いたずらはため息と共に

常森 楽

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1.恋愛初心者

5.好きってなに?

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「あれ?先輩、奇遇ですね」
爽やかな笑顔に少しホッとする。
「お、なんか表情が柔らかくなった」
そんなにわかりやすかった?と、少し恥ずかしくなり、俯く。
校舎裏にあるゴミ集積所は、燃えるゴミと燃えないゴミ、カン、ペットボトルで分別しなければならない。
日住君はちょうど分別し終えたところだったらしく、私の持っていた袋を半分持ってくれた。
「ありがとう」
「いえ。…なんか、ありました?」
「え?あ、いや…特にはないよ」
「そう…ですか」
彼は私の顔をジーッと見て、すぐに袋の分別を始めた。
「なんかあったら、言ってください。俺、聞くことくらいしかできないかもしれないけど、先輩の力になりたいんで」
「ありがとう」
日住君は優しいな、と素直に思う。こんな私でも普通に接してくれる。怖がられるわけでもなく、変に尊敬するわけでもなく、自然体で…すごい。私にはできっこないことだ。

1年生と2年生では階が違う。2年生の教室に続く階段下で私達は別れた。
「ハァ」
私は気を張っているのか、1人になるとため息をつくのが癖になっている。ちょっと嫌な癖だな…と思いながらも、そうすると少し落ち着くからやめられない。
教室に戻ると、私の席に座っている人がいた。
その人は扉の開く音で、振り向く。
「空井さん」
「なんで?」
「忘れ物したから、先行っててもらったんだ」
スマホを人差し指と親指で挟んで揺らしている。
「そうなんだ」
両角さんの薄茶色の瞳が私をジッと見つめて、私を捕らえて離さない。
「本当、ごめんね」
「何が?」
「さっき…私が空井さんにいたずらしたせいでさ、空井さんが悪者みたいになっちゃって」

かすかに触れた両角さんの唇の感触が、まだ耳に残っている。
暗い感情で忘れていたけれど、鮮明に蘇った。
思い出すと一気に恥ずかしさが込み上げてきて、顔に熱をおびる。
「べつに…押したのは私だし…バカって言ったのだって…大人げなかったなって、思う」
両角さんは優しい笑みを浮かべて、私のそばに寄る。
「でも、いきなりあんな、耳元で…言わなくても…」
「へえ」
ほんの少し私よりも背の高い彼女が、顎を上げて私を見下ろす。好戦的な視線…背中がゾワリとする。
「最初に耳元で囁いたのは誰だったかな?」
彼女の顔が少しずつ近づいてきて、後ずさる。
「仕返し」
ニヤリと笑う。
「で、でも…私のときは2人だった…!」
彼女の好戦的な視線に負けじと、私は唇を尖らせた。少し睨んでみせて、対抗する。
でも彼女の足は止まらない。ゴンと後頭部から鳴った鈍い音で、この先にあるのは壁だけだと知る。
彼女は片手をロッカーについて、あいている手で耳に触れた。

私の抵抗はほとんど意味がなく、あっけなく私は俯いた。
自分の鼓動が大きな音を立てていて、彼女に聞こえてしまうのではないかと、汗が出る。
彼女は私の髪を指で梳いて、耳にかける。
「お詫びに、今度2人でクレープ食べに行かない?」
その言葉で、鼓動の速さとは違う、胸の締付けを感じた。
「私は空井さんと、もっと仲良くなりたいな」
恐る恐る彼女を見ると、ほんのりと頬が赤く染まっていた。
少し潤んだような瞳と、目が合う。
「嫌…かな?」
垂れた眉が、あまりに頼りなさげで、その姿が可愛くて、唾を飲む。
「嫌」
彼女の目が見開いて、口をすぼめた。
ため息混じりの笑みを作って、私から離れようとする。
だから、耳に触れていた手を取って「じゃない」と、したり顔で言った。

見開いた目がさらに大きくなって、口角が上がる。
「仕返しの…仕返し」
「ハハハッ」と彼女は屈託なく笑って、私の髪をクシャクシャにする。
「ちょ、やめて」
「可愛いなあ、もう」
トクトクトクと、鼓動は少し落ち着き始めたけど、比例するように嬉しさが込み上げて来る。

ブー ブー ブーと、両角さんのブレザーのポケットが振動する。
千陽ちよだ。…もしもし」
さっきいた3人の内の1人。掃除を終えて、廊下で分かれたとき、両角さんの背中に引っ付いていた子だ。
「ああ、見つかったよ。ちょっと友達と話してたら遅くなっちゃった。…うん、もう行くよ」
私から顔をそらして、天井を見ながら会話する様子を見ていると、なんだか嫌な感情が渦巻く。
恨めしく彼女をジッと見つめても、彼女はチラリともこちらを見ない。
だから、撫でるように彼女の首すじに触れた。
「ひゃっ!?」
彼女が肩をピクリと上げて、こちらを見る。
「…うぇ!?いや、なんでもない。…ダイジョーブ、ダイジョーブ。んじゃ、すぐ行くから。うん、待ってて」

スマホをポケットに戻して、彼女はジッと私を見る。
「なにしてんのさ」
「私と…話してる最中だった、はず…なのに」
視線を床に落として、お腹の辺りで指を交差させた。親指をクルクル回して、まるで言い訳をする子供みたいな態度を取る。
「それって…ヤキモチ?」
「え!?ち、ちが…」
「意外。空井さんってもっとクールなのかと思ってた。ここ数日は意外な空井さんばっかり見られて嬉しいなあ」
クシャクシャになった髪を、彼女が撫でて戻してくれる。
「時間が惜しいけど…呼ばれちゃったから、そろそろ行かないと」
ポンポンと頭を撫でて、髪が整えられたことが告げられる。もうこの時間が終わってしまうのか。

ふいに彼女の顔が近づく。
「デート、楽しみにしてるね」
また少し耳に唇が触れている。
顔が熱くなって、彼女を抱きしめたくなる気持ちを必死に堪える。
何故こんなにも彼女といると感情が抑えられないのか。
何故こんなにも彼女に翻弄されているのか。
自分でもまだハッキリとわからない。
でも、もし…もしも、これが恋だと言うのなら、このまま溺れてしまいたいとも思ってしまう。
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