【番外編更新予定】酔いどれおじさんは、若き騎士に求愛される

泉あけの

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第2章 王都

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 通常、貴族というのは屋敷で使うものをわざわざ買い付けに行ったりはしない。地方の貴族は別だろうが、王都では商人たちを呼んで買い物を行う。
 
 しかしブルーナ伯爵は執事長に直接買い付けに行くように命じていた。

「俺、買い付け行くの初めてなので楽しみです!」
「あまりはしゃぎすぎないように。あと侯爵家の顔として、伺うことを忘れないようにね」
「やっぱりロランさんって先生っぽいですよね」

 話を聞いているのか聞いていないのかわからないトニーの反応にロランはため息をこぼした。好奇心旺盛な年頃だ。多少のことには目を瞑ろう。

「今日まわるのは、肉屋、食器屋、金物屋か。急がないと日が暮れてしまう、効率よく動こう」
「はい! ていうか、こういう買い付けも執事長の仕事なんですね。忙しすぎないですか」
「まあ、執事長は仕事中毒ワーカーホリックなところがあるからいいんじゃないかな」
「確かに、納得です」
 
 こんなふうに買い付けに手間をかけている理由は経済を回すためである。異なる店で買い付けを行うことによって、あちこちに大金を落としていく。そうすることにより、店側は大きな収入源を得てより良いものを仕入れようと出向く。よって店以外の場所にもお金が回っていくのだ。
 
 商人たちの信頼を築くことは、侯爵家にとっての利益にもつながる。商人は仕入れのために国のあちこちとの繋がりがある。彼らは地方の事情を知る貴重な情報源だ。

 前世、歴史の教師かつオタクだったロランにとっては納得のいく仕組みだ。

「次が最後だ。行こう」
「案外疲れるものですね。お土産も結構もらいましたし。何より重いっ!」
「腐らないように氷を入れてもらったけど、中にはお肉もあるから急がないとね」
「はい」

 2つの店をまわっただけでロランとトニーはくたびれていた。徒歩で買い付けに行き、それぞれの店の間に距離があるため相応の距離を歩かなければならない。
 
 これを執事長は一人で行っていたというのか。細身な体のどこにそんな力が秘められているのだろう。もし彼が大変そうにしている時は積極的に手助けをしようと二人は心に決めた。

「失礼します。ブルーナ侯爵家の使いの者です」
「お待ちしていましたよ。今日はどのようなご用件で?」

 扉を開けると気の良さそうで小太りな店主が出迎えてくれた。

「このメモに書かれてるものを用意してください。日付もこの通りでお願いします」
「かしこまりました。今日はいつもの執事さんではないのですね」
「今日彼は休暇をとっておりまして。我々はその代理というわけです。
「ご苦労様でございます」

 確認いたしましたと差し出された領収書を受け取って店を出る。金物屋でも土産をもらってしまい、二人の腕は物で一杯一杯になっていた。

「お客さまお待ちください!」

 金物屋の店主が店からできてきた。何かと思って立ち止まると、耳を貸すように仕草でうながされる。

「いつもの彼から頼まれていた情報でございます。何やら目をつけていた経路で動きがあったようです。これさえ言えば伝わると思います」
「わかりました。必ずお伝えします」

 ロランは店主と頷き合った。さまざまな文言が伏せられているためロランには何を伝えたいのかさっぱりわからないが、執事長に言えば伝わるらしい。

「店主さんどうされたんですか?」
「買い付けした商品の在庫について言い忘れてたことがあったんだって」
「へー、律儀な人ですね。でもそのくらいじゃないと侯爵家と取引なんてできないのか」
「そうだね」

 トニーは納得したように頷いた。

「誰だ」
 
 再び侯爵家へ戻る道を歩き始めると黒服を着た男たちに囲まれた。布で顔を覆っているため顔はわからない。
 
 わかることといえば、彼らが明白な不審人物であることくらいだ。
 
「お前たちはブルーナ家の人間か?」
「そうだと言ったらどうする」
「お前たちを拉致することになるな」
「では違うと言っておこうか」
「随分と余裕だなあ。さっきの金物屋での会話は聞いていた。どちらにせよ、俺たちと一緒に来てもらう」

 どうすればいい。彼らが話してわかる人物だとは思えない。この状況を切り抜ける方法を考えろ。
 
 ロランは事故の後遺症で全速力で走ることは不可能だ。
 
「トニー、大通りに向かって走れ!」

 ならば取るべき行動はトニーを逃すことに注力すること一択である。
 
 2人が歩いていた道をまっすぐに行けば、人の往来が活発な通りに出る。そこまで行けばこの男たちは下手に手出しはできない。
 
 見回りをしている警備隊もいるはずだ。

「でも、ロランさんは」
「いいから、行くんだ!」

 トニーが持っていた荷物を全てはたき落として、指をさし大通りに向かうようにと背中を押した。トニーはそのまま大通りへ走っていった。
 
 黒服の男たちがトニーに手出しができないように、ロランが盾となる。

「ちっ行かれちまったか。まあいい、騒ぎを起こされちゃ後々面倒なことになる。あんた一人について来てもらおうか」
「俺は下っ端の使用人だぞ。搾り取れる情報など何もない。侯爵家も俺一人のために金品を差し出すことはしないだろうな」
「よく喋るやつだな。......お前の利用価値は俺たちが決めることだ」

 リーダーである男の指示によって、ロランは気絶させられてしまった。 
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