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第3章 再び、辺境領へ
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リエト辺境伯令嬢はその愛らしい見た目から、黒曜の姫と呼ばれている。
美しい黒髪と自信ありげに釣り上がった目元は貴族の風格を思わせる。だが、彼女はそれだけだ。
それ以外はただの年頃の少女にすぎない。大きな器も、民を慮る心も持ち合わせていない。
平民の顔など覚えても意味がないと思っているほどだ。
「ユーティスは見目が麗しいでしょう? だから、そばに置いているだけ。所詮は平民だもの」
「よくわかっているな、愛しい娘よ。そろそろ時間だ。さ、陛下にご挨拶に行こう」
「ええ、お父さま」
2人だけの空気感を纏いながら親子は貴族たちの歩いて行った。
しばらくして、会場に流れていた音楽の雰囲気が変化した。
「システリア王国国王陛下及び皇后陛下、王太子殿下のお成りです!」
紋章官の宣言と共に、楽団がより盛大に音楽を奏で始める。
ライオネルは貴族たちと会話を止め、舞踏会会場へやってきた国王一家に拍手を送った。
「皆の者、今年もご苦労であった。我がシステリア王国は隣国レパスとの戦いに勝利し、開国を果たした。それは王家の功績であるとともに、諸君貴族らの功績でもある。今宵は建国祭が無事閉幕したことを寿ぐとしよう!」
国王が言葉の述べたところで本格的に舞踏会が始まった。
たくさんの貴族たちが国王一家の周りに集まっている。国王や皇后の周りにはもちろん、あと少しでデビュタントを控えている王太子の元にもだ。
ライオネルは眉をひそめた。
(あのような小さな子どもにまで、気持ちの悪い視線を向けるのか)
それが社交界であり、政治の世界の理だ。十分に理解している。
だが王太子の様子が弟の幼少期と重なり、胸が痛くなった。
幼い頃より大人たちに囲まれ、政治の世界に放り込まれている彼はこの状況をどう感じているのだろう。
「きゃあ!」
どこからか悲鳴が上がった。会場がざわめき、悲鳴が上がった場所へ視線を向ける。
渦中にいたのはリエト辺境伯令嬢だった。
「王太子殿下、こんなのあんまりですわ!」
「ご令嬢、お手をどうぞ」
「触らないでくださいまし! わたくしを振り払ったその手で!」
「そんな」
床に倒れ、しくしくと泣き出す令嬢とそれを見て狼狽えている若き王太子。
おそらく王太子が令嬢の手をなんらかの事情で振り払ってしまったのだろう。だが、この場面だけを見ている者はそうは受け取らない。
辺境伯令嬢が王太子に危害を加えられたと見るに違いない。辺境伯は王国の貴族の中でも公爵と並ぶほどの権力を持つ。そんな家の令嬢を国の王太子が蔑ろにしたとなればどんな反感を買うかわからない。
「私はそんなつもりでしたわけではありません。ただ、ご令嬢が私の腕を掴もうとなさったので、驚いてしまったのです」
「いいえ、確かに王太子殿下はわたくしを振り払いましたわ! 酷いです。わたくしがお嫌いだからそんなことをなさったんでしょう?」
「誤解です、ご令嬢」
王太子はどんどん顔を青くし、同情の眼差しが令嬢に注がれた。
「何事ですか」
「お父さま!」
騒ぎを聞きつけてやってきたのはリエト辺境伯だった。
ちらりと様子を確認して事の経緯を把握した辺境伯は、わざとらしくため息をついた。
「娘よ、なぜこんな騒ぎを起こしたのかな」
「お父さま、それが......。言えないわ」
「どうしてだい?」
「王太子殿下の名誉に関わるもの。わたくしが我慢をすればおさまる話なのです」
令嬢は何かを堪えるようにして口を噤んだ。
その様子を見ていた王太子は説明をしようとした。
「辺境伯、これは」
「王太子殿下はお控えください。これは私と娘の話です」
しかし、辺境伯に拒まれてしまい、すごすごと後ろに下がる。王太子としての態度として相応しいとは言えないが、相手は国を代表する貴族である。
彼の本性がどれだけ腐り切ったものであろうともそれは事実だ。
まだ幼い王太子が正面から太刀打ちできるほど、弱い相手ではない。
「ほら、お立ちなさい。こんなところでみっともない」
「申し訳ありません。お父さま」
まるで小さな劇場で行われている寸劇のようだ。
だがこれでは王太子の印象が下がるばかりである。
「何かあったのかな、辺境伯」
シナリオ通りの展開と言うべきか、このタイミングでシステリア王国国王が声をかけた。
「陛下。いいえ。うちの娘が王太子殿下とその......何やらあったようでして」
「王太子殿下は悪くないのです! わたくしが手を払われたと勘違いをして、勝手に転んでしまったのですわ」
「それは本当か王太子よ」
「ち、父上。ええと、その」
王太子は明らかに正直に起こった内容を話すべきなのか、辺境伯家に泥を塗らないために真実を隠すべきなのか、困っていた。
どちらにせよ、王太子の評価が下がることは避けられない。
(本当にとんだ茶番だ)
臣下が主君を下げる。そんな馬鹿な行動をする人間がいるとは思っていなかった。
一体どこまで彼らは世界が自分たちを中心に回っていると思っているのだろう。
ライオネルは今から自分がしようとしていることを思い出して、首を横に振った。
今は余計なことを考えている時間ではない。
「お言葉ですが、よろしいでしょうか」
