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第2章 王都
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へろへろの状態でロランは食堂へ向かい、レオナルドはライオネルの執務室に用事があるらしいので採寸を行った部屋で別れた。
夕食の時間はとうに過ぎている。何か夜食的なものを作ることはできないかと、やってきたわけだ。
するとロランは同志を見つけた。
「そこにいるのはトニーか?」
「あっ! ロランさーん!」
「うお」
トニーは半泣きになりながらロランに抱きついた。
床に尻餅をつきそうになるのをなんとかこらえた。
「どうした。今日は侯爵さまと魔法の練習だろう?」
「それがキツ過ぎて、俺死んじゃいそうです」
ライオネルに指示されたのは、ロランがレオナルドと共に王宮の地下牢に収容されている男達に会いに行くこと。トニーは魔法を使いこなせるようになるまで練習することだった。
『え、トニー魔法が使えるのか?』
『あれ、言ってませんでしたっけ? 実はそうなんですよ。侯爵さまが俺を使用人として雇ってくれたのもそれが理由なんです!』
平民にも関わらず侯爵家で使用人をしていることから、何か秀でたものを持っているのではないかと思っていたが、彼はかなりの逸材だったようだ。
魔法の才能がある者は幼少期から、魔法陣のようなものを直感的に書くことができるらしい。その仕組みはわかっていないが、体内にある魔力を把握する力が優れているからだという定説がある。
さすがはブルーナ侯爵家。優秀な人材を見つけ出し、懐に入れて育てる。実に貴族らしいやり方だ。
「魔法を使えるように訓練しているんだろう? それだけ侯爵さまも期待してくださっているんだ。めげずに行こう」
「でもロランさんだって、採寸で疲れ果ててたって、さっきすれ違いざまにデューラ卿から聞きましたよ」
「あの方は余計なことを言って......」
「まあ、そんなことよりお腹が減って死にそうです」
トニーは食堂の椅子に座り込んで、ぐうとお腹を鳴らした。
魔力は体の一部だ。使ってしまえば当然減る。特に魔法を使う者は魔力の消費が常人よりも激しい。
気が滅入ってしまいそうになることは必然的だ。
「料理道具を借りて何か作るよ。リクエストはある?」
「あったかいものが食べたいです。シチューとかカレーとか」
「じゃあシチューだな。美味しいから」
「ロランさんの大好物ですもんね」
疲れた時はお腹を満たそう。そして次なる試練に備えるのだ。
......
「デューラ卿、緊張してきました」
「大丈夫ですよ。陛下に会うわけでもないんですから。リラックスです。変に緊張したら、十分な利を得ることはできません」
時が過ぎるのは早いもので、ロランとレオナルドが王宮に出向く日がやってきた。
服を用意する以外にも簡単な礼儀作法をこれでもかというほど詰め込まれた。だが、緊張しているロランが練習の成果を発揮できているかは定かではない。
「デューラ卿、お勤めご苦労さまです!」
「ええ、ご苦労さまです」
ライオネルの付き人として、度々王宮を訪れているレオナルドは知り合いがいるようだ。一緒に歩いていると、何人かに一人は足を止めて挨拶をする。
ロランも失礼にならないように会釈をした。
「ブルーナ家のレオナルド・デューラです。囚人たちの面会にきました。入ってもよろしいでしょうか」
「はっ! デューラ卿、事前に話は伺っております。どうぞお入りください。そちらは付き人の使用人でしょうか」
「そうです。面会の申請をする際に、彼の名前も記載してあります」
「ですが、この者は平民ですよね。デューラ卿のみの面会なら可能ですが、一緒にとなるといかがなものかと」
受け答えをしているのは地下牢の門番だ。彼らは下級貴族出身の者が多く、ブルーナ侯爵の腹心であるレオナルドに強気な態度を取ることはしないだろう。
つまりはそういうことだ。
(上の人間で平民嫌いな奴がいるらしい)
以前、荷台から放り出されたロランを傍観し、平民を助けるなんて気が知れないとぼやいた騎士がいた。それは珍しい反応でもなんでもない。むしろ普通の反応だ。
それが正しいと生きてきた人たちの常識なのだ。
「それはブルーナ侯爵家に意を申し立てると受け取ってよろしいですね?」
「い、いえ。そのようなことは決して」
「では、あなたの上司にブルーナ侯爵家の人間を侮辱されたと申告してもいいんですよ」
「し、失礼しました。どうぞお入りください」
立場の弱い彼は簡単に切り捨てられ、罪を被せられる。王宮に勤めている以上それがわからないほど馬鹿ではない。
「初めからそうしておけばよかったものを」
石造りの地下牢にレオナルドの声が響く。コツコツと靴の音がするとともに、ロランの緊張は最高潮にまで上った。
「ふう」
「緊張しないでください......は無理がありますね」
「やるしかないのはわかっているんですが。こういったことには慣れていなくて」
「慣れている方がおかしいのですよ。私はこの先をご一緒することはできませんが、看守が一人着いていてくれますので、そこはご安心を」
相手を刺激しないためにも、面会室へはロラン一人で行くと話し合いで決まった。
