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第2章 王都
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ロランの体調を心配したレオナルドは使用人寮まで送ってくれた。お大事にしてください、何かあれば他の者に声をかけるんですよという文言付きである。
ブルーナ家の使用人寮は一人部屋だ。なのでお構いなしに服を着替えることさえせずにベッドに倒れ込んだ。
「今日は色々あったな」
レオナルドに建国祭に誘われ美味しい食べ物を食べることができてなんだかんだ楽しんでいた。ユーティスと出会えるなんて思ってもみなかったのだ。
確実に目があっていたが、彼は知らないふりをした。
いや、もう忘れてしまったのかもしれない。ロランが辺境領を出てからもう二年も経っているのだ。
孤児院の子どもたちはおそらく見違えるほど成長しているだろうし、ジェラリアやアリアンヌだって医療従事者としての技術を上げて仕事に励んでいることだろう。
ロランもこの二年間で目が見えるようになり、ブルーナ家の使用人となった。
周囲は変化している。だが、心は二年前とほとんど変わっていなかった。
「本当に馬鹿みたいだ」
出立前日にユーティスからもらったネックレスをつけて、彼からもらった言葉を時々心の中で反芻してしまう。
ブルーナ家の豪華な庭を見るたびに、ユーティスの家で二人で過ごした日のことを思い出す。
こんなにも心は正直だったというのに。年齢が離れているから、身分が違うから、何もかも相応しくないからと卑屈になり、跳ね返していた過去の自分を殴ってしまいたい。
(俺、ユーティスのことが好きなんだ)
自分ではない誰かが隣にいて初めて恋心を自覚した。その場所は自分がいるべき場所なのだと滑稽にも言い出してしまいたかった。
恋愛感情はない、なんて言っていて誤魔化していた。あの時素直になって恋人になってしまえばよかったのだ。
遊びでも、本命を隠すための道具として扱われてもいい。
それでもユーティスはロランをまるで本当の恋人のように扱ってくれるだろうから。
「つらい」
齢38にして、失恋だ。
ロランは部屋で飲むようにと買っておいた酒を棚の中から取り出した。
健康には気をつけてくださいを言われて、たしなむ程度に控えていたがもういいだろう。この気持ちを少しでも緩和してくれるのならば、いいのだ。
アルコールを一気に煽ると身体中が熱くなって、脳内がぼうっとし始める。細かい思考をすることができなくなり、寂しさを埋めてくれる。
ロランはこの乗り越え方しか知らない。それ以外にも知っていたのかもしれないがとうの昔に忘れてしまった。
引き裂かれそうなほど強い胸痛も、戻ることができない過去への執着も、すべて消えてほしいと願った。
......
「ロランさん、体調悪いんですか。顔色良くないですよ」
「大丈夫だよ、万全だ」
「そうですか、何かあったら俺に言ってくださいね」
トニーは昨日の建国祭がよほど楽しかったらしく、仕事をしながら思い出話を聞かせてくれた。いちばんの思い出は、一緒に行った友達と屋台のくじ引きをして一等を引き当てたことだそうだ。
一方ロランは昨日飲んだ酒が抜け切っていなかった。少し頭が痛いのは歳のせいだろうか。
とはいえ、仕事はしなければならない。いつも通りの分担場所で掃除を行う。
単純作業で助かった。淡々とした作業は心を無にしてくれるので余計なことを考えなくて済む。
「ロランさん、少しよろしいですか」
「デューラ卿」
仕事を開始してしばらく経った時、レオナルドがやってきた。体調は大丈夫だったのかと聞かれ、どうしてこの屋敷には心配性な人が多いのだろうと少し笑ってしまった。
「昨日の盗人が魔法騎士に捕まった件を覚えていますか」
「はい、もちろん」
「その犯人なのですが、警備隊に引き渡された後亡くなったようでして。おそらく他殺ではないかと彼らは睨んでいるようです」
「他殺ですか。物騒ですね」
「ええ、盗人を狙った犯行だとは思いますが、念のため注意喚起に来ました。ロランさんもあの場にいたので、むやみに一人になって襲われでもしたら大変ですから」
「お気遣いありがとうございます」
あの時の盗人は確か屋台を出店していた店の金庫を盗んでいた。十分罪を問うことができるとはいえ、殺されるほどのものとは思えない。
なぜ殺されてしまったのだろうか。
(俺が考えても仕方がないか)
ブルーナ伯爵の屋敷の敷地内からほとんど出ることがないロランにとっては無関係なことだ。そういう事件関係のことは頭の冴える適任者がやってくれることだろう。
執務室へ戻って行くレオナルドを見送りながら、掃除を再開した。
『すみませんが、私の代わりに商品の発注へ行っていただけませんか』
屋敷の外へ行くことはないと思っていたロランだったが、その機会はすぐに訪れてしまった。見事なフラグ回収である。
この日は執事長が休みで、ロランとトニーが外部の発注を任されることになったのだ。
「ロランさん、早く行きましょう」
「待ってよ、トニー。おじさんの体力を考えてくれ」
「またまたそんなこと言って。そこまでの年じゃないじゃないですか」
「もう38歳だが?」
「えっ本当ですか? めっちゃ若見えしてますよ」
