【番外編更新予定】酔いどれおじさんは、若き騎士に求愛される

泉あけの

文字の大きさ
27 / 48
第2章 王都

25

しおりを挟む
『塞げ』

 詠唱魔法が飛んできた。ロラン達が乗せられていた馬車の前に土の壁が出来上がる。
 
 これは以前も見たユーティスの魔法だ。
 
 それを皮切りに次々と魔法騎士たちが現れた。今までどこにひそんでいたのだろうか。

「捕えろ!」

 指揮官の声が響き渡る。瞬く間に黒服の男達は捕縛されていった。
 
 その隙間からリエト辺境伯令嬢に真っ先に向かっていくユーティスの姿が見えた。

「お嬢さま、ご無事ですか!」
「ご無事じゃないわよ」
「助けに来るのが遅くなってしまい申し訳ありません」
「本当よ! 本当に怖かったんだからあ......!」

 助かったとわかり感極まった彼女はそのまま泣き始めた。その様子を見たユーティスは何の躊躇いもなく、抱きしめる。
 
 まるで物語の中のお姫さまと王子さまのようだった。普段は高飛車なお姫さまが王子さまだけには素顔を見せる。
 
 人々が好む話の完成だ。その完成にロランも一役かってでることができただろうか。

(できてると思いたいな)
 
 地面に転がったまま一部始終を見ていたロランは動こうと試みたが、あちこち痛むためかなわなかった。
 
 ルーカスに、君は本当に巻き込まれ体質なんだね、と言われたことを思い出した。
 
 確かにそうだ。

「どうしよう」
「......失礼します。お怪我はありませんか」

 どう見てもお怪我しかない。状況を見てわからないのかとむくれながら、目だけを動かした。
 
 ロランの横に立っている彼は尋ねた。
 
「あなたがブルーナ侯爵家の方ですか?」
「はい」
「私は王宮に所属している騎士でございます。ブルーナ侯爵より通報を受け馳せ参じた次第です」
「ああよかった。トニーは無事なんですね」
「はい」

 怪我の手当てをするので、辛いでしょうが歩いてください。両脇を持ち上げられるような形で上に引っ張り上げられる。
 
 幸い、歩けないほどの怪我は負っていなかったので歩き出すことができた。

「平民を助けるためにわざわざ王宮に連絡を入れるとは......。上流貴族の考えは理解し難いな」

 わざとロランに聞こえるか聞こえないかの声で騎士が言った。
 
 心がひんやりすると共に、これが正常な反応であることを思い出す。
 
 ロランは何も聞いていないふりをして、そのまま歩みを進めた。

 黒服の男達に拉致された経緯や荷台でのやり取りなどを根掘り葉掘り聞かれた後、王宮の騎士達にブルーナ侯爵家まで送ってもらった。門の付近ではトニーとレオナルドが待っていてくれた。

「ロランさん、無事でよかった! もう、ロランさんに何かあったら悔やんでも悔やみきれないっすよ」
「ごめんな、トニー。君が助けを呼んでくれたおかげで、救助されることげできたよ。ありがとう」
「うう、ロランさんはこんな時も大人なんですねえ」

 泣きながらロランに抱きつきそうになっているトニーを隣で見ていたレオナルドが静止した。

「お待ちなさい。ロランさんの怪我の具合が見てわからないんですか。こんな傷だらけの体に抱きついたら、悪化してしまうかもしれないでしょう。きちんと考えなさい」
「すびばせん」

 コントのようなやり取りを見てロランは不覚にも笑った。助骨のあたりがぎりっと痛んだが、気にしなかった。

「ロランさんも行きましょう。医師を呼んであります。......本当に酷い怪我だ」

 レオナルドはロランを背負うために背中を指差した。立っていることがやっとだったため、好意に甘えさせてもらう。

 トニーはレオナルドの補助をしながら、医師の元まで向かった。

 その後診察の結果、医師は呆れた。

「酷い怪我だ。むしろ今あなたとこうして話せていることが奇跡ですよ。意識を失っていてもおかしくないです」
「はは......」

 頬を冷やしながらロランは医師の話を聞いた。
 
 乾いた声しか出てきていな理由は身体中の傷が傷み始めているからだ。荷台から落とされた際に生じた出血や打撲痕。肋骨に入ったひびが影響して息をするたびに痛んだ。

 保護されてからブルーナ侯爵家に帰ってくるまでは、ロランが興奮状態にあったため、脳が痛みを認識しなかったのだろうというのが医師の見解だ。

「数日は安静にしておいてください。傷やヒビの入った骨は固定するようにしてください。どうか無理はなさらないように」
「わかりました」

 運が良いことに今後生活の妨げになりそうな怪我はなかったものの、安静は必須で休みをもらいゆっくりしていなさいと指示された。

「前、馬車に轢かれて死にかけたのがよかったのかな」
「よくないです」
「でも、その経験があったから今回そこまで酷くならずに済んだのではないかと思って。経験は人を強くすると言いますから」
「そんなことはないので、思い違いをしないでください。傷を得るごとに強くなっていくのは、王宮の騎士団長クラスの人間だけですよ」

 診察が終わった後、ぽつりとつぶやくとレオナルドからしっかりと否定された。

「視力を回復させるために医療実験に参加したことをお忘れで?」
「覚えていますよ」

 普段は穏やかなレオナルドだが、さすが貴族だ。圧の出し方が平民のとは全く違う。
 
 これ以上変なことを言ってしまわないようにロランは口をつぐんだ。

「ロランさん、これ痛み止めです。温かいお湯と一緒に飲んでくださいね」
「ありがとうトニー」

 厨房から戻ってきたトニーから差し出されたカップを受け取り、薬と共に飲み込んだ。喉から体内にじんわりと温かさが広がっていく。

 ロランの長い1日がようやく終わったのだった。
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない

天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。 「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」 ――新王から事実上の追放を受けたガイ。 副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。 ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。 その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。 兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。 エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに―― 筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。 ※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

断罪回避のために親友と仮婚約したはずが、想像以上に執着されていた。

鷲井戸リミカ
BL
ある日アーサーは、自分がネット小説の世界に転生していることに気が付いた。前世の記憶によれば親友のフェルディナンドは、悪役令息という役割らしい。最終的に婚約者から婚約破棄され、断罪後は国外追放されてしまうのだとか。 大事な親友が不幸になるのを見過ごすわけにはいかない。とにかく物語の主人公たちから距離をとらせようと、アーサーはフェルディナンドを自分の婚約者にしてしまった。 とりあえず仮婚約という形にしておいて、学園を卒業したら婚約を解消してしまえばいい。そう考えていたはずがアーサーのとある発言をきっかけに、フェルディナンドの執着が明らかになり……。 ハッピーエンドです。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

処理中です...