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6,お誘い
しおりを挟む八月に入り夏休みなった。俺はやることもなく退屈していた。
「ようこそ、シンガーミクス養成学校へ」
教室に入ると入学の手続きをしてきた。俺、本当に入ってしまったんだな。学校。いまだに実感がなかった。あの時は熱くなって勢いで言ってしまったとはいえ失敗したのかな。
「いまさら考えても仕方ないよね」
この前に行けなかった図書館に行こうと思って家を出た。電車に乗って図書館に向かう。
「あれ」
図書館で本を選んでいたら見たことある女の子が、小説を読んでいるのが見えた。
「図書館さんかな。あれ」
図書館って名前で言っているくらいだし、本が好きなのだろうか。だとしたら気が合いそうだな。話しかけてみよう。そう思って近づくが、思いとどまる。彼女とは一度しかあったことがない。いきなりに話しかけられても困るに違いない。人違いの可能性もあるしな。幸いあちらは本に夢中でこちらに気づいていなかったし、話しかけるのをやめてそっとその場を離れた。興味のある本を借りて帰り際で近くに養成学校があるのを思い出した。そういえば今日は平日だけど誰かいるのかな。そう思ってふらふらっと目の前を通ってみる。下からビルを見上げると、養成学校が借りている二階は電気がついているのが分かった。声成さんが何か作業をしているのだろうか。先週は手続きをしてすぐに帰されたし、少し話もしたいしな。俺はそう思ってノックをして扉を開けた。しかし、そこに居たのは校長ではなくユユカさんと表狐さんだけだった。
「よう。アッキー君。どうしたんだ。今日は講習は休みの日だぞ」
気さくに表狐さんが話しかけてくる。講習が休みならこの二人は何をしているんだろうか。
「ええ、毎週土曜日ですもんね。じゃあ、お二人は何をしているんですか」
「俺たちは、まあ、自主練習かな。まあ勝手に俺がユユカさんをつきあわせているだけなんだが」
「いや、私も歌は上手くなりたいし、いいのよ」
「お二人はいつも自主練習しているんですか」
「まあ、時間ある時はLAMUNEでよびかけてね。集まっているのよ。いつもはラーメン君と図書館さんもいるんだけど。最近二人とも何か忙しいみたいで全然来ないのよねあっ」
そうユユカさんは言った。
「そういえば、もうアッキー君もメンバーだもんね。LAMUNE交換しよ。グループチャットにいれてあげるよ」
「ああ、ありがとうございます」
ユユカさんに言われるまま、俺は携帯を取り出して、連絡先をLAMUNEでユユカさんと交換してグループLAMUNEに入れてもらった。
「暇なときは連絡して。おねーさんが暇つぶしに付き合ってあげる」
冗談じみたことをユユカさんは言って笑った。
「ありがとうございます。ところで、練習見て行っていいですか」
俺が聞くと表狐さんは嬉しそうにうきうきと笑っている。
「お、勉強熱心だね。もちろん良いに決まっているよ。じゃあ、見ていきなよ」
言われて二人の練習を見ていた。表狐さんも上手いと思うが相変わらずユユカさんの上手さは桁違いだった。
「うん。だんだん表孤君も上手くなっているね。この前注意したことをちゃんと意識して歌えるようになっているんじゃない」
「ありがとうございます。でも、相変わらずユユカさんは凄いですね。まるで追いつける気がしませんよ」
「あはは、そういうのはね。出来る出来ないんじゃないのよ。絶対超してやるって思わないと」
「え、でも。ユユカさんみたいな才能ある人を超すなんて難しいですよ」
「そんな事ないよ。私だって才能があったわけじゃないし。それとも何。表孤君は私が努力してないとでも言いたいの?」
「い、いえ。そういうわけでは」
「だったらつべこべ言わずにやる」
「は、はい!」
ユユカさんに言いくるめられて素直に返事をする表孤さん。表狐さんもユユカさんんには弱いみたいだな。そのようなやり取りを聞いてたが、唐突にユユカさんが思いだしたように言った。
「あ、そうだ。アッキー君。アッキー君の実力を見てみたいな」
「ああ、俺もそれは気になるな」
そういうと二人は期待のまなざしでこちらを見ていた。まあ、別に歌うの嫌いじゃないしいいや。
「ええ、いいですよ。何の歌を歌えばいいですか」
「この前見ていたみたいに自分の自信のある曲をカラオケ音源に持ってきて歌っていいよ」
言われて、俺は自分の得意な曲の一つでよくカラオケで歌うロメオとアンルシアを歌った。どう歌うか分からなかったからカラオケで歌うように歌う。歌った後に、恐る恐る聞く。
「ど、どうでした。俺の歌は」
「まあ、悪くはないんじゃない。普通の人よりは上手だとは思ったけど、逆に言えばその程度ね。アッキー君は逆に歌に感情がこもらなすぎね。歌への情熱が伝わってこないわ。あと、こぶしが効いて無い。そこを意識して歌うといいと思うわ」
さすが、本気でプロを目指している人の意見だと思う。ユユカさんからの評価は手厳しい。
「え、えーと表孤さんはどう思いました」
表孤さんはどう思っているのか聞こうと思ったが、なぜか表孤さんは聞いてもボーっとしている様子で何も答えなかった。一体どうしたんだろう。
「表狐さん?」
俺がもう一度問いかけると、表孤さんは我に返りこちらを見て言う。
「ああ、ごめんごめん。うん。まあ悪くはないんじゃない。まあ、俺には遠く及ばないけどな」
そう言って笑った。なぜさっき少しボーっとしていたのだろうか。まあ、気にしないほうがいいのかな。練習が終わって電車の帰り道に俺は思ったことがある。久しぶりに歌ったがやっぱり楽しいな。歌うのはやっぱり好きだ。改めて分かった気がする。駅で降りてご機嫌に家に帰ると家の前で麻耶が待ちぼうけしていた。
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