君の行く末

常森 楽

文字の大きさ
14 / 20

* 14

しおりを挟む
いち、おはよう」

彼女の顔が目の前にあって、目覚めて早々 心臓が高鳴る。

長い黒髪が私に垂れ下がり、太陽の光が髪の隙間から射し込む光景は、美しい絵を見ているみたいだった。

「おはよ」
動揺しながらも返すと、彼女は ふふっと笑った。

「泣きすぎて目が腫れちゃったよ~」
お姉さんは髪を払いながら起き上がり「朝ごはん食べる?」と微笑んだ。

「とは言っても、もうお昼なんだけどね」
冷蔵庫の中を漁りながら、彼女は 何を作ろうか考える。

玉ねぎのみじん切りを手伝って、目から涙をこぼす私を、ケラケラと笑う。
夜に泣き喚いた彼女なんて、まるで幻だったかのようにも思える笑顔だった。

「ありがとね」

ケチャップでオムライスにいたずら書きされて、仕返しにおっぱいを描いてやろうと奮闘してると、彼女は優しい笑みを浮かべてそう言った。

チラリと私の手元を見て、目を伏せながら笑う彼女は、綺麗だった。

「普通、レイプされた話をした相手のオムライスにおっぱい描く?」
彼女はオムライスを取り上げて、ガツガツとスプーンで崩していく。

「あ、ごめん」
我ながら小学生男子みたいなことをしてしまった、まったく気遣えてなかった、恥ずかしい……と反省した瞬間、彼女はお腹を抱えて笑った。

「大人っぽく見えても、やっぱりいちは子供だね」
わざと見下すように言って、わしゃわしゃと頭を撫でられた。
「人のオムライスに" うんち "って書いた人に言われたくないよ」
睨むと、彼女はまた楽しそうに笑った。

私のそばに来て、そっと頭を抱えられる。

「ありがとう」

彼女のあたたかくてやわらかい胸に埋められた顔は、予想以上に熱くなった。


2週間後、私はまた彼女の家に泊まった。
「消えたい」とメールが来たからだった。

重い空気が部屋を包み込み、目から光が消え失せるほど 彼女は憔悴しきっていた。
抱きしめても、彼女はなんの反応も示さない。

遠くからサイレンの音が聞こえてきて、それが厭に耳に残る。

「……って」
ボソリと彼女が呟く。
聞き取れなくて、耳を口元に近づけた。
「なに?」
「おそって」
理解できなくて、聞き直す。

「襲って……!!」

血走った目で、彼女は叫んだ。

「え……?襲うって、どういうこと?」

ギリギリと音が鳴るほど歯ぎしりして、彼女は私の両肩を掴んだ。

「襲ってよ、私を……私をめちゃくちゃにしてよ」
「なに言って……」
「こんな、こんな汚い体!気持ち悪いの、気持ち悪いの!!」

気持ち悪い、気持ち悪い と、彼女は自分の体を引っ掻き始める。

どうすればいいかわからなくて、でも とにかくやめてほしくて、傷つけてほしくなくて、彼女の両手を掴んだ。

希望とは何か違う彼女の目の輝きに、一瞬 うっ……と引いてしまう。
頬をヒクつかせながら、彼女は笑う。

「襲って……」
絞り出すように放った言葉に、私は思わず涙をこぼした。

いちしかいないの」

彼女は私の口に、唇を重ねた。
私の涙が混じって、少ししょっぱい。

経験は、ほぼないに等しかった。
中学の時に、好きでもなかった男子に告白されて 友達との話題作りのためになんとなく付き合って、キスをした。
そのとき 胸を揉まれた程度で、その先の経験はなかった。

彼女には 過去に何人かと付き合ったことがあると言っていたから、もしかしたら 私にはセックスの経験があると思っていたのかもしれない。
それにしても、男子としか付き合ったことがなかったんだから、いきなり襲う側は無理があっただろう。

私はゴクリと唾を飲んで、彼女の肩を掴んで 離した。

「私が、塗り替えてあげるから」

その" 気持ち悪い "体を。
あなたが嫌いな、あなたの体を。

「大丈夫だから」

私が、綺麗にしてあげるから。

「泣かないで」

そんなに苦しそうな泣き顔は、今にも消えてしまいそうな泣き顔は、美しいけれども、見たくないよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件

楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。 ※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

処理中です...