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1.恋愛初心者
6.好きってなに?
彼女と私に接点なんてものはほとんどなかった。2年生になって、クラス替えがあって、初めて彼女の存在を知ったくらいだ。掃除を押し付けられるようになってから、起こそうとしたら殺気を向けられる…たかだかそんな関係だった。
一方的に「いつも寝ているな」という認識はあったし、彼女が起きているとクラスの空気が和むのは感じていた。いつも彼女を中心に輪ができていて、羨ましいと思っていたのも事実。
単純に、容姿も端麗だと思っていた。
用事があって話しかけると、彼女だけは敬語じゃなかった。それこそ日住君のように、自然体で、みんなと同じように接してくれたのは嬉しかった。
でもそれ以外で話したことはなかったし、これからも話すことはないだろうと思っていた。
彼女が起きている時間は短く、人気者だから、その短い時間はあっという間に誰かに取られていく。
私が積極的ではなかった…というのもあるかもしれないけれど、とてもじゃないけど、彼女の争奪戦に参加できるような資格が私にあるとは思えなかった。
だから意識的に、必要な時以外は話さないようにしていた…というのが正しいのかもしれない。
「ただいま」
「あ!おかえり、姉ちゃん!」
小学6年生の弟、誉が走って寄ってくる。後頭部の寝癖がぴょんぴょん跳ねてるから、そこを撫でると、誉は気持ちよさそうに目を瞑った。
「宿題は?」
「今日はないよー」
ブーッという声が聞こえそうな不貞腐れ顔になって、逃げるようにリビングに走っていった。
弟は父親のことを覚えていない。彼がまだ1歳の時、両親が離婚したから。両親が離婚した理由は、私にもよくわからない。母が言うには、価値観の違い…らしい。
私にとって父はとても優しかった。いつも一緒に遊んでくれて、たまに2人で悪ふざけをして、母にこっぴどく叱られた。それも私にとっては良い思い出。
父に会えなくなると知った時、私の世界は彩りを失った。でも母のことも大切だったから、彼女に知られないように、ベッドで1人泣いていた。
母のようにしっかりしなければ、と思った。…あの時からだったと思う。あの時から、私は“真面目”になったんだ。
母は仕事が大好きで、今も昔もずっと忙しそうにしている。家に帰るのは毎日10時過ぎだし、帰ってからもパソコンを広げて仕事をしていることもしょっちゅう。
だから家事全般、弟の世話も私が引き受けている。母がバリバリ仕事をしてくれるおかげで私達が生活できているのだから、これくらいは…と思っている。
誉が散らかしたカードゲームや漫画を拾っていく。
「誉、少しは自分でも片付けなさいよ」
「今やろうと思ってたんだよ」
床に寝転がりながら、漫画を読んでいる。どう見てもやる気はなさそうだった。
「ハァ」とため息をつくと、誉が「姉ちゃん、ため息つきすぎー」と文句を言う。
「そんなんじゃモテないよ」
漫画の上から覗くように私を見ている。目が細くなって、ニヤニヤしてるのがわかる。
私は手に持っていた漫画を誉に落とした。
「いってー!何すんだよ、姉ちゃん!」
「あんたが余計なこと言うからでしょ」
私は自分の部屋に入って、部屋着に着替える。
鞄の中から教科書類を出して、明日の準備をする。この流れは習慣になっている。
「姉ちゃーん」
ドアの向こうから気だるげな声がする。
「何?」
「今日の夕飯なにー?」
「生姜焼き」
「えー!またー?」
「文句言うなら食べなくていい」
「ちぇっ」という声が聞こえた後、部屋は静まり返った。
スマホの通知が響く。
通知と言えば、母か広告からしかほとんどこない。生徒会の連絡もたまにくるけど、何か行事がなければくることはない。
見慣れない名前が表示されていて、一気に鼓動が速まった。
ごくりと唾を飲んで、フゥッと息を吐く。
『空井さん、もう家帰った?』
両角さんが教室を出る前「あ、そうだ」と、連絡先を聞かれた。ひらひらと手を振って、小走りに去っていく彼女の後ろ姿を、見えなくなっても見つめていた。
ボーッと突っ立っていたからか、先生に声をかけられ、慌てて帰ってきたのだった。
『帰ったよ』
返事をすると、すぐに読まれる。うぅ…。こういう、早いやり取りはなれていなくて、なんだかモゾモゾする。
『早いね。私は今帰宅途中!デートの件なんだけど、いつ行く?』
少し息が荒くなる。誰かと普通に遊ぶのなんて、いつぶりだろう?
