 彼が王都にいるはずがないのだ。

「ユーティス」

 ぽつりとつぶやいただけの言葉だったが、彼はロランがいる方に歩いてきた。大きな声を出してしまっただろうかとあたふたしたが、それは杞憂に終わる。

「お怪我はありませんか」
「は、はい」

 他の人たちと同じように声をかけにきただけだった。目があったが、そのままユーティスは次の人へ声をかけに行ってしまう。
 
 人々の安全を確認した後、やってきた警備隊員たちに男の身柄を引き渡していた。
 
 そのまま同行するのかと思ったが、ユーティスはそうしなかった。

「あれは、誰なんだろう」

 彼が向かって行ったのは、一人のご令嬢の元だった。どうしてわかったのかと問われれば、彼女の服装に他ならない。
 
 平民にしては上質で、たくさんのフリルがついた服を身に纏っている。優雅な立ち姿からも彼女が貴族であることが想像できた。

「お待たせいたしました」
「遅いじゃない。すぐに終わると言われたから待っていたのに。せっかく王都に来たのだから、時間を無駄にさせないでよね」
「申し訳ございません」

 ユーティスは許しを乞うように手の甲にキスをした。それを見たロランの胸がざわりと揺れる。
 
 どういう経緯で彼が王都にいて、どこかのご令嬢と一緒にいるのかわからない。しかし従者であるユーティスが主人の許しを得ようとするのは自然なことだ。
 
 平民であるロランにもそれくらいはわかっている。理解をしているのに、心は慌ただしいままだった。

 令嬢と従者以外の何かが彼らの間に生まれていると感じたからかもしれない。

「ロランさん、ロランさん? どうかしましたか」
「い、いえ何もないです」

 盗人を捕らえに行ったはずのレオナルドが戻ってきていたことにも気が付かなかった。それほどあの二人に気を取られていたらしい。
 
 ロランの目線の先に先ほど魔法を発動させたユーティスがいることがいるとわかると、レオナルドは納得したように頷いた。
 
「ああ、魔法騎士さまのことが気になるんですね。彼らはこの国の中でもトップクラスに優秀な人材ですから、私が出る幕などありませんでした」
「魔法騎士さまを初めて見ました」
「多忙ですから、あまり多くの人前に出ることはないでしょう。私たちは運がいいですね」
「ええ、本当そうですね」

 冷静になると、騒動を見ていた人々がユーティスに羨望の眼差しを向けていた。彼の一挙主一同に注目が集まる。

「それに魔法騎士さまと一緒にいるのはリエト辺境伯のご令嬢では? どうりで見たことがあると思いました」
「あれが、リエトご令嬢」
 
 ロランが以前住んでいた場所は辺境領であり、そこをおさめていたのがリエト辺境伯だ。当然貴族の中でも身分が高く、ブルーナ侯爵よりも権力を持っている。
 
 そしてユーティスはの雇われ騎士をしていると以前教えてくれた。

(そういうことだ)
 
 点と点が繋がっていく。ユーティスはどこの貴族に雇われているのかを教えてはくれなかった。おそらく守秘義務があったのだろう。

本来騎士としての守秘義務などあるのかわからないが、その騎士が雇い主が大切にしているご令嬢の恋人だったとしたら話は別だ。
 
 辺境伯は変な噂を立てられないよう娘を守るために、関係を秘密にしてほしいと要求するに違いない。
 
 雇われ騎士だったはずのユーティスが王都にいて、魔法騎士として働いていることも、建国祭をリエト令嬢の付き人としてやってきていることも、全ての説明がつく。

『俺のこと好きだと言ってくれたのは嘘だったのですか』
『いつかまた会える時が来たら、その時は全力で口説きにいくので覚悟してくださいね』

 おじさんに向かって熱烈な言葉を送ってきたことを疑問に思っていたが、それは本来の出来事を隠すためのカモフラージュだったらしい。

(ちょっかいをかけられていたのかな)
 
 どんどん辻褄を合わせていく思考を放棄したかった。どうしてこういう時ばかり頭が働くのだ。もっと使い時があるだろう。
 
 事故に遭ってボロボロなロランを心配してくれたことも、あなたが欲しいと懇願された夜も、目が良くなるようにとお守りを渡してくれた日を忘れたわけではない。

 時々思い出しては懐かしんでしまうほどに大切な記憶だ。だが、この状況は現実だ。
 
 ユーティスに自分は相応しくないとロランは何度も言った。今もその気持ちは変わらない。そのはずなのにどうしてこんなにも心が乱されてしまうのか。

 元貴族の令息である魔法騎士と国境を守る辺境伯に大切にされているご令嬢。これ以上ないほどお似合いだ。

「ロランさん、顔色が悪いですよ」
「......そうですか?」
「そうですよ、私が連れ回してしまったせいですね。帰りましょうか」
「はい」

 一刻も早くここから立ち去ってしまいたいという一心で提案に合意した。 
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