【番外編更新予定】酔いどれおじさんは、若き騎士に求愛される

泉あけの

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第2章 王都

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 意識を取り戻すとそこは馬車の荷物置き場の中だった。布で覆われており、外からの光が完全に遮断されている。
 
 ただ、ロランにとって恐ろしい空間ではなかった。暗闇にはいい具合に慣れているからだ。

 揺れは感じられるので、この馬車が移動していることはわかった。
 
「あなた、起きたんですの?」

 ロランは自分一人だけが乗せられていると思っていたがそうではなかった。
 
 女性特有の高い声がする。聞き覚えがあるような気がして首を傾げた。

「何か話してはどうですか?」
「す、すみません。お怪我はありませんか」

 口調からして彼女はおそらく貴族だ。奴らは貴族のご令嬢まで攫っていたのか。
 
 てっきりブルーナ侯爵家への恨みでもあるのかと踏んでいたが、外れたらしい。

「あるに決まっているでしょう。横柄おうへいな奴らには懲り懲りだわ。傷跡が残ったらどうしてくれるつもりなのかしら」
「あはは」

 こんな時もご令嬢は体の傷のことが気にかかるようだ。淑女にとって傷が残ることは大きな問題になりそうだが、状況が状況だ。普通の女性なら泣き言を漏らしていてもおかしくない。
 
 貴族らしく肝はすわっているというわけだ。

「へらへらしないでちょうだい。気に障るわ」
「申し訳ございません」
「まあ、いいけど。あなた名前は?」
「ロラン・ブスケーと申します」
「ふうん。普通な名前ね」

 彼女は何をしたいのだろうか。肝がすわっているというか、落ち着いている。
 
 まるで助けが来ることがわかっているかのような振る舞いだ。

「まあいいわ。そのうち助けが来るでしょうから」

 やはり、外に力を持った味方がいるのだろう。
 
 ロランは令嬢のことを心配していたが、心配すべきは自分の身であると思い始めた。彼女の味方はロランの味方であるとは限らない。
 
 黒服の怪しげな男たちを前にして、平民のロランまで助ける義務はないだろう。令嬢の身の安全を考えればその可能性が高い。

(し、死ぬかもしれない)

 先ほどはトニーを逃すことで頭がいっぱいで気がついていなかったが、これはかなり危険な状態だ。貴族の命よりも平民の命の方が軽いなんて、転生者のロランからしてみれば馬鹿げた話だが、それがこの世界の常識だ。

「しかし、この馬車居心地が悪いわね。どうかしているわ」
「お静かに」

 声の大きさを小さくすることもせず文句を言うものだからロランは冷や汗をかいている。
 
 死、死。ここまで命の危険を感じたのは、馬車に跳ねられたあの事故以来だ。

「おい、うるせえな黙れよ」

 案の定、令嬢の声を聞きつけた黒服の男が荷台のところまでやって来てしまった。

「あなたたちがわたくしに対して粗雑な扱いをする方がおかしいのよ」
「はっ! お嬢ちゃん、自分の立場わかってんのか? 命握られてんだぞ」
「......」

 男が荷台にやって来たことで外から光が入った。そして令嬢の顔を照らし出す。髪は乱れているがその顔立ちは変わらない。
 
 先日の建国祭でユーティスと一緒にいたリエト辺境伯令嬢だった。

 どおりで聞いたことがある気がしたわけだ。

「そんなの関係ないわよ。私には優秀な騎士がいるから、あなた達なんてすぐに一蹴されるわよ」
「それはあんたの騎士さまの話だろ? あんたは一人の力じゃ何もできないただのひ弱な女だ」
「このっ!」

 怒り任せに男を叩こうとするが、すぐに腕を掴まれてめられてしまう。

「ぐうっ!」

 鈍い音がした。男の腕は令嬢の何倍も太い。
 ロランは無我夢中で男の腕に飛びついた。
 
「止めろ!!」
「はあ? 離せよ!」
「離さない!」

 彼女はユーティスの大切な人だ。令嬢がこれ以上傷ついてしまえば、彼はどんなに自分を責めることだろうか。
 
 だったら、ロランが身代わりになるしかない。
 
 ユーティスはロランのことを忘れてしまっているかもしれないが、それで構わない。彼は親切で必要以上に責任を感じてしまうから。
 
 大切な人が大事にしている人を守りたかった。

「馬鹿力かよ、離せっ!」
「ゔっ」

 腕を掴んで離さないロランを男が殴った拍子にリエト辺境伯令嬢から手が離れた。
 
 ロランは抵抗しながらも必死で呼びかける。

「どうしてこんな馬鹿げたことをしている! こんなことをしても意味がないぞ!」
「うるせえよ、おっさん。お前には知ったこっちゃねえだろ」
「それにお前達だってこのままでいたらどうなるかわかったものじゃない」
「もう遅えよ!」
「遅くないかもしれないじゃないか。もし許されないと思うのなら、今すぐに馬鹿げたことはやめて、ここから立ち去るんだ!」
「うるせえ!」

 なぎ払うように男が腕を振った。しがみつくように抵抗していたロランの体が馬車の外に投げ出される。
 
 そのままごろごろと道を転がった。邪魔者はいなくなったと男は令嬢に危害を加えようと手を伸ばした。
 
「ご令嬢!」

 叫ぶしかない。無力だった。守るべき人間があそこにいるのに。
 
 ロランよりも若く、生意気な口調ではあったが、少女は大人に守られるべき存在なのだ。そこに貴族も平民もあるものではない。
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