彼女がわざわざ“デート”と言うのは、意識的に無視するようにしている。
「姉ちゃーん!」
ドクッと心臓が跳ね上がった。
「バカ誉!何!!」
「えー、なんで怒られるの?俺」
フゥーッと深呼吸して「ごめん、何?」と聞く。
「お腹すいたー」
「ちょっと待ってて」
スマホを見ると『土日のどっちかあいてる?』と、次の文が送られてきていた。
リビングに戻って、カレンダーを確認する。
誉はクラスの人気者らしく、お友達が家に遊びに来ることも多い。なぜ姉弟でこんなにも差がつくのか…不思議でならない。
「誉」
「ん?」
「今週の土日って何もないよね?」
「うん、たぶん?…なんで?」
「…友達と遊んでこようかなって」
「えぇっ!?姉ちゃんが?友達と?」
「何」
ジーッと誉を見ると、目をわざとらしく大きく開いていた。
何かを閃いたように、これまたわざとらしく、ポンと手を叩く。
「あ、生徒会?」
「違う」
「えーーーー!姉ちゃん、友達なんてできたの?」
ため息をついて誉を睨むと「ごめんなさい、ごめんなさい」とヘラヘラ笑いながら漫画に視線を戻した。
スマホの画面を見る。ワクワクしてきて、思わず笑みが溢れてしまう。
『どっちもあいてるよ』
「姉ちゃんがニヤニヤしてる」
誉を睨むと、また漫画の陰に隠れた。
口元に手を当てて、ニヤニヤなんてしてない…と必死に装う。
『じゃあ土曜日にしよう。クレープだけじゃなんだから、海にでも行かない?最近暑くなってきたし。まだ泳げないとは思うけど』
口元に手を当てたまま、目をギュッと瞑って、喜びを必死に抑える。
一方的に「いつも寝ているな」という認識はあったし、彼女が起きているとクラスの空気が和むのは感じていた。いつも彼女を中心に輪ができていて、羨ましいと思っていたのも事実。
単純に、容姿も端麗だと思っていた。
用事があって話しかけると、彼女だけは敬語じゃなかった。それこそ日住君のように、自然体で、みんなと同じように接してくれたのは嬉しかった。
でもそれ以外で話したことはなかったし、これからも話すことはないだろうと思っていた。
彼女が起きている時間は短く、人気者だから、その短い時間はあっという間に誰かに取られていく。
私が積極的ではなかった…というのもあるかもしれないけれど、とてもじゃないけど、彼女の争奪戦に参加できるような資格が私にあるとは思えなかった。
だから意識的に、必要な時以外は話さないようにしていた…というのが正しいのかもしれない。
「ただいま」
「あ!おかえり、姉ちゃん!」
小学6年生の弟、誉が走って寄ってくる。後頭部の寝癖がぴょんぴょん跳ねてるから、そこを撫でると、誉は気持ちよさそうに目を瞑った。
「宿題は?」
「今日はないよー」
ブーッという声が聞こえそうな不貞腐れ顔になって、逃げるようにリビングに走っていった。
弟は父親のことを覚えていない。彼がまだ1歳の時、両親が離婚したから。両親が離婚した理由は、私にもよくわからない。母が言うには、価値観の違い…らしい。
私にとって父はとても優しかった。いつも一緒に遊んでくれて、たまに2人で悪ふざけをして、母にこっぴどく叱られた。それも私にとっては良い思い出。
父に会えなくなると知った時、私の世界は彩りを失った。でも母のことも大切だったから、彼女に知られないように、ベッドで1人泣いていた。
母のようにしっかりしなければ、と思った。…あの時からだったと思う。あの時から、私は“真面目”になったんだ。
母は仕事が大好きで、今も昔もずっと忙しそうにしている。家に帰るのは毎日10時過ぎだし、帰ってからもパソコンを広げて仕事をしていることもしょっちゅう。