扉の前まで行くと、レオナルドから扉を開けるための鍵を渡される。
「最善を尽くします」
レオナルドから受け取った鍵を差し込む。この先が、以前ロランとリエト辺境伯令嬢を襲った集団のリーダーとの面会の場だ。
夕食の時間はとうに過ぎている。何か夜食的なものを作ることはできないかと、やってきたわけだ。
するとロランは同志を見つけた。
「そこにいるのはトニーか?」
「あっ! ロランさーん!」
「うお」
トニーは半泣きになりながらロランに抱きついた。
床に尻餅をつきそうになるのをなんとかこらえた。
「どうした。今日は侯爵さまと魔法の練習だろう?」
「それがキツ過ぎて、俺死んじゃいそうです」
ライオネルに指示されたのは、ロランがレオナルドと共に王宮の地下牢に収容されている男達に会いに行くこと。トニーは魔法を使いこなせるようになるまで練習することだった。
『え、トニー魔法が使えるのか?』
『あれ、言ってませんでしたっけ? 実はそうなんですよ。侯爵さまが俺を使用人として雇ってくれたのもそれが理由なんです!』
平民にも関わらず侯爵家で使用人をしていることから、何か秀でたものを持っているのではないかと思っていたが、彼はかなりの逸材だったようだ。
魔法の才能がある者は幼少期から、魔法陣のようなものを直感的に書くことができるらしい。その仕組みはわかっていないが、体内にある魔力を把握する力が優れているからだという定説がある。
さすがはブルーナ侯爵家。優秀な人材を見つけ出し、懐に入れて育てる。実に貴族らしいやり方だ。
「魔法を使えるように訓練しているんだろう? それだけ侯爵さまも期待してくださっているんだ。めげずに行こう」
「でもロランさんだって、採寸で疲れ果ててたって、さっきすれ違いざまにデューラ卿から聞きましたよ」
「あの方は余計なことを言って......」
「まあ、そんなことよりお腹が減って死にそうです」
トニーは食堂の椅子に座り込んで、ぐうとお腹を鳴らした。
魔力は体の一部だ。使ってしまえば当然減る。特に魔法を使う者は魔力の消費が常人よりも激しい。
気が滅入ってしまいそうになることは必然的だ。
「料理道具を借りて何か作るよ。リクエストはある?」
「あったかいものが食べたいです。シチューとかカレーとか」
「じゃあシチューだな。美味しいから」
「ロランさんの大好物ですもんね」
疲れた時はお腹を満たそう。そして次なる試練に備えるのだ。
......
「デューラ卿、緊張してきました」
「大丈夫ですよ。陛下に会うわけでもないんですから。リラックスです。変に緊張したら、十分な利を得ることはできません」
時が過ぎるのは早いもので、ロランとレオナルドが王宮に出向く日がやってきた。
服を用意する以外にも簡単な礼儀作法をこれでもかというほど詰め込まれた。だが、緊張しているロランが練習の成果を発揮できているかは定かではない。
「デューラ卿、お勤めご苦労さまです!」
「ええ、ご苦労さまです」
ライオネルの付き人として、度々王宮を訪れているレオナルドは知り合いがいるようだ。一緒に歩いていると、何人かに一人は足を止めて挨拶をする。
ロランも失礼にならないように会釈をした。
「ブルーナ家のレオナルド・デューラです。囚人たちの面会にきました。入ってもよろしいでしょうか」
「はっ! デューラ卿、事前に話は伺っております。どうぞお入りください。そちらは付き人の使用人でしょうか」
「そうです。面会の申請をする際に、彼の名前も記載してあります」
「ですが、この者は平民ですよね。デューラ卿のみの面会なら可能ですが、一緒にとなるといかがなものかと」
受け答えをしているのは地下牢の門番だ。彼らは下級貴族出身の者が多く、ブルーナ侯爵の腹心であるレオナルドに強気な態度を取ることはしないだろう。
つまりはそういうことだ。
(上の人間で平民嫌いな奴がいるらしい)
以前、荷台から放り出されたロランを傍観し、平民を助けるなんて気が知れないとぼやいた騎士がいた。それは珍しい反応でもなんでもない。むしろ普通の反応だ。
それが正しいと生きてきた人たちの常識なのだ。
「それはブルーナ侯爵家に意を申し立てると受け取ってよろしいですね?」
「い、いえ。そのようなことは決して」
「では、あなたの上司にブルーナ侯爵家の人間を侮辱されたと申告してもいいんですよ」
「し、失礼しました。どうぞお入りください」
立場の弱い彼は簡単に切り捨てられ、罪を被せられる。王宮に勤めている以上それがわからないほど馬鹿ではない。
「初めからそうしておけばよかったものを」
石造りの地下牢にレオナルドの声が響く。コツコツと靴の音がするとともに、ロランの緊張は最高潮にまで上った。
「ふう」
「緊張しないでください......は無理がありますね」
「やるしかないのはわかっているんですが。こういったことには慣れていなくて」
「慣れている方がおかしいのですよ。私はこの先をご一緒することはできませんが、看守が一人着いていてくれますので、そこはご安心を」
相手を刺激しないためにも、面会室へはロラン一人で行くと話し合いで決まった。
扉の前まで行くと、レオナルドから扉を開けるための鍵を渡される。
「最善を尽くします」
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