君の行く末

常森 楽

文字の大きさ
13 / 20

* 13

しおりを挟む
いちのお母さんは、いつも仕事をキッチリやってて、本当に尊敬するよ。強いお母さんって、羨ましい」

お姉さんと食事をするようになってから、彼女はしきりにそう言った。

父と離婚してから、女手ひとつで育ててくれたことには感謝してる。
でも、私には彼女の言う" 尊敬 "がわからなかった。
ただ相づちをうつことしかできない。

お姉さんの話を聞くと、職場にパワハラ・セクハラをする上司がいるらしく、母はその人に対抗できる唯一の人らしい。
昔から強気な母らしいと言えば、母らしい。
お姉さんはいつも母に守られていると言った。

そして彼女いわく、私は母に似ているそうだ。
自分の考えをちゃんと相手に伝えられる私は、強いのだと言う。

ある夜、お姉さんから着信があった。

「助けて」

電話の向こうで息を切らしながら涙声になってるお姉さんに動揺した。

私は一瞬母の方を見て、下唇を噛んで目をそらした。

「すぐ行くよ」

電話を切り、母に外出することを告げる。

「帰って来なくていいよ」
そんな言葉を背に、私は駆け出した。


部屋に行くと、お姉さんは目を腫らして ボサボサになった髪を整えながら 出迎えてくれた。

「ごめん、急に呼び出して」
「平気だよ」

ドアが閉まると同時に、お姉さんは倒れるように私にもたれた。

真っ暗で静かな部屋。
次第に時計の針の音が聞こえるようになって、お姉さんが嗚咽を漏らす。

私は赤子をあやすように、彼女の背中をトントンと優しく叩いた。

彼女は声を出して泣き始め、すがりつくように 私を強い力で抱きしめる。

「大丈夫、大丈夫。もう、大丈夫だよ」

ゆっくりと、彼女に響くように 言い聞かせる。

「夜が、怖いの」
肩を震わせながら、小さく呟く。
「怖いよ」

しばらく泣いて落ち着くと、疲れた彼女はベッドに横たわった。
私はそばに座って、彼女のやわらかい髪を撫でた。

「たくさん泣いたね」
私が笑うと、彼女は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんね、私……大人なのに」
「いいんだよ。頼ってくれて嬉しいから」
「でも」
「こんな時にアレだけど……泣いてる姿も、かわいいなって思ったし」
ニシシと笑うと、彼女も笑った。

「ひどいよ、こっちは真剣なのに」
「私も真剣だよ」
冗談めかして言ったけど、本当のことしか言ってなかった。

彼女は枕に顔を埋めて ゴシゴシと擦ったあと、体の中の空気を全部入れ替える勢いで 顔を上げて 息を吸った。
ゆっくりと吐いていき、寂しげな眼差しを私に向けた。

「私、今までほとんど言ったことがなかったんだけど……父親から暴行されてたの」
「暴行?」
「乱暴……レイプだよ」
ふぅっと長いため息をつく。

「母親は、見てみぬフリ。助けて欲しかったんだけど……父親の言いなりだったから、無理だったんだろうな」

だから、私の母のような強い人に憧れる。

「最近、例の あの上司からのセクハラが酷くてさ、思い出すようになっちゃったんだよね」

静かに涙が流れていく。
私がそれを指で拭うと、彼女は小さく笑みを浮かべた。

「知っての通り、私 あんまり友達もいないし……10歳も年下のいちに頼るなんて、情けないけど」
他に頼れる人がいなくて、と呟く彼女の手が震える。

初夏の暑さなんて露知らず、凍える手をあたためるように 彼女は両手を擦り合わせた。

私はずっと知っていた。
彼女の左手に、いくつもの傷があることを。

そっと左手をとって、私はその傷に口付けた。

彼女は心底驚いたように大きく目を見開いて、また涙を流した。

「ずっと、頑張ってきたんだね」

自分に出来る限りの優しい笑みを作った。
彼女は顔を歪めて、子供のようにわんわんと泣き始める。

叫ぶように、全てを吐き出すように、彼女は一際大きな声で泣いた。

しゃっくりをしながら落ち着きを取り戻したのは、空が明るくなる頃だった。

幸いにも、翌日は土曜日だったから 心置きなくオールできた。

彼女が眠りにつくまで見守って、彼女の寝息が聞こえ始めると 私も睡魔に襲われた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌
恋愛
主人公・翠には気になるヒトがいた。行きつけのバーでたまに見かけるふくよかで妖艶な美女だ。 毎回別の男性と同伴している彼女だったが、その日はなぜか女性である翠に話しかけてきた。 紅と名乗った彼女は男性より女性が好きらしく、独り寝が嫌いだと言い、翠にワンナイトの誘いをかける。 根負けした翠は紅の誘いに応じたが、暑い盛りと自宅のエアコンの故障が重なってしまっていた事もあり、翠はそれ以降も紅の家に頻繁に涼みに行くようになる。 しかし、妙な事に翠は紅の家にいるときにだけ耐え難い睡魔に襲われる。 おまけに、ほとんど気絶と言って言い眠りから目覚めると、首筋には身に覚えのないキスマークのような傷が付いている。 犯人候補は一人しかいない。 問い詰められた紅はあっさり容疑を認めるが、その行動の背景には翠も予想だにしなかった事情があって……!? 途中まで恋と同時に謎が展開しますが、メインはあくまで恋愛です。

最初の味見は、いつも君に

kokubo
恋愛
「……最初の味見、してくれる?」 放課後、秘密の喫茶店で始まる。お菓子職人を目指す彼女と、常連の彼女。甘い練習は、恋に変わっていく——GL成長物語。

処理中です...