ライオネルが口を挟むと、リエト辺境伯はあからさまに嫌そうな顔をした。
美しい黒髪と自信ありげに釣り上がった目元は貴族の風格を思わせる。だが、彼女はそれだけだ。
それ以外はただの年頃の少女にすぎない。大きな器も、民を慮る心も持ち合わせていない。
平民の顔など覚えても意味がないと思っているほどだ。
「ユーティスは見目が麗しいでしょう? だから、そばに置いているだけ。所詮は平民だもの」
「よくわかっているな、愛しい娘よ。そろそろ時間だ。さ、陛下にご挨拶に行こう」
「ええ、お父さま」
2人だけの空気感を纏いながら親子は貴族たちの歩いて行った。
しばらくして、会場に流れていた音楽の雰囲気が変化した。
「システリア王国国王陛下及び皇后陛下、王太子殿下のお成りです!」
紋章官の宣言と共に、楽団がより盛大に音楽を奏で始める。
ライオネルは貴族たちと会話を止め、舞踏会会場へやってきた国王一家に拍手を送った。
「皆の者、今年もご苦労であった。我がシステリア王国は隣国レパスとの戦いに勝利し、開国を果たした。それは王家の功績であるとともに、諸君貴族らの功績でもある。今宵は建国祭が無事閉幕したことを寿ぐとしよう!」
国王が言葉の述べたところで本格的に舞踏会が始まった。
たくさんの貴族たちが国王一家の周りに集まっている。国王や皇后の周りにはもちろん、あと少しでデビュタントを控えている王太子の元にもだ。
ライオネルは眉をひそめた。
(あのような小さな子どもにまで、気持ちの悪い視線を向けるのか)
それが社交界であり、政治の世界の理だ。十分に理解している。
だが王太子の様子が弟の幼少期と重なり、胸が痛くなった。
幼い頃より大人たちに囲まれ、政治の世界に放り込まれている彼はこの状況をどう感じているのだろう。
「きゃあ!」
どこからか悲鳴が上がった。会場がざわめき、悲鳴が上がった場所へ視線を向ける。
渦中にいたのはリエト辺境伯令嬢だった。
「王太子殿下、こんなのあんまりですわ!」
「ご令嬢、お手をどうぞ」
「触らないでくださいまし! わたくしを振り払ったその手で!」
「そんな」
床に倒れ、しくしくと泣き出す令嬢とそれを見て狼狽えている若き王太子。
おそらく王太子が令嬢の手をなんらかの事情で振り払ってしまったのだろう。だが、この場面だけを見ている者はそうは受け取らない。
辺境伯令嬢が王太子に危害を加えられたと見るに違いない。辺境伯は王国の貴族の中でも公爵と並ぶほどの権力を持つ。そんな家の令嬢を国の王太子が蔑ろにしたとなればどんな反感を買うかわからない。
「私はそんなつもりでしたわけではありません。ただ、ご令嬢が私の腕を掴もうとなさったので、驚いてしまったのです」
「いいえ、確かに王太子殿下はわたくしを振り払いましたわ! 酷いです。わたくしがお嫌いだからそんなことをなさったんでしょう?」
「誤解です、ご令嬢」
王太子はどんどん顔を青くし、同情の眼差しが令嬢に注がれた。
「何事ですか」
「お父さま!」
騒ぎを聞きつけてやってきたのはリエト辺境伯だった。
ちらりと様子を確認して事の経緯を把握した辺境伯は、わざとらしくため息をついた。
「娘よ、なぜこんな騒ぎを起こしたのかな」
「お父さま、それが......。言えないわ」
「どうしてだい?」
「王太子殿下の名誉に関わるもの。わたくしが我慢をすればおさまる話なのです」
令嬢は何かを堪えるようにして口を噤んだ。
その様子を見ていた王太子は説明をしようとした。
「辺境伯、これは」
「王太子殿下はお控えください。これは私と娘の話です」
しかし、辺境伯に拒まれてしまい、すごすごと後ろに下がる。王太子としての態度として相応しいとは言えないが、相手は国を代表する貴族である。
彼の本性がどれだけ腐り切ったものであろうともそれは事実だ。
まだ幼い王太子が正面から太刀打ちできるほど、弱い相手ではない。
「ほら、お立ちなさい。こんなところでみっともない」
「申し訳ありません。お父さま」
まるで小さな劇場で行われている寸劇のようだ。
だがこれでは王太子の印象が下がるばかりである。
「何かあったのかな、辺境伯」
シナリオ通りの展開と言うべきか、このタイミングでシステリア王国国王が声をかけた。
「陛下。いいえ。うちの娘が王太子殿下とその......何やらあったようでして」
「王太子殿下は悪くないのです! わたくしが手を払われたと勘違いをして、勝手に転んでしまったのですわ」
「それは本当か王太子よ」
「ち、父上。ええと、その」
王太子は明らかに正直に起こった内容を話すべきなのか、辺境伯家に泥を塗らないために真実を隠すべきなのか、困っていた。
どちらにせよ、王太子の評価が下がることは避けられない。
(本当にとんだ茶番だ)
臣下が主君を下げる。そんな馬鹿な行動をする人間がいるとは思っていなかった。
一体どこまで彼らは世界が自分たちを中心に回っていると思っているのだろう。
ライオネルは今から自分がしようとしていることを思い出して、首を横に振った。
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ライオネルが口を挟むと、リエト辺境伯はあからさまに嫌そうな顔をした。
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