「そんなこと言われても別に嬉しくないです」
発注に行ったことがないトニーは浮かれている。
ブルーナ家の使用人寮は一人部屋だ。なのでお構いなしに服を着替えることさえせずにベッドに倒れ込んだ。
「今日は色々あったな」
レオナルドに建国祭に誘われ美味しい食べ物を食べることができてなんだかんだ楽しんでいた。ユーティスと出会えるなんて思ってもみなかったのだ。
確実に目があっていたが、彼は知らないふりをした。
いや、もう忘れてしまったのかもしれない。ロランが辺境領を出てからもう二年も経っているのだ。
孤児院の子どもたちはおそらく見違えるほど成長しているだろうし、ジェラリアやアリアンヌだって医療従事者としての技術を上げて仕事に励んでいることだろう。
ロランもこの二年間で目が見えるようになり、ブルーナ家の使用人となった。
周囲は変化している。だが、心は二年前とほとんど変わっていなかった。
「本当に馬鹿みたいだ」
出立前日にユーティスからもらったネックレスをつけて、彼からもらった言葉を時々心の中で反芻してしまう。
ブルーナ家の豪華な庭を見るたびに、ユーティスの家で二人で過ごした日のことを思い出す。
こんなにも心は正直だったというのに。年齢が離れているから、身分が違うから、何もかも相応しくないからと卑屈になり、跳ね返していた過去の自分を殴ってしまいたい。
(俺、ユーティスのことが好きなんだ)
自分ではない誰かが隣にいて初めて恋心を自覚した。その場所は自分がいるべき場所なのだと滑稽にも言い出してしまいたかった。
恋愛感情はない、なんて言っていて誤魔化していた。あの時素直になって恋人になってしまえばよかったのだ。
遊びでも、本命を隠すための道具として扱われてもいい。
それでもユーティスはロランをまるで本当の恋人のように扱ってくれるだろうから。
「つらい」
齢38にして、失恋だ。
ロランは部屋で飲むようにと買っておいた酒を棚の中から取り出した。
健康には気をつけてくださいを言われて、たしなむ程度に控えていたがもういいだろう。この気持ちを少しでも緩和してくれるのならば、いいのだ。
アルコールを一気に煽ると身体中が熱くなって、脳内がぼうっとし始める。細かい思考をすることができなくなり、寂しさを埋めてくれる。
ロランはこの乗り越え方しか知らない。それ以外にも知っていたのかもしれないがとうの昔に忘れてしまった。
引き裂かれそうなほど強い胸痛も、戻ることができない過去への執着も、すべて消えてほしいと願った。
......
「ロランさん、体調悪いんですか。顔色良くないですよ」
「大丈夫だよ、万全だ」
「そうですか、何かあったら俺に言ってくださいね」
トニーは昨日の建国祭がよほど楽しかったらしく、仕事をしながら思い出話を聞かせてくれた。いちばんの思い出は、一緒に行った友達と屋台のくじ引きをして一等を引き当てたことだそうだ。
一方ロランは昨日飲んだ酒が抜け切っていなかった。少し頭が痛いのは歳のせいだろうか。
とはいえ、仕事はしなければならない。いつも通りの分担場所で掃除を行う。
単純作業で助かった。淡々とした作業は心を無にしてくれるので余計なことを考えなくて済む。
「ロランさん、少しよろしいですか」
「デューラ卿」
仕事を開始してしばらく経った時、レオナルドがやってきた。体調は大丈夫だったのかと聞かれ、どうしてこの屋敷には心配性な人が多いのだろうと少し笑ってしまった。
「昨日の盗人が魔法騎士に捕まった件を覚えていますか」
「はい、もちろん」
「その犯人なのですが、警備隊に引き渡された後亡くなったようでして。おそらく他殺ではないかと彼らは睨んでいるようです」
「他殺ですか。物騒ですね」
「ええ、盗人を狙った犯行だとは思いますが、念のため注意喚起に来ました。ロランさんもあの場にいたので、むやみに一人になって襲われでもしたら大変ですから」
「お気遣いありがとうございます」
あの時の盗人は確か屋台を出店していた店の金庫を盗んでいた。十分罪を問うことができるとはいえ、殺されるほどのものとは思えない。
なぜ殺されてしまったのだろうか。
(俺が考えても仕方がないか)
ブルーナ伯爵の屋敷の敷地内からほとんど出ることがないロランにとっては無関係なことだ。そういう事件関係のことは頭の冴える適任者がやってくれることだろう。
執務室へ戻って行くレオナルドを見送りながら、掃除を再開した。
『すみませんが、私の代わりに商品の発注へ行っていただけませんか』
屋敷の外へ行くことはないと思っていたロランだったが、その機会はすぐに訪れてしまった。見事なフラグ回収である。
この日は執事長が休みで、ロランとトニーが外部の発注を任されることになったのだ。
「ロランさん、早く行きましょう」
「待ってよ、トニー。おじさんの体力を考えてくれ」
「またまたそんなこと言って。そこまでの年じゃないじゃないですか」
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「えっ本当ですか? めっちゃ若見えしてますよ」
「そんなこと言われても別に嬉しくないです」
発注に行ったことがないトニーは浮かれている。
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