だから家事全般、弟の世話も私が引き受けている。母がバリバリ仕事をしてくれるおかげで私達が生活できているのだから、これくらいは…と思っている。
誉が散らかしたカードゲームや漫画を拾っていく。
「誉、少しは自分でも片付けなさいよ」
「今やろうと思ってたんだよ」
床に寝転がりながら、漫画を読んでいる。どう見てもやる気はなさそうだった。
「ハァ」とため息をつくと、誉が「姉ちゃん、ため息つきすぎー」と文句を言う。
「そんなんじゃモテないよ」
漫画の上から覗くように私を見ている。目が細くなって、ニヤニヤしてるのがわかる。
私は手に持っていた漫画を誉に落とした。
「いってー!何すんだよ、姉ちゃん!」
「あんたが余計なこと言うからでしょ」
私は自分の部屋に入って、部屋着に着替える。
鞄の中から教科書類を出して、明日の準備をする。この流れは習慣になっている。
「姉ちゃーん」
ドアの向こうから気だるげな声がする。
「何?」
「今日の夕飯なにー?」
「生姜焼き」
「えー!またー?」
「文句言うなら食べなくていい」
「ちぇっ」という声が聞こえた後、部屋は静まり返った。
スマホの通知が響く。
通知と言えば、母か広告からしかほとんどこない。生徒会の連絡もたまにくるけど、何か行事がなければくることはない。
見慣れない名前が表示されていて、一気に鼓動が速まった。
ごくりと唾を飲んで、フゥッと息を吐く。
『空井さん、もう家帰った?』
両角さんが教室を出る前「あ、そうだ」と、連絡先を聞かれた。ひらひらと手を振って、小走りに去っていく彼女の後ろ姿を、見えなくなっても見つめていた。
ボーッと突っ立っていたからか、先生に声をかけられ、慌てて帰ってきたのだった。
『帰ったよ』
返事をすると、すぐに読まれる。うぅ…。こういう、早いやり取りはなれていなくて、なんだかモゾモゾする。
『早いね。私は今帰宅途中!デートの件なんだけど、いつ行く?』
少し息が荒くなる。誰かと普通に遊ぶのなんて、いつぶりだろう?
彼女がわざわざ“デート”と言うのは、意識的に無視するようにしている。
「姉ちゃーん!」
ドクッと心臓が跳ね上がった。
「バカ誉!何!!」
「えー、なんで怒られるの?俺」
フゥーッと深呼吸して「ごめん、何?」と聞く。
「お腹すいたー」
「ちょっと待ってて」
スマホを見ると『土日のどっちかあいてる?』と、次の文が送られてきていた。
リビングに戻って、カレンダーを確認する。
誉はクラスの人気者らしく、お友達が家に遊びに来ることも多い。なぜ姉弟でこんなにも差がつくのか…不思議でならない。
「誉」
「ん?」
「今週の土日って何もないよね?」
「うん、たぶん?…なんで?」
「…友達と遊んでこようかなって」
「えぇっ!?姉ちゃんが?友達と?」
「何」
ジーッと誉を見ると、目をわざとらしく大きく開いていた。
何かを閃いたように、これまたわざとらしく、ポンと手を叩く。
「あ、生徒会?」
「違う」
「えーーーー!姉ちゃん、友達なんてできたの?」
ため息をついて誉を睨むと「ごめんなさい、ごめんなさい」とヘラヘラ笑いながら漫画に視線を戻した。
スマホの画面を見る。ワクワクしてきて、思わず笑みが溢れてしまう。
『どっちもあいてるよ』
「姉ちゃんがニヤニヤしてる」
誉を睨むと、また漫画の陰に隠れた。
口元に手を当てて、ニヤニヤなんてしてない…と必死に装